第11話 未来の話
どうにか終わった受験戦争は日頃の行いのよさから、無事集結した。第一希望の志望校。夢のキャンパスライフとやらが始まる、と聞いていたにも関わらず気づけば構内には蝉の声が鳴り響き、年々勢力を増す日差しは容赦なく僕を照りつけた。
春なんてあっという間に梅雨に流されて、それが終わりカラッと晴れ上がればまだ良いもののジメジメとした気候が続いている。
ろくに友達を作らないまま夏休み突入までのカウントダウンが始まった。
電気代の節約のためにと足を向けた図書室は、効きすぎたクーラーで上着が必須だ。リュックに閉まっていたシャツを取り出し、早々に羽織る。
駅の改札みたいな入り口を通過して、階段を上がると見える窓際の席が僕の定位置だ。
「あれ」
今日は先客がいるようだ。僕の定位置に白いワンピースの女性が座っていた。髪は肩くらいでふわふわと柔らかそうな色素の薄い色。なんとなく雰囲気が柔らかそうな人だ。
近辺の席が空いていないかと近づくと、不意にその人は立ち上がって僕に近づいてきた。
「ねえ、一年越しにファーストキス、してみない?」
「え」
ああ、やばい人だ。何人かはいると思ってはいたけれど。夏はこう言う人に気をつけないといけない。
「あああ、ちょ、ちょっと待って、ごめんって。ね! 図書委員さん!」
「え?」
高校の同級生だろうか。だとしたら顔を覚えていない僕が悪いだろう。
「どちら様でしたっけ?」
バツの悪い表情を向けていると思う。頭の後ろを描きながら恐縮する。
「ふふ。ねえ、私の名前、なんでしょう?」
わかるわけない。覚えていない僕が悪いのかもしれないけど、これはちょっと旧友にされると辛い質問だ。一方的に覚えられている場合特に。
だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。言動はなんかおかしい気はするけれど。
「悪いんだけど、覚えてないみたいで……教えてもらって良いかな?」
「ふふ。夏の命は短いんだよ?」
「え?」
あっという間に紅葉に染められる短い夏が、終わりに向かって始まるらしい。
どうせ忘れられる夏の話 おねいさん @sasanohasarasarasara
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