第2話
私は上京して、東京の広告代理店に就職をした。仕事は何でもいいから東京で就職して夢の一人暮らしをしたいと思っていた。でも、現実はそんなに甘くなかった。家賃は地元の二倍くらい。残業は多いし、残業に見合ったお給料も出ない。毎日毎日、パソコンと睨めっこして殆ど楽しみなどない生活だった。その中でも愚痴を言い合うくらい仲のいい友達が出来た。同期だ。仕事での理不尽な事、彼氏が欲しいなどのどうでもいい会話。いろんな事を話したと思う。
「彼氏欲しいなあ。」
「わかる。彼氏というより、まず好きな人作らなきゃね」
「めいは、モテるからいいじゃん!」
「モテててたら彼氏いるわ!さえは、褒めるの上手いな〜(笑)」
二人で笑いながら、いつもの内容の無い会話を繰り返す。明日もきっとこんな会話をして一日を終えるのだろう。
最近、お昼のお弁当を作るのが面倒になってきた。前までは健康を考えて作っていたのだが、このところ疲れのせいか気が滅入ってしまう。それで今は、毎朝コンビニでおにぎり一つと野菜ジュース一本買ってお昼ご飯にしている。そのコンビニで毎朝同じ時間に来る男性がいる。目が二重で、鼻筋が通っていて、背が高い。そのせいなのか、少し猫背になっている。年齢は私より少し上に見える。二十五歳くらいだろうか。この人を毎日見る事が些細な楽しみになっていた。
今日もコンビニに行き、おにぎり一つと野菜ジュース一本手に取ってレジに行く。
「二四◯円になります。」
「やばっ、お金下ろすの忘れてた、、、。」
お財布の中には小銭すら入っていなかった。レジの前で慌てながらモタモタしていると、いつものあのお兄さんが私に声をかけた。
「どうかされましたか?」
いきなりすぎて私は何て答えていいのか分からなくなり、とっさに
「お金が無い、、、です。」
と言ってしまった。なんて言葉っ足らずな発言をしたのだろう。すぐにそう思った。これでは、物すごく貧乏な子か、いい大人なのにお金の管理も出来ない人と思われてしまう。しかし、あのお兄さんは、クスッと笑いながら、
「はい、二四◯円!」
と出してくれた。私は思わず、
「え?」
と声に出してしまった。あのお兄さんは、またクスッと笑いながら、
「お金下ろすの忘れてたんでしょ? 僕もよくあるよ」
と言って去っていった。お礼を言いそびれた。名前も聞けなかった。こんな映画のワンシーンの様な事が現実にあるなんて。明日の朝また会えたら、ありがとうと伝えよう。そしてお金も返そう。
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