9.変わったこと

 須藤くんとお出かけしてから、私たちの関係にささいな変化が生じた……ような気がする。

 例えば、私から話しかけるより前に須藤くんの方から話しかけてくれるようになったり。

 あとは、須藤くんの前でも緊張しなくなったことだろうか。


 前までは心臓がどきどきして、仕方なかったのに今は目の前でも顔を見て話していたいという思いが強くなっている。


 今日は珍しく鞠が用事があるとかで、二人きりでご飯を食べてつつ話す。

 そんな風に、お昼を過ごしていると、


「あ、そういえば妹の体調がよくなって、今日から登校しているんだよ」

「そうなの? 良かったわね」

「うん。体が弱いから、良いときになるべく沢山学校に行きたいんだってさ」


 妹さんのことをとても嬉しそうに話す須藤くん。

 病弱な妹さんのことを大切にしているのは、前に会ったときから知っていたけれど、やっぱりちょっとだけ羨ましく思ってしまう。


 私もそんな風に大事にされたい。

 前はそんなことは思わなかったのに。思ったとしても、きっと否定していた。

 ほんの少しだけ私は欲張りになったのかもしれない。


 ……とはいえ、それを直接伝えられるほどの勇気はまだないけれど。

 それに妹さんにも悪いし。


「そっか。妹さんって一個下だから、今年で卒業だもんね」

「うん。あんまり通えてなかったけど、友達多いから……今のうちに思い出を作るんだって張り切ってるよ」


 妹さんが元気に過ごせていることが本当に嬉しいのか、今までに見たこともないくらいの笑顔を見せてくれる。

 その笑顔が私に向けられたものではないと知りつつも、好きな人の笑顔はいい物だ。



***



 そんなことを話した次の日。

 私はいつものように学校に行く準備を済ませて、家を出る。


 今日の私はお弁当がうまく作れて気分がいい。


 ……けれど、別に私たちの関係は未だに友達から動けていない。

 鞠にも「このままズルズルとするのはよくない」って言われたし、


「もう12月、か……」


 そういえば最初はクリスマスに一緒に出かけられるくらいに仲良くなることを目標にしていたけれど、今なら誘えるだろうか?


 別にクリスマス当日に出かけられなくてもいい。

 結局は、そんなことはただの口実なんだから。


 ただただ須藤くんと一緒にいたいってだけで、別にクリスマスに拘ることはない。

 ……でも、せっかくだから一緒にいたいと思ってもいて。


 朝からこんなに思い悩むなんて、何をしているのだろうと軽い自己嫌悪に陥りながらも、クリスマスの夜。二人で並んで歩いて、イルミネーションとかを眺めるなんて……とっても素敵なことを見逃すなんて、もったいないとそんな妄想までしてしまう。


 私はこんなにも浅ましくて、自分のことしか考えられない欲しがりさんになったのだろう。

 身勝手だと知りながら、望まずにはいられない。


 私は――



「やっほー。おはよう愛奈!」

「……鞠」


 後ろから急に抱き着かれて、はっと我に返る。

 気が付くと校舎の玄関前にまで来ていた。

 そんなことにも気づかないまま歩いていたようで、事故に巻き込まれなかったことに安堵しつつ……後ろから私の首に腕を回す鞠の顔を見るために、やや強引にふりほどく。


 なんだか久しぶりに鞠の顔を見たような気がする。

 ここ最近はずっと須藤くんと居たからあまりお昼も一緒に食べていなかった。


 同じクラスだし、こうして顔を合わせて挨拶をしていたはずなんだけど……やっぱり頭の中を占めているのは須藤くんのことばかりだ。



 恋をすると友情は儚いとよく聞くけれど、まさかそれを身をもって実感することになるなんて思いもしなかった……。

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