海は私の心を満たす

天川希望

海は私の心を満たす

 ふわふわと前髪を揺らす潮風。

 ほのかに鼻腔をくすぐる潮の香り。


 浜辺に座り、ただ何となく、海を眺める。

 果てしなく広がる世界の先に、私の悩みを投げ捨てる。


 人気の少なくなった夕方ごろに、学校から少し自転車を漕いでここまでくる。


 そんな、何でもない時間が、私は好きだ。


 夕日が海にオレンジ色の道を作り、やがて沈んでいく。


 夕日が見えなくなっても空はまだ明るく、もうしばらくは夜が来ない。


 私は立ち上がり、スカートの砂を払う。

 靴を脱ぎ、靴下も脱ぐ。


 そして、誰もいない砂浜を、ゆったりと歩き出す。


 さらさらとしたきめ細やかな砂が、私の足をそっと包み込む。

 その感触が、何だかくすぐったくて、段々と楽しくなってくる。


 一歩、一歩と進んで行くにつれて、歩幅が大きくなっていく。


 突然冷たい感覚に襲われ、驚いて飛び跳ねる。

 足元を見ると、ザーっと波が押し寄せていて、波打ち際まで歩いたことが分かった。


 私は視線を海岸へとすっと向ける。


 すっかりと闇に染まった空は、昼の海とは違った色を映す。

 色のない世界が、先の見えない空間を作る。


 そんなところに、私は溶けていく。

 悩みも、疲れも、何もかもがその闇に吸い込まれていく。


 意識までも吸い込まれかけて、私はハッと我に返る。


 空を見上げると、そこには星がある。

 空には雲一つなく、家から見るより数倍の数が見えた。


 星座は全く分からないけど、何となく眺めていると心が癒される。

 自分よりも大きなものを見ると、思考がクリアになる。


 しばらくそうした後、私はぐっと伸びをして、海中から足を出す。


 元居た場所まで歩いて行くと、足には無数の砂が張り付いていた。


 私は鞄からタオルを取り出すと、そっと足を拭いて、靴下を履く。


 帰り支度を手短に済ませると、最後にもう一度海の方を振り返ってから自転車にまたがった。


 こういう気分転換も、やっぱりたまに必要だなと感じた。


私は軽くなった心に合わせて、ペダルを力強く踏み込んだ。

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海は私の心を満たす 天川希望 @Hazukin

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