そして……

 大学卒業も間近に迫る。僕はあせっていた。就職活動をしているものの、一個も内定ないていがもらえないのだ。


 名門大学を出て、成績も良い。性格も悪くないはずだ。しかし、何か特別な、力で操作されてるように、受からない。何故なぜだ!



「あ〜、もう駄目だ〜」


 僕は、机にして、絶望を味わっていた。


「お〜い、大丈夫か〜?」


「いや、大丈夫じゃない」



 ここは、就職指導室。最後の、のぞみを求めてやってきたのだが、目ぼしい情報はなかった。



 彼女は、そんな僕についてきて、僕の隣に座っていた。さすがに、人も多いから、机に座って、胡座あぐらかくなんて事はしていない。


「そう言えば、美里亜みりあは、就職活動していないよね? 大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。就職先、決まってるから」


「えっ、そうなの、どこに?」


「永久就職」


「えっ!」


 え〜と、永久就職って、それは、結婚って事でしょうかね? 相手は、僕? だよね? それとも……?


「え〜と、その就職先が、倒産しかけておりますが……」


「キャハハハ、そうだね。頑張ってね〜」


「は〜」



 僕は、再び机に突っ伏した。その時、彼女が、


「そう言えば、ママが、その就職の事で、挨拶あいさつに来て欲しいって」


 就職の事で? 永久就職の事か? 一個も内定をもらっていない僕が、結婚の挨拶に行ったら、破滅しかない。


「それは、内定貰ってからで……」


「ん? じゃなくて、ママが会いたいって、就職の事で。いろいろ分かったからって」


 ん? どういう事だ? いろいろ分かったから? 就職のアドバイスでも、してくれるのかな?


 そう言えば、美里亜の家って、お父さんだけでなく、お母さんも居ないよな。少なくとも、僕は会ったことはない。


「美里亜のお母さんって何をやってる人?」


「それは、神薙かんなぎって名前から分かるでしょ? 神薙グループの社長だよ」


「えっ!」


 神薙グループ、日本最大手の企業グループではないものの、結構大きなグループ企業だ。神薙製薬とか、神薙化学工業とかを中心に、グループ企業を形成している。


 そうか、美里亜って、名字は神薙だったもんな。すっかり忘れてた。


 で、その社長が会いたい?


「え〜と、それでお母様は、どのような用事なのでしょうか?」


「それはね〜。え〜と、メール読むね。あなたの彼ですが、最初は神薙の名前につられて寄って来たのかと心配になりましたが、そうではないようですね。就職活動も真面目にして、神薙グループの企業を中心に就職活動するわけでもなく。本当にあなたが言うように、真面目な方のようで、安心しました。ちなみに、彼の就職先は、私が全部断りを入れましたので、しからず。つきましては、彼は、我が神薙グループで、私が帝王教育をしますので、パパと一緒に会社で待ってます。だってさ」


 僕は、目が点になった。えっ、今までの就職活動の苦労は、何だったんだ。もう、泣きたくなった。


 だけど、帝王教育? パパと一緒に?


「え〜と、お父様は何をやってるの?」


 気をとりなおして、とりあえず、それだけ聞く。


「パパは社長秘書だよ。婿むこっていうんだっけ? ママが神薙家の一人娘で、パパが入って。私も一人娘だよ」


 もう、だいたい分かったが、頭が痛い。え〜と、勝手に話が、進んでいるようだが、親に何て、言えば良いのか?


 呆然ぼうぜんとしている僕の前で、彼女は話を続ける。


「で、きみは三男でしょ、御家族の了承りょうしょうは、とってあるんだって」


「えっ……」


 もう、何も言えない。


「私はママと違って、仕事しないからね。頑張ってよ」


「は、はい、頑張らせて頂きます」



 どうやら、僕は、悪役令嬢によって、ただの執事から、王子にさせられるようだった。めでたしめでたし?

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悪役令嬢は寂しかっただけかもしれない 刃口呑龍(はぐちどんりゅう) @guti3

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