ピーマン

 昼休みになった。僕はこっそりと教室を抜け出して、オカルト研究部の部室に向かった。中に入って、持ってきた弁当箱を開く。一口、口にすると異様な吐き気を覚えた。思わず嘔吐えずく。


「なんだよ、これ」

 どの食べ物を食べても、舌の上に乗せた瞬間に吐きそうになる。唯一、口に出来たのは苦味のする焼きピーマンだけだった。苦い物は、まだ耐えられる。


「すまない。暫く我慢してくれ」

 頭の中で、宇宙人と名乗った男の声がした。


「まだ地球の飯に慣れてないんだ。今、調整してるから2,3日だけ我慢して欲しい。じきに食えるようになる」

「お前……お前は誰なんだ!!」

 僕は恐怖を覚えながら、叫んだ。


「俺の名前は地球の言葉では表現できない。好きに呼んでくれ」

「僕の体から出ていけ!!」

「すまないが、それは出来ない。だが、目的を達成したら出て行くよ」

「……目的ってのは何だ」

 宇宙人と名乗った男は、声のトーンを落として話を始めた。


 便宜上、彼をXと呼ぶことにした。Xは、とある星の警察官のような仕事に就いており、国際間だけでなく星間でも活躍している様だ。彼の属する組織は、捜査だけでなく、はるかに広い強大な権限を持ち、犯罪者を捕まえる為ならば、あらゆる行為が認められている。そう……現地人の体を乗っ取ることすらも。


「しかし、君の体を乗っ取る筈だったんが、何かのトラブルがあったみたいでな。君の意識は残ったままのようで……苦しい思いをさせてしまって申し訳ないんだが、暫く我慢してくれたまえ」

Xの言葉に、僕は絶望した。


「いつまで……なんだ?」

「とある犯罪者を捕まえるまでだ。この学園に居る事は分かっている。もう少しさ」

「……それが終わったら、出て行ってくれるんだな?」

「ああ。危害を加えるつもりはない」

「……わかった」

僕は大きく溜息をいて、視線を足元へやった。


「で?その犯罪者とやらに目星はついてるのか?」

「今のところ、新入生の誰かに擬態している……としか分からない」

僕は腕組みをして、頭を回転させはじめた。


「おい!お前、何を考えているんだ」

「僕の思考が読めるのか?」

「当たり前だろ」

「じゃあ、僕の考えに賛同しろよ」

僕の考え……それは僕自身も犯罪者探しに協力する、というものだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る