第4話 繋がり
金曜日となり一週間もようやく終わりを告げようとしていた。
柊人と雪香が付き合い始めて4日。
付き合い始めたからと言って、特に特別な事をしているわけでは無かった。
「すぅ…」
「またサボったんだ」
柊人は、屋上で寝ていた。
3月も中旬となり、昼間は少し暖かくなっていた。
3学期も今日までで、今頃終業式が行われているのだが、柊人はサボっていた。
雪香も、別に参加しなくても良いと思い、柊人の居る屋上に来ていた。
「本当に掴めない人…」
「すぅすぅ…」
雪香は、柊人の頭を自分の膝の上に乗せる。
春風が吹き、桜の花びらが2人を襲う。
「そういえば、桜が好きって言ってたよね…」
飛んで来た桜の花びらを摘みあげる。
「確かに綺麗な色してるかも」
助けられた日の帰りに、柊人は桜の色は綺麗と雪香に言っていた。
それを思い出し、雪香は桜の花びらを見つめる。
「んん…」
「柊人君?」
「んぁ…。雪香…?」
「うん。そうだよ」
「終業式は?」
「まだやってるよ」
「そうか…。お前もサボリ?」
「うん」
「そっか」
2人は、静かな時間を過ごす。
聞こえてくるのは、体育館で話す教師の声と春風で揺れる木々の音だけだった。
「そういえば柊人君っていつもサボっている時は何してるの?」
「本を読んだり、音楽聞いたり。後は寝たりとかしてる」
「そっか」
「ああ」
「2年は、同じクラスだと良いなぁ」
「そうだな。俺の目の届くところに居てくれると俺も助かる」
2人の間には、傍からでは分からないような信頼関係が生まれ始めている。
恋人であるのは間違いない。
しかし、それだけでは語りつくせない何かがあった。
いじめられていた者とそれを救った者。
雪香の目には、自殺を止め、いじめから救った者としての紅羽柊人という男が映っている。
柊人の目には、本気で自殺を考え、いじめを誰にも相談できず、1人で戦って来た者としての桐島雪香という女が映っていた。
「ねぇ」
「んー」
「死後の世界ってあるのかな」
「さあな」
「私があの時本当に死んでたらどうなってたんだろう…」
「俺が目撃者として色んな人からどうして止めなかったんだって責められてたかもな」
「そっか」
「ああ」
「でも、あの時の柊人君は、一緒に飛び降りることもやぶさかではないって感じだったよね」
「まあな」
「何でって聞くのは野暮ってやつかな?」
「何となくだからな」
「ふふっ、そうだったね」
「ああ」
2人は膝枕をしたまま、春の日差しを受ける。
「暖かいね」
「ああ」
「ねぇ。この前の約束覚えてる?」
「約束って…」
「忘れたの?」
「いや、覚えてはいるけど…」
「ここでしない?」
「流石にここはどうかと思うぞ」
「今更、屋上になんて誰も来ないでしょ。どうせ鍵が開いているなんて先生達知らないだろうし」
屋上の鍵は、壊れており、閉じることが出来ない。
その代わり鎖で開かないように塞いであるが、柊人がサボるために勝手に取っていたのだ。
それを教師陣はしらない。
あの優等生がここをサボリ場と使っているなんて知る由もないのだ。
「というかお前は、良いのかよ」
「私はいつでも、どこでも良いよ。相手が柊人君であれば」
「お前なぁ」
「前にも言ったけど、あの時私は死んだも同然。私の命はあなたの気まぐれに救われているの。だから私の命もこの身体もあなたのものよ」
「恋人同士の関係とは思えねぇな」
「そうかな?」
「そうだよ」
柊人は、呆れたように返事をする。
「まあ良いじゃん。終業式はまだまだかかりそうだし」
「分かったよ…」
「じゃあしてくれるの?」
「良いよ」
「やった」
「でも、ゴムとか持ち歩いてねぇぞ」
「そう言うと思ってゴム買っておいたよ」
「用意周到だな」
雪香は、ビニール袋から未開封のコンドームの箱を取り出す。
「いくらした?」
「え?」
「金は出す」
「良いよ。私のわがままだし」
「金くらい自分の為に使えよ」
「ん?だから自分の為だよ。学生の内に妊娠しないように」
「雪香って時々頭悪くなるよな…」
柊人は、雪香の行動力に頭を抱える。
「分かったよ。最後の確認だが、本当に良いんだな?」
「もちろん良いよ」
「即答かよ…」
雪香は、ブレザーのボタンを外し始める。
それに合わせ、柊人も自分のブレザーを脱ぐ。
2人は、シャツだけを残した状態となった。
「ねぇ柊人君…キス…して」
「ああ…」
2人は甘く優しい口づけをする。
「ぷはぁ…。ふわふわする…」
「そうか…」
「ねぇ…もう一回…」
「良いよ」
二度目の口づけは、舌を絡ませ、お互いの愛情を確かめるようなものだった。
「ねぇ、もう入れて…」
「まだだ…」
「そんなぁ…」
柊人は、右手で雪香の秘部を優しく撫でる。
「ひゃっ…」
「温かいな…」
「もう…」
柊人は、雪香の下着を上から、指先で割れ目をなぞる。
「こそばゆいよ…」
「嫌か?」
「う、ううん。何か…気持ちいい…」
「そうか」
「うん…」
雪香は、身体をうねらせる。
柊人に触れられ、快楽を感じていた。
「ねぇ…。直接触れて…」
「分かった」
「ひゃっ…」
雪香の秘部に直接、柊人の指先が触れ、その中に薬指がゆっくりと入って行く。
「はぁはぁ…♡」
「雪香…」
柊人は、開いている左手で雪香を優しく抱き寄せる。
「柊人君…♡」
雪香の声は、艶やかだった。
柊人だけに聞こえるように、彼の耳元でそんな声をだす。
「少し早くするぞ」
「うん…♡」
柊人は、雪香の秘部に入れていた指の動きを早くする。
優しく撫でていたものを徐々に早く激しく…。
「はぁはぁはぁ…♡」
「キスするぞ」
「はぁはぁ…うん…♡」
2人は、吸い寄せられるように唇を重ね、柊人は指を動かす。
キスと柊人の指先の動きに、雪香は絶頂に達する。
身体を痙攣させ、蕩けたような表情を見せる。
いじめを受けていた時のような、絶望に満ちた表情とは大違いだった。
「ねぇ…。もう良いでしょ…入れてよ…」
「分かったよ」
我慢できない雪香は、柊人に入れるよう懇願する。
「じゃあこのまま立った状態だと上手く入らないから。そこの壁に手をついて後ろ向いて」
「うん」
雪香は、柊人の言う通りに壁に手をつく。
「これで良いの…?」
「もう少しお尻を突き出してくれるか?」
「良いよ」
「ありがとう。じゃあ下着を下ろすぞ…」
「うん」
柊人は、雪香自らの愛液でずぶ濡れになった下着を下ろす。
「すーすーする…」
「それは我慢しろよ」
「うん」
柊人も、ズボンと下着を下ろし、自らの肉棒を雪香の秘部に押し当てる。
「じゃあ入れるぞ」
「うん…。来て…」
雪香の返答を聞き、柊人の肉棒をゆっくりと優しく彼女の秘部へと入って行く。
「んっ…♡」
「雪香…」
「柊人君…」
柊人の肉棒は、雪香の奥深くまで入り込んだ。
「はぁはぁ…♡」
「大丈夫か?」
「ん、うん…♡」
雪香は、柊人のが入っただけで、2度目の絶頂を迎えていた。
「動いて良いよ…♡」
「ああ」
ゆっくりと柊人は腰を動かす。
「んっ…んっ…♡」
始めは規則正しいリズムを刻むように腰を動かしていた。
そして、時間がすこし経つとゆっくりと奥深くを突いたり、激しく入り口を出し入れする。
その間ずっと、雪香は、小さく艶やかに喘いでいた。
「も、もっと…♡」
「ああ…」
雪香の願いに、答える柊人。
激しく何度も雪香の奥深くを突く。
屋上には、2人の肌がぶつかり合う音が響き渡る。
この世界には、2人しか居ないのではないかと思うほど辺りは静かだった。
「く、来る…♡」
「そろそろ出そうだ…」
「き、来て…♡」
「出るっ…」
「はぁぁぁぁ♡」
ドクンドクン…と脈を打つように柊人の精液が出る。
それと同時に、雪香は絶頂に達した。
「はぁはぁ…♡」
「大丈夫か?」
「う、うん♡」
雪香は3度の絶頂により、体力が尽きていた。
「ねぇ、柊人君…」
「何だ?」
「ありがとうね…」
「どうも」
「気持ち良かった。あの男たちに犯されそうになった時は、絶望しかなかった。本気で死にたいと思った。でも、今は違う。何か、幸せで満たされてるの」
「そうか」
「うん。ねぇ…抱きしめても良い?」
「良いぞ」
「ありがと」
雪香は、柊人を抱きしめる。
すると、何故か雪香の目から涙が零れ落ちる。
「ぐすっ…。あれっ…涙が…」
柊人は、涙を流す雪香を優しく撫でる。
「よく頑張ったな」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
雪香は、今までにため込んでいたものの全てを吐き出すように涙を流した。
その姿を柊人は、優しく抱きしめる。
どれくらいの時間が経ったかは分からない。
体育館も静かになっている様子を見ると、終業式は終わっているのだろう。
2人は、身だしなみを整える。
「下着が濡れてる…」
「俺はズボンごと濡れてるけどな」
「ご、ごめん」
「気にするな。お前が気持ち良かったのならそれだけで十分だ」
「そっか…」
「ああ。それにすぐ乾くだろ」
「そうだね」
それからまた、2人は屋上で時間を過ごす。
本来ならホームルームの時間なのだろうが、今更この2人を咎める者はいないだろう。
雪香をいじめていた者は、柊人の学園長に密告したこともあり、加害者は全員退学をした。
示談金に関しては、強姦は未遂だったためわいせつ罪という扱いになり、200万とはならなかったが、多額の示談金が雪香に支払われた。
そのお金を柊人に貢ぎかねない事にはなったが、柊人が強く拒否したため、彼女が持っている。
「1年も終わりかぁ」
「そうだね」
「なぁ、これからどっか行こうぜ。夕方のバイトには間に合うようにだけど」
「うん、行きたい」
「初デートがこんな突発的なものですまんな」
「ふふっ、良いよ」
2人は、ホームルームが行われている中、学校を抜け出す。
2人は、繫華街の方に来ていた。
どこも終業式なのか、学生らしき人が多かった。
「どこか行きたい所あるか?」
「んー。どこだろう…」
「まあ俺もあんまりこんな所まで出歩かないからなぁ」
柊人は、基本的には一人が好きであるため、人の多い所には行かない。
「とりあえず、あそこ行くか」
「???」
雪香は、柊人に付いて行く。
すると、大型商業施設の中に入って行く。
しばらく歩くと、人が少ない所に来た。
「着いたぞ」
「ポップコーン屋さん?」
「そうそう。ここのキャラメルポップコーンは美味しいぞ。たまにだが、時間がある時はここのポップコーンを買ってそこの席で時間潰していた」
「一人で?」
「一人で」
「そうなんだ…」
ポップコーンを1人で黙々と食べてる姿を想像した雪香は困惑した。
「まあ俺っていう奴はそういう奴だからな」
「そっか」
「ああ」
2人は、ポップコーンを購入し、席に座る。
買ったのは、キャラメル味とチョコレート味だ。
「甘い…」
「甘いのは嫌いか?」
「ううん。そういう訳ではないけど、なんかこうして柊人君と同じものを食べてると思うと、ずっと甘く感じる」
「そうか?」
「うん」
「そっか」
2人はポップコーンを分け合いながら食べる。
「何かまだお腹に違和感感じる…」
「初めてだったんだろ?」
「うん」
「じゃあそういうもんだろ」
「そうなんだ」
「ああ」
「姫奈さんとは、どのくらいしてたの?」
「覚えてない」
「えぇー」
「2人がやりたい時にやってた感じだから」
「じゃあ柊人君がしたくなったら言って。私も拒まないから」
「体調とかは気にしろよ」
「私は拒まないよ」
「圧が強いなぁ」
雪香は、柊人に依存しているような状態だ。
何せ唯一頼れる存在なのだから。
親には迷惑をかけたくない。
だから、1人で抱え込んでしまった。
その抱えていたのをぶち壊したのは、柊人だ。
依存してしまうのは仕方のない事だろう。
「ねぇ柊人君」
「ん?」
「進路とかは考えてるの?」
「何にも」
「そうなんだ…」
「雪香は?」
「分からない…。でも、柊人君の行くところに私も行きたい」
「そうか…」
2人は、ポップコーンを食べ終え、席を立ち次なる場所に向かう。
「キーホルダー?」
「うん。お揃いのものが欲しいから…。駄目かな…?」
「いや、良いけど」
「本当は指輪とかの方が良いけど」
「まあ安い奴はあるんだろうけどな」
「じゃあそれ買う」
「マジか…」
2人は、雑貨店に向かった。
「この指輪可愛いかも…」
雪香は、ローズゴールドの指輪を見つめていた。
「ねぇ柊人これが良いんだけど、どうかな?」
「良いぞ」
「やった」
雪香は、見つめていた指輪を二つ取り、レジに持っていく。
「金は俺も出すぞ」
「出さないで」
「えぇ…」
「私のわがままだから」
「お前なぁ…」
雪香は、無理やり二人分の指輪代を出した。
一つ2000円で、計4000円を雪香が支払った。
柊人は、お金を渡すも雪香が断る。
「右手の薬指に着けてね」
「右手?」
「うん。これは私のって印になるから」
「分かった」
柊人は、雪香の言う通りに指輪を右手の薬指に着ける。
恋人の証として…。
「流石に学校では外して良いよな…?」
「駄目」
「駄目なのか」
「あの学校が今更、アクセサリーの一つや二つでどうこう言えないでしょ。いじめにも気づかず、サボリの常習犯が学年主席なんだから」
「はぁ…。分かったよ」
「…ごめんね」
「何がだ?」
「私のわがままに付き合ってもらって」
「…気にするな。雪香は、俺の彼女なんだろ?。死ぬまでわがままに付き合ってやるよ」
柊人は、俯く雪香をそっと慰める。
「うん。ありがとう…」
「おう」
2人は、バイトの時間も近くなったためバスに乗り帰路に着いた。
バスの中では、雪香は柊人の肩に頭を乗せ眠りについていた。
柊人は、いつものように窓の外を眺める。
桜の花は、かなり咲いており、綺麗な桜並木だった。
「すぅ…」
「…」
寝ている雪香の頭を優しく撫でる。
髪から甘い香りが漂う。
「ちゅっ…」
寝ている雪香の頭にそっと口づけをする。
「すぅ…」
雪香は、気づかず眠りについたままだった。
バスを降り、柊人の家であり、2人のバイト先でもある喫茶店に着く。
「ごめん。寝ちゃってた」
「セックスした後にデートだもんな。疲れて当然だろ」
「それもそっか」
2人は店の扉を開け、店内に入る。
店内には、平日という事もあって客はあまり居なかった。
ここの客層は、基本的に女性で、働いている人がランチで来るのがほとんどだ。
後は、仕事を喫茶店に持ち寄ってするという人もいる。
「あれ?2人とも今日は早いね」
「今日は終業式だったんすよ」
2人に話しかけてきたのは、姫奈だった。
「そっか~。でもお昼ごろに終わるよね?」
「デートしてた」
「マジか!?」
姫奈は、思わず声をだして驚いてしまった。
「雪香ちゃんが誘ったの?」
「いえ、デートは柊人君からです」
「デートは…?」
姫奈は、雪香の言葉に引っかかる。
「柊人君としました…」
「したってもしかして!!」
「はい…」
「柊人のはどうだった?」
「き、気持ち良かったです」
「あははっ、そっかそっか。良かったね」
「はい」
雪香と姫奈が話している間、柊人は先に更衣室へと向かった。
「柊人」
「姉貴?」
更衣室で着替えを始めたところに綺夏がやって来た。
「明日から春休みよね?」
「そうだけど」
「来週、3日くらいお店を休みにしてみんなで旅行を考えているけど、柊人と雪香ちゃんはどうする?」
「どうしたもんかなぁ…」
「まあ雪香ちゃんにも聞いておいてね。私も少しは打ち解けたかもしれないけど、心を開いているのは柊人だけなんだから」
「はいはい」
綺夏は、キッチンに戻って行った。
すると、綺夏と入れ違うように、雪香がやって来た。
「…」
「雪香?」
「私も姫奈さんと同じプレイして欲しい!!」
「何の話だよ…」
雪香は、俯いた状態で更衣室に入って来たので、柊人が何かあったのかと思い、名前を呼ぶと、驚きの返答が帰って来たのだ。
何故、こうなったかと言うと、先ほど、雪香と姫奈が話をしていたのだが、その内容は主に柊人との性行為の事だった。
姫奈が過去に柊人とどんなことをやっていたのかを雪香は聞いていた。
「私も柊人君をご主人様って呼びたい!!」
「今度なー」
「約束だからね!!」
「はいはい」
柊人は、一度は戸惑ったが気を取り直して着替えを続けた。
「あっ、そういえば。姉貴が来週のどこかの3日間休みにするんだって。それでみんなで旅行に行こうって考えてるらしいぞ」
「そっか」
「雪香に任せる。雪香が行きたくないなら俺も行かない」
柊人は、判断を雪香に委ねる。
雪香は、少しの間考える。
「行こうかな…」
「そうか」
「もしみんなの迷惑にならないなら…」
「大丈夫だろ」
「そう…かな…?」
「ああ。あの人達は、学校の連中とは違う。俺が信頼している数少ない人間だ」
「そっか…」
「だから安心しろ」
「うん」
「何かあったら俺が守ってやる」
「ありがと…」
「おう」
柊人は、着替えを済ませホールに向かった。
雪香も着替え、キッチンに向かう。
その後は、2人とも閉店時間まで仕事に集中した。
バイトを終え、いつもの様に柊人は、雪香を家まで送る。
「雪香」
「んーなあに?」
「バイトの事は親に言ってるのか?」
「一応、それは伝えてあるよ」
「そっか」
「うん」
「まあそのくらいは伝えた方が良いだろうな」
「あと、彼氏が出来た事も」
「言ったのか?」
「駄目だった…?」
雪香は、彼氏が出来た事を母親に伝えていた。
それをまずいと思ったのか、雪香の顔色が曇る。
「いや、いつかは話すことになるだろうし。変に引き延ばしても、面倒だから。話しても問題は無いぞ」
「良かったぁ…」
「お前が心配することなんて何も無いぞ」
「そっか…」
「でも、いつかは俺も雪香の親に挨拶しないとだな」
「待ってるから」
「おう」
雪香の家に着き、2人は別れのキスをする。
付き合い始めてから、こうして別れることが増えた。
「またね」
「また明日な」
2人は別れの挨拶をしていると、雪香の家の玄関が開かれた。
「あら、お帰り雪香」
「ただいまお母さん」
玄関から出てきたのは、雪香の母だった。
「あなたが、雪香の彼氏さん?」
「はい、雪香さんとお付き合いさせて頂いています。紅羽柊人と申します」
「そう…。あなたが…」
雪香の母は、柊人をじっと見つめる。
「もし良かったら上がって行かない?」
「えっと…」
柊人は、雪香の顔を見る。
彼女のは、静かに頷く。
「ご迷惑でなければ…」
「大丈夫よ。私も色々話を聞きたいから」
柊人は、雪香の家に招き入れられる。
彼女の家は、一軒家なのだが、雪香とその母しか生活していないような雰囲気だった。
「なぁ、雪香。お前の父親って…」
「私が小さいころに離婚しているんだって。私も父親の顔は知らない」
「なるほどな」
柊人は、小さい声で雪香に聞いた。
父親が居ないからこそ、猶更いじめの事を言いづらかったのだろう。
柊人は、これ以上踏み込むことではないと話を終わらせた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
リビングに案内され、雪香の母は茶菓子を柊人の前に置く。
「雪香から彼氏が出来たって聞いていたけど、本当だったのね」
「そうだよ」
雪香は、母親に心配をかけないように、ちゃんと高校生をやっていることを伝えるためにも彼氏が出来たことを言っていた。
「2人はいつから付き合っているの?」
「4日前です」
「割と最近なのね」
「はい」
「馴れ初めとか聞いても良いかな?」
「馴れ初めですか…」
雪香の母に馴れ初めを聞かれる。
柊人は、雪香の表情を見る。
その表情は暗く、いじめの事は言わないで欲しいという願いが込められていた。
「俺の一目惚れです」
「っ…」
「そうなのね」
「はい。告白も自分からさせていただきました」
「雪香のどんなところに惹かれたの?」
「彼女は、行動力もあり、強い女性です。でも、俺には弱い所も見せてくれるので好きですね」
「そう…。雪香」
「何?」
「良かったね」
「えっ…」
雪香の母は、優しい顔で言葉を続ける。
「高校に入ってから、あなたの笑顔を見なくなった。でも、ここ数日、何があったかは分からないけど少しずつ元気が出てきた。その原因が彼なんでしょ?」
「うん…」
「そう…紅羽君って言ったかな?」
「はい」
「ありがとう」
雪香の母は、柊人に向け頭を下げる。
「雪香は、あなたのおかげで元気になったのでしょう。それには感謝しかありません。本当にありがとう」
「頭を上げてください。別に俺は、自分がしたい事をやったまでですので」
「そうだよお母さん。彼はね、こういう人なの。だから私は惹かれた」
「そう。紅羽君」
「はい」
「娘を…雪香をよろしくお願いします」
こうして柊人と雪香の初めて繋がり、デートに行き、雪香の母に正式に認められた日となった。
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