第3話
翌朝、いつもより少し早い時間。よかった、あのお兄さんまだ来てない。おにぎり一つと野菜ジュースを買い終えると、ちょうど来た。
「あの、お兄さん」
「え? あ、昨日の子?」
「あっ、はい。昨日はありがとうございました。お金返しそびれたので。」
「別に良かったのに。ありがとうね」
そう言って、彼は肌の白い、細くて長い指を伸ばし、私の手からお金を受け取った。やっと彼と話す事ができた。チャンスを逃したく無いと思い、
「あのっ、すみません! 名前を教えてください!」
「僕の? 周平だよ。きみは?」
「わ、私は、さえです。」
「ふーん。さえね。」
彼はそう言葉を残して、またコンビニを去って行った。失敗した、そう思った。名前なんて聞かれて嫌だっただろうか、普通は聞かないんだろうか、もっと笑顔で話せば良かったのだろうか。そんなくだらない反省会を一人で繰り広げていた。
特になんの進歩のない毎日を過ごし、一年が経った。春になり、新しい新入社員達が配属されてきた。高卒で入ってくる人や、大卒、他の仕事を辞めて入ってくる人達もいた。新入社員の紹介行事が始まった。早く終わって欲しいと、ここぞとばかりに心の中で神様にお願いをしていた。新入社員が紹介されて、次々に返事と軽い挨拶をしていく。そんな中一人の名前を耳にして一気に目が覚めた気分になった。
「経理事務配属、吉川周平君」
「はい。経理事務配属になりました。吉川です。前の会社でも経理を担当していました。皆さんよろしくお願いします。」
聞き覚えのある声だ。彼だ。コンビニのあのお兄さんだ。運命かよ、心の中でツッコミをいれてしまった程だ。私は、主に制作を行う部署に配属されているので働くフロアは違うがきっと会社のどこかでよく会う様になるのだろうと、嬉しい気持ちと嫌われていたりしないだろうかという変な不安な気持ちの妄想が膨らんでいた。
大人になって初めて会いたくて震える意味がわかった気がする、 @sakura_saku39
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