第5話 温泉旅行

「運転は私に任せて!!」


姫奈が声高らかに宣言した。

店のメンバーで、旅行することになった。


「まあ。姫奈に任せたらいいでしょ」

「そうね~」


綺夏と瑠乃は、姫奈の意見に同意する。

一同は、姫奈が所有しているミニバンに乗り込む。

もちろん、柊人と雪香もいる。

運転席には、姫奈。

助手席は、瑠乃。

2列目に、綺夏。

3列目に、柊人と雪香が並んで座っている。


「朝早いんだよ…」

「…」


5人は、朝の6時に店に集まっていた。

柊人は、朝早くに起こされたため、やや不機嫌となっていた。

対して、雪香はまだ寝ぼけている様子だった。


「雪香」

「んぅ…?」

「眠いなら寝てて良いぞ」

「ん…」


雪香は、柊人の言う通り車内で眠りにつく。


「というか、姉貴。行き先はどこなんだよ」

「ひみつ~」

「…姫奈さん」

「内緒」

「瑠乃さん」

「えっと…どこかしらねぇ?」

「いや、何で瑠乃さんだけ知らないんだよ」


綺夏と姫奈は、今回の行き先を知っているのだが、何故か瑠乃さんは知らなかった。


「それでどこに行くの~」

「温泉旅館だよ」


瑠乃の質問に綺夏は答える。


「慰安旅行って奴ね!」

「そうなのねぇ~」


姫奈のテンションとは違って瑠乃は、大人しい。


「ねぇ姫奈」

「どうしたの?」

「タバコ吸っていい?」

「別に良いよ」

「ありがとう」


瑠乃は、見た目は凛としてクールな雰囲気だが、性格はお淑やかで、マイペースな人だ。


「というか瑠乃もさ、彼氏作んないの?」

「ん~。特に今は考えていないかなぁ」

「そうなんだ」

「うん~」

「あんたたち、顔は良いのにどうして彼氏できないのかしらね」

「綺夏には言われたくない」

「私も~」


柊人の姉である、綺夏も美人の部類だ。

それなのに、何故か彼氏が出来ない。


「あんたたちね…」

「それに私は、彼氏に近い人は居たし」

「私も好きな人くらいいたよ~」

「はぁ!?」


綺夏、姫奈、瑠乃は、高校からの付き合いで3人とも同じ大学に進学し、卒業後同じ職場で働いているのだ。

そんな関係値でも、まだまだお互い知らないところもある。

例えば、姫奈が柊人とセフレだったことは、綺夏や瑠乃は知らない。

瑠乃が好きな人が柊人だったということは、綺夏と姫奈、柊人は知らない。

綺夏が、柊人に対して特別な感情を抱いていたことは、姫奈と瑠乃、柊人は知らない。


「姉貴、うるさい」

「うっ…」

「そうよ、雪香ちゃんも寝てるんだし」

「そうだよ~」


思わず大声を出してしまった綺夏は反省する。


「というかさ、何で急に旅行なんて考えたんだ?」

「何となくだよ」

「は?」

「本当姉弟だね」

「ふふっ、そうね~」


綺夏も、基本的にはやりたい事をやるような人だ。

どうしてやりたいかというのは、柊人も綺夏も何となくで動いている。


「にしても、よく予約取れたな。世間は、春休みで繁忙期だろ」

「柊人は甘いなぁ。そんなの前々から予約してたに決まってるじゃない」

「そういう事か…」


綺夏の用意周到さに驚く柊人だった。


「それよりもさ、このまま真っすぐ目指しても面白くないじゃん?。だから寄り道していこうよ」

「賛成~」

「良いねそれ」


姫奈の意見に瑠乃と綺夏は、賛成する。


「まあ、良いんじゃないすか」


柊人も姫奈の意見に賛同する。


「じゃあとりあえず、コンビニに寄って良い?。飲み物欲しい」

「良いよ~」

「そうね。私も欲しいかも」

「じゃあ俺も買うか…」


4人を乗せた車は、コンビニに立ち寄る。


「雪香は…寝てるか…」


柊人は、雪香が寝ていることを確認して車を降りる。


「雪香ちゃんは寝てるし、エンジンは掛けたままでいっか」


姫奈も車からおり、続いて綺夏、瑠乃も降りる。


「柊人はお腹空いてない~?」

「ああ、一応買っておくか」

「サンドイッチで良い?」

「良いよ」

「ほーい」


柊人と綺夏は、車の中で食べられそうなものを買い物かごに入れる。


「雪香ちゃんは何が良いかな?」

「雪香もサンドイッチで良いと思うぞ」

「そうなの?」

「まぁ一応、違うのを選んでおくか」

「…割と彼氏やってんだね」

「まあな」

「弟が遠い存在になっちゃった気がするよ」

「俺はとっくに姉が遠い存在に居ると思っているんだが」

「あらそうなの?」

「そうなの」


2人は、他の皆の分もかごに入れて行く。

その頃、姫奈と瑠乃は、飲み物を考えていた。


「柊人は、どうせ紅茶でしょ」

「そうだね~」

「それで綺夏は…お茶でいっか」

「良いと思うよ~」

「雪香ちゃんは…コーヒーかな?」

「んー確かに私たちってまだ、雪香ちゃんの好きなもの知らないね」

「じゃあ、安定のお茶にでもするかー」

「その方が良いと思うよ。もし駄目だったら柊人が何とかすると思うよ~」


姫奈と瑠乃は、3人の飲み物を手に取る。


「問題は…」

「私たちね」

「私は、炭酸水でいいや。瑠乃は?」

「エナジードリンク~。あっ、ちゃんとキャップ付きのやつね~」

「はいはい」


姫奈と瑠乃は、柊人と綺夏が持つかごに飲み物を入れる。


「じゃあこんなものかな」

「うん!」

「そうだね~」

「良いんじゃないか?」


会計を済ませ、再び車に戻る。


「んん…」

「雪香?」

「柊人…?もう着いたの…?」

「まだだぞ。コンビニに立ち寄ってたところ。お腹とか空いてないか?」

「んー。空いたかも」

「じゃあはい。サンドイッチ」

「ありがとう」


柊人と雪香の会話から垣間見えるほのぼの空間に、入り込めない綺夏、姫奈、瑠乃の3人だった。


「飲み物はお茶で良かったか?」

「大丈夫」


柊人は、お茶を渡す。


「ごめん、寝ちゃって」

「気にするな。それにまだかかるだろうし」

「そっか」

「2人って学校でもそんな感じなの?」


2人で会話しているところに、綺夏は質問する。


「まぁ日によるよな」

「うん」

「関係性って日によるの!?」

「初対面なんて喧嘩したし」

「あれは、ごめん」

「俺も悪いから良いよ」

「なんか色々あったのね」


綺夏は、2人の間になにがあったかは聞かないようにしていた。


「じゃあ出発するよ~」

「は~い」

「いいよ」

「ああ」

「はい」


姫奈は、サイドブレーキを引き、アクセルを踏む。


「ねぇ柊人」

「んー」

「指輪ちゃんと着けてくれてありがとうね」

「まあ、外す理由もないからな」


柊人と雪香は、先日のデートで購入した、ペアの指輪を身に着けていた。


「そういえば、柊人の誕生日っていつなの?」

「12月25日。雪香は?」

「2月14日」


2人の誕生日はカレンダー上、イベントとも言える日にちだった。


「誕生日の日はデートとか行きたいね」

「そうだな」


柊人と雪香は身を寄せ合う。


「ねぇ2人とも。イチャイチャするのは良いけど、あんまり人目につかないところでやりなさい」

「綺夏の言う通りだぞー」

「ふふっ、そうね」


3人は、柊人と雪香に注意をする。


「へーい」

「はい…」








車を走らせること数十分。

5人は、寄り道をしていた。


「ここがデートスポットね」

「カップル多いねー」

「そうねぇ」


5人は、デートスポットとして有名な海岸に来ていた。

周りは、若いカップルから夫婦まで多くの観光客が居た。


「3人が浮いちゃうな」


柊人の一言で、綺夏、姫奈、瑠乃の3人が凍り付く。


「「「ねぇ柊人」」」


3人は、柊人ににじり寄る。


「どういう意味か説明してくれる?」

「柊人?何か言いたい事があるなら言えば?」

「そうよ~」

「い、いや。デートスポットに女子3人って何か斬新だなって思って」

「そう…」


綺夏は、何か納得した様子だった。


「分かってくれたか」

「うん。あんたが私たちを舐め切ってることがね」

「えぇ…」


綺夏、姫奈、瑠乃は、柊人に迫る。


「柊人ったら、女心を分かっているのか分かって無いのか…」

「困ったものよねぇ」

「ったく…。私たちなら良いけど、雪香ちゃんの事は分かってあげなさいよ」

「分かってるよ…」


柊人は、少し離れたところに居た雪香に近づく。


「雪香」

「柊人?」


雪香は、周囲のカップルの様子を見ていた。

デートスポットということもあって、写真を撮っている人が多かった。

その姿を雪香は眺めていた。


「…写真撮るか?」

「良いの?」

「ああ」

「ありがとう」

「気にするな」


柊人は、雪香を抱き寄せる。


「写真は、雪香のスマホで良いだろ」

「うん!」


雪香は、スマホを取り出しカメラを起動する。


「柊人ってあんまり笑顔とか見せないよね?」

「そうかもな」

「寝顔はよく見るけど」

「まあな」


柊人は、他人に笑った顔を見せることが少ない。

他人と関わることが少ないからという事もあるが、あまり笑う事が無い。

バイトでの接客の時は、笑顔とまではいかないが雰囲気が悪くないようにしている。

それでも、彼女である雪香の前でも笑顔は見せていない。


「写真は笑顔で写って欲しいな…」


雪香は、小さく呟く。


「…早く撮るぞ」

「うん」


雪香は、カメラを自撮りモードにする。


「じゃあ撮るね」

「ああ」


カシャン…


シャッター音が鳴る。


「…柊人」

「じゃあ姉貴たちの所に戻るぞ」

「あっ!待って!!」

「ん-?」

「もう一回お願い!!」

「嫌だ」

「そ、そんなっ!!」

「ほら行くぞー」

「ああもうっ!!」


雪香が握っていたスマホの画面には、雪香と笑顔の柊人が映っていた。


「待ってよー」

「はいはい」


柊人と雪香は、綺夏たちと合流する。


「もう良いの?」


綺夏は、2人に尋ねる。


「おう」

「…」

「雪香ちゃんはまだ満足して無さそうだけど」

「い、いえ。大丈夫です」

「そ、そう」


5人は車に戻り、目的地である旅館を目指す。







「柊人」

「何だ?」


姫奈が柊人の名前を呼ぶ。


「あんた学校の事ってあんまり話さないけど、友達いるの?」

「何だよ今更」

「だって柊人昔からだけど、あんまり自分の事話さないじゃん」

「まあな」

「だから気になったんだけど、友達いるの?」

「いない」

「即答かよっ!!」

「うん」


柊人に友達と呼べる人間がいない事を知り、頭を抱える姫奈。


「姉としてこれは、何か言った方が良いのかな?」

「何にも言う必要はねぇよ」

「そう。なら良いか」


綺夏は、柊人の言葉に納得する。


「私は、柊人が優しい事知ってるからねぇ~」

「何言ってんすか?」

「この前見たよ~。猫を可愛がってるところ」

「何を見てるんですか…」


瑠乃は、以前店の外に居た猫を可愛がっている姿を偶然見かけていた。


「あの…柊人って昔はどういう感じだったんですか?」


雪香は、柊人以外の3人に尋ねる。


「優等生」

「不良」

「可愛い子」

「えっ…?」


綺夏、姫奈、瑠乃の順に返答された。

しかし、その内容がバラバラで困惑する雪香だった。


「あいにく私の弟は、成績優秀で良い子なんだよね」

「柊人って中学の時に居たヤンキー共を全員ぶっ飛ばしたよね」

「でもでも、もふもふな動物とか好きよね~」

「そうなのですね…」


3人の話について行けない雪香だった。


「3人とも言いたい放題かよ」


3人の話に呆れる柊人だった。


「大体な、テストは授業を聞いてすこし勉強すれば点数取れるし。中学の時は、向こうから吹っ掛けて来たからそれに応えただけ。それでもふもふな動物が好きなのは、昔から」

「いや、授業はサボってるし。ヤンキー共をぶっ飛ばした上に、先生に喫煙やいじめの証拠突き付けて、学校の居場所を奪ってたりしてたじゃん」


柊人の言葉に、補足を入れる姫奈。


「あと、優等生は制服を着崩したりしないでしょ」

「問題にならないなら、とことんやるのがポリシーなんでね」

「中学の時には、学ランの下にパーカーだったり。高校生になってブレザー着ても、下にパーカー着てるじゃん」

「寒いじゃん」

「そっか」


柊人たちの話を聞いていた雪香は、自分の知らない事がまだ沢山ある事を実感する。


「柊人…」

「ん?」

「私、まだ柊人の事何にも知らない」

「そうか」

「もっと柊人の事知りたい」

「ああ」

「だから…ずっと隣に居てね」

「…分かった」











それから車を走らせること1時間。



「着いたー!!」

「運転お疲れ」

「ん~着いた~」

「ここか?姉貴たちが言ってたのは」

「広いね」


5人は、目的の旅館へと着いた。


「じゃあさっさとチェックインするよ」


荷物を持ち、受付へ向かう。


「予約をしていた七里です」

「お待ちしておりました。こちらがお部屋のカギになります。場所は、このフロアの奥にあります楓というお部屋になります」


5人は、旅館のスタッフに案内される。


「こちらになります」

「ありがとうございます」

「それでは、ごゆっくりどうぞ」


5人が案内された部屋は、とても広く綺麗な部屋だった。


「「「「「…」」」」」


5人は、予想以上の豪華さに言葉を失っていた。


「に、荷物置くか」

「そ、そうしよっか」

「あ、ああ」

「そ、そうねぇ」

「う、うん」


紅羽姉弟の言葉に、他の3人も続いて荷物を置く。


「姉貴…」

「柊人の言いたい事は分かる。でも、予約した時はこんな部屋だと知らなかったの」

「そうなんだ」

「うん」






荷物を置いた5人は、各々くつろいでいた。


「旅行に来たのは良いけど、特別したい事無いなぁ」


柊人は、座椅子の背もたれにもたれ掛かりながら呟く。


「柊人、隣良い?」


雪香は、柊人の横に立っていた。


「良いよ」

「ありがとう」


雪香は、柊人の横に座る。


「今日は私も誘ってくれてありがとうね」

「まあ、雪香だけ仲間外れにするのもおかしな話だからな」

「そっか」

「ああ。というか雪香は何かしたい事無いのか?」

「私は、柊人の隣にいるだけで幸せだから」

「そうか」

「うん」


柊人と雪香が話している時、残りの3人はと言うと…。


「幸せそうねぇ」

「ちょっと綺夏。あんたの弟でしょ。何とかしなさいよ」

「私でもあの世界に割り込めないよ…」


非常に居心地が悪そうにしていた。


「あっ、私この辺散策したい!」

「良いわねぇ」

「じゃあ私たちはこの辺歩くとしますか。2人はどうする?」

「んー。俺はいいかな」

「私も柊人が行かないなら…」


綺夏、姫奈、瑠乃の3人は、散策することとなり、柊人と雪香は残ることになった。


「そっか。じゃあ3人で行ってくるね」

「イチャイチャしてろ!」

「避妊はするのよ~」


3人は、柊人と雪香に言いたい事だけ言って、部屋をあとにした。


「雪香は、どこか行きたいところあるか?」

「えっ?」

「3人について行ったら2人になれないだろ?」

「それって…私の為?」

「…ああ」


柊人の一言で、雪香の顔はどこか赤みを帯びていた。


「じゃ、じゃあ柊人とちょっと散歩したいな」

「良いよ。ちょっと歩くか」

「うん!」


2人は、部屋を後にする。







場所は変わり、食べ歩きをしている綺夏、姫奈、瑠乃の3人。

そんな彼女らのもとに1件のメッセージが届いていた。


「柊人と雪香ちゃんデートしてるんだって」

「まあそうなるよね」

「柊人ったら二人っきりになりたそうだったもんね」

「全く困った弟だよ」




綺夏たちにメッセージを送った柊人は、人通りの少ない道を2人で歩いていた。


「綺麗だな」

「そうだね」


2人が歩いている道沿いには、桜の木が植えてあり、桜並木が絶景であった。


「ねぇ柊人」

「ん?」

「もう一回、写真撮って欲しいな」

「…いいよ」

「本当っ!?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ撮ろ!」


今回は、周りには人が居らず2人っきりだ。

雪香のスマホにもう一度、2人の写真が納められる。

そんな2人の表情は、どこか晴れやかな様子だった。


「柊人」

「ん?」


柊人がしばらく桜並木を眺めていると、雪香から声を掛けられる。


「高校を卒業したら結婚してください」

「…プロポーズ?」

「まあそうなるかな」

「そっか」

「それで返事は…?」

「良いよ。結婚しよう」


高校を卒業してからという条件はあるものの、2人は永遠なる愛を誓いあう。


「重いとか思わないの?」

「別に」

「そ、そっか」

「ああ。俺も雪香の事を愛しているからな」

「嬉しい」

「そうか」

「うん、絶対に私からは別れてあげないからね」

「俺も別れる予定はないよ」










柊人と雪香は、泊まる部屋に戻ると、先に3人が帰り着いていた。

しかし、2人の目には驚きの光景が広がっていた。


「姉貴たち飲んだのか…」

「すごいね…」


部屋の机の上には、空となったお酒の容器が大量に残っていた。


「へへへ、柊人~」

「姫奈さん、離れてください」


酔っぱらっているであろう姫奈が、柊人に抱き着く。


「柊人~キスしよ♡」

「しません」

「ケチ~」

「ケチじゃないですよ」

「ねぇ~♡」


柊人は、姫奈を引きはがす。


「というか瑠乃さん。姫奈さんに飲ませないでくださいよ。あとが面倒なんですから」

「ふふっ、つい飲ませちゃった」

「はぁ…。姉貴は…寝てるのかよ」

「2人ともお酒は強くないからねぇ」


姫奈は、お酒はあまり強くなく、飲み過ぎるとキスを迫るような人になってしまう。そして、綺夏は、お酒を飲むとすぐに眠くなってしまい、爆睡してしまうのだ。


「瑠乃さんがこの中で一番強いんですからペース考えてあげてくださいよ」

「ふふっ、ごめんね」


柊人と瑠乃が話している中、姫奈が雪香に抱き着いていた。


「雪香ちゃん♡」

「は、はい」

「柊人は、首筋にキスされるのが好きなんだよ♡」

「そ、そうなのですね」

「うん♡」

「姫奈さん、水でも飲んで少しでも酔いを醒ましてください」


柊人は、姫奈を雪香から引きはがし、水を飲ませる。


「すまんな」

「えっ?」

「この酔っ払いは、前からこんなんだからさ。付き合い上、こういう事がまたあるかもしれないけど、よろしくしてやってくれ」

「う、うん。柊人の友達だもんね」

「ああ」


柊人の願いを雪香は聞き届ける。

雪香自身も、柊人だけに依存せず、自分から仲良くしていきたいと思っているため、心を開こうと努力している。


「ありがとうね、雪香ちゃん」

「いえ、お礼を言うのはこちらなので…」

「ほら、姫奈。こっちに来なさい」

「はーい」


姫奈は、瑠乃の方へ近寄る。


「柊人」

「ん?」

「柊人って首筋にキスされるの好きなの?」

「さぁ…」

「さぁ…って」

「好きな人からのキスなんて場所関係なく好きだと思うぞ」

「…そっか」

「ああ」








時刻も18時となり、夕食の時間となった。

綺夏も目を覚まし、姫奈も酔いが醒めていた。


「美味しいね」

「美味しい~」

「そうねぇ~」

「…」

「…」


大人組の3人は、お酒と共に夕食を食べ、柊人と雪香は黙々と食べていた。









夕食を済ませた後、一同は、温泉に来ていた。


「残念だね、混浴が無くて」

「そうねぇ~」

「あんたたちは、ウチの弟をなんだと思っているの?」

「可愛い可愛い後輩」

「弟的存在かしらねぇ」

「あんたたちねぇ…」


3人が楽しく話している中、雪香は静かに浸かっていた。


「ねぇ雪香ちゃん」

「はい」


綺夏が雪香に話しかける。


「柊人のどこを好きになったの?」

「えっと…どこをと言われると難しいです。ただ私は、一生をかけて柊人と一緒に幸せになりたいです」

「そっか」

「はい」

「こら~雪香ちゃんをいじめないの」

「そうよ~。そんな嫁姑問題みたいなの私は反対よ」

「だれが姑よ!」


その後、女子風呂では女子トークが盛り上がっていた。

一方、柊人の方は…。


「ふぅ…」


1人でくつろいでいた。







「じゃあ俺は寝るから」

「私もお休みしますね」

「はーい」

「私達、大人組はお酒飲むとしますか!」

「良いわよ~」


本来は、柊人と他4人は、別の部屋で寝ることとなっていたが、ベッドの関係上、柊人と雪香が同じ部屋で寝ることとなった。


「普通、同じ部屋で寝るのは姉貴じゃねぇのか…」

「私と同じ部屋は嫌…?」

「そうは言ってないだろ。ほら、さっさと寝るぞ」

「うん」


柊人は電気を消す。


「柊人…」

「ん?」

「手を繋いでも良い?」

「ああ…」

「ありがとう」


柊人と雪香のベッドは隣同士となっているので、手を繋げる距離だ。


「暖かい」

「そうか」

「うん」

「ありがとう」

「ああ」

「おやすみ柊人」

「おやすみ雪香」

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いじめられていた子を助けたら妻になりました。 MiYu @MiYu517

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