こんなんだからダメなんだよ

あなたが帰った後のこと。

私は家中の調味料をかき集めた。

フラフラと風呂場に向かって、バスタブに張ってあったお湯にその全部を注ぎ込む。

あなたが浸かる筈だったお湯だ。私があんなことを言い出したから入る暇なんてなかったお湯だ。それがドロドロに濁っていく。

両手に抱えきれない程の自家製調味料。

よく集めたなぁって思いと、頭おかしくて気持ち悪いなぁって思いが半々くらい。

塩と、醤油と、ソースと、砂糖と、味噌と、ケチャップと、マヨネーズと、胡麻油と、ジャムと、バターと、その他諸々色々。

全部ごちゃ混ぜのゲテモノスープ。共通点はあなたが愛する人を思って流した涙だけ。私にはそれだけで充分。

服を着たまま、私はバスタブに飛び込んだ。頭までしっかり浸かる。あなたの涙に浸かって、煮込まれたい。

もう、二度とあなたには会えないのだから。身体中の細胞にあなたの涙の味を覚えさせなきゃ。あなたの愛を擬似的にでも感じなきゃ。骨の髄まで浸透させなきゃ。

あなたには忘れろって言ったけど、私は無理だよ。忘れられない。だって、今もこんなに好きなんだもん。

口を開けるとしょっぱいのか甘いのか苦いのか酸っぱいのか分からないスープが口の中に入る。こくり、こくりと甘露を味わうようにゆっくり、確かに飲んでいく。一滴たりとも無駄には出来ない。

最後のあなたを思い出す。私なんかのために涙を流したあなたの姿を。

最後に、あなたが泣いてくれて本当に本当に本当に本当に本当に、私は。

本当に、私は。私を思って流した涙の味が気になって気になって仕方なかったんだ。私のための感情が欲しくて欲しくて仕方なかったんだ。

あなたがあのまま帰らなきゃ、私は土下座してあなたの涙を貰えるように懇願してたに違いない。嗚呼、なんて最低なんだろう。

口の中に雑味が広がる。酷い味だ。あなたの流した涙を穢す、最低な愚か者の流した涙の味がする。

泣くなよ。お前に泣く権利なんてないんだよ。汚い涙であの子の最後の温情まで台無しにするなよ。

幸せになってほしい。こんな奴と関わりを持ってたことなんて忘れて、まともで素敵な相手と幸せになってほしい。そしたら、きっと私が苦し紛れにつけた傷なんてすぐ癒えるからさ。


あーあ、本当に私の愛って、気持ち悪いなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うちにある調味料は全部あなたの涙で出来ている 292ki @292ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ