第3話 告白

休日を終え、月曜日がやって来た。

サボリ魔の柊人でも、学校には行っているため、憂鬱なのだ。


「面倒だなぁ」


愚痴を零しながら柊人は、家の外に出る。


「おはよう紅羽君」

「おはよう桐島さん」


家の外には雪香が居た。

理由は、単純で昨日も雪香は、喫茶店に来ており、その時に約束していたのだ。

一緒に登校をする事を…。


「というか本当に大丈夫なのか?」

「う、うん…」


雪香の表情はどこか暗かった。


「また何かあったら俺に連絡しろ」

「うん」


柊人の一言は、雪香の生きる支えとなっていた。


「どうしても嫌なら俺みたいにサボれば良い。いじめとサボリなんていじめの方が悪なんだから」

「うん…」

「ほれ、バスが来たぞ」

「うん」


2人は、バスに乗り込み学校へと目指す。

車内での会話は特になく、静かに学校へと向かって行った。

学校に着くと、2人は教室が違うため、昇降口で別れた。

雪香は、自分の教室に行く。

対して柊人は、教室には向かわなかった。


「初めて来たな…」


柊人が居るのは、学園長室だ。


コンコンコン

柊人は、その扉をノックする。


『はい』

「1年13組、紅羽柊人と申します。今日は学園長に用があり、こちらに伺わせていただきました」

『どうぞ』

「失礼します」


柊人は、中にいる人の声に従い、扉を開け入室する。


「ふむ、それで用件とは何かな?」


彼の前には、初老の女性が座っていた。


「はい。今回は、この学校で起きているいじめの件で、こちらに参りました」

「いじめですか…」

「はい。証拠もあります。教師陣に言うと、話が拗れそうなので手間がかかるのはこちらもやりたくはありません。なので、直接学園長のお耳に入れて欲しく思います」

「ふむ。そうか。被害者は?」

「被害者は名前は伏せますが、女子生徒です。このスマホに全て証拠はあります。判断は学園長に任せます」

「なるほど…。分かった。君の事だ。もみ消そうとしてもこの会話は、録音しているのだろ?。ならば、ここは君に従った方が賢明か」

「ご理解が早い方で助かります」

「あとは、私がなんとかする。任せなさい」

「お願いします」


柊人は、雪香に対するすべてのいじめの証拠を学園長に渡し、判断を委ねた。


「では失礼します」

「うむ、後は大人の仕事だ」


柊人は、学園長の言葉を聞き、この場を後にした。


「さてと、一応様子でも見に行くか」


柊人は、自分のクラスに向かわず、寄り道をする。

その間、雪香のクラスでは、いつもの光景が広がっていた。


「ねぇ、あんた。この前はどうだった?」

「気持ち良かった?」

「私も見ればよかったなぁ」


クラス内でのいじめは終わってはいない。

いつも通り、教科書には落書きされているし、物も盗まれている。

椅子の上には画鋲が置いてあり、机の上には花束が置いてあった。


「…」


何を言われようとも、何をされようとも声をあげられない。

あげたところでこのクラスには味方は居ない。

居るのは、加害者と見物者だけだ。


「なあ、何とか言えよ!!」

「何黙ってんだよ!!」

「気持ち悪…」


複数の女子生徒が雪香を罵る。

すると、教室の扉が開かれた。


「おお~。よく撮れてるなぁ」


教室に入って来たのは、柊人だった。


「な、何で…」

「お前なぁ。何かあったら連絡するんじゃなかったのかよ」

「別にこのくらい…」

「ったく…」


柊人は、雪香の態度に呆れる。


「ねぇ、ちょっと!!」

「何勝手に撮ってんの?」

「盗撮?」


雪香をいじめていた女子生徒は、矛先を柊人に向ける。


「うるさいなぁ。月曜の朝だぞ?何でそんなに声出せるんだよ…」


柊人は、あからさまに嫌な顔を見せる。


「消せよ!!」

「早く!!」

「お前が盗撮魔って言いふらすよ」

「別に良いけど…。誰が信じると思う?」

「はぁ?」

「何を言ってるの?」

「頭がおかしいのかな??」

「そうだなぁ。少なくともお前らよりは、おかしくはない…いやおかしいのか?どう思う桐島さん」


柊人は、雪香に話を振る。


「おかしいでしょ」

「そうか。じゃあおかしいみたいだ」

「なめてんじゃねーぞ!!」

「そうだよ。私の友達が今…」


1人の女子生徒がスマホを操作する。

誰かを呼ぶ気だろう。


「あっ、そういえば前に桐島さんを襲おうとした人だったら多分来れないんじゃないかなぁ」

「は?」

「何を言ってるの…」

「嘘だ」

「だって冷静に考えてみろよ。お前らの友達が無事なら、その事をお前らに報告しているだろ。それをしていない。それだけでおかしいだろ」


先日、雪香を襲おうとしてた男子生徒は、柊人による脅しで何も出来ない状態なのだ。

示談という事で、証拠を全て握っている柊人に対して身動きが取れない。


「さてさて、あいつらは示談という事にしてたがお前らはどうする?あいつらの証言があれば、お前らがけしかけた事もバレるぞ?それに対して警察は動いてくれるかもな」


柊人は淡々と事実だけを述べていく。


「そうだなぁ。じゃあ賭けでもするか?」

「賭け…?」

「何を言っているの?」

「どういう事?」

「俺が持っている証拠を持って、警察に届ける。あいつらの証言があれば動くかもしれないし、証言だけだと足りないと言って突き返されるかもしれない。さてどうする?」


柊人は、スマホを見せびらかしながら、賭けの内容を言う。


「警察が動いたらお前らの人生が破滅、動かなかったらお前らは自由だ。さてどうする?」


柊人の言葉に何も言い返せないでいる。

教室内も、静かになる。


「あっ、そういえば…」


柊人は、何かを思い出したかのように声を出す。


「桐島さん」

「は、はい」


雪香は、突然、名前を呼ばれて驚く。


「桐島さんの事が好きだ。付き合ってください」

「へ?」


教室内での突然の告白。

雪香は理解が追い付かなかった。


「返事くれないか?」

「えっと…お願いします」

「よし、じゃあこれからよろしく」

「よろしく…」


理解できずに、思わず答えてしまった。

しかし、雪香は助けられた日から柊人に惹かれていた。


「という訳で、桐島雪香さんは俺の女です。手を出したらただじゃ置かないからな」


柊人は、教室にいるすべての者に宣言する。


「じゃあまた後でな。雪香」


柊人は、雪香の教室を後にした。

彼が立ち去った後の教室さは重苦しい静けさだけが残っていた。


「1限は…数学か。今日は受けておくか」


柊人は教室に向かい、授業を受ける準備をする。

しかし、授業が始まり数分が経つとすぐに眠りについてしまった。

その後の授業も教室には居るものの、寝ていた。

それでも、教師たちは文句は言わない。

何故なら、彼の成績は他の誰も寄せ付けないほどの絶対的な1位だからだ。


キーンコーンカーンコーン


チャイムの音が学校中に響き渡る。

それは昼休みを伝えるものだった。


「んん…。もう終わりか…」


柊人はチャイムの音で目を覚まし、スマホを見る。

画面には、1件のメッセージが届いていた。

差出人は、雪香からだった。


『昼休み、屋上で待ってる』


柊人は、荷物を持って屋上に向かう。

屋上の扉を開けると、同じく荷物を持った雪香が待っていた。


「待たせた」

「ううん。私も今来たところだから」

「そうか」

「朝の事はありがとうね」

「何の話だ」

「…そっか。じゃあ私から一つだけ言わせて」

「何だ?」


雪香は、深呼吸をする。


「私は、紅羽柊人君が好きです。結婚を前提にお付き合いください」


雪香は、柊人に告白をする。


「俺で良いんだな?」

「あなたじゃないと駄目」

「後悔するなよ」

「あなたにだったら、何されても構わない」

「そうか」

「うん」


柊人は、雪香が冗談で言っているわけではないとすぐに分かった。

彼女の目は本気だった。

命を捨てようとしていた時と同じ目だ。

あの時も本気で死のうとしていた。

それを邪魔したのは柊人だ。

だからこそ、彼女の本気が分かる。


「まあ俺の答えは決まってるけどな」

「それって…」

「朝言った通りだ」

「じゃあ」

「俺の目の届かない所では死ぬなよ」

「あなたの目の届かないところには行かない。私が死ぬときはあなたの前で死ぬ。だから死ぬときは止めて欲しい」

「分かった」


こうして2人は恋人となった。


「というかプロポーズだからこれ」

「なるほど」

「絶対に誰にも渡さないから」

「誰の所にも行かねぇよ」

「姫奈さんにも手を出させない」

「どうして姫奈さんの名前が出るんだよ」

「身体の関係はあったんでしょ?油断できないからそんなの」

「はいはい」

「ありがとうね」

「お礼と謝罪は聞き飽きた」

「じゃあ…」

「うん」

「好き」

「そうか」

「あなたも言ってよ!!」

「朝言ったじゃん」

「あれはカウントしない!!」

「はぁ…分かったよ」


柊人は、雪香に顔を近づける。


「なっ…」


柊人の顔が近づき、雪香は思わず目を瞑る。


「好きだ」

「ふぇ?」


結果から言うと、耳元で囁かれただけだった。


「今のキスする流れじゃん!!」

「???」

「もうっ!!」

「ふっ、俺はそっちの雪香が好きだぞ」

「なっ!」

「そうやって元気に声を出して、騒いでる方が好きだ」

「うぅ…」


『好き』という言葉を連呼されて恥ずかしさが隠せない雪香だった。


「そういえば、お前をいじめていた奴らは近いうちに退学になると思うぞ」

「えっ?」

「学園長に直談判したからな。証拠は全部渡しておいた。まあコピーをだけど」

「そっか…」

「何も思わないのか?」

「分からない…」

「そうか」

「うん」


いじめを受けていた彼女は、いじめていた人がどうなろうと最早無関心だった。

いじめていた人が居なくなっても、嬉しいという感情すらも湧かなかった。


「まあ他人なんて別に信用しなくても良いし、関心なんて持つ必要もないか」

「前も思ったけど、柊人君ってドライだよね」

「そうか?」

「うん。だからこそ自由なんだろうなぁって思う」

「まあ気楽だな」

「何か良いなぁ。私もそんな生き方出来たらなぁ」

「今からでも遅くないだろ」

「そうかな」

「知らんけど」

「そういう所だよ全く…」


晴れて恋人同士となった2人は、屋上で昼休みを過ごした。


「柊人君」

「なんだ?」


屋上を後にしようとしたら、雪香が柊人を呼び止める。


「んっ」

「むっ…」


雪香の唇が柊人の唇に触れる。


「んっ…ちゅっ…」


雪香の舌が、柊人の口の中に入り込む。


「ぷはぁ。はぁはぁ…。私は柊人君のものだから。好きにして良いよ」

「分かったよ…」

「うん、じゃあまた後で」

「おう」


2人はそれぞれの教室に向かった。

柊人は、今日の授業は教室で受けるだけは受けていた。

雪香の方は、重い空気の教室のなか、ただただ時間が流れるのを待っていた。






放課後となり、柊人は雪香の教室まで足を運んだ。

柊人の顔を見た、雪香のクラスメイトは全員表情を曇らせた。


「雪香」

「柊人君」

「大丈夫だったか?」

「うん。大丈夫だよ」

「そうか。じゃあ帰るか」


2人は、一緒に帰路に着いた。

恋人同士になったとはいえ、会話が増える訳では無かったが、明らかに距離感が縮まっていた。


「今日もバイト?」

「そうだけど」

「そっか…。じゃあ今日も行って良い?」

「どっちでも良いぞ」

「じゃあお邪魔するね」


今日も雪香は、柊人のバイトしている喫茶店にお邪魔することとなった。


「うーっす」

「お帰り」


柊人は、喫茶店の扉を開く。

扉の先には綺夏が居た。


「お邪魔します」

「いらっしゃい」

「おー。今日も来たんだー」


綺夏と姫奈は、雪香を歓迎する。


「客は居なさそうだな」

「見ての通りだよ」


柊人は、綺夏の言う通り店内を見まわすと、確かに客が居なかった。


「あ、あの!」

「ん?」

「雪香ちゃん?」

「綺夏さんと姫奈さんに、伝えたいことがあります」


雪香は、綺夏と姫奈に向き合い話を始める。


「柊人君と付き合う事になりました」

「そっか」

「おめでとう~。どっちから言ったの?」


綺夏は、どこか納得したような様子だった。

姫奈に関しては、興味本位で聞いていた。


「柊人君からです」

「「えっ!?」」

「…」


柊人から告白した事実に驚く綺夏と姫奈だった。

それを柊人は黙って見ていた。


「そっか柊人から…」

「やるじゃん。あの柊人が告白するなんて」

「うるさいなぁ」

「私は、この人生を彼に全て捧げます。私の命は、一度は死んだも同然なので」

「「どういう事?」」


綺夏と姫奈は、雪香の言葉が理解できなかった。


「良いのか?」

「うん。私は、柊人君の信じる人を信じるから」


雪香は、今まで自分が置かれていたことを全て話した。

いじめの事とそれを救ったのが柊人であることを。


「そっか…」

「そういう所が本当に柊人らしいね」


綺夏と姫奈は、雪香の話を真剣に受け止めた。

その話を聞いて、2人は柊人らしいと思った。


「あらあらみんな、私は仲間外れかしら?」

「瑠乃さん」


そこにやって来たのは、もう1人の従業員の瑠乃だった。


「瑠乃さん。俺、彼女出来た」

「あらあら。やっぱり2人は付き合い始めたのね」


瑠乃は、最初から何かを感じとっていた。

だからこそ、何も疑問も湧かなかったし、それ以上知る事も無いという態度だった。


「ほらほら仕事するわよ。平日の夕方とは言え、お客様が来るんだから」


瑠乃さんの言葉を聞き、各々の持ち場に着く。

柊人は、着替えるために更衣室に行く。

姫奈は、ホールの清掃、瑠乃と綺夏は、キッチンへ向かう。



「あの、綺夏さん」

「どうかしたの?」


雪香は、綺夏を呼び止める。


「私をこの喫茶店で雇ってくれないでしょうか?」

「雪香ちゃんを?」

「はい。私の居場所を作りたいんです…」

「そっか。まあ良いよ。でも、給料は他所の方が良いかもよ?」

「大丈夫です」

「うん。合格。じゃあキッチンで良い?」

「はい。出来ればそちらをお願いします」


綺夏は雪香のいじめの話を聞き、あんまり人前に出さない方が良いと思った為、キッチンをお願いした。


「分からない事は私か瑠乃に聞いてね。制服はこれね」

「ありがとうございます」


綺夏は、この店の制服を渡す。


「更衣室はあの扉の先ね」

「はい」


雪香は、綺夏に言われた通り更衣室に向かう。


「失礼します…」

「ん?雪香?」

「柊人君?」


更衣室には、柊人が着替えていた。


「意外に鍛えてるのね」

「まあ少しな」


柊人は、雪香が入って来たのを気にすることなく着替えを続ける。


「あれ?というか何でここに?」

「ようやく気付いたんだ…」


ようやく柊人は、この部屋に雪香が居ることのおかしさに気づいた。


「どういう事?」

「私、この店で働くことになったから」

「そういう事ね」

「迷惑じゃない?」

「別に、やりたいことやれば良いんじゃねぇの?」

「そっか。じゃあそうする」

「おう」


着替えを済ませた柊人は、ホールに向かおうとした瞬間。


「修羅場を作りに来たよー」


姫奈が更衣室のドアを勢いよく開けた。


「何言ってんすか」

「へ?修羅場を作ろうかと思って」

「俺と姫奈が昔、セフレだったことは雪香に言ってあるから」

「えっ!!そうなの!?」

「はい」


柊人と姫奈は昔、身体の関係であった。

昔、お互いがただただ欲望のまま身体を重ねていた時期があった。

その関係の中には恋愛なんてものは無かった。

お互いが慰め合う。

そんな醜いものだった。

今では、お互い距離感を保ちつつ、身体を重ねることはなくなった。


「まあ隠し事はしないに越したことはないけど、普通言うものなの?」

「俺には、普通とか分かんないで」

「それもそっか」

「あの!!」

「「ん?」」

「柊人君は私のなので!!」


雪香は、柊人と姫奈が仲良く話していることが気に食わなかった。


「ぷっはははっ!!良い子じゃん。安心して雪香ちゃん。こいつはもうあなたのものよ。柊人は、本当に自分のやりたい事しかやらないし、何者にも縛られないから。しっかり手綱を握った方が良いよ」

「うるさいなぁ」


姫奈は、雪香に忠告のようなものを伝え、ホールに向かった。


「まあそういう事だ。今更あの人との過去なんてどうしようもないからな」

「ごめん。大きい声を出しちゃって…」

「だから言ったろ。俺はそういうお前が好きって」

「柊人君…」

「じゃあ俺もホールに行くから何かあったら言えよ」

「うん」


柊人は、ホールに向かい、雪香は店の制服に着替える。


「姫奈さん」

「んー?」

「あんまり雪香にちょっかいを掛けないでください」

「ごめんごめん。あの子を試しただけだから」

「試したって何だよ…」

「本気であんたの事が好きかだよ。でも良かったね。あれは正真正銘本物だよ」

「だろうな」

「流石に柊人も気付いていたか…」

「当たり前だ」

「それに、いじめの件も自殺を考えていた件も驚いたけど、あんたらしいよ」

「それはどうも」

「やりたいからやった…かぁ。本当に柊人らしい…」


姫奈は、1人呟く。

その声は、柊人にも聞こえていたのだが、何も答えはしなかった。

その後の2人は、仕事に専念した。

一方、着替えを済ませた雪香はキッチンに居た。


「改めまして、店長の紅羽綺夏です。そしてこっちが…」

「景村瑠乃だよー。よろしく」

「桐島雪香です。よろしくお願いします」


雪香は、自己紹介と共に頭を下げる。


「うん。じゃあ仕事の事だけど、基本的にはメインの調理は瑠乃がやっているの。私はデザートがほとんど」

「はい」

「だから雪香ちゃんには、その両方のサポートを頼めるかな」

「分かりました」

「内容はその都度教えていくね」


こうして雪香は、喫茶店でバイトすることになった。

雪香は、自分の仕事を覚え、柊人は、いつも通りホールにて接客する。

これが2人の新しい日常となっていく。






営業時間を終え、帰り支度をする。

柊人と綺夏は、この店の上が家となっているので、店の戸締りをする。


「じゃあ今日も送ってくぞ」

「ありがとう」


柊人は、雪香を家まで送る。


「ねぇ、柊人君」

「んー?」

「私の初めて貰って」

「は?」

「あの時、私は命も失うところだったし、私の初めてすらも」

「そうだな」

「それに私の命はあなたに委ねるよ」

「重いなぁ」

「そう?」

「まあ良いか」

「柊人君。私はあなたの女よ。自由にしてもらっても良いんだよ」

「考えておく」


2人は、雪香の家へと向かう。


「着いたな」

「うん」


雪香の家の前に2人は立っている。


「あのね柊人君」

「なんだ?」

「私ね。今までにないほど幸せなの。あなたという人に出会えて良かった」

「…というかさ」

「ん?」

「もしもの話だ。もし、あの屋上に居たのが俺じゃない誰かで、救ったのもその誰かだったらそいつと付き合ってたか?」

「…」


雪香は、柊人の質問に対して、考える。

その時は、柊人以外の男を好きになったのだろうか…。


「どうだろう…。もしかしたらそうかも…。だけど、あの時の柊人君の自由な姿に惹かれたから…。それの事実だけは変わらないよ」

「そうか」

「うん」

「変な事聞いたな。お前の初めての件だけど、週末だったら良いぞ。まあその時までお前の気持ちが代わって無ければだけどな」

「分かった」

「じゃあまた明日な」

「うん。またね」


2人は、別れの挨拶をし、それぞれの家に帰る。

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