第2話 不審感


 学校では比較的に大人しく過ごす俺は本を読んだりして一人でいることが多い。

 魅音と違って俺は友だちがいる訳でもないのでクラスでは目立たない位置にいる。


「でさー」


 ドカッと、魅音は俺の自席の机に腰を下ろす。

 まるで俺が居ないかのように女子同士の会話に夢中になっている。


「えーマジでー。うそー。ありえない」


 意味のない会話を繰り広げている中で俺は耐えられず、一時避難しようと席を立つ。

 だが、その前に魅音は俺に重なるように俺の膝の上に座ったのだ。


「ちょ! 魅音」


「何? あぁ、居たんだ。全然気づかなかったよ」


「嘘、付くな。俺はずっとここに居た」


「まぁ、居ても居なくても関係ないけど。それでね、駅前に出来た新しい店なんだけど……」


 俺の上に乗りながら会話を再開させる。

 動けない。それに直接、魅音のお尻が俺の膝に食い込む。

 俺の反応を見てからかっているに違いない。

 変に興奮すれば魅音の思うツボだ。


「ねぇ、魅音。そこ、味見くん座っているよ?」


 困っていた俺に助け舟を出すように魅音の友だちは声を掛ける。


「あー。気にしないで。ここ、私の特等席だから」


 何が特等席だ。普段なら気にしないが、周りに見られていると結構恥ずかしい。


「おい。郁真。マッサージしてくれる? 肩の方が凝っちゃって」


 偉そうに魅音は注文した。

 俺は言われた通りに魅音の肩を揉む。


「あー極楽。もう少し強めでもいいよ」


 俺は憎しみを込めてギュッと摘むように揉んだ。


「いででで! ちょ、強すぎ! もう少し丁重に扱ってよ」


「俺は言われた通りにしただけだぞ」


「ちっ!」


 魅音に舌打ちをされた。


 少しでも立場が下に感じると魅音の機嫌を損ねてしまう。

 扱いを間違えると俺に対する攻撃がエスカレートするので注意が必要だ。


「ねぇ、魅音。その辺にしておきなよ。早く味見くんから離れて」


「そうだよ」


 魅音の友だちは俺の味方をする。

 魅音が問題であってまわりの女の子たちは優しいのが救いだった。


「な、何を言っているの。これは私の勝手でしょ」


「もう。魅音だけズルイよ」


「そうだよ。私にもそこ、変わってよ」


 ん? どういうことだ?

 魅音が俺の邪魔をして迷惑だと味方をしてくれていると思ったが、魅音の立場を変わってほしいということか。

 それって俺の膝の上に座りたいって意味?


「嫌だ。ここは私の場所!」


「魅音は充分に楽しんだでしょ。はい。どいた、どいた」


 魅音は強制的に俺から引き離されてしまい、次に座る人で美少女たちは揉め始める。


「じゃ、次は私ね」


「何を言っているの。ここは私でしょ」


「なら公平にジャンケンをしよう!」


「賛成!」


 美少女たちが俺の膝の上に座る権利を得るためにジャンケンが始まった。

 意味がわからない現象に俺はパニックになる。


「ご、ごめん。俺、トイレ!」


 俺は教室から逃げ出した。


「あ、逃げちゃった」


「あーあ。残念」


 教室から飛び出した俺は思考を巡らせる。 

 急に美少女たちは俺にちょっかいを出すことに違和感を覚えた。

 皆で俺をからかっているのだろうか。

 確かに普段から魅音にからかわれているのでからかいがいがあると判断されていておかしくない。

 だが、美少女たちは顔を赤めていた。

 まるで俺を好きになってしまったように。

 まぁ、そんなことはありえないのだが、変に相手をして騙された時のことを考えると怖い。


「もう居ないかな」


 何故か、俺は美少女から逃げるように休み時間の度に教室を抜けていた。

 普段であれば飛んで喜ぶところだが、どうも嫌な予感がしてならない。

 何かした訳でもされた訳でもない。

 原因不明のまま、放課後を迎えた。


「味見くん。ちょっといいかな?」


 そんな中、俺に声を掛ける美少女に背筋が伸びた。

 何か嫌な予感がするが、逃げることは出来なかった。


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