第4話 確認


「あの、架星さん? 確かめるって何を?」


「動かないで」


 そう言いながら架星さんは俺の隣に座る。

 そして、手を俺の上に重ねた。


「ねぇ、このドキドキの原因は何かな」


「ドキドキって?」


「ここだよ」


 架星さんは俺の手を自分の胸に重ねた。


「ちょ!」


 架星さんの胸の鼓動は直接俺の手のひらから伝わってきた。

 確かに心臓がバクバクしている。いや、そうじゃなくて胸を触っていいのか。


「どう? 聞こえた?」


「はい。もの凄く早く動いています」


「だよね。味見くんのことなんて眼中になかったのにどうしてだろう」


 眼中になかったのか。だったら何故、今はこんなに距離が近いのだろうか。

 俺、何かしたか? したとしても料理を食べたくらい。それで好きになったりするだろうか。


「ねぇ、味見くん。私、我慢できないよ」


「へ?」


 架星さんは俺の腰に手を回した。


「好き」


 架星さんの頬は真っ赤に染まっていた。

 好きになってくれるのは有難いことなのだが、どうも納得できなかった。

 そう、俺を好きになる理由が何一つないからだ。


「ちょ、ちょっと待って。架星さん」


「どうしたの? 味見くん」


「冷静になろう。架星さんが好きなのは俺じゃなくて料理なんだよね?」


「私も最初はそう思ったけど、味見くんが好きみたい」


「好きって。理由は何? 俺、何か君に惚れさせるようなことしたかな?」


「理由って。好きになるのに理由って必要ないでしょ。私は味見くんが好きでたまらないだけ。ねぇ、キスしようか」


「キ、キス?」


 架星さんの唇が俺に迫ってくる。

 本当にするの?

 確かに架星さんのような美少女とキスが出来るなら願ってもないことだ。

 思わず欲望に任せてしまいたい。

 でも、何か俺の中で引っかかっていた。

 それが何か分からないけど、それが分からないと気軽にキスが出来なかった。


「ストップ! 待って。架星さん」


「どうして止めるの?」


「架星さん。熱、あるんじゃない?」


「熱? 私は平常だと思うけど」


「ちょっとごめん」


 俺は架星さんのおでこに手を当てた。


「ほら、やっぱり。熱で正常な判断が出来なかったんだよ。すぐに横になって」


「私は大丈夫だよ」


「いいから寝て。それとキッチンと冷蔵庫の食材を借りてもいいかな?」


「いいけど、何をするの?」


「おかゆを作ってあげる。風邪に効果のあるとっておきの」


「味見くんが私の為におかゆを? 楽しみ!」


「すぐに作るから」


 俺はキッチンを借りておかゆ作りの調理を開始した。

 消化に良い料理としておかゆは定番だ。

 だが、おかゆ一つでも手は抜けない。

 ご飯、水、溶き卵、鶏がらスープというシンプルなものだが、俺はそこにあるものを加えた。


「家から持ってきた大葉。これを添えれば食欲は唆る。持ってきて良かった」


 例の家の庭に生えていた大葉をおかゆに飾り付けて架星さんに出す。


「お待たせ。出来たよ」


「ありがとう。うわぁ、美味しそう!」


「冷めないうちに食べて」


「食べさせてくれない?」


 一応、病人である架星さんに一人で食べろとは言えなかった。

 レンゲに救ったおかゆをフーフーと冷まして架星さんの口に運ぶ。


「ん、ん。美味しい。おかゆがこんなに美味しいなんて初めてかも」


「そう? 良かった」


「何か隠し味を入れたの?」


「別に大したものは入れていないよ。ただのおかゆだよ」


「そうなんだ。きっと味見くんの愛情が隠し味になったかもね」


「ははは。そうだといいんだけど」


「味見くん。大好き」


「う、うん。ありがとう?」


 俺に対する好きなのか、料理に対する好きなのか。結局どちらか判断つかなかった。

 架星さんは熱で思ってもいないことを言ってしまったのだろう。

 食事を終えてぐっすりと眠ってしまった架星さんを確認した俺は静かに部屋を出た。

 洗い物などキッチンまわりを最低限に片付けた俺はそのまま帰った。


「もし、架星さんが本当に俺のことが好きなら最高なんだけどな。まぁ、そんなことありえないか。ははは」


 本当にそんなことがあるなら魔法のような非現実的なものでしかありえない。


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