第10話
「ありがとう、助かるわ……!それじゃあ早速、説明するわね……」そして彼女が話してくれた内容だが簡単に言うととある遺跡の調査をしてほしいという事だったのだがそれには条件として同行者が必要となるらしく、出来れば男性で尚且つ腕の立つ人が望ましいと言われた僕は少し悩んだ末にある事を閃いたので早速、それを提案してみる事にした。
「あの……一つ、確認しておきたいんですけどユナさんは【勇者】なんですよ……つまり僕達にとっては魔王と戦う為に旅をする仲間みたいなものじゃないですか……だからそんな理由で誰かを誘うのは違う気がするんです……なので僕がその役目を引き受ける事にするというのはどうでしょうか……?」そう口にした瞬間、彼女の顔が驚いた表情になった後ですぐに考え込む仕草を見せるのだが暫くすると顔を上げてきて僕を見つめながらこんな言葉を口にした。
「……あなたの言う通りかもしれないわね……じゃあ、お願いしてもいいかしら?それと私からのお願いがあるんだけどいいかな?」「ええ、大丈夫ですよ、僕に出来る事であれば何でもしますから遠慮なく言って下さい」「それなら良かったわ、それじゃぁ早速なんだけど私をあなたの仲間にしてくれないかしら?」それを聞いて僕は一瞬、呆気に取られてしまったが直ぐに正気に戻ると彼女の目を見ながら静かに頷いた後で右手を差し出しながら答えた。
「これからよろしくお願いします、ユナさん……」それを聞いた彼女は笑顔を浮かべた後で僕の手を握り返しながら嬉しそうに頷くとこちらこそ、と答えたのでこれで僕と彼女との関係はより深いものとなった……それから今後の予定について話し合った結果、明日から調査に向かう事になり今日はもう遅いから寝ようという結論に至ったのだがそこで問題が起きた……そう、寝る為のスペースが一人分しかないのである。「どうしようかしらね……私は別に構わないけどあなたに悪いからなぁ……」そんな事を呟きながら頭を悩ませている彼女を見ていると何だか申し訳なくなってくると同時に僕が床で寝れば問題ないのではないかと思った僕はこう提案する事にした。
「僕は別に構いませんからユナさんはベッドで寝てもらっていいですか?」「そ、そんなの悪いわよ……!私は全然、平気だしあなたが使ってちょうだい!」「……いや、それだと意味がないんで本当に気にしないでください……!」「……う~ん、そうだ!ねぇ、どうせなら一緒に寝ましょうか……そうすれば解決じゃない?」それを聞いた僕は思わず固まってしまうのだがそれが冗談だとは思えなかったので取りあえず頷いておくとそれを見た彼女が微笑みながら抱きついてきたので慌てて振りほどこうとしたが何故か離れられなかった……というよりいつの間にか身動きが取れなくなっていたのだ。
まさかこれは彼女の能力によるものではないのか……?そう思って恐る恐る彼女に尋ねてみるとどうやら正解のようで彼女は悪戯っぽく笑いながら答えるとこんな事を口にした。「ふふっ、驚いているようね……確かに私の能力は凄いけどそれはあくまで戦いに特化しているだけよ……でもこうしてあなたの動きを封じるくらいは造作もないって事なのよ、分かったかしら?」
その言葉を受けて納得しつつ、僕が抵抗しないと判断した彼女はそっと手を離すとそのままベッドに潜り込むと掛け布団を持ち上げると僕を手招きしてきた。その様子を見て流石にこのままという訳にはいかないと思った僕は意を決してベッドの中へ入っていくと彼女も身体を密着させながら横になるとこう言って来た。「ごめんね、急にこんな頼みごとをして……でもね、私も必死だったの、あなたに振り向いてもらう為にはこの方法しか思い付かなかったのよ……だってあなたが他の人達と仲良くなる度に胸が苦しくなったんだもん……私、あなたの事が好きになっちゃったみたい……」そんな事を言ってきた彼女の顔を見ると真っ赤になっていた。
それを見た僕は自然と頬が熱くなるのを感じたがどうにか平静を装って返事を口にすると彼女も嬉しそうな表情を浮かべていたので一安心したところで不意に眠気に襲われたのでそのまま目を閉じて眠りにつく事にしたのだがその際に頬に柔らかな感触を感じたような気がした――
あれから次の日の事だが目が覚めるとユナさんの姿はなかった。
一体何処へ行ったのだろう?などと思いながら周囲を見渡していると机の上に書き置きがある事に気付き、その内容に目を通すとどうやら先に向かったようなので僕も急いで支度を整えてから追いかける形で出発しようとしたのだがその前にやる事がまだあったので実行する事にした。というのも例の薬の件である。
昨日の話し合いで薬に関しては飲むか飲まされるかのどちらかという事になったのだがどちらにしろ危険を伴うので事前に飲んでおく事にしたのだ。しかし問題はいつ飲んだ方がいいのかという問題だったがタイミングを計っているうちに飲み忘れそうなので予め用意しておく事にしたのだった。そして準備が出来たので改めて出発する前にユナさんに一言告げておいた。「ごめんなさい、お待たせしてしまって……!」「ううん、そんな事ないわよ、気にしないでいいからね」そう言って微笑んだ後、彼女は僕と共に宿を後にすると目的地に向かって移動を開始した。それから暫くの間、他愛のない会話を繰り広げていたのだが途中で気になったので何故、わざわざこの町を訪れたのかと聞いてみたら予想外の言葉が返ってきた。
「えっと、確かここを訪れるには通行証が必要でしょ……?だからその通行証を手に入れる為にやって来たのよ、後は情報屋に話を聞く為でもあるかな……」それを聞いた僕は疑問を抱いたのだがそれを尋ねる間もなく目的地に着いてしまったので仕方なく質問するのは後にして中に入ってみると一見、普通の町のように感じられたのだが歩いている人達の様子を見ていた限りでは皆一様に疲れた顔をしているようだったのでやはり何かしらの理由があるのかもしれないと思いユナさんの方を振り返ると彼女も同じように考えているようだったのでまずは話を聞いてみる事にした。
その結果、分かった事と言えばこの町はかつて魔族との戦争時に避難場所として使われていたという事なのだが戦争が終わってからは誰も訪れなくなった上に物資の補給もままならない事からすっかり寂れてしまい、現在では治安の悪化と食糧難で貧困の問題を抱える事となったのだという……。その話を聞いて何か出来ないだろうかと考えていたその時、ユナさんがこんな提案を持ち出してきた。
「ねぇ、折角だし私達でここの問題を何とかするというのはどうかな?」その言葉に驚いた僕は慌てて反論したがそれに対して彼女はこう答えた。
「大丈夫よ、心配しないで!それに私達は勇者なんだし困っている人を見捨てるような事はしたくないからね……!」「……分かりました、そこまで言うなら僕も協力します!」彼女の言葉に対してそう告げると感謝の言葉を口にした後で早速行動に移る事になったのだがまず初めに何をするべきかを話し合ってみたところ特に思いつかなかったので手当たり次第に歩き回ってみようという話になったので実行に移す事にした。すると案の定、行く先で出会う人々は何処か暗い表情をしていて中には疲れ果てている者もいれば飢えて苦しんでいる者達もいた……それを目の当たりにした事で自分達が如何に恵まれた生活をしているのかを思い知らされたような気分になったのだが同時に自分達の生活を支えてくれる存在に対する恩を忘れてしまっている事に気付くと途端に罪悪感に襲われてしまう……。
そして暫く歩き回っている内に辿り着いた場所は何やら怪しげな建物があり、入り口には立ち入り禁止と書かれた看板が掲げられていたので一旦は素通りする事にして別の場所を探そうとした矢先、ふと背後に気配を感じたので振り向くとそこにはユナさんが立っていた。「どうしたんですか?」「……いや、そのね……あそこに見える家だけど何だか怪しい感じがするのよね……」そう言われて彼女が指差した方へ視線を向けると確かに妙な気配のようなものを感じ取れたのでもしかしたら手掛かりになるかもしれないと思った僕は思い切ってあの家に行ってみる事を提案してみると彼女は少し考えてから頷くとそのまま一緒に歩き出したので僕達はそのまま建物の前まで行くと周囲を警戒してから慎重に扉を開けるとそこは小さな部屋で棚やテーブルなどの調度品が並んでいるだけだったのだがその中でも一番目立つ位置に置かれてある物に目を奪われると同時に驚愕してしまった……何故ならそこに飾られてある剣の柄の部分に埋め込んである水晶が淡い輝きを放っていたのだから。それを見たユナさんは目を輝かせながらこう口にした。
「やっぱり思った通りだわ、この遺跡にはお宝があるわよ!」「……お宝、ですか……?」そう聞き返すと彼女は笑顔で頷きつつ、こう続けた。「そうよ、きっとこれは貴重な魔法の力が込められた武具に違いないわ……!ほら、見て!これを見てよ!」そう言って差し出された剣をまじまじと見つめるのだが見た目だけではどういう効果を持っているのか分からない……なので取りあえず鞘から抜いてみようかという事になったのでそれに従う事にしたのだがその直後、異変は起こったのだった……。
彼女が柄を握って引き抜いた瞬間、眩い光を放つと同時に凄まじい風が巻き起こったかと思うとあっという間に部屋中の家具が吹き飛ばされてしまったので慌てて止めようとするのだがそれでも勢いが止まる事なく今度は近くにあった机を吹き飛ばしていくとそれを見た彼女は興奮した様子でこんな事を口にした。「凄い、凄いわよ!!これなら何でも出来そうな気がする!よし、次は武器を探してみましょうよ!」「え、ちょっと待ってください……!」僕の制止を無視して奥の部屋へと走っていく彼女を追いかける形で向かうとそこにある箱を開けようと躍起になっている様子だった。それを見て嫌な予感を覚えた僕は必死に止めるように呼び掛けるのだが彼女の耳には届いていないようでひたすら箱の中身を開ける作業に没頭していたのだがやがて最後の一箱をこじ開けた時、その中から一冊の本が飛び出して来たのを見て呆然としていたのだが直後、本の中から現れた魔物が姿を現した。
そいつは全身が黒い鎧に覆われており、右手に握られている斧には無数の棘が生えていた……恐らくあれを使って襲い掛かってくるつもりだろう。それを察した僕は慌てて剣を抜くと彼女に逃げるように言おうとしたその時、既にユナさんは魔法を唱える準備に取り掛かっていたので急いで魔物の注意を引く為に奴に切りかかるが攻撃が当たったと思った次の瞬間、奴は煙のように消えてしまうと直後に背後から殺気を感じて反射的に飛び退くとその数秒後に先程まで僕がいた場所に大きな穴が空けられた事に気付いて肝を冷やしたのだがそこで突然、頭の中に声が響いてきた。「へぇー今のを避けるなんて中々やるじゃん、流石は俺に選ばれただけはあるってとこか……」「……お前は一体何者だ!?」「おっと失礼、自己紹介がまだだったな……俺は破壊神ヴァルキリー様の下僕で名前はアルダノーヴァっていうんだ、以後よろしくな」そう言いながら斧を構えて不敵な笑みを浮かべた後、勢いよくこちらに突っ込んできたのでどうにか攻撃をかわして距離を取ろうとしたのだが向こうはお構いなしといった感じで距離を詰めてくると容赦なく斧を振り回そうとするのでそれを必死で避ける羽目になってしまった……。
幸いだったのが相手の動きが単純だったので避け続ける事が出来たのだがこのまま防戦一方の状態が続いたらいつか追い詰められるのは明白だったので反撃の機会を窺う事にしたのだが先程からずっと動き続けているせいなのか段々と疲労感が増してきたような気がして息も乱れ始めていたのでこのままだと危ないと判断した僕は相手の攻撃を躱した後で一度距離を離す事にしたのだがそれが失敗であった事にすぐに気付かされる事になるのだった。なぜなら相手が僕を追うような形で追撃してきた事で退路を塞がれてしまったのだ。こうなってしまうと逃げ道は限られてしまう上に奴が放つ斧による攻撃はどれもこれも威力が凄まじく、受け止めるだけで精一杯の状況に追い込まれる事となってしまった。
そしてついに限界を迎えてしまい、手にしていた剣を弾き飛ばされてしまったばかりか地面に倒れ伏す結果に終わってしまった。その様子を見た奴は勝ち誇ったような表情をしていたが次の瞬間、自分の意思とは関係なく勝手に身体が動いた事に驚いているようだった。
その理由は言うまでもなく彼女の能力によるものだが当の本人も困惑していたようだがそんな状況などお構いなしとばかりに僕の身体は奴の身体を斬り裂いていく……それも一撃だけでなく何度も斬りつける度にその傷口は大きく広がっていき、そこから噴き出た血が雨のように降り注いでくる事にも構うことなく僕は無我夢中で戦い続けていくと最後には力を使い果たした影響でその場に倒れ込んでしまったがそれと同時に奴も動かなくなった――それからしばらくしてようやく我に返ったところで自分の身体を確認する事にした。しかし、どこにも傷らしいものが見当たらなかった事に気付いたので一体どういう事かと不思議に思っていたところ不意に頭の中で声がした。「どうやら私の能力がうまく働いたみたいね、あなたのお陰であの厄介な敵を倒す事が出来たわ、ありがとう……」その声に対して「いえ、お礼を言われるような事ではありませんよ、それよりも聞きたい事があるんですが答えてもらえますか?」「……何でしょうか?」「あなたは誰なんですか?そしてここは何処なんですか?」「……それは……」「もしかして言いたくない、って事ですか?」「……うん、今はちょっと……ごめんなさい、でもいずれ必ず話す時が来るはずだから、その時まで待っていてほしい」そう語る彼女の声色がどこか寂しげだったのが印象的だったが同時に彼女の事が気掛かりになり、どうにかして会う事は出来ないのかと思い質問してみたのだが答えは返ってこなかった。
そして暫く沈黙の時間が流れた後、彼女はこう切り出した。「……そろそろ時間ね、それじゃあまたね、バイバイ……」「……えっ、それってどういう意味、というかまだ聞きたいことが――」その言葉を最後に意識が途切れた……。
ふと目を覚ますと見覚えのある天井が視界に入った事で無事に元の場所へ戻って来れた事を認識すると共に安堵した。その直後、身体を起こすと傍には心配そうにしているユナさんがいたので何があったのか聞いてみる事にしたのだがそれを聞いた彼女は少し考える素振りを見せた後で僕にこんな事を口にした。「その件に関しては私よりもアヤメさんの方が詳しいんじゃない?」「どうして僕が……?そもそも僕はさっきまで遺跡の中にいたはずなんですが何か知りませんか……?」
その質問に首を横に振った後でこうなった経緯について説明してくれた。まず始めに自分が倒れた後は暫くの間、目を覚まさなかったらしく、しかも丸一日が経過していたという事に驚きを隠せなかったのだが次に聞かされたのは僕が倒したはずの魔物についての事だった……それによれば奴は死んだのではなく、一時的に動けなくなっただけだったのだという。その証拠に僕の身体のあちこちに切り傷が出来ている事からそれが窺えたのでやはりあの場に倒れていたのは幻覚か何かだったのだと理解すると同時にユナさんにこう尋ねてみた。「ちなみにあいつは今どこにいるんですか?」すると彼女は少し困ったような顔をしてからこんな答えを返してきた。「……ごめん、わからないわ」「分からないってどういう事ですか!?まさか、もう死んでしまったとか……?」「いいえ、死んではいないわよ……ただ、何処にいるかは分からないけれど……」そう答える彼女の顔からはいつもの明るさが完全に失われていて何だか嫌な予感を覚えてしまう……そこで思い切ってこう訊ねてみたのだが彼女は口を閉ざしたままで何も語ろうとはしなかった。
それから数時間が経過した頃、突然、扉をノックする音が聞こえたので警戒しつつゆっくりと開けるとそこには見知らぬ男が立っていた。その男は自分こそがこの屋敷の主であると名乗るとここで働かせてほしいと申し出てきたのだが最初は断ったのだがその後でどんな仕事内容なのか聞いてみようとした矢先、男の背後から別の男が姿を見せたので驚いた。というのもその男はまるで影のような姿をしていて一言も発しなかったのだから当然の反応と言えるだろう……。
それに対してこちらも無言を貫く事にしたもののこのままでは埒が明かないと考えた僕はその男を雇う事にしたのだが理由は簡単だ。仮に屋敷の中を探られて調べられても困るようなものはないので問題なかったからだ。もっとも向こうはこちらの事情を知らないだろうから下手に情報を与えない方がいいと判断して敢えて口に出さなかったという部分もあるけどね……。
そんなやり取りを終えて早速、男を案内する事にするとその最中に気になっていたことを訊ねることにした。「一つお聞きしたいのですが、ここには貴方を含めて何人ぐらい人がいるのでしょうか?」
「はい、現在、屋敷には私達の他に三人おりまして合計五人が使用人として働いております」「成程、わかりました……それで肝心の仕事の手順ですが僕は何をすればよろしいのですか?」
その問いに男はしばらく考えた後でこう言った。「実はお嬢様のお世話係を任せたいと考えています、勿論、身の回りの世話だけではなく食事や着替え、入浴などもご自身でさせてあげてください」
そう言われて一瞬、戸惑いつつも何とか頷いた後、彼女に関する簡単なプロフィールを聞いてから食堂へと向かったのだがそこに用意されていた朝食を見て唖然とした。何故なら用意されたメニューというのが卵焼きとソーセージ、それとサラダといった質素なものばかりだったのだ。これには流石の僕ですら困惑を隠し切れずにいた。何せ今まで貴族と呼ばれる者達しか食べた事がないであろう高級食材を毎日、食べているというのにそれらを口にせずにこんなものを食べさせていて果たして大丈夫なのだろうかと考えていたらユナさんからこんな事を言われたのだ。
「そんなに気にする必要はないと思うわ、きっとこういう庶民的なものを体験させたいっていうあの人なりの気遣いじゃないかしら」「……そうだといいんですけどねぇ……」正直、半信半疑ではあったが折角用意してくれたものに手をつけないという選択肢はなかったので有り難く頂く事にした。味の方だが正直に言うとお世辞にも美味しいとは呼べないものだったので申し訳ない気持ちになっていたところそれを見たユナさんが小声で話しかけてきた。
その内容を聞いた途端、耳を疑ったのだがどうやら彼女はこれまでずっと一人で暮らしていたようで親の顔はおろか名前すらも覚えていない上に父親らしき存在がいたという事だけしか分からないらしい。それに年齢もはっきりしていないそうで彼女自身が気付いた時には既にこの場所で過ごしていたというのだ……そんな彼女の話に僕は同情していた。何せ僕自身も同じような経験をしていた為だ……だからなのか思わずこんなことを言っていた。「よかったら僕達と一緒に生活してみませんか?部屋なら沢山空いてますしもしよければ一緒に住みましょうよ!」そう言うとそれを聞いたユナさんは最初こそ驚いていた様子だったが次第に嬉しそうな顔をして頷くと「ありがとう、よろしくね」そう言ってきたのであった。
それから間もなく、食事を全て食べ終えた後で食後の紅茶を頂いていた時、不意に視線を感じたのでそちらに視線を向けると彼女がこちらをじっと見つめていたのでどうしたのかと聞くと彼女は顔を赤らめながらこう答えた。「あ、あのさ、これからもずっと一緒に居てくれるんだよね?」
その言葉には色々な意味が込められている気がしたがとりあえず笑顔で頷く事にした……すると今度は嬉しそうにしながら抱きついてきたので僕はそれを受け止める形でそっと抱きしめるとしばらくの間、彼女とのスキンシップを楽しんでいたのだった。
「――はぁ……今日も疲れたなぁ……」
帰宅してから早々、リビングへと向かうとそのままソファに倒れ込むように座ると大きなため息を吐いた。そしてぼんやりと天井を見上げているとつい先程の事を思い出してしまい、自然と笑みが零れた。何故ならあの場所での出来事がきっかけで僕は初めて出来た恋人の事を思うだけで幸せな気分になれるようになってしまったのだ――あの日、僕が一目惚れした少女の正体が実は幽霊だと判明した時は本当に焦ったよ、だって急に消えてしまったんだもん……でも、そんな事は些細な問題でしかないくらいに今の僕は幸せに満ち溢れているからいいんだ……だけど時々不安になってしまう事もあるんだよ、彼女は本当は僕をからかっているだけなのかもしれない、とね。それでも僕は構わない、むしろその方が好都合なんだ、彼女は僕の為に一生懸命に尽くしてくれるしその献身的な姿に心惹かれてしまったのだから。
「……それにしてもユナの奴、今頃は何をしてるんだろう……ちゃんとご飯は食べてるかな……もしかしたらお腹空かせてるかもしれないし急いで帰るとしよう」そう思って立ち上がった直後、不意に眩暈がしてその場に座り込んでしまった……あれっ?何で……?もしかして病気か何かなのかと思ったけど身体に異常はなさそうだしおかしいなと思った時、不意にある事に気が付いた。そう、先程まで見ていた光景とは全く異なる景色が広がっている事に――それはまさに異様という言葉が相応しかった……見渡す限りの花畑、その中に佇んでいるのは一人の少女……そして彼女の姿を見た僕は思わず言葉を失ってしまった。
その少女は白と赤を基調としているメイド服を身に纏っていたのだがそれ以上に目を引くものがあった。それは腰まである長くて艶のある黒い髪、そしてその髪の両サイドにある一房ずつ跳ね上がっている特徴的な髪型をしている事が最大の特徴であり、それが誰なのかを認識するのに時間を要したのには理由がある――何故なら彼女は僕の知っている人間ではなかったからだ……そこでふと思い出す、以前に本で見た事があるのだが人間の細胞というものは常に一定の割合で入れ替わるもので一生のうちに一度は必ず生まれ変わるのだそうだ、つまり今目の前に居る少女は生まれ変わり前の記憶を有している事になる訳だがそれならどうして僕が知らないのかと疑問を抱くのも無理はないと思う……そう考えている間に彼女がゆっくりとこちらに向かってくるとそこでようやく口を開いた。
「……私はアヤメさんの事をいつも見守っているんですよ、ですからあなたが私に気付くまで待つつもりだったんです、ですが……」そこで一旦、言葉を区切ると悲しげな表情を浮かべながらこんな質問をしてきた。
「……あなたにとって私は一体何者なんですか……?」
それに対して僕は素直にこう答える事にした。「僕にとって君は掛け替えのない大切な存在だよ、たとえ姿が変わってしまっていてもその気持ちは変わらないから……だからどうかこれからも僕の傍にいてほしいんだ」そう言って彼女を抱きしめた。
それから数日後、僕とユナは二人でデートに出かけていたのだが目的地に向かう途中で何やら騒がしい音が聞こえてきたので様子を窺う為にその場所へと赴いたのだがそこには多くの野次馬が集まっていて騒ぎの中心となっている場所を遠目に見ている人達の会話を耳にしたところで何があったのか把握する事が出来た。どうやら事故か何かがあって一台の車が横転してしまっていて運転手と思しき男性は血を流して倒れている状態で周囲には救急隊員らしき人間が数名いたのでこれは大変な事になったと思いながらも今はどうする事も出来ないと判断してその場を後にした後ですぐに警察に連絡を入れようとした時だった。「ちょっといいかな?」突然、背後から声を掛けられたので振り向くとそこには一人の女性が立っていた。その女性は黒髪に赤い瞳をしていて何処か神秘的とも思える雰囲気を漂わせていたが着ている服は地味な色合いのものを着ていた為に地味で印象に残らない感じの女性だなという感想を抱きながらも何故、声を掛けてきたのだろうかと思っていたらその女性がいきなりこんな事を訊ねてきた。
「実は君に折り入って頼みたいことがあるんだけどいいかな?」それに対して訝しげに思っているとその女性がとんでもない爆弾発言を口にしてきた。「単刀直入に言うと私の彼氏を助けてほしいのよ、それも早急にね」
そう言われた時、最初に抱いたのはこの人大丈夫だろうか?という不信感だった。しかし同時にこの人は自分の正体に気付いているのではないかと直感したのでそれについて尋ねるとあっさり認めてきたのだがそれよりも気になる事があったのでそれを尋ねてみた。「……もし、助けて欲しいと言われたらどうする気ですか?」それに対し、目の前の女はこう即答した。「そんなの助けるに決まっているじゃない、私の前で命を落とす事は許さないわ」その言葉に思わず身震いしてしまった……何故ならその声色からは確かな決意を感じたからだ。
その後、詳しい話を伺った結果、彼女は今から数百年前にとある貴族の男性と恋仲になったらしいのだがその男性が不慮の事故で亡くなり悲しみに打ちひしがれていた中で奇跡的に同じ姿で生まれ変わったのだというのだ……それ故に彼は自分の事を今でも愛し続けていると確信出来るのだと話してくれた。そんな話を聞いているうちに段々と胸が苦しくなってきた僕は何とか平静を装っていたがそれに勘付いたのか彼女がこんな事を言い出したのだ。「ひょっとして疑ってるのかしら?それとも嫉妬してるのかしら?……まぁどっちでもいいけどね、でもこれだけは言わせてもらうわ……確かに彼とは同じ魂を持っているけど別人なのよ、だから安心してちょうだい、それにあなたの事を愛してる気持ちも変わらないから信じて頂戴」そう言って抱き着いてきた事で思わず動揺してしまったのと同時に胸の苦しさが緩和されていることに気付いた。
それからしばらくして落ち着いた頃に改めて詳しい話を聞くとどうやらこの近くに彼のお墓があるという話を聞いた瞬間、考えるよりも先に身体が動いていた。そして彼女に別れを告げた後で急ぎ足でそこへと向かうと周囲を見渡してみたところそこに小さな墓地らしきものがあり目的のものはすぐに見つかったのだがその前に先客がいたらしくその人と鉢合わせになってしまったがその際に僕はその人物に見覚えがあった事に気付いた……というのもその人は僕と同じ制服を着ていたので恐らくここの生徒だろうと思って声をかけようとした時、先に相手が話し掛けてきたので僕は思わず言葉に詰まってしまった。
何故なら目の前にいる相手はどう見ても幽霊にしか見えなかったからだ……いや、厳密に言うと彼女は人間なのだが半透明で透けている上に足が存在しない為、どう考えても普通ではないと思ったのだがそれでも話してみるとやはりというか僕が思っていた通りの人物であった。「あら、珍しいわねこんなところで会うなんて……今日はどうしたのかしら?って聞くまでもないわよね、だって私もあなたと同じ目的でここにいるのだから……」
その言葉を聞いた瞬間、まさかとは思ったものの彼女が言った『彼』というのが誰の事を指しているのか分かった上でこう訊ねた。「もしかしてアヤメさんの事ですか?」そう言うと彼女は静かに頷いた後、ある事実を口にした。「実は彼女ね、生前から病気を患ってたみたいでさ私がずっと見守ってあげてたのよ……でも寿命がもう僅かだという事が分かってからはずっと塞ぎ込んでて元気がない状態だったんだけどね、それでも私は諦めたくなかったから必死に励ましたり色々と手を尽くしたりしてみたんだけどとうとうお別れする時が来てしまったの、その時に約束したのよね……例えどんなに離れていても私達は繋がっているんだから忘れないでねって」そこまで話すとここで一度言葉を区切って再び口を開くと小さくため息を吐いて続きを話し始めた。
「……それでさっき、あなたに会った時、何となくだけど彼が戻ってきた気がしたのよ……でもそれと同時に妙な胸騒ぎを感じて不安になってこうしてここに来た訳なんだけどそうしたら案の定って感じかな……とにかくお願い、彼女を救ってほしいの、私には出来ないから代わりにやってもらえないかしら?」それを聞いて断る理由もないと思った僕は即座に頷き返してこう言った。
「――はい、勿論です!僕に出来る限りの事をやらせてもらいます!」
それから間もなくしてユナに事情を話して事情を説明し終わった後にこれから行う事について説明し終えた直後に僕達は目的を果たす為に墓地へと向かったのだがその道中でユナがこんな質問を投げかけてきた。「それにしても驚きましたよ、まさかアヤメさんにも前世の記憶が残っているとは思いませんでしたからね」
それに対して僕も頷くしかなかったので正直に答えた。「……うん、それは僕も同感だね、それにあの人が本当に前世では貴族だったらしいという事実を知って驚かずにはいられなかったよ……しかも聞いた話だとかなり凄い人だったみたいじゃないか……そんな人と恋仲になれただけでも幸せ者なのにまさか恋人まで出来ただなんて今でも信じられないくらいだからね」そう答えると共に不意にある疑問が浮かんだのでそのまま口にする事にした。「ねぇ、アヤメさんは今どこに居るか知ってる?」
すると彼女が少し驚いたような表情を浮かべた後でこう答えてくれた。「……あぁ、そういう事でしたか……すみません、実は私も分からないんです……何しろあれから彼女とは一切会っていませんのでどこにいるのかも知りませんし……」それを聞いた僕は落胆した気持ちになったがこればかりはどうしようもないので諦めるしかないと思っていた時、唐突に彼女がこんな事を言ってきたのだ。「……ただ一つだけ言えますとすればあの世とこの世を繋ぐ橋渡しをしている人物なら何か知っているかもしれません」――それを聞いた瞬間に思わず息を飲んだ。何せ今の僕には心当たりがあったからである……何故なら僕がユナと出会えたのはその人のおかげなのだから当然であろう……だからこそ僕は彼女の言葉を信じることにしたのだった。
それから程なくして目的地に到着するなり周囲に誰も居ない事を確認した後で例の女性の下に向かう前にユナにある提案を持ち掛けたのだがそれに快く応じてくれて協力してくれる事になったので内心、安堵しながら彼女に礼を言って別れた後は件の女性に声を掛ける事にした。「すいません、ちょっといいですか?」そう訊ねるとこちらに背を向けていた女性は振り返ると不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。「……私に何か用かな?」「はい、実は貴女に会いたいという人が居てここまで来たのですが今は何処にいるんでしょうか?」「……私に?」「はい、そうです」「ふむ、その会いたい人というのはもしや男だったりするのかな?」「えぇ、その通りですがそれがどうかしましたか?」その質問に答えるように彼女が口を開いた。
「それなら心配しなくてももうすぐ会えるはずさ、だから安心するといい」「えっ?それってどういう事ですか?」僕の疑問に答えるかのように彼女はこんな話をしてくれたのだがその話の内容を聞いていくうちに背筋が凍る思いをすることになった。何故ならその内容というのが――。「……そ、それじゃあ既に手遅れだったという事なんですか!?」その言葉に小さく頷くと肯定の意を示した後で更に詳しく話してくれたのだがその内容が衝撃的なものだったのだがそれはあまりにも惨たらしいものだった。「……その通りだよ、あの子はね自分の事よりも他人の事を第一に考えて行動する優しい子だったんだ、だけどある時に私の元を訪ねてきてこう言ったんだよ、もしも自分が死んだ場合、生まれ変わるとしたら今度は女の子として生まれてみたいな……ってさ、それを聞いた時にこの子は本気で言っているんだってすぐに察したよ……だってあの子の顔は冗談を言うような表情じゃなかったからね」そこで一旦話を区切ると間を空けて一息吐いた後で話を再開した。「……それでその事を了承した上で私の力でその子を女として生まれた後、私の妹であるあの子を見守る事に決めたのだよ、最初はとても不安だったけど時間が経つにつれて徐々に笑顔を取り戻していったのを見てホッとしていた矢先の事だった……ある日、いきなり何の前触れもなく死期が訪れた事を知らせに来たかと思えばそれからしばらくして私の腕の中で息を引き取った時は流石にショックを隠しきれなかったがそれでも最期に遺した言葉が私に対して恨み辛みではなく感謝の言葉を口にして逝ってしまったものだからやり切れない気持ちでいっぱいだったわ……」
その言葉を聞いて僕は何て言ったらいいのか分からなかった……だがこれだけは言える事があるとするならば彼女は最後まで幸せな気持ちで人生を終える事が出来たのだろうと思えてしまう程、清々しい表情を浮かべながら逝ったのではないだろうかと思うのと同時に自分もそんな風に死ねたら良いなと思ってしまいそうになった。何故なら今の自分にはやりたい事もやらなければいけない事も特にないのでせめて死に場所ぐらいは自分で決めるつもりでいるのでいつ死んでもいい覚悟は出来ていたのだがそれを伝えるべきか悩みつつ、その事をどう切り出すべきなのか考えていた時だった。「……そうか、つまり君がそうなんだね?アヤメの魂を持つ男性というのは」――突然、核心に迫る発言をしてきたので驚いて何も言えなかったがそんな彼女に対してゆっくりと頷いてから自己紹介をしたのだった。
「あ、貴方がそうなのかい!?いや~良かった!これで心置きなく次の世に行けるってものよ!」そう言って大喜びしている彼女を見て申し訳ないと思いつつも気になったので恐る恐る聞いてみたところとんでもない答えが返ってきた。「――いやぁ、悪いとは思ってるよ、だって君にとっては何の前触れもなく亡くなった訳だしね……でも私はこれでも一応神と呼ばれる存在でもあってさ、だからどうしてもそういう運命しか選べないのよね……」「え、ちょっと待って下さいよ!何で神様なのにそんな事が出来るんですか!?」「それはね、私にも色々な事情があるからとしか言えないけど一言で説明するのであれば気まぐれって事になるかな、まぁ簡単に言えばそんな感じ」「いやいやいやいや、そんなの納得出来るわけないじゃないですか!!」「……そう言われても私にはこれ以外の言い方は思いつかないから他に何を言えばいいのか分からないのよね」
その言葉を聞いた僕は愕然としてしまった……確かに言われてみればそうなるのも分からなくもないがそれにしても酷いと思った。なので思い切って尋ねてみた結果、どうやら彼女には妹がいたらしくしかも彼女とは違い、身体が弱くて中々、外には出られない生活を送っていたらしいのだ。その為、いつも寂しい想いをさせてしまっていた為、せめてもの償いとして一緒に遊んであげたり外の話を聞かせてあげたりと色々努力していたのだが残念ながらそれも叶わず若くして亡くなってしまったそうだ。
それでも後悔していないと言い切った上で妹に対しては幸せになってほしいと願っていたのだそうだがその矢先に病気を患ってしまったのだという……それで一度は諦めかけたのだがそれを黙って見過ごす事は出来なかった為に色々と調べてみた結果、アヤメさんを見つけたのだと教えてくれた。「それで実際に会って思ったのよ、この子こそ私が探し求めていた人物なんだって、でもね同時にある不安要素が生まれたの」「不安……ですか?」「そうよ、それが何かというとこのまま転生させたら間違いなく、死んでしまうだろうって確信したから私はどうにかしたいと考えた末に思い付いたのが君に力を与えようと思った訳よ」そこまで言うと僕の事を見つめながら続けてこう言った。「それに君もその方がいいんでしょ?だからここにやってきたんだよね?」その問いに対して首を縦に振ると満足そうに微笑んだ後で再び口を開いた。
「ふふっ、君は本当に良い子だね、それに聞き分けも良いし何より嘘は吐かないようだ……だったら私もそれに応えるしかないわね」そう言うと目を閉じて祈り始めたのだがそれと同時に眩い光に包まれると同時に身体中を駆け巡るような感覚が襲いかかり次第に意識が薄れていきながらもなんとか堪えていたがそんな僕に更なる追い打ちが襲い掛かってきたのである。「――うっ、うぅ、はぁ……はぁ……おぇぇぇっ!!!」その瞬間、まるで内臓を鷲掴みされたかのような激痛に襲われてしまったのだがその直後にも似たような痛みが走ったかと思うと全身に悪寒が走るのを感じたと同時に身体の奥底から得体の知れない何かが沸き上がってくる感覚に陥ったのだ。「なっ、何だこれは……?か、体が熱い!!苦しい!!」思わずその場に蹲りたくなる衝動を必死に抑えつつもこの原因不明の苦しみを少しでも和らげたい一心で身体を強く抱き締めた。
そして暫くの間はその場でジッと耐えていたのだがようやく落ち着いた頃には既に虫の息となっていたのだがそんな僕に向かって彼女がこんな提案をしてくれた。「……大丈夫かい?」「は、はい、何とか……それより先程の話の続きを教えてくれませんか……?」「分かった、それじゃ話すとしよう……」そう言った後で一呼吸置いた後で静かに語り出した。
その内容は要約すると僕が死ぬと次に生まれてくる命として生まれ変わったアヤメさんの身体の中に僕の魂が入り込む事により二人の魂が融合するという話なのだがそうなると当然、肉体的にも精神的にもお互いの記憶が共有されてしまい性格や考え方などが似てしまったりする可能性があるのだという……しかも厄介な事に記憶を共有してしまうだけでなく僕と彼女の魂同士が共鳴し合う事でお互いを引き寄せ合ってしまうという恐ろしい現象まで起きる可能性もあるのだという事を聞かされて僕はゾッとしたがそれと同時に新たな目標ができた。「それなら僕が彼女に力を貸すという形でサポートをすればきっと無事に生きていけるはずですよね?」それに対して頷いた後で更にこう答えた。「……そうだね、それには同意せざるを得ないね……ただ、一つだけ言わせてもらえばあまり無茶だけはしないでもらいたい……というのも君達は二人で一人の命を背負う事になるのだから片方だけでも死んでしまった場合は二人とも同じ末路を辿ることになるかもしれないからね」「それは重々承知の上です、だからこそお互いに助け合いながら頑張っていきたいと考えていますので安心してください」その言葉に納得した彼女は笑顔で頷くとこんな話をしてくれた。
その内容とはこれから僕達が向かう先に何があるのかという事についてだったがその説明を聞いているうちに少し不安になってしまったがすぐにその理由が判明した。「……実はですね、私達のような神には寿命があるんです」「……寿命?」「……えぇ、そうです、そもそも神様っていうのは元々は人だった者達なのですが長い年月を経て天に召されて神様となった存在の事を指します」「……つまり元は人間だったって事なんですか?」「その通りです、まぁ厳密に言えば違いますけどね」
その言葉を聞いた途端、首を傾げざるを得なかったが詳しく話を聞いてみるとこういう話らしい。元々の人間達は自らの能力を生かして人々に幸福をもたらす代わりに様々なものを授かったのだそうで中には人智を越えた力を持った者も存在したらしいのだがそれでも尚、人々は争いを絶やす事はなかった……その結果、多くの死者が出てしまう事態にまで発展し多くの人の心が壊れ始めていく中で神々はある事を決断したのだという。
それこそが自分の持つ全ての知識を授けた上で人々の精神をリセットして最初からやり直そうというものだった……だが、これには大きなリスクが存在していた。それは仮に全ての記憶を受け継いだ状態で生まれ変われたとしても今度は自分が持っている以上の力を求めようとする傾向にあったという事もあり、それが原因で世界が崩壊してしまう危険性もある上にもし失敗すれば二度と元に戻る事はないのだと語った後で更にこうも続けた。「……そこで神は苦渋の選択を強いられる事となったのですがその答えは誰もが納得するものだったと思います」それから彼女は真剣な表情になりながら言った。
「――アヤメと君の魂を分離させて別々にする事でそれぞれ別の人生を歩ませようと考えていたようなのですよ……」
その言葉を聞いた僕は驚愕のあまり何も言えなくなってしまったがその様子を見た彼女は苦笑いをしながら続きを話し始めたのだった。「でもそんな事をさせるつもりなんて毛頭なかったみたいで結局は全員が賛成する形で実行に移したという訳なんですよ」それを聞いた時、どうしてそう思ったのか気になり尋ねようとしたのだがその前に彼女は答えてくれた。
「――それはね、君を生かす為に他の者達の力が必要だったからなのさ」それを聞いて最初はピンとこなかったのだがその意味を知る事になった僕は衝撃を受けた後に涙を流して泣き崩れてしまった……何故ならそれはあまりにも身勝手な理由だったからだ――だってそうでしょう?せっかくこうして神様達が一生懸命に考えた案を無下にするような真似は誰もしたくありませんよ!それなのに何で貴方達はそうやって自分勝手な事を平気でしようとするんですか!?そう思いましたよ!」
泣きながら叫ぶようにして訴えた僕に対して申し訳なさそうな表情を浮かべながらも謝罪してきた後、静かに目を閉じたままゆっくりと首を横に振りながら言った。「……ごめんなさい、だけどこれは全て君を守る為に必要な事だったのだから分かってちょうだい……」「そんな事言われても分からないですよ!!いきなりそんな事を聞かされたところで納得なんかできるわけないじゃないですか!?」「……そうね、その気持ちもわかるわ、だけどね君には知っておいて欲しかったのよ、私達は何があっても貴方の味方だから安心しなさいって事を」そう言って頭を撫でた後で微笑みながら語りかけてきた。
それに対して頷きながら返事をするとそれを見た彼女は安堵したように微笑むなりそのまま意識を失ってしまった……恐らく、ここまで話すのに相当体力を使ったのだろうと思い無理をさせてしまった事に罪悪感を覚えつつ再び彼女を背負いながら歩き始めるのだった――その先に何が待ち受けているのか知る由もないままに……
そして遂に目的の場所に到着したのだがそこには巨大な湖があり水面を覗き込むとその奥に見える光景に思わず言葉を失ってしまう程に驚いた。「……ここが僕達が住んでいた世界なんですか?」「あぁ、そうだとも、どうだ?感想としてはどんな感じかな?」その問い掛けに対して僕は素直に答えた。「そうですね、なんというか思った以上に綺麗というか自然豊かな場所だなって感じですかね?」それを聞いた彼女がクスクスと笑いながら言ってきた。
「あらあら、君は本当に正直な子だねぇ~感心するわ♪」「そ、そんな笑わなくてもいいじゃ無いですか!」恥ずかしさのあまり顔を背けながらも文句を言った。「……いやすまない、まさかそこまで褒めてくれるとは思わなかったものだからつい笑ってしまったんだ、許してくれないか……?」申し訳なさそうに謝ってくるその姿を見ていた僕は怒る気が無くなってしまい溜め息を吐くと呆れた様子でこう言った。「……別に気にしてませんからもういいですよ、それよりも今はこの場所についてもう少し知りたいと思っているんですけど大丈夫ですか?」それを聞くと彼女は小さく頷きながら返事をした。「うん、大丈夫だけど……でもまずは君が住む世界についても知っておかないとダメだと思うからさ、それについては私と一緒に見に行く事になるんだけどそれでも構わないかな?」その言葉に黙って頷くと彼女も満足そうに微笑んできた。「……それじゃ、決まりだね、よし!それでは早速、出発しようじゃないか!」そう言うと彼女は元気よく走り出したのだがその際に落としてしまったハンカチを拾った僕は慌てて彼女の後を追いかけていったのだった―そしてそれが僕と彼女の運命を大きく変える出会いとなるなど今の時点では誰も予想する事が出来ずにいたのだ……
それから一時間が経過した頃、僕達はとある村に到着していた。そこはお世辞にも裕福とは言えなかったが皆笑顔で暮らしており、子供達も無邪気に走り回っていたのを見た僕はその光景を見て自然と笑顔になっていた……その様子を見ていた彼女は安心したかのように優しく微笑み返してきたのだが僕は思わず照れてしまったので急いで視線を逸らしたのだがそれに気付いていないのか彼女が僕に声をかけてきた。「……ふふっ、どうやらこの村が気に入ってくれたみたいだね?」「……はい、とても良い所ですね」「そうだね、確かにこの村の住人達は心優しい人ばかりだし争いもなく平和な生活をしているみたいだよ……まぁ、だからこそ私がこうやってのんびりと暮らせているんだけどね」
その言葉を聞いた後で改めて周囲を見回してみると平和ボケしているんじゃないかと思える程穏やかな雰囲気に満ち溢れていたので僕は少しだけ呆れてしまった……しかしよくよく考えてみればそれも当然の話だったのかもしれないと今になって考え始めたのだ……何故ならばこの世界に住む人達にとって争いというのは遠い昔の話で今では考えられないような出来事であったからである――その理由を尋ねたところ、こんな話を聞かされたのである。「……実はこの世界にはまだ他にも国が存在しているみたいなんだが私達がいるこの付近は魔物の巣窟となっており非常に危険である事が分かったんだよ」「……え、えぇっ!?ま、魔物ですかぁ!?」
彼女の口から飛び出してきた単語を耳にした瞬間、僕は背筋が凍るような感覚に襲われたのだがそんな僕を見た彼女が苦笑しながらこう告げた。「そんなに驚かなくても大丈夫だよ?ここには滅多に現れる事がないって聞くからね」「ほ、本当ですか……?」「あぁ本当だとも、その証拠に君も見ただろあの洞窟の入り口に立っていた門番らしき姿を……」「……あ、あれって魔物だったんですかぁぁ!?」
その言葉を聞いた瞬間に思わず驚き叫んでしまった事で周囲から注目を浴びてしまうという失態を犯してしまったのだが彼女は僕の背中を撫でながら慰めてくれていた。「……まぁまぁ、気持ちは分からなくもないけど落ち着きなさい、君は今、注目されてしまっているからこれ以上目立つのだけはやめてもらいたいのだけどいいかな?」
その言葉にハッと我に返った後で周囲を見渡した僕は自分が好奇の視線に晒されているという事に気付いた途端、顔が真っ赤になっていき何も言い返す事ができなくなってしまったのでそのまま俯く事しかできなかったのだがここで意外な助け舟がやって来たのだ。「おや、そこにいるのはひょっとして『白夜様』ではないでしょうか?」そう尋ねられたのでそちらに視線を向けるとそこには白い装束に身を包んだ男性が立っている姿を見つけた僕が首を傾げる中、彼女は微笑みながら返事をしていた。
「これはお久しぶりですね、『大天狗殿』、相変わらずお元気そうで何よりです」その言葉を聞いた瞬間、僕は目を丸くさせながら驚いてしまったのだがそんな僕を見た彼女が説明してくれた。「……そうか、そう言えばまだ紹介していなかったな、彼は私達の住んでいる集落の長でありここ一帯を管理しているお方でもある『大天狗殿』だ、ちなみに見ての通りかなり偉い方だからね敬意を払うように」
それを聞いた僕はすぐに頷いてから頭を下げるとそれに気づいた彼が近付いてきて自己紹介した後に挨拶を済ませた後で再び頭を下げていた――それから少しした後でようやく頭を上げた僕が彼女の方を見るとそこで待っていたのは驚くべき光景だったのだ。何故ならさっきまで一緒に話をしていた彼女がいつの間にか小さな女の子になっており何故かその子と手を繋いでいたのだから……それを見た途端に僕は戸惑いを隠せなかった。(……えぇっとぉ、どういう事なんでしょうかぁ……?)
そんな疑問を抱いている間に二人が何か話を始めたのだがその内容に更に衝撃を受ける事になってしまったのだ……というのも、なんと二人は親子の関係だったらしいという衝撃的な事実が発覚したのである!その話を聞いた時、僕はただ呆然としてしまったのは言うまでもなかったのだが同時に彼女とは違った魅力を持つ少女に対して目が離せなくなってしまったのでじっと見つめているとその視線に気付いた少女が話し掛けてきた。「ん?なんじゃお主、もしかして妾に何か言いたい事でもあるんか?」
その言葉を聞いてハッと我に帰った僕は慌てて言い訳をした……だって相手は見た目が幼女だとしても中身は立派なレディなのだから変な目で見てはいけないと思ったからです。「……べ、別に何も思ってませんよ!」そう言いながら視線を逸らすも少女は容赦なく追い討ちをかけるようにして質問攻めしてきた……その結果、最終的に追い詰められてしまった僕は顔を真っ赤にしながら俯いてしまう事になりそれを見た彼女はクスクスと笑うなり言った。「……全く、君は相変わらず嘘をつくのが下手なんだね?」
そんな彼女の言葉にムッとしながらもそっぽを向いていると突然、僕の顔の前に一枚の布が現れたので何事かと思って顔を上げるとそこにいたのは先程まで少女の姿でいたはずの彼女が再び元の大人の姿に変わっていたのを目撃した僕は驚愕しつつも恐る恐る話しかけた。「……い、一体何をやってるのですか?」「あぁ、何、大した事はないよ、ただちょっとこの子には反省をしてもらわないとならないと思いこうして元の姿に戻っただけの話だよ」そう言うと彼女の体が徐々に光り始めたかと思うと次の瞬間、その体から放たれた光によって視界が覆われてしまい僕は咄嗟に目を閉じてしまう。
(――ううっ、な、何だこの光は……っ!?)
そう思いながら必死に抵抗しようとしたのだがそれは叶わず、そして光が止んだと同時に僕は気を失ってしまった――その後で意識を取り戻した時に目の前に広がっていたのは見知らぬ場所であった……その場所を一目見ただけで僕は確信した……この場所こそが彼女が暮らしていた世界だと、そして同時に思ったのである。――この場所は僕達が住んでいた世界の過去にあたる世界なんだと……
それから暫くの間、周囲を散策していたのだがその間にここがどんな場所なのか大体把握する事が出来た……ここは元々、自然豊かで人々が穏やかに暮らす事が出来る世界だったのだが数十年前に突如として現れた謎の生物の手によってその平穏は破られた。その怪物達の正体は今でも分からないのだが分かっている事はそいつ等が人間を襲う化け物であるという事だ……そしてそんな恐ろしい存在を唯一退治できる力を持つ者こそが『白夜姫』なのである。彼女はその力を持ってして次々と襲ってくる敵を倒していく中で多くの人々の命を救う事が出来たという実績がある為、人々から称えられる事となったという訳である。「……さて、そろそろ帰るとしようか、いつまでもここに長居していると怪しまれてしまうかもしれないからね」「そうですね、では早速帰りますかぁ~」
そう言った後で屋敷に向かって歩き出すもふと気付いた僕は立ち止まってしまった。「――どうしたんですか?早く行きましょうよぉ?」そう言って急かしてくる彼女の言葉に返事をせず黙ったままでいるとやがて異変を感じ取ったのか心配そうな顔で僕の顔を覗き込んできた……だがその時になってようやく気づいたのである。―それは自分がとんでもない失態を犯してしまったという事実に……
なぜなら今、目の前にいる彼女は紛れもなく自分の知っている彼女ではなく『白夜様』であったのだ……そしてそんな彼女の前で自分は先程、なんと呼んだのか……それを理解した瞬間、僕は愕然とすると共に絶望感に襲われた。
すると彼女は優しく微笑んでくれた後で僕に話しかけてきた。「……大丈夫、私は君を責めるつもりなんてないしむしろ嬉しかったんだよ」「……えっ?」その言葉を聞いた僕は驚いた表情のまま彼女の方を振り向いた……何故なら彼女はまるで全てを見抜いているかのように微笑んでいたからである――そう、つまり僕は無意識の内に彼女を「白夜様」と呼んでいたのだ!だからそれに気づいていながら何も言わなかったのだと理解するなり急に恥ずかしくなった僕は思わず両手で顔を隠してしまった……すると今度は彼女に笑われてしまったのだがそんな僕を馬鹿にするのではなく逆に労りの言葉を掛けてきてくれたのである。「まぁ、誰にでも間違いというものはあるものだ、気に病む必要はないと思うよ?それよりせっかくだからお茶でも飲んでいかないかい?」「……は、はい……」
そんな僕の様子に小さく微笑んだ後で家の中へと戻っていく彼女を追いかける形で歩き出した後、中に入るなりリビングへと案内されたところで改めて彼女の姿を見た僕はまたしても驚かされてしまった……何故ならそこには自分や仲間達が暮らしている世界とは違い魔法が存在していなかったのだから! その事実を知って動揺を隠しきれなかったが何とか心を落ち着かせた後でソファーに座るなり部屋の中を見渡してみると様々な物が置かれていたがその中でも特に気になったのは壁に飾られた額縁の中に飾られている一枚の写真だった。「……あの、これってなんですか?」
僕が思わず指差した先で飾られていた写真を見た彼女は笑いながらこう告げた。「これはね私の大切な思い出なんだよ」そう話すと彼女はゆっくりと話し始めてくれた……かつて彼女と、いや白夜様こと白夜は共に行動していた仲間がいたらしく彼女達は非常に仲が良く親友同士でもあったらしいのだ。しかし今から十数年前にとある事件が起こってしまいそれ以降は離れ離れになったままになってしまったのだという……そしてその別れ際に互いに再会しようと誓い合った事で今に至っているというのだがどうやらそれはただの口約束だけではなかったようで実際にそれを果たしていたようだ。「……それで今は何をしているんですか?」「……ふふっ、実は今もまだ仲良くしているんだよ、もっとも向こうは私達の事なんて忘れているかもしれないがね」「えぇ~そうなんですかぁ?」「……きっと彼は私なんかよりも良い人に出会えて幸せな日々を過ごしているのだろうな、それこそ子供に囲まれて幸せに暮らしていて欲しいと思っているよ」「……そ、そうなんですか……」
僕は彼女から聞かされた内容に対して少なからず衝撃を受けていたのだがそれと同時に何とも言えない寂しさのような感情が芽生え始めている事に気付いていた。何故なら僕がその話を聞いて真っ先に頭に浮かんだのがかつての仲間達であり彼等にも同じ幸せを掴んでほしいと願っている自分がいたからなのだがそんな事を考えていても仕方がないと思い気持ちを切り替えてから別の質問をしてみた――彼女が今、どこにいてどのような生活をしているのかを尋ねてみると意外な答えが返ってきたのだった……「そうだね、確かに君の言うように今の彼は私が知る彼とは違う人生を歩んでいるかもしれない、だけどそれでも私には分かるんだよ、彼の魂の色は昔と変わらず綺麗だったからねぇ……だからこそ私は彼に再び会うためにこうして旅を続けているんだ」「えぇっとぉ……つまりそれってぇ……?」「……うん、彼が何処にいるのかまでは分からないけどいつかは必ず会えるだろうと思ってる、だから君もあまり気を張らずにゆっくり待つといいさ」「……はい、分かりました!」
僕の言葉に頷いた彼女は微笑みながら言った。「……さて、そろそろいい時間だし夕食の準備に取り掛かるとしようか?何が食べたいんだい?」
その問いに僕は即答する形で答えた。「……ハンバーグがいいです!!」「そうかい、ならとびっきり美味しいのを作るから期待して待っているんだよ?」それを聞いた僕も頷いて返事をする中、僕はこの時はまだ知らなかったのだ。まさかこの出来事がきっかけで彼女が再び僕の前から姿を消す日が来るなど思いもしなかったのだから― こうして白夜様の住む世界での初めての体験を済ませた僕はそれから無事に元の場所へと戻ってこれたものの、そこで待っていた皆の反応はあまりいいものとは言えなかった。というのも僕の身に起きた事をありのままに伝えたとしても信じてもらえないのは確実だったからだ……何せこの世界の住人である彼女が僕のような非現実的な事に対して簡単に納得してしまうとは思えなかったからだ。とはいえこのまま黙っていても何も解決しないと思った僕は意を決して皆に相談する事にした――それが後にあんな結果になる事も知らずに……
第7章に続くー *注意* この物語に登場する人物や地名は全て架空のものであり実際の団体・国家等とは無関係です。なおこの物語はフィクションなので登場人物や団体、また国名が登場してもそれは全て架空となります。そしてこの小説は基本的にコメディー要素を含みながら進んでいく予定ですがシリアスな展開もあるかもしれませんのでお気をつけ下さい。
それは、ある夜の事……皆が寝静まった頃合いを見計らって一人部屋を抜け出していた僕は暗い廊下を歩きながら窓の外に見える夜空を見つめていた……何故、こんな遅い時間に一人で出歩いているのかというと単純に眠れなかったからという理由に他ならないが、それよりももっと重大な問題が生じていたので誰かに相談しようと思い部屋を出たもののその途中で迷ってしまい途方にくれていたのだ……
「――さて、どうしたものかなぁ……」そんな事を考えながら途方に暮れていた時だった……不意に誰かが僕の名前を呼んだような気がしたので反射的に振り返るとそこに居た人物を見て驚きのあまり目を見開いてしまった。「……み、美優??」そこにいたのはなんと先程まで部屋で寝ていたはずの妹の美咲の姿であった……しかも彼女は何故か全身びしょ濡れの状態だったのだ!一体何があったのかと驚いている僕に妹は言った。「……良かったらこれから私とデートしてくれないかな?」
突然の誘いに困惑しているとそんな僕を見た妹が苦笑しながら話しかけてきた。「もう、お兄ちゃんったら何を驚いているのよ?私達は恋人同士でしょう?」「……はぁ??いやいやいやいやいや……ちょっと待ってよ、いきなりどうしたの!?」
僕は混乱しながらも慌ててそう尋ねると今度は真剣な表情をしながらこんな事を口にしたのだ……その内容はあまりにも衝撃的だったので一瞬、言葉を失ってしまった……何故なら――「……ねぇお兄ちゃん?今日は楽しかったよね?」
「あぁ、もちろんだよ、本当に楽しい一日だったな――」「嘘っ!!本当はちっとも楽しくなんかなかったんでしょう!?その証拠に目が全然笑ってないじゃない!!やっぱり今日の事は怒っているんだよね?そうだよね!?」
「――えっ?……あっ……」
彼女の指摘を受けてハッと我に返った僕の様子を確認した後で話を続けた。「実はさ……私もさっきまで寝てて起きたら何だか身体がだるくて仕方ないし頭が痛くて気持ち悪かったのに、いざベッドから降りようとすれば力が入らなくてそのまま倒れてしまったんだよ、そしてその時に私は確信したんだよ……これが俗にいう風邪を引いたという症状なのだと……」「なるほど、そういう事だったのか……」
僕は彼女の話を真剣に聞いていたのだが内心、驚いていた。何故なら普段の彼女は僕と違って健康そのもので、ちょっと具合が悪い程度で学校や会社を休んだりなどした事がないのだ。ましてや病気にかかった経験自体が一度もなかったので今回の事態はかなり稀な事例なのだろうと考えていたのだ……
だが、それと同時に僕はこうも思っていた……普段、あれだけ元気にしている彼女だからこそ、もしかしたら何かの前触れではないかと不安に駆られてしまったのだ。その為、すぐに彼女の身体を心配した僕は心配そうな声でこう話しかけた。「とりあえず、今日はもう寝ることにしよう、大丈夫、明日には治ってるはずだからね」そう言って立ち去ろうとしたその時だった――不意に彼女に手を掴まれて引き止められてしまったのである!「……待って!」「……えっ?」「……駄目……まだ帰っちゃ嫌……」
弱々しく懇願する彼女を見かねた僕は優しく手を握り返す事でそれに応えるとそのまま手を引いて部屋まで送っていったのだが部屋に入ると彼女は途端に泣き始めた……その姿に胸が締め付けられそうになった僕はそっと近づいて慰めようとした次の瞬間、彼女は驚くべき行動に出たのである……なんと僕をベッドに押し倒してきたかと思えば僕の上にまたがってこう言った。「私ね?ずっと夢だったの……好きな人と結ばれて、一つになって……そして赤ちゃんを産むことが……だけどそんな幸せな日々を過ごす前に私が死んでしまうなんて……そんなの絶対に嫌だよぉ……」
そう言いながら涙する彼女の姿を見て思った。……ああ、この子は本気なんだと、本気で僕との間に子供が欲しいと心から望んでいるのだという事に気付いた時、今まで悩んでいた事に対して答えが導き出された気がした。「……ごめんね、君の気持ちは痛いほど分かった、だから今はゆっくりと休んでほしい……でも、これだけは約束してほしい、君がもし、元気になったらその時は――」「……ふふっ、やっと言ってくれたね、嬉しいよ……」
僕がその先の言葉を伝えるまでもなく彼女は分かっていたようだ。なぜなら、その言葉こそが彼女が一番求めていた答えであり僕が自分の本心を伝えた事で二人は晴れて両想いとなったのだから当然だろう。……だが、僕はその告白と同時に新たな問題が発生した事に気付きつつも敢えて見て見ぬ振りをしたのだった……何故ならそれは、まだ早いと感じていたからだ。何故なら――「さぁ、もう夜も遅いから今夜は大人しく眠るとしよう、続きはまた明日、一緒に考えようじゃないか」「うん、ありがとう……おやすみなさい……」
そう言って微笑むと目を閉じた彼女はすぐに眠ってしまった……それを見た僕も安心した様子で部屋の電気を消すと布団に入り目を閉じる事にしたのだった……――こうして二人の長く険しい試練の夜は更けていった……翌朝、目覚めた二人が朝食を済ませた後で病院へ行ってみる事になったのだが、ここでちょっとしたハプニングが起きた……というのも診察を受けた彼女が医師から入院を勧められたからである。
何でも、昨晩の段階で既に熱があり意識もかなり朦朧としていたらしいので早めに治療を開始した方がいいと言われたので即刻手続きをする事となった――その結果、一週間ほどの間、病院で安静に過ごす事になったのだが、その際にある出来事が起こった。それというのも彼女と同じ病室になった人達の中にいた一人の少女が僕に声をかけてきたのである。「……あ、あの、少しいいですか?」「……ん?別に構わないけど……えっと、君は……?」「……あっ、ごめんなさい!わ、私の名前は花澤真里といいます……こ、こっちは友達の橘咲月です……よろしくお願い致します」
そう答えるとお辞儀をしたので僕も釣られるように頭を下げるとその隣にいた少女が恥ずかしそうにしながらも挨拶してくれた……その様子を見て微笑ましいと思いながらも笑顔で返事をする事にした。「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
そんな僕の返事に安堵したのか表情を和らげる二人だったがどうやら僕に聞きたい事があったらしく先程よりもやや緊張した表情で尋ねてきた。「……ところで貴方は美咲さんとどういう関係なんですか?」「えっ?それってどういう意味??」彼女達の質問に疑問を抱いた僕は首を傾げるばかりであったがそれでも諦めず問いかけてくるものだから仕方なく質問に答えていく事にしたのだがそれがまた思わぬ展開へと繋がるとは思いもしなかった――
第7章に続く―*注意* この物語に登場する人物や地名は全て架空のものであり実際の団体・国家等とは無関係です。なおこの物語はフィクションなので登場人物や団体、また国名が登場してもそれは全て架空となります。そしてこの小説は基本的にコメディー要素を含みながら進んでいく予定ですがシリアスな展開もあるかもしれませんのでお気をつけ下さい。それは、ある夜の事……皆が寝静まった頃合いを見計らって一人部屋を抜け出していた僕は暗い廊下を歩きながら窓の外に見える夜空を見つめていた……何故、こんな遅い時間に一人で出歩いているのかというと単純に眠れなかったからという理由に他ならないが、それよりももっと重大な問題が生じていたので誰かに相談しようと思い部屋を出たもののその途中で迷ってしまい途方にくれていたのだ……「――さて、どうしたものかなぁ……」そんな事を考えながら途方に暮れていた時だった。不意に誰かが僕の名前を呼んだような気がしたので反射的に振り返るとそこに居た人物を見て驚きのあまり目を見開いてしまった。何故なら――「……み、美優??」そこにいたのはまさか先程まで部屋で寝ていたはずの妹の美咲の姿であった……しかも彼女は何故か全身びしょ濡れの状態だったのだ!一体何があったのかと驚いている僕に妹は言った。「……良かったらこれから私とデートしてくれないかな?」
突然の誘いに困惑しながらも断ろうとした矢先に彼女はとんでもない事を口走った。「もう、お兄ちゃんったら何を驚いているのよ?私達は恋人同士でしょう?」「……はぁ??いやいやいやいやいや……ちょっと待ってよ、いきなりどうしたの!?」
僕は混乱しながらも慌ててそう問いかけると今度は真剣な表情をしながらこんな事を口にしたのだ……その内容はあまりにも衝撃的だったので一瞬、言葉を失ってしまった……何故なら――「実はさ……私もさっきまで寝てて起きたら何だか身体がだるくて仕方ないし頭が痛くて気持ち悪かったのに、いざベッドから降りようとすれば力が入らなくてそのまま倒れてしまったんだよ、そしてその時に私は確信したんだよ……これが俗にいう風邪を引いたという症状なのだと……」「なるほど、そういう事だったのか……」
僕は彼女の話を真剣に聞いていたのだが内心、驚いていた。何故なら彼女の体調が悪かったという事実は僕の耳には一切入っていなかったからである。それに普段の彼女は僕と違って健康そのもので、ちょっと具合が悪い程度で学校や会社を休んだりなどした事がなかったのだ。ましてや病気にかかった経験自体が一度もなかったので今回の事態はかなり稀な事例なのだろうと考えていたのだ……
だが、それと同時に僕はこう考えていた……普段、あれだけ元気にしている彼女だからこそ、もしかしたら何かの前触れではないかと不安に駆られてしまったのだ。その為、すぐに彼女の身体を心配した僕は心配そうな声でこう話しかけた。「とりあえず、今日はもう寝ることにしよう、大丈夫、明日には治ってるはずだからね」「うん、ありがとう……おやすみなさい……」
そんな僕の言葉に納得した様子の彼女は頷くと目を瞑った後であっという間に眠りに落ちたようで安心したような表情を浮かべたかと思うとすぐに寝息を立て始めたのを見て安心しながらその場を後にすると自分も部屋に戻る事にしたのはいいがその直後だった――不意に何かにぶつかってしまった事で思わず驚いてしまったのだ。
慌てて前を向くとそこにはもう一人の妹がいたのだ!「――ッ!?……さ、彩愛?どうしてこんなところにいるんだい?」「……え?ど、どうしたって、お兄ちゃんこそこんな時間にどこ行ってたの?それに何でびしょ濡れのままここにいるわけ!?」
僕は咄嗟に誤魔化すようにして苦笑いするのだがそんな彼女の表情は次第に険しくなり最終的に呆れ顔で溜息をつくと同時に呆れた様子で口を開いた。「どうせ眠れないから夜風に当たって気分転換しようとしてたんだろうし大方、そんなところだろうと察してたけど一応念のために確認するね?……ちなみにどこに行くつもりだったの?」「……屋上に行くつもりだったんだ」「……でしょうね、やっぱりそんな事だろうと思ったわ」
そう言いながらやれやれといった感じで首を横に振った妹の姿に申し訳ない気持ちでいっぱいになったので素直に謝る事にした。「……ごめん、心配してくれているのは分かるけどさすがに皆に迷惑はかけられないからさ」「ふふっ、分かってるわよ、ただ貴方が無茶をするんじゃないかと思っただけだから気にしなくても大丈夫よ」
そう言って微笑んだ彼女にお礼を言いながら頭を撫でてあげると気持ちよさそうにしていた――だが次の瞬間、その表情が一変して青ざめたのだ!なぜなら僕が彼女の背後を指さしながら驚いた様子でこう言ったからだった。「――ま、まずい!!今すぐ逃げないと!」「へっ?一体何を言って……うぐっ?!」彼女が最後まで言い終わる前に何者かに首根っこを掴まれた上にそのまま持ち上げられると身動きが取れなくなってしまったのである。
そのあまりの恐怖からか泣きじゃくり始めた彼女は必死に抵抗しようとするも相手からの力の方が強くどうする事も出来ずにいるとそれを見ていた僕が彼女を助けようと近づこうとしたその時だった。――突如、僕の目の前を大きな影が通過したと思ったら同時にドサッという音が聞こえてきたので振り向くとなんと先程の人物が床に倒れているのが見えたのだ!しかもよく見ると見覚えのある人物だった為、驚愕していると今度は別の人影がこちらに近づいてきた事でその正体に気付いた時、僕も同じく驚く事になった。
何故ならそこに立っていた人物は僕と瓜二つの顔をしていたからだ――つまり、これは双子ならではの悪戯だったのである。「……ったく~相変わらず可愛い子を見るとすぐにこれなんだから」「全くですねぇ、いくら何でも限度というものがありますよ?」
呆れたようにため息をつく二人を見ながら反論しようとしたが、それはできなかった。何故なら二人が僕にだけ聞こえるような声でこう耳打ちしてきたからだった……「だって……“僕達の大切な恋人を悲しませた罰”ですから」「まぁ、当然よね?」
その言葉にハッとした表情を見せた僕に対してニヤリと笑った後、二人は妹を助け出すべく動き出し無事、救出する事が出来たのだった―。
その後、何事もなかったかのように再び眠りについた妹を見て安堵の息をついたところで僕は先程、現れた二人と一緒にリビングへ足を運ぶことにした。「……さっきは助けてくれて本当にありがとうございました!」
お礼の言葉と共に頭を下げる僕の姿を見た双子の姉妹である兄(姉)の方は苦笑しながらも口を開く。「……別に気にする事ないですよ、私達が勝手にやったことですし気にしないでください」
彼はそう言うと更に続けてこう言った。「……でも、正直かなり危ない状況でしたよ、あと一歩遅かったら手遅れになってましたよ?」
それを聞いた僕はハッとなりながら答えた。「……確かにそうですね、すみません、助けてもらった立場なのに説教じみた事をしてしまって……ですがおかげで助かりました、ありがとうございます!」「……あははっ、どういたしまして!……それにしてもあんな時間まで起きてるのは身体に悪いですよ?明日からはもう少し早く寝た方がいいですね?」「そうかもしれないわね、私も同感です、これからは気を付ける事をオススメしますよ?」「ご忠告痛み入ります、以後気をつけるようにしますね……それでお二人に少し聞きたい事があるんですけどいいですか?」「……ええ、構いませんよ」「……はい、いいですよ」
僕の問いに対して二人は嫌な顔一つせずに承諾してくれた事に感謝しながら早速質問をぶつけてみる事にしたのだ……その内容は他でもない妹の事についてだったのだが何故かそれを聞くなり彼女達は少し複雑そうな表情を浮かべつつ考え込んでいたので不思議に思っているとやがて考えがまとまったのか僕の方に視線を向けてきたかと思えばゆっくりと口を開き始めた。「それは多分、美優の体調が悪い理由の事なんですよね?」「え、えぇ……実はそうなのですけど何故分かったんですか?」「それに関しては私がお答えしましょうか」「お願いします……」「実はここ最近ずっと元気がないんですよ、それも目に見えてわかるぐらいに……」
僕はその言葉を聞いて思わず驚きのあまり目を丸くしてしまった。まさかそんな状況に陥っていたとは思いもしなかったからである……何せいつも元気な姿しか目にしていなかったのだから無理もない話であった。「ちなみにいつからですか?」「……えっと、確か二週間前からだと思いますよ?正確に覚えている訳じゃありませんけどね」「……そうですか、わざわざ教えていただき感謝します、それではこれで失礼しますね」
そう言って席を立とうとしたのだが突然、肩を掴まれてしまったせいで動く事が出来なくなった。一体何が起こったのかと思い、振り返るとそこには悲しそうな表情を浮かべた兄の姿が映った……そして僕は直感的に理解してしまった、きっと今から言われるであろう言葉は妹にとって残酷極まりないものだと気付いたのはまさにその時だったのだ。「……正直に言ってしまうと今の美優はかなり危険な状態にあります、このまま放っておくと命を落とす可能性も十分にあるのです」「えっ?!ど、どういう事なんですか!!」「……落ち着いて下さい、まずは私の話を聞いてください……」「……はい、分かりました」
そして僕は彼女の話を黙って聞き続けるうちに次第に動揺してしまい、つい取り乱しそうになったのだがそれをなんとか抑え込んだ後でようやく冷静になる事ができたので続きを話すように促したのだ……。「では続きを話しますね……結論から言いますと妹の命はもう長くはありません」「なっ!?それってどういう意味ですか!!どうして急にそんな事になってるんです!?」
その言葉を聞いた瞬間、とうとう我慢できずに問い詰めると兄は困った表情を浮かべた後に覚悟を決めたのかゆっくりと話し始めた。「……恐らく彼女はこの城にいるある“呪い”を受けてしまったのでしょう、だから日に日に衰弱していく一方で回復の兆しが全く見られない状態なのです」「……そ、それじゃあどうすればいいんだよ、そんなの絶対に耐えられないじゃないかぁ……」
泣きながらそう呟く僕に対して彼女は慰めるような口調でこんな事を口にしたのだ……それは今までで一番残酷な言葉だった。「……一つだけ方法があるにはあるのですが……それがとても難しくリスクの高いものなのであまり勧めたくはないのですよ」「……教えてください、その方法を」「……お兄ちゃん」
僕は彼女の言葉を遮りつつも真剣な眼差しを向けるとそれに対して相手は少しだけ考えた後、静かに頷くと口を開いた。「……実はこの世界に存在するありとあらゆる生き物は例外なく魔力を有しているものなんです、例えば人間なら誰でも必ず持っていて魔法を行使する際には消費されるエネルギー源みたいな役割をしてくれていますね、もちろん、貴方達も魔法を使う際に使っているはずですが、これがどういう仕組みなのかご存知でしょうか?」
それを聞いた瞬間、ハッとした表情で顔を上げるとすぐに兄の方を見ると彼もまた頷きながらこう言った。「……なるほど、そういう事だったんですね!……どうやら貴方も同じ考えのようですね」「はい、つまり妹さんは今現在その体内に取り込まれた魔力によって生命活動を維持する為に必要な器官を侵食されている状態にあるという事になります」「……ちなみに侵食されるとどうなるのでしょうか?」
僕が不安げに尋ねると彼女は深刻な表情を浮かべて重い口を開き始める。「……最終的には全ての内臓が機能不全に陥り体内で出血して最悪の場合、ショック死を引き起こす可能性が非常に高いと考えられますね」「……ま、待ってくれ!!それってつまり死ぬって事なのか?!」「……残念ですけどそうなるでしょう、ですから先ほど言ったリスクが高いと言った理由にも繋がってくるわけです」「そ、それなら妹をその呪縛から解き放たなければ大変な事になるんじゃないか!?」
慌ててそう告げると彼女もその意見に同意するかのように大きく頷いた後でこう言った。「……確かにこのままでは危険です、しかしそれにはどうしても必要な条件があるのでそれをクリアしなければなりません、なので今回は特例として許可する事にしようと思うのですが宜しいですか?」「……ほ、本当に大丈夫なんでしょうか?そもそもそれはどうやって達成すればいいんでしょうか?」「……方法はとても簡単です、ただ一言“彼女を助けたい”という気持ちがあればそれで十分なんですよ!」「……それだけでいいのならすぐにでも行動に移しますよ!それでどうやったら助けられるんですか?!」
僕の必死な訴えに対して彼女はこう答えた。「……貴方にも手伝ってもらう必要があるので準備が出来次第、私の部屋まで来てください、そこで全てお話しますのでそれまでお待ちください」「わ、わかりました、それでは待ってますね!」
こうして話は纏まった後、僕と兄は自分の部屋に戻り出発の準備をする事にしたのだがこの時の僕にはまだ知る由もなかった……この後、あんな展開が待ち受けている事を……。
――一方その頃、ラティア達が待機している部屋にて二人の男が何やら怪しい動きをしているとは露知らず僕達は呑気にくつろいでいた。そんな中、彩愛がふと何かを思い出したように口を開くとこんな事を口にしてきた。「そういえばさっき妹さんが何か言いかけていたみたいだけど一体何を言おうとしてたのかしら?」「う~ん、言われてみれば確かにそうだったね、何を言おうとしたんだろ??」
するとリミスも思い出したかのように反応を示した事でカレンちゃんとロゼさんまでも同じような仕草を見せた為、僕も同様に疑問を抱いていたものの特に気にする必要はないかと考え直した矢先だった……美優ちゃんが突然、こんな事を口にしたのは。「あっ!思い出しましたっ!!皆さんに伝えておきたい大事な事があるんでした!!」「あらら、そうなの?じゃあ話してごらん、お姉さん達はしっかり聞くからね!」
その言葉に嬉しそうに微笑むと早速、話し始める為に深呼吸をし始めたのを見た僕らは微笑ましく思いながら待っているとやがて意を決したように美優ちゃんは口を再び開いたのである。「――私はとある場所で特殊な能力を持って生まれたんですがそれを気味悪がった両親は私を捨てた後にどこかに売り払ったようなんです、しかもその時のお金は全て自分達だけで使ってしまって私にはほとんど残してくれなかったそうです……まぁこれは私に対する嫌がらせのようなものだと推測しますが」「ちょっと待ってよ、それって本当なの?」
思わず口を挟んでしまったのは無理もないだろう……何故ならあまりにも突拍子のない話だったのだから……でも僕は美優ちゃんの話を信じる事にした。というのも彼女の目は嘘をついているようなものではなかったからだ……だからこそ僕は彼女を信用する事にしてこう告げた。「わかったよ、君の話を信じるよ」「え、ええっ?!信じてくれるんですかっ!?」
僕の返事に驚く彼女に向かって頷くと続けてこう言った。「……あぁ、君さえよければだけどね?」「そ、そんなの悪いですよ!!こんな変な事を言っているんですよ?それなのにどうして……」「……理由は簡単さ、だって僕はもうとっくに君の事を信じてるからだよ」「ッ……!?そ、そこまで言われた以上はもう断れないじゃないですかぁ~!!分かりましたよ、こうなったら全部話しますし協力もしますからどうかよろしくお願いします!!」
そう言って頭を下げる美優ちゃんに対して僕は笑みを浮かべながら答えた。「うん、こちらこそよろしくね!!」
そうしてお互いに握手を交わした後、今度はリミスと美優ちゃんの二人で話し合いを始めていたのだが途中で美優ちゃんが急に僕に話しかけてくるとこんな事を聞いてきた。「……ところで先輩さんのお兄さんとお姉ちゃんのお名前って教えてもらえますか?」「え、僕?僕の名前は『美月 優』だけどそれがどうかしたのかい??」「……いえ、別になんでもありません……ちょっと気になっただけなんです」「??そうなんだ、ちなみに君はなんていうのかな?」「あ、そうでしたね!すっかり忘れてました!!……コホン、改めて自己紹介させてもらいます、私の名前は『美優・アーデンヴァルト』と申します、以後お見知りおき下さいませ!!」
彼女の言葉に思わず唖然としながらも僕は心の中でこう思っていた……その名前の綴りは違うのではないかと……とはいえ敢えて指摘する必要性を感じなかったのでそのまま流してしまった事は言うまでもない。
そして翌日、僕等は予定通り出発の準備を終えてから目的地へと向かう為に転移魔法を使用する事となったのだがその前に僕は美優ちゃんに一つの質問をぶつけたのだ。「……ねぇ、君に一つ聞いておきたい事があるんだけどいいかな?」
それに対して少し驚きながらも彼女は笑顔で頷いてくれたのを見て内心ホッと胸を撫で下ろしつつゆっくりと話し出した。「……ありがとう、実は昨日の話の続きなんだけど君達兄妹はこれから向かう場所にいる“ガープ”という人物に会った事があるんだよね?だから彼がどんな人なのかを教えて欲しいんだ」
その問いに対して彼女は少し考え込んだ後、難しい表情になったかと思うとようやく重い口を開いた。「……ごめんなさい、私が言えるのは一つだけです……それはとても強いお方だという事がわかりました、それこそ今の私が勝てる相手じゃないという事だけは言えます……でも絶対に負ける気はありませんけどねっ!」
最後の言葉を強く言い切った彼女の瞳に宿る光は力強く輝いているように思えたので嘘ではないと判断した僕はそれ以上、深く聞くのをやめる事にするのだった。
(……そっか、彼女がそこまで言うのなら間違いないのかもしれないね、それなら安心して向かえるというものだ!)
そんな会話を終えた後、いよいよ旅立つ事になったのでまずは美月が転移魔法を発動して全員一緒に行く事になると目の前には大きな扉が現れていたのだ。そしてそれを確認した後で彼女は僕達の方に振り向くとこう言った。「……皆さんも準備はよろしいですか?」
その言葉に対して全員が無言で頷くのを見た美優ちゃんも頷き返した後でその扉を開ける為の呪文を唱え始めた……それが終了した瞬間、目の前が真っ白になると同時に意識を失ってしまうのだが気が付くと見知らぬ空間に立っていた。
すると突然、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ……それはかつて僕が住んでいた国の国王の声だった。
「ようこそ、我が城へ!!待っていたぞ、皆の者よ」
その言葉を最後に空間内から追い出されてしまった事で次に目を覚ました時には見慣れない場所に居た。「……こ、ここは一体……?」
周囲を見回しているとふと足元に違和感を感じたので見てみるとそこには見覚えのある女性が倒れている事に気が付いた僕は慌てて駆け寄ってみるとどうやら息はあるようでひとまず安心したものの依然として目を覚まさなかった。そこで一先ず女性を安静にさせるべく横にさせたまま周囲に視線を送るとそこはどこかの城の大広間のような造りになっている事がわかると同時にここが異世界である事も理解する事が出来たのだ――しかしそれでも謎な部分が多すぎる事から不安を感じていた所に聞き覚えのない声が聞こえてきたので視線をそちらに向けると一人の人物が玉座と思われる椅子に腰掛けていた。
それを見て僕が最初に感じた印象としては全身鎧を纏った男性で兜を被っていたので顔が見えなかったのだが何故か懐かしい雰囲気を感じて思わず動揺していた所だった。「おや、そこにいるのはもしや妹様ではありませんか!?」「えっ、い、妹様ですか?!」
彼の問い掛けに対して咄嗟に返事をしてしまった為、慌てて口元を抑えると恐る恐るといった様子で様子を伺っているとやがて彼は笑い声を上げた。「ハッハッハ、いやすまない……君があまりにも面白い事をするものだからな、ついつい笑ってしまった……許せ」「あ、あの……もしかして貴方様は私達の事をご存じなのでしょうか??」
するとここで彼は徐ろに立ち上がるとこちらに向かって歩いてきたと思ったら目の前で立ち止まりこう告げるのだった。「そうだな、一応名乗っておくとしよう……俺の名は『ガイン』だ、気軽に名前で呼んでくれて構わないが出来ればそっちの名前も教えてくれるか?」「……わかりました、私の名前は『美優・アーデンヴァルト』と申します!それと先程は助けていただき本当にありがとうございました!!」
彼女が頭を下げて感謝の言葉を述べる中、僕はと言うとガインと名乗った男性が気になって仕方がなかった。何故ならその名を聞いた途端に何故か既視感を覚えたからなのだが何故そんな風に思うのかは全くもってわからなかったのだ……だがこれだけはすぐに理解出来た事があった、なぜならそれは……僕の勘によるものだったからである。「うむ、そうか……ならばこれからは美優と呼んでも構わないか?それとも他に名乗った方がいいだろうか??」
その問い掛けに対し、僕がどう答えようかと悩んでいた所で彼女は迷わずに即答したのだ。「いいえ、美優のままで大丈夫です……ですが私も美月さんとお呼びしても宜しいでしょうか?」「あぁ、勿論だとも……ところで話は変わるのだが美優は魔王軍に所属していると聞いたが本当なのか?」「え、えぇそうですけど……それがどうかしたのですか?」
彼女の返事にガインは考え込む仕草を見せた後、何かに気付いたかのように手を叩いたかと思えば突然こんな事を口にしたのである。「なるほど、そういう事だったのか……!いやぁ~実に驚いたよ、まさかこの城に人間が訪れるなんて思いもしなかったからなぁ~」
そう言いながら豪快に笑う彼につられて笑みを浮かべる彼女だったが僕は未だに理解が出来ずにいた。何故ならそれは当然の事であり、なぜ自分がこの場所に居るのかと問われれば全く身に覚えがなかったからだ。(……それにさっきも思ったんだけどどうして僕は彼を見て懐かしく感じているんだろう?)
そう考えていると今度は彼女がこんな質問をぶつけたのである。「あの、一つお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」「ん、なんだ??言ってみろ」「ではお言葉に甘えて……どうして貴方は私の正体をご存知なのでしょうか??」「ほう、それはまた面白い質問だな……ふむっ、いいだろう答えてやる」
こうして彼が口にした内容はこのような内容であった……まず僕等が初めて顔を合わせたのは勇者選抜の為に訪れた『剣魔学園』という場所で、その際は僕の顔を知っていたが名前に関しては知らされていなかった事……さらに付け加えると“とある理由”によって僕の正体を知るに至ったらしいのだがその理由に関して教えてくれなかったのだ。「……まぁ今はそんな事よりもこれからどうするつもりなんだ??」「えっと、それはどういう意味なんですか??」「いやいや、そんな不思議そうな顔をするなって……だって今のお前は自由の身なんだぞ?それなのにわざわざあんな国に戻る必要なんてあるのか?」
その発言を聞いた僕は思わず息を飲んでしまった。確かに言われてみればその通りだったのだ……仮に戻らなくても誰も文句など言わないだろうしむしろ戻ってくれるのなら歓迎してくれるかもしれないと思ったからなのだ――でも僕にはもう戻る場所はないと思っているし何よりも美月を置いてはいけないとも思っていた。だからこそ彼女の元を離れる訳にはいかなかったので首を横に振っていたのだ。「いいや、まだ戻れませんよ……」「へぇ~そうかぁ~じゃあとりあえずお前の意思を尊重しておくよ、もし戻りたいというのならその時は俺も協力してやるから遠慮なく言ってくれよな!!」「……あ、ありがとうございます!」
この時ばかりは心の中で彼女に感謝する事にした僕だった。というのもガインさんの心遣いが非常に嬉しかったのもあったが何より僕自身の心が弱っていた事を自覚していたので少しだけ気が楽になったような感じがしたからなのである。「……さてと話が一段落ついた所でそろそろ次の話に移ろうかと思うのだが……ところでお前達はこれからどうするつもりなんだ??」
その問いにリミスが答えた。「……私達はこれからガープに会って話を聞いてみようと思ってるわ」「ガープに会う??おいおい、正気かよ?奴は悪魔の中でも屈指の実力者だぞ??正直、俺ですら勝てるかどうかわからない相手なんだがな……」
その言葉を聞きつつも彼女の決意は揺るぎないもののようでこう答えるのだった。「それでも会うべきなのよ、これは私達の宿命なのだからっ!!」その言葉に僕と美月は思わずお互いに顔を見合わせて笑っていた。「……やれやれ仕方ない奴等だなぁ~わかったよ、そこまで言うなら俺が責任を持って連れてってやろうじゃないか」「……本当ですか?!」
彼女が喜びの声をあげる中で今度は美月が話し掛けた。「……すみません、宜しくお願いします!」「おぅ、任せときなっ!その代わり道中では俺の指示に従ってもらうからな、わかったかっ!!」
彼の言葉に僕達は大きく頷いた。「……それではこれより我々はガープがいる『魔神城』に向かう事になる、いいなっ!!」「はいっ!!」
こうして無事に話し合いを終えた後で出発しようとした矢先、突然扉が開きだしたと思ったらそこには国王の姿があったのだ。「……あ、あれ?!父上……じゃなかった、国王様、どうかなさいましたか??」
慌てて呼び直そうとする美優ちゃんに思わず笑みを溢しながらこう言った。「フッ、そんなに無理をしなくても大丈夫だよ……君は僕の息子でもあるんだからね」「……えっ、それって一体どういう事ですか?」
突然の告白に驚くと共に戸惑いを見せるとその様子を見ていた国王はゆっくりと話し始めた。「……僕は君の父親である“シュバルツ”に頼まれて君を養子として引き取ったんだよ、実は君が幼い頃にある事件が起きてしまったせいで心を閉ざしてしまってね……それがきっかけで君の兄達や周りの者達にも迷惑を掛けてしまう事になってしまったんだ、だから申し訳ないと思っていたんだけどどうしても君を手放す事が出来なかったみたいなんだ」「……そ、そんな事情があったんですね」
それを聞いた美優ちゃんは悲しそうな表情を浮かべたまま黙り込んでしまったのだがしばらくして何かを決心したかのような表情を見せた彼女は父親と思われる人物に近付き抱き付いた。「……お父様、私はあなたの事を心から尊敬しています……なのでこれからもずっと仲良くしてくださいねっ♪」
笑顔でそう言った彼女を前にした時の父親は目を大きく見開いて驚いていた様子だったがしばらくするとすぐに笑みを浮かべ始めるとゆっくりと頭を撫ではじめた。「……ありがとう、そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ……これからはいつでもここに帰って来てくれていいからね」
そして親子揃って笑い合う光景を見た僕は心の底から安心出来たのでホッと胸を撫で下ろすと同時にこれでようやく一件落着かなと考えていたその時だった、いきなり地面が大きく揺れたかと思うと地震が発生したのだ。「きゃっ?!」「な、何事だっ!!」
慌てた様子で玉座から立ち上がった父親の目の前に突如として現れた人物は全身鎧で身を包んでおりその顔も兜に覆われていて見えない状態だったものの声を聞く限りどうやら男性のようだ。(こ、この人はいったい誰なんだろう……?)
そんな事を考えているとやがて父親がこんな事を口にしたのだ――「もしや貴様……まさか『魔王軍』に与していると言うのか!?」するとその言葉を聞いた彼は小さく笑いながらこう返すのだった。「……フハハ、何をバカな事を口にするかと思えば……私が仕えているのは『主様』ただ一人だけだぞ?」「ま、待て!!それはどういう……」
その後に続く言葉を発する間もなく彼の首が床に転がった。「――えっ……?」目の前で起きた出来事に驚いている間にも他の兵士達が次々と倒れていったのだがその中でも唯一生き残っていた人物がいた。それはなんと僕の隣に居たはずの彼女だった……しかしその姿はまるで別人のように変わり果てていたのだ――なぜなら今の彼女は全身が真っ赤に染まっており手には血塗れの剣を握っているだけでなくその目は赤く光り輝いていたからである。「あ、あなたは一体何者なんですか??」
僕は震える声を必死に堪えながらも尋ねると目の前の相手は突然笑い始めたのである。「クックックッ、知りたいか……なら教えてやってもいいぜ?ただし一つだけ条件がある……この私を倒してみるんだなっ!!」そう告げた直後、こちらに襲いかかってきた為、すかさず刀を構えて応戦しようとすると突然頭の中に誰かの声が聞こえてきたのだ。
(やめておけ、お前の力では勝てぬぞ……そ、そんな事はないと思うけどなぁ~フンッ、まあいいさ……とにかく戦うにしてもここは撤退して出直すしかないだろう、それに今はあの少女を救う事が先決じゃないのか??あっ……そうだったよね、ごめんね……ちょっと取り乱しちゃったよ)「いや、謝る事はないですよ……ところでさっきはどうして止めたんですか?」
そう問い掛けると再び声が聞こえてくるとこんな事を口にした。(ん、別に大した理由じゃないよ……だって君にもしもの事があったら私との約束が守れなくなっちゃうからね)「えっ、それってどういう意味なんですか??」(ふふっ、それはまだ秘密だよ♪)
そう告げるなり声が聞こえなくなったのだがそれと同時に目の前にいる彼女が口を開いたのである。「おい、いつまでそこでぼけっとしているつもりだ……それとも何か??私と戦わなくてもいいからそのまま黙って殺されるとでも言うつもりか??」「っ、い、いえ、そういう訳ではありません……ただ貴方の戦い方に驚いてしまいまして……」
すると僕の返答を聞いた彼女は一瞬驚いた顔を見せたもののすぐさま笑みを浮かべるとこんな事を言ってきた。「ほぅ、そうかそうか……つまりお前は私の強さに惚れ込んだって事でいいんだよな?まぁそういう事なら仕方あるまい、今回は特別に見逃してやろうではないか!」
自信満々な表情でそう言う彼女に僕は改めて恐怖を覚えてしまったのだ――何故なら今の状態でも勝てるかどうかわからない状態なのに本気を出すつもりがないように見えたからだ。(ど、どうしよう……やっぱり逃げるしかないよね、でもどうやってこの場から離脱すればいいんだろうか?)
そんな事を考えつつ考え込んでいる間も時間は過ぎていったのだが未だに良い作戦が思い付かない状況が続いていたのである。だがここで予想外の展開が訪れる事になるとはこの時の僕は知る由もなかった。
「ふぅ~何とか撒く事が出来たみたいですね……それにしても本当に酷い目に遭いましたね」
「うん、そうだね……それよりも美優ちゃん、さっきから元気ないけどどうかしたの??」
僕の言葉にハッとした様子を見せる美優ちゃんは慌てて首を横に振ると笑顔を浮かべながら言った。「べ、別に何でもないよっ!!」「……そ、それならいいんだけど……」
何となく彼女の態度が気になる中、リミスが近付いてきたかと思うと小さな声で話しかけてきた。「実はあの子……さっきまでの記憶が曖昧になってるみたいなの」「えっ!?そうなんですか??でもどうしてそんな事が急に起こったんだろう……」
その事を疑問に思いながら首を傾げているとラティスさんが代わりに答えてくれた。「恐らくガープの能力によるものだと思われますね……おそらくですが対象となった者はその間の記憶が全てなくなってしまうのでしょう」
その説明を聞いた後で僕は思わずこう思った。(そんな事が出来るなんて信じられないよ……でも実際こうして美優ちゃんの様子が変なのは間違いないんだから信じるしかなさそうだよね)
そう思いつつも不安な気持ちを抱えたまま僕達は先を急ぐ事にした。ちなみに移動方法は前回と同じように馬車を使ったのだがその道中で何度かガープの部下らしき連中が現れたのに気付くなり戦闘に突入したのだが特に苦戦する事なく切り抜ける事に成功した。それから暫くしてからようやく魔神城と呼ばれる場所へ到着すると早速城の中へと足を踏み入れたのだ。「ここが……魔族達の住む城なんですね、何だかとても不思議な感じがします……」
周りをキョロキョロと見回しながら呟く美月さんを見てルドラさんがこう言った。「あぁ、確かに初めてだとそうなるだろうな……とりあえず俺に着いてきてくれ、謁見の間に案内してやる」そう言って歩き出した彼に続き僕も後を追った。その際、何故か美優ちゃんがその場に立ち止まったままだったので気になった僕は声を掛ける事にした。「どうしたの??大丈夫、体調が悪いとかじゃなければこのまま一緒に行こうよ??」「……う、うん、大丈夫だよ、ごめんね心配させちゃって」「ううん、全然平気だから気にしないで」
申し訳なさそうに謝罪をする彼女に対して僕がそう答えると笑顔に戻ったのを見てホッとした瞬間、どこからか大きな物音が聞こえてきたので慌てて音がした方向へ視線を移したのだがそこはちょうど城の廊下に面している場所らしく奥の方まで見渡す事が出来なかったのである。「今の音が気になりますね……どうしますか、勇者殿??」「……行きましょう、もし誰か倒れているとしたら早く助けてあげないと手遅れになる可能性もありますからっ!!」「分かりました、では急ぎましょうっ!!」
こうして僕達はすぐにその場へと向かう事にしたのだがしばらく廊下を進んで角を曲がろうとしたところでいきなり誰かが飛び出してきたのだ――しかもそれは先程見たばかりの人物だったのだが様子がおかしい事に気付いた僕は思わず立ち止まってしまった。何故ならその姿はボロボロの状態になっており、身体中に血が付着していたのだ……それにも関わらず彼はゆっくりと立ち上がりながらこちらを向いた途端にこんな事を口にした。「な、なぜだ……何故、私の能力が効かないのだっ!!」「……えっ、あ、あなたは一体誰なのですか?」
あまりの変わりように戸惑いを隠しきれずにいると彼の背後から別の人物が姿を現したのだ。「……おやおや、まさかこんなにも手酷くやられてしまうとは思ってもみませんでしたよ、まったくもって想定外ですね」
そう言いながら現れたのは全身漆黒の鎧に身を包み仮面をつけた人物だった――その姿を目にした時、僕の脳裏にある記憶が甦った。「ま、まさかっ!!お前がシュバルツなのか!?」するとそれに対して彼はこう返した。「えぇ、そうですよ……私が魔王様の右腕でもある『魔軍師』ことシュバルツです……まぁもっとも今となってはそんな肩書など何の意味もありませんけどね……」
そしてその直後、彼の身体が一瞬にして消えたと思ったら突然目の前に現れたかと思うと鋭い一撃を叩き込んできたのだ――辛うじて刀で受け止めたのだが予想以上の力によって弾き飛ばされてしまった為、危うく後ろにいたリミス達を巻き込んでしまうところだったので僕はすぐに体勢を立て直すと刀を握りしめた。「……ほう、あれを受けてまだ動けるのか……ならば今度は確実に息の根を止めてやるとしようっ!!」そう言い放った直後、再び姿が消えたと思ったその時、突如として真横に現れた彼が目にも止まらぬ速さで攻撃を加えてきたのである。
それを間一髪で防いだまでは良かったものの次の攻撃を躱す事は出来ずに腹部を切り裂かれてしまい大量の血が溢れ出て来たので激痛が走ったせいで思わず膝をついてしまったのだがそれでも何とか踏ん張りながら立ち上がると目の前の彼に向かって反撃を仕掛けた――だがそれも難なく受け止められてしまうばかりかそのまま投げ飛ばされてしまったのだ。「……くっ、こ、こうなったら一か八かでやるしかないっ!!頼むぞ、聖剣アルテミスッ!!」そう叫びながら右手に力を込めた瞬間、光が僕を包み込むようにして纏わり付いたかと思えば次第に形状が変化していったのである。
やがてそれが収まった時には先程までとは違う形に変化していたのだがそれを見たラティスさんは驚いたように声を上げるのだった。「なっ?!ま、魔剣アルテミス……ですかっ!?」(……えっ、これってもしかしてあの有名な剣と同じものって事なの??)「あ、貴方ってまさか……本当に伝説に語られる勇者なんですか??」
そんな僕とラティスさんのやり取りを見ていたシュバルツが動揺している様子が見えたのだがそんな事よりも僕には気になって仕方のない事があった為、恐る恐る尋ねてみる事にした。「ね、ねぇ、聞きたい事があるんだけど……そもそも『神殺しの剣』とは何なのでしょうか??」
するとその問いを聞いた途端、彼は驚いた様子を見せると同時に慌てた口調でこう告げた。「お、お前は何を言っているんだっ!?……いや、そうか……そういう事だったのか、道理で私の能力の影響を全く受けない訳だ……どうやらお前には全て話さなければならないようだな」「あっ、はい、お願いします……」
(うぅ~ん、本当は今すぐ話を聞きたいところなんだけどなぁ~さすがに出血量が多すぎて意識が朦朧としてきてるし……でもこんな所で死ぬ訳にはいかないもんね)
心の中でそんな事を考えながら必死に意識を保とうとしているとシュバルツが再び口を開き始めた。「――いいだろう、そこまで知りたいのなら教えてやろうではないかっ!!」そしてそれを聞いた直後に彼の口からとんでもない真実を知る事になったのである。
その内容というのが僕の持つ伝説の剣には2つの種類が存在するというもので、一つ目が今、僕が使っている『魔剣アルテミス』でありもう一つは封印されている状態で存在する『神滅の剣グラム』というものらしいのだがそれらの違いについては実際に使ってみて確かめるしかないようだ――というのもこれらの剣を扱えるようになるためにはそれぞれの適正があるらしく残念ながら僕にはなかった事から使用する事ができないのだと教えてくれた。
そんな話を聞いているうちにいよいよ意識を保つ事が出来なくなった僕はその場に倒れ込んでしまったのだがその瞬間に今まで忘れていたはずの記憶を取り戻した事で驚きの表情を浮かべていたのだがその理由があまりにも突拍子もないものだっただけに自分の耳を疑ってしまった程だったのである。(えっ……な、何で急にあの時の光景を思い出しちゃったんだろう??だってもう10年以上前の事なのに……それにどうして僕の中からあの子の記憶が消えているんだろう??)
だがそんな疑問について考えるよりも先に目の前から声が聞こえてきた為、思わずビクッと反応してしまった。「どうした、大丈夫かっ!?どこか痛むようなら治癒魔法で応急処置は施せるぞ??」「い、いえ、だ、大丈夫です……」
慌てて首を横に振った後で何とか立ち上がると心配そうに見つめる彼女達に対して笑顔で答えたのだがここでラティスさんが何かを思い出したかのような表情でこう言った。「そうだ、そういえば言っておかなければならない事がありました」「へっ??そ、それって一体何なのですか??」
突然の話題転換に困惑しながらも聞き返すと彼女はこんな事を口にした。「以前、貴方にお会いした時の話の続きなのですが、あれは実は嘘なんですよ」そう言うと彼女が続けて話した内容によると魔王を倒すために必要だと言われたアイテムの事を話す為にわざわざここへ来たという話だったのだがその際に僕に見せたという武器がどうも偽物だったらしいのだ――しかし何故、今になってそんな話をするのかと尋ねるとルドラが代わりに説明してくれた。
それによるとガープとの戦いが終わった後で回収した『魔剣グラム』を調べてみた所、驚くべき事実が判明したらしいのだが何でもこれにはとある魔法が付与されていたらしくその効果は対象とした者の能力を封じ込めて弱体化させる効果を持っていたのだという……そしてそれはつまり僕が持っている『魔剣アルテミス』も同じ効果を付与された武器だという事を教えてくれたのである。ただし、この魔法に関しては使用者にも影響を与えてしまうため注意が必要らしい――とはいえ、あくまでも一時的なものであるという事も教えてくれていた。
さらに詳しい話を聞くとどうやら過去に一度使用した際に効果が持続する時間はわずか5分程度しかなかったそうなのだがその短い時間で魔族達に対して大打撃を与えたという事実から今では使い道がない事から倉庫の奥で厳重に保管していたらしいのだがまさかこんな形で役立つとは思いもしなかっただろうと言っていたがこれに関して僕も全く同じ気持ちだったので苦笑いを浮かべるしか出来なかったのは言うまでもなかった。「それにしても凄い回復力だな……さすがは勇者といったところか」「……まぁ、そうですね……ってあれ??も、もしかして今の会話、全部聞かれていましたかっ!?」
何気なく相槌を打った後でふと気が付いた事を口にした瞬間、その場に気まずい空気が漂った気がしたがそこでタイミング良く(?)ガープの部下達が襲い掛かってきたのだ。だが僕達はすぐさま迎撃態勢に入った――その際、シュバルツだけは何故かその場から動かなかったので不思議に思ったのだが今はそれを気にする余裕などないのでとりあえず頭の片隅に追いやると敵との戦闘に集中する事にした。その結果、何とか退ける事に成功したのだが既にかなりの血を流してしまった事もありこれ以上戦うのは難しいと考えた僕は二人にこう提案した。「あのぉ~申し訳ないんですけど、そろそろ屋敷へ戻らないとまずいと思うのですがよろしいでしょうか??」「……そうですね、分かりました。そういう事でしたらひとまず戻りましょうか?」「わ、分かりました……」
こうして一旦屋敷へ戻る事にしたものの帰り際にシュバルツが僕を呼び止めたかと思うとこんな事を言ってきた――しかもなぜかニヤニヤしているように見えてしまったので警戒しながら振り返ると突然、とんでもない提案を投げかけてきたのだ。「……では改めて自己紹介させて頂きます、私の名前は『ルビナス・フラスト』と申します……そして今回、私が魔王様の命を聞かずに独断でここに来た理由ですが……率直に申し上げまして貴方様に一目惚れをしたからです!!なので私と付き合って下さいっ!!」「ふぇっ?!」
(えぇぇ~~?こ、この人って男の人じゃないのぉっ?!いやでも声は明らかに女の人だしぃ……っていうかちょっと待ってよっ!?そもそも僕には好きな人が……)「あぁ、ちなみに先に断っておきますが拒否権はないのであしからず……」「……へっ??」
まさかの展開に呆然としてしまっていると今度はリミスが声をかけてきた――その表情からは呆れているような雰囲気が感じ取れたがそれを問い詰めるような事はせずにただ一言だけ告げた後、すぐに立ち去ってしまった。「はぁ……勇者様は相変わらず鈍い方ですね、もう少しご自身の魅力に気付けるよう頑張ってくださいね~」「……うん、そうだね」
それから城へ戻った僕達は色々と話し合った末に結局この日はそのまま解散する流れになったのだった――といっても特にやる事がある訳ではなかった為、そのまま部屋へ戻ろうとしていると廊下の向こうからラティスさんがこちらへやって来たので僕は足を止めたのである。「あらっ??お帰りなさい、どうだったのかしら??」「えっ、えぇ……まぁ無事に済んだと思います……多分ですけど」
曖昧な返答をすると彼女も何かを感じ取ったのかそれ以上深く尋ねてくる事はなかった――もっとも何を聞かれたところでどう答えれば良いのか分からなかったという理由もあったのだけれど。その後、彼女を見送った後で部屋に戻りベッドに横たわって考え事をしていたのだがどうしても先程の告白の事ばかりが気になってしまっていたせいかほとんど眠る事が出来なかった。(うぅ~ん、どうしたらいいんだろうなぁ……確かにあの人には助けてもらったけどそれとこれは別だよね?……でもさすがに付き合うというのは……)
しかしその後もしばらくの間悩み続けていたせいで寝不足のまま朝を迎えてしまった結果、今日は訓練を休む事にした――もちろん魔王との戦いで疲れているであろう皆の事を思っての判断だった。ところがそんな僕の気持ちを察してか誰も文句を言うどころか心配されてしまった事に驚きながらも嬉しさを感じたりもした。
(そっかぁ……みんな、僕の事を考えてくれていたんだ……それなのに僕は自分の事で精一杯だなんてやっぱりダメだよねっ!!)心の中でそんな事を考えていた時だった。部屋の扉を叩く音が聞こえて来たと思った矢先、中へ入ってきた人物の姿を見た途端、心臓が止まりそうになった――そう、何とそこにいたのはシュバルツだったのだ。
そして開口一番、彼はこんな質問を投げ掛けてきた。「……その、昨日の件なんですが……」「……えっ?!あ、あのっ、ま、まさか本気にしたんですかっ!?じょ、冗談に決まっているじゃないですかぁっ!!」(うぅ~ん、本当はまだ半信半疑なんだけどなぁ……それにもし本当に付き合ってくれなんて言われたらどうしよう??いやでもここはきっぱり断るべきだと思うんだ!!だから勇気を出して言わなきゃだねっ!!)
そんな覚悟を決めると大きく深呼吸した後、僕は口を開いた――だがその直後、彼が予想外の行動を取った事で完全にパニックになってしまった。というのも突然、僕を抱き締めるようにしてきたばかりか耳元でこんな事を告げてきたからだ。「――ごめんなさい、実はあれは嘘でした」「ふぇっ?!」「私は最初から貴方が男性である事を知っていますよ……だって私は女性ではなく男の娘ですからね」「……へっ??」
彼の言葉の意味がよく理解出来なかったせいもあって間の抜けた声で返事してしまった僕に対し、さらに続けた。「……ふふっ、驚いていますね?まぁ、無理もありませんよね……いきなりこんな事を言われてしまえば誰だってそうなってしまうのは仕方のない事です……しかし私は貴方に救われたあの時から貴方に惚れてしまったんです……ですからどうか私とお付き合いして下さいませんか??」「……えっ、えぇぇっ?!」
あまりにも唐突な展開について行けず頭の中が真っ白になっている僕に構わず抱き付いて来た彼をどうにか引き剥がそうと抵抗したものの意外と力が強くて全く歯が立たなかったので仕方なく諦めて受け入れる事にしたのだがその際、彼は小さな声で何かを呟いていた気がした――それが何なのかは分からないままだったがこの時、僕は知らなかった……その言葉の意味こそがシュバルツが僕に抱いている本当の想いだという事を……そしてこれが彼と僕の運命を大きく変える事になったのだと後々になって気付かされる事になるとは夢にも思わなかったのだ――
あれから一夜が明けていよいよ魔城へと乗り込む日がやってきた。当然ながら昨日までとは違い緊張感も段違いな状態になっていたものの今回は事前にしっかりと準備を済ませてから挑んだ事もあり不安はあまり感じられなかった――それでも魔王の実力を知っている訳ではないので実際はどうなるかは分からないのだがそこは実際に戦ってみない事には何とも言えないだろう。「……勇者様、お体の具合の方はどうですか??」「……えっと、少し緊張してますけどそれ以外は至って普通ですね……むしろいつもより体調が良いかもしれません」「……なるほど、それは頼もしいお言葉ですね」
そこで一度会話が途切れてしまい、しばらく沈黙が続いたがやがて彼女が意を決したような表情で話し掛けてきた。「……それではそろそろ出発するとしましょうか……それでよろしいですか?」「はい、大丈夫です」「分かりました……ではこれより作戦を開始します、皆様のご武運をお祈り致します……」そう言って彼女は頭を下げた――その口調はこれまでとは違って真剣そのものだったので僕も気を引き締め直す事にした。するとそれを見ていた他の仲間からも声を掛けられたので頷きながら応える事にした――「うむ、よろしく頼むぞっ!!」「はい、頑張りますねっ!!」「勇者さんの為にも頑張らないとねぇ~っ♪」「……皆さんの事は命に代えてでもお守りします、ですので安心して戦いに専念して下さい」「あぁ、分かった」
それから間もなく魔王の元へ辿り着く事が出来たのだが予想に反したのか全く動く気配が感じられなかった――その様子に不信感を覚えつつも慎重に様子を窺っているとようやく動きがあったかと思えば突然目の前に巨大な扉が出現したのである。それを見て全員が警戒したのは当然の事だったが肝心の僕がと言うと正直、あまり危機感を感じていなかった――その理由としてこれまでの傾向からしてこういった扉は開けた瞬間に攻撃してくるパターンが多い為、下手に近付かない方が無難だと思ったからである。とはいえ、いつまでもこのままでいる訳にもいかないので思い切って開けようと決意した時だった。
急に魔王から声をかけられた事で動揺しつつも身構えていると予想外過ぎる言葉が飛び出してきたのだ――その内容はまさに驚愕するに十分なものだったと言えるだろう――何故ならその言葉とは「今から一対一の勝負をしないか?」というものだったからだ。それに対して皆が困惑したものの結局はその申し出を受け入れる事にしたのだがこの時の僕には知る由もなかった。まさかこの事が全ての終わりであり始まりになるとは想像すら出来なかったのである――そして同時に僕は後に知る事になる、この出会いが偶然でも必然でもないという事を……そう全ては仕組まれていたのだという残酷な真実と共に……
「……分かりました、引き受けましょう……」
僕の提案を受けた後、少しの間考え込むような仕草を見せていた魔王ではあったがすぐに承諾してくれた事でホッとしたのだがそれと同時に緊張の度合いが急激に増して来るのを感じた。なぜならここから先は言葉など不要となる程の戦いが繰り広げられる事になるだろうと思っていたからだ。だからこそ決して隙を見せる訳にはいかなかったのである。「ふむ、さすがは勇者殿といったところか……では始めようかっ!!」
そう言うと次の瞬間、彼は凄まじい魔力を放ってきた為、すかさず聖剣を構えようとしたところ何故か身体が言う事を聞いてくれなかった――どうやらリバスから受けた一撃がまだ尾を引いているらしい。だがここで負ける訳にはいかないと思った僕は気合いで無理やり動かそうとしたものの思うように動けずにいる間、あっという間に間合いを詰められてしまい気が付いた時にはもう眼前に拳を振り被っていた魔王の姿があったのだ――そのスピードと迫力を前に恐怖を覚えた僕は思わず目を閉じてしまったのだがいつまで経っても何も起こらなかった事により不思議に思ったので恐る恐る目を開くとそこには魔王の姿がなくなっていた――しかしその直後、すぐ背後から気配を感じたので反射的に振り返ったのだがその時既に手遅れだと気付いたのであった。
(……あぁ、これはもう駄目だな……)心の中で諦めかけた時、突如頭の中に女性の声が聞こえてきたかと思うと今度は聞き覚えのある名前を呼ばれてハッとした――そうだ、今は何をするべきなのか思い出すべきだった。そこですぐさま構え直した後、剣の柄を強く握りしめて意識を集中させると再び全身に力が溢れ出すような感覚に包まれたのでそれを一気に解き放った瞬間、今まで感じた事のないくらいの力が身体中を駆け巡っていくのが分かり思わず笑みを浮かべていた。(これならきっといけるはずだっ!!)
そう思い直して改めて魔王の姿を見据えた――ところがそこにいたのは先程の彼ではなく見知らぬ美女だった事で一瞬、混乱しかけたが何とか気持ちを持ち直させるとそのまま勢いよく斬りかかった――だがそんな僕の攻撃をいとも簡単に防いだだけでなくカウンターを仕掛けて来た相手に慌てて回避する羽目になるのだった。(……強いな、だけど負けないよっ!!)内心でそう叫んだ直後、僕は持てる力を総動員しながら全力で向かって行った。そして気付けば周りが真っ暗になっておりここが夢の中だと知った僕はある人物の元へと向かう事にした――
「……まさかここまでやるとは思ってもみなかったわ」
彼女の言葉に苦笑いを浮かべた僕は「そんな事ないですよ、僕はまだまだ全然未熟ですから……」と言った。「ふふっ、そんな事を言っていられるのは今のうちだけよ……そのうち貴方は私なんかよりもずっと強くなってしまうでしょうから覚悟しておく事ね??」
そう言った彼女に驚いたもののふと気になった事を尋ねてみた――それは今よりも強くなる方法があるのかという事だったのだがそれについては答えられないと断られた。その為、これ以上聞くのを諦めようと思った矢先、彼女の方からこんな話を切り出してきた。「……ところで話は変わるけど、貴方は運命って信じるかしら??」「へっ??そ、それってどういう意味ですか……?」
突拍子もない質問に戸惑っていると彼女がこんな事を口にした。「実は貴方がここにやって来た時からずっと不思議な力が働いていたのよ」「えぇっ?!ど、どういう事ですかっ?!」さすがに意味が分からずにいると彼女がこう告げた。「つまりね、本来だったら貴方と出会うはずがなかったという事なのよ……でもね、私は貴方の存在を知っていたの……だからこうして会えたのがとても嬉しいのよ、だってこれは偶然なんかじゃないのだから……」「……あの、言っている意味がよく分からないんですが??」
しかし僕の疑問には答えてもらえず代わりにこんな事を言われてしまった。「……ごめんなさい、そろそろ時間みたいだからまた会える時まで待っていてちょうだいね……それまでは私が責任を持って貴方の事を護り続けるからねっ♪」
その言葉を最後に目の前が再び暗闇に包まれていったのだが最後に見た彼女の笑顔がやけに印象的だったような気がした――
「はぁっ……はぁっ……くそっ、どうしてっ……」
苛立ちを募らせていた俺は近くにあった岩を蹴りつけた後で地面に座り込んでしまう。それも無理はない事だ――何しろあれだけ用意周到にしていたにもかかわらず勇者を仕留め損なったばかりか手傷すら負わせる事が出来なかったんだからな……だがいつまでも落ち込んでばかりもいられないと考えた俺は気を取り直してから立ち上がったところで誰かがこちらにやって来るのが見えたので咄嗟に身構えたがその正体を見て目を丸くした――それは先程まで俺が戦っていた相手だったからだ。「……やぁ、久しぶりじゃないか」
すると俺の挨拶に対して彼女は軽く頷いた後で口を開いた。「……それにしてもまさか貴方がここへやって来るとは思いませんでしたよ、しかも私達にとって大事な物を奪おうとするなんてね……」「おいおい、誤解しないでくれっ!あれはほんの出来心であって本気じゃなかったんだ……信じてくれっ!!」
そう懇願した途端、彼女がニヤリと笑うのを見て嫌な予感がしたのですぐにでもここから立ち去ろうとしたのだが一歩遅かったらしくあっさり捕まった挙句、押し倒される格好になった。「……さてと、これでようやく二人きりになれたわね」「ちょっ、ちょっと待ってくれっ!!俺にはやらないといけない事があるんだよっ!!」「……あら、そうなの?でも残念ねぇ~今の私には全てお見通しなのよ??」そう言って笑みを浮かべた彼女の顔が急に恐ろしく見えてきたので震え上がりながらも必死に抵抗したが敵わなかった……結局、観念するしか選択肢はなかったのである――ちなみにこの後、彼女と過ごした日々は決して忘れられないものとなり幸せな人生を送ったらしい……めでたし、めでたし??
(……えっ??いや、待ってよ……一体これ、どういう事なんだ???)
その一方、僕と魔王の戦いを見守っていた仲間達は驚きのあまり言葉が出ずにいたようだったがしばらくすると一人ずつ歓声を上げていくようになった――だが当の本人である僕は未だに信じられないといった様子で立ち尽くしていた。何故なら僕が振り下ろした聖剣はいつの間にか鞘の中へと戻っていた上に肝心の魔王もまた剣を収めている状態で佇んでいたからだ――どうやらお互い、決着がついた事で戦う意志がなくなったのだと察したので僕も同様に聖剣を鞘へと戻す事にした。その結果、この場にいる全員が戦いを終えた事で安堵する中、魔王だけが違っていた……というのも何やら不敵な笑みを浮かべていたのだ。
それが何を意味しているのか分からないでいたがここで不意に僕の口からとある名前が零れ出たのである。「――もしかして君は……」「……ほう、まさか私の事を覚えているとはな……ならば思い出してもらうとするか」「くっ……」その言葉に思わず怯んでしまった僕を他所に彼は続けてこう言った。「……そう怖がらなくても大丈夫だ、悪いようにはしないから安心してくれ」
そう言いながら彼が手をかざすと僕の中で眠っていた記憶の一部が呼び起こされたのである。「さぁ、どうだ思い出しただろう??」
彼の問いかけに対し僕は素直に頷くとそれに満足したのか小さく頷くのであった――こうして一連の事件は幕を閉じたもののまだやるべき事が残されていたのだ。
魔王との戦いが終わり平和が訪れた頃、僕の目の前に突然、一人の女性が現れた事で動揺せずにはいられなかった。だがそんな彼女の口から驚くべき事実を聞かされる事になるなどこの時はまだ想像すらしていなかったのである――
それはリバス達が城へ攻め込んで来てしばらく経った後の出来事であり、僕が一人で自室でくつろいでいた時の事だった。「……ん、あれ??ここは……確か僕は部屋で休んでいて……それでどうしたんだっけ?」ふと我に返るように辺りを見渡してようやく状況を把握出来たのでホッと胸を撫で下ろした。何故ならあのまま気を失っていたらどうなっていたのか見当もつかなかったからだ――だがそれを確かめるべく僕はすぐに部屋を出ると急ぎ足で向かった先というのは勿論、食堂なのだがそこで予想外の光景を目にする事となった――というのも普段、そこにいるはずの者達の姿がなく無人の状態だったからである。その為、僕は不審に思ったがその直後、背後から気配を感じた為、振り返ってみるとそこには見知らぬ人物が立っていたので更に混乱してしまったがよく見ると見覚えのある顔だったので安心した反面、妙な感覚に襲われたので首を傾げていると相手がこんな言葉を口にするのだった。「あぁ、勇者殿ではないか……良かったら少し話でもしないか?」「あ、あのぉ……すみません、あなたは誰ですか??」相手の返事を待たずしてつい尋ねてしまったのだがそれでも気を悪くするどころか笑顔を浮かべていたので内心ホッとした――そして互いに自己紹介を交わしたところで改めて本題に入ったのである。「……実は君に頼みがあって来たんだが構わないだろうか??」
そう言われたものの僕に出来る事などたかが知れているので思わずそう答えると相手はこんな事を口にした。「なに、難しい事を頼んでいる訳ではないから安心してくれ……ただ一つだけやってもらいたい事があるんだが引き受けてくれるかい??」「……えぇっとですね、とりあえず話だけでも聞かせてもらってもいいですかね??」さすがにこのままでは埒が明かないと判断したのでこちらから話を伺う事にしたのだ――しかしよくよく話を聞いていくうちに次第に顔が青ざめていったのは言うまでもなかった。なぜならそれは本来なら決して関わりたくない案件だったからなのだ――そんな僕の様子を見たからか目の前の人物が小さく頷いて見せた。「まぁ、そういう事だから宜しく頼むぞっ!」
そう言い残してその場から立ち去ったのだがそれからというもの気が休まる時がなかった――というのも今、こうして城の警備をしている間も常に何者かの視線を感じていたからだった。もちろん正体こそ分からないものの恐らく魔王の配下の者なのだろうという確信があったので尚更緊張が走ったのは言うまでもない――だが幸いにも襲ってくる気配は全くなかったのでひとまず安心しながら見回りを続けたのだった。
そんな調子で日数だけが過ぎていき気付けばもうあれから一ヶ月以上経っていたある日の事、いつもと変わらない平穏な日常を過ごしていた僕の元に来客がやってきた。「やぁ、君がこの国の勇者殿かね??初めましてっ!!」「えっと……あなたは一体??」
そう尋ねたところ相手は丁寧に名乗ってくれたのでこちらも名前を告げてから軽く頭を下げたところでこんな質問を投げ掛けた。「……それで本日はどういったご用件でしょうか??」すると相手は笑みを浮かべながらこんな事を口にした。「いやぁ、実は君にお願いしたい事があってやってきたんだ……単刀直入に言うとこの手紙をある人に届けて欲しいんだよ」「えっ、届け物ですか……?でも誰に渡せばいいんでしょうかね??」
当然の如く浮かんだ疑問をぶつけてみたのだがそれについてはすぐに答えてくれたのである。「それは直接、本人に聞けば分かると思うからさっ、それじゃ頼んだよっ!!」「えぇっ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ~!?」
そんな僕の制止も虚しく走り去っていってしまったせいで結局どうする事も出来なかった――そして仕方なく指示通りに行動する事に決めて手紙を受け取った僕は指定された場所へと向かう事になった――その場所というのはとある町にある酒場だった(へぇ、こんな所に店があったなんて知らなかったなぁ)そんな事を考えながら扉を開けて中に入るなりカウンター席の方へ視線を向けたところ何故か既に座っている女性がいたので思わず呆然としてしまった。しかも服装からして間違いなく魔界の住民なので慌てて逃げようと思ったものの運が悪い事に扉は彼女の背後だったので逃げるに逃げられない状態のまま時間だけが過ぎ去っていった……そんな中、痺れを切らしたのか彼女の方から声を掛けてきた。「あっ、貴方が今回の依頼を請け負ってくれた人なのねっ!……ねぇねぇ、私に会いに来てくれたんでしょ??ほらほら遠慮しないでこっちにおいでってばっ!!」「……えっ、ぼ、僕に会いに来た……?」その言葉に耳を疑ったものの目の前にいる女性を見て確かにその通りだと思い知らされたのである――何故ならその人は魔王軍の最高幹部の一人であるリリスだったからだ。
(……ま、まずいな、よりにもよってこの人が出てくるとは予想もしてなかったよ)とはいえ今更、引き返す訳にもいかないので恐る恐る彼女の隣に座った後で渡された封筒を渡したのだがそれを受け取った彼女はすぐに開封し出したのを見て不安で一杯になっていた中、不意に彼女がこんな事を言い出した。「うん、なるほどねぇ~……それにしても随分と面白い内容の手紙を書くわねぇ~」「えっ、それってどういう事なんですかね??」
僕が気になって尋ねてみた所、逆に彼女に聞き返されてしまったので思わず黙り込んでしまった。「――あら、どうしたの??何か言いたい事でもあるのかしら??」「……いや、別にそういう訳ではないのですが」
どうにか言葉を濁したつもりではいたのだが彼女には通用しなかったようで小さく溜め息を吐いた後でこう切り出した。「まぁ、いいわ……それより貴方はどうして私がここに居るのか知りたいんじゃないの?」
それを言われてようやく気付いた僕は咄嗟に頭を下げて謝った後、再び顔を上げたのだが今度は彼女の方が黙ってしまい気まずい空気が流れた為、何とかしなければと思って周囲を見渡していたその時である――ふいに視界に入った酒瓶を手にした所でハッとしたように顔を上げるとそこに居たはずのリリスの姿がなかったのだ。「……あれ、おかしいなぁ??一体どこへ行ったんだ??」
そう言いながら首を傾げた直後、不意に背後から声を掛けられたので驚いて振り返るとそこにいたのは先程とはまるで別人に見えるほど姿が変わってしまったリリスが笑顔で佇んでいたのだ――その様子に戸惑っていると彼女がこんな言葉を口にするのだった。「うふふ、びっくりしたでしょ??でも貴方なら分かってくれると思ってたんだけどなぁ」「……そ、それはどういう意味なのかな??」「そのままの意味よ、さぁ一緒に行きましょうか――」
その途端、視界が歪みだしやがて何も見えなくなったと同時に意識が途絶えたのであった。
僕は目を覚ました後、辺りを見回したがそこが知らない部屋だと分かった途端に警戒しながら身構えたのだがすぐに別の問題が発生した事に気付いたので思わず冷や汗を流しながらどうしようかと悩んでいた――というのもこの部屋に来る前の記憶が無いばかりか装備すら身に着けていなかったからだ。
(参ったなぁ……これじゃ戦う以前の問題じゃないかっ!!??一体、どうすれば……)
心の中で嘆いているとそこへ誰かが入ってきたような音がした為、そちらの方に視線を送ると何とそこにはリバスの姿があり、更にその後には見慣れない女性の姿があった事で驚きを隠せないでいた。何故ならリバスの事は仲間として信用していたので信頼していたのだが今回は明らかに様子がおかしい上に隣にいる女性に至っては完全に面識のない相手なのだから無理もないだろう――しかしそれでもどうにか状況を把握しようと彼女達の様子をうかがっているとそこで予想外の出来事が起こったのだ。
なんと二人がいきなり衣服を脱ぎ始めただけでなく、あろう事か互いに絡み合って性行為に及んだのである。「……なっ!!ちょっと二人とも、何やってるのさ……今すぐ止めるんだっ!!!!」
僕は必死になって止めようとしたが次の瞬間、背後から伸びてきた手に掴まれてしまい動けなくなってしまった為、身動きが取れなくなった状態で二人の動向を見ていると間もなく絶頂に達したのかほぼ同時に身体を震わせたのだった。「……ふふ、どうやら勇者様も興奮してきたみたいじゃない」「はぁ……そんな事よりもまずは僕の質問に答えてくれないかな?」
だがそれに答える代わりに二人の口から衝撃的な事実を突き付けられた。「残念だけど今は無理よ……何故ならまだ準備が終わってないからよ」「……い、いったいどういう事なのか教えてもらえないだろうか??」「いいわよ、教えてあげる……これから私達の相手をしてもらう為に色々と仕込んでおかなきゃいけないのよ」
それを聞いた僕は即座にその意味を理解したが、だからと言って受け入れる気にはなれなかったので断ろうとしたのだが先に相手がこんな事を口にした。「もし断ったりしたら……その時はどうなるか分かってるわよね??」「……くっ、仕方ない……その代わり約束してくれ、必ず解放するって」「えぇ、もちろんよ、ただしそれは貴方の頑張り次第だけどねぇ……じゃあ始めるわよっ!!」
そう言うとリバスが指を鳴らすと突如として周囲の景色が一変したのだ。
――そしてそれからどれくらいの時間が経っただろうか……気がつくとそこは見慣れた場所だったのだが、それでも自分がいる位置だけが違っていたので思わず首を傾げているとそこへ見覚えのある顔が近づいてきたのだ。しかもその顔を見て驚いた事に自分の妻だったのである。
だがそれ以上に驚かされたのは着ている衣装についてだ――なぜならその姿はいつものドレス姿ではなく、どこか妖艶な姿をしていたからだ。「あ、あのぉ~……」「……あぁん、勇者様ぁ……もう我慢出来ませんわっ!!」そんな僕の問い掛けを遮ったかと思うと突如、抱きついてきたと思ったらあっという間にベッドへと連れ込まれた挙句、強引に服を脱がされて押し倒されてしまったので慌てて振り解こうとしたものの相手の力が思った以上に強くどうする事も出来なかった。そんな僕を他所に相手は自らの服も脱ぎ捨てて生まれたままの姿になったのだがそれを見て唖然としてしまう――何しろ本来あるべき場所にあるはずのものが見当たらないのだから無理もない話だ――その為、思わず動揺してしまいながらも何とか声を振り絞るようにして尋ねた。「ちょ、ちょっと待って下さいよっ!!そ、その姿から察するに君はもしかして男性なんですかね??」「何を馬鹿な事を言ってるんですの……私はれっきとした女性ですわよ、その証拠にほら……」「……え、ちょっ、ちょっとっ!?!?////」
そんな僕の戸惑いなどお構い無しといった様子でこちらの腕を掴むなり強引に股間へと引き寄せたかと思うと指先でそっと撫で回されたせいで思わず声が出そうになったのを堪えるので精一杯だった。ところが彼女はそんな僕の反応を楽しみながら執拗に攻め立ててきた為、徐々に抵抗する気力を奪われていく一方でされるがままになっている内にいつの間にかズボンの中に手を入れられてしまっていたのだ。「あらあら、勇者様ったら随分と可愛らしい声で鳴くのねぇ~」「ぐっ、うるさいですよ……それよりも早くその手を離してくれませんか」「それは無理な話ね、だってこうすればきっともっと可愛い顔を見せてくれるはずだから……だから遠慮なくイっちゃいなさい♪」「くぅっ……ま、まずいっ、このままだと出るっ!!!!」
――その直後、ついに限界を迎えた僕の中から白い液体が噴き出てしまったのだがそれを見ていた相手は満足そうな笑みを浮かべていたのだ。そしてその後も何度か搾り取られたところでようやく解放されると今度は彼女が自ら服を脱いで裸を晒した上に跨ってきたかと思えばゆっくりと腰を下ろしてきたので思わず息を呑んだ――何せ初めての経験なだけにかなり緊張していたが彼女の中はとても温かく心地良いものだったので思わず気を緩めると次第に快感の方が勝っていったので堪らず果ててしまったのである。するとそれを見た彼女は嬉しそうな表情を浮かべていたのでホッと胸を撫で下ろしていたのだがそれも束の間の事であり、すぐさま腰を浮かせてから僕の顔の上に座るような形になると再び手で刺激を与え始めたのだ――そのせいで瞬く間に元気を取り戻した僕を見た彼女が嬉しそうに笑いながらこう告げた。「うふふ、流石は私が見込んだだけの事はあるわねぇ……じゃあこのまま本番に入りましょうか」そう言うと今度は彼女の方が覆い被さってきて身体を密着させると腰を振ってきたのだがその際、胸の感触が伝わってきただけでなく下半身の方もしっかりと咥え込まれていた為、たちまち頭の中が真っ白になりつつあった――それでも何とか理性を保とうとしていたのだがそうしている間に絶頂を迎えてしまい、その結果またしても大量に注ぎ込んでしまった結果、やがて力尽きたのか意識を失ってしまった――それが後に大きな後悔に繋がるとも知らずに…….
(……う、うーん、ここは一体……どこなんだろう……?)
そんな事を思いながらぼんやりとした頭で辺りを見渡してみるとそこが自分の部屋だという事が分かり、同時に昨夜の行為を思い出してしまうと共に激しい疲労感に襲われたがそこでふと隣を見てみた所、既にリリスの姿はなく一安心したのも束の間、扉がノックされた事に気付いて咄嗟に返事した後でベッドから起き上がるとそのまま部屋から出る事にした――何故ならそこにはリバスがいたからである。
だがその姿を見た僕は思わず身構えたが特に何もしてこなかったのでひとまず安堵していたのだがそんな彼女がある物を差し出したのを見て首を傾げた直後、とんでもない言葉が返ってきたのだ。「おはようございます勇者様……早速ですが今日からは私と一緒に修行してもらいますよ」「……えっ、修行って何の事ですか?」
一瞬、何を言っているのか理解出来ずに困惑してしまったのだがそれに対して彼女が呆れた表情でこう口にした。「もう忘れてしまったのですか??昨日の夜に交わったではありませんか……」「ま、まさかそれって本当なの!?」「……あら、冗談だと思ってたのかしら?だとしたら残念ねぇ……まぁいいわ、それよりこれを飲んでくれるかしら」
そう言われて渡された小瓶に入っていた怪しげな飲み物を口に含むと何とも言えない味わいだったので顔を顰めたのだがそれでもどうにか飲み終える事が出来た途端、身体が熱くなっていき段々と興奮してきたところで突然、後ろから抱き締められた事によって驚きのあまり思わず声を漏らしてしまう。
――その瞬間、耳元で囁かれる声がしたのでそちらの方に目を向けるとそこにいたのはリバスで明らかに発情しているのが見て取れた為、嫌な予感を感じた僕は慌てて彼女を引き剥がそうとしたが時すでに遅く衣服を脱ぎ始めた上、自らの胸に僕の顔を押しつけてきた。しかも更にそれだけで終わらず、彼女の手はそのまま股間へと伸ばされたので驚いて身動ぎするも強引に引き戻されてしまった。「ふふっ、逃がさないわよ……貴方も一緒に気持ちよくなりましょうよ♪」「……や、やめてくださいっ!!お願いですから正気に戻ってくださいっ!!!」
僕は必死で訴えたのだがそれで止まるような相手ではなく逆に激しさを増した事で遂に耐えきれなくなり、大量の愛液を噴き出してしまったのだ――それから程なくして達してしまったのだが余韻に浸る暇もなく次の行動に移ったリバスが僕の顔にお〇っこをかけ始めたのでさすがに抗議しようとしたがその途端に僕の唇を塞がれてしまった。「んぐぅ……んんっ」
当然、僕は拒もうとしたのだが無理矢理こじ開けられて中に侵入されるとそのまま舌まで絡ませられてしまった――その上、その間にもお漏らしを続けたままだったので口の中は生温かいものでいっぱいになっていた――その為、僕は飲み込む以外の選択肢を与えられないままひたすら耐える事しか出来なかったのだ。「んっ、ゴクッ……ぷはぁっ」
それからしばらくして満足したのかリバスが離れるとすぐにその場に座り込んでしまったので何事かと思い、様子を窺っていたのだがそこで信じられない出来事が起きたのだ――なんと、僕の目の前でリバスが脱衣し始めたかと思うとその場で生まれたままの姿になっただけでなく大事なところを見せ付けるように指で押し広げた上でこう口にした。「……さぁ、今度は勇者様が私に飲ませてちょうだい……」「――なっ!?い、一体何を言って……そ、そもそもそんな事できるわけっ!!」
勇者と奴隷の輪舞曲(ロンド) あずま悠紀 @berute00
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