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「長谷川君……つまり君は長谷川君でありながらも、地球外生命体……所謂いわゆる、宇宙人でもあるってことだね?」

 水上うさぎは、真正面から僕を見つめながら疑問を投げかけた。


「そうです。しかし部長、よく気付きましたね」

「ふふ。自信はあまりなかったんだけどね。まあ、かまをかけただけだよ」

 水上うさぎは、右手の人差し指をあごに当てて微笑んだ。顔も仕草も可愛らしいが、どこか毒々しいものを感じる。不快感を覚えるほどではないけれど、気持ちのいいものではない。この笑顔で何人もの老若男女の心を奪ってきたのだろう。そして何よりも性質たちが悪いのは、彼女自身が自分の魅力を理解している事だ。


「どうして僕の異変に気付いたんですか?」

「先程言ったように、一番気になったのはブラックコーヒーを飲んだところだね。君はいつも甘ったるいコーヒーしか飲まなかった。勿論、ブラックコーヒーも飲めるのかも知れないが、それにしたっていきなりは変だよ」

「でも……それだけじゃ……」

「あとはメモの存在さ」

「それがなにか?」

 水上うさぎは手に持っているメモを僕に見せながら、言葉を続けた。


「君はいつもこういう面白い物を見つけたり、持ってきたりすると、自分から私と里佳子にアピールするじゃないか。『部長!オカルト研究部の出番です!』って。今回はそれがなかった。おかしい」

「……確かに」

「これが理由かな。長谷川君じゃない、って確信するほどではなかったけれど、一応聞いてみただけさ」

「やっぱり部長は凄いです」

 僕は感服してしまって、目を大きく見開いて拍手した。水上うさぎが、少し照れ臭そうにしながら、頭を軽く下げる。短く切りそろえられた髪が、少しだけ揺れた。最近、バッサリと短くした髪型と、その中性的な容姿ビジュアルが、増々彼女の人気を不動のものにしている。


 ずっと無言だった山田里佳子が、ノートPCの画面を閉じた。ようやくコチラを向いたかと思うと、大きく嘆息する。


「なんだよ、山田」

「あなた、いつも厄介な問題を持ってきれくれるわね。そのトラブルメーカーなところ、なんとかしなさい」

 長い黒髪に陶磁器のような白い肌。立ち上がってこちらにやって来る山田里佳子は、颯爽としていて男の僕から見てもカッコいい。水上うさぎを花で例えるなら、甘い香りのする食虫植物……そして、こいつ、山田里佳子は美しい薔薇。食虫植物と薔薇に囲まれた僕は、小さな蜂だろうか……いや、小蠅かもしれないな。


「で?その宇宙人……Xってやつは、なんて言ってるの?」

「山田も、僕の話を信じてくれるのか?」

 気怠そうにしながら、山田里佳子はうなずく。


「あなたはトラブルメーカーだし、どうしようもない所が多いけど、しょうもない嘘をくようなヤツじゃないわ」

「二人とも、ありがとう」

 僕は泣きそうになりながら、頭を下げた。


「長谷川君、本当はこのメモは何処で拾ったんだい?部室の前じゃないんだろう?」

「はい。実はXの事は伏せたまま犯罪者探しの手伝いをして欲しくて。それはXが見つけた手掛かりです。一年生の校舎の中で拾ったと言ってます」

「なるほど……じゃあ、その犯罪者ってやつは一年生の中に居るのか。一年生は100名ほどだったね?1/100か。見つけるのは苦労しそうだな」

「いえ……」

「ん?」

「Xいわく、犯罪者は二名だそうです」

 僕の言葉を聞いて、水上うさぎはニヤリ、と笑った。


「じゃあ1/50に確率は減った。どちらかを捕まえれば、芋づる式さ。早速、調べてみようじゃないか」

 水上うさぎは、とても楽しそうだ。

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【桔梗学園オカルト研究部には気をつけろ】 三角さんかく @misumi_sankaku

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