とある男の場合

ドン

銃声にも聞こえるそれが何発も続く。

ああ、今日は花火大会だっけか。とか。

そんなことを相棒であるパソコンのモニターを眺めながら思う。

カーテンを閉め忘れたせいで窓から侵入してきた色とりどりの光に照らされる。


…鬱陶しい。


静かだと思ったからここに越してきたのであって、こんなにうるさいイベントがあると知っていたらこんなところに来なかった。

それならば引っ越せばいいという話ではあるのだが、中々気に入ってしまったのだからよくない。

親戚からも縁を切られている俺は24時間のほとんどを寝るか相棒と対峙するかで過ごし、過去に貯めていた金やインターネットで困っている人間を助けて稼いだ小遣いを徒歩5分圏内にあるスーパーでカップ麺や水に消費しながら生き延びている。

我ながらこんな生活が似合っていると思う。

ネット環境と相棒さえいれば何も困らない。待っていれば新しいゲームはどんどん発売されていく。それに時間を費やせば何も考えなくていい。

生きている価値はないかもしれないが、死ぬのは怖いから最低限生き延びる。死んだところで死体の処理がなんだかんだと言い訳をする。そんな生活。


窓の外に話を戻そうか。

花火の音が嫌いだ。他人の楽しそうな笑い声が嫌いだ。色とりどりの光が嫌いだ。


おれを、照らすな。


久しぶりのカラフルな光に目が慣れず頭がくらくらする。

そもそも、どうしておれはカーテンなんか開けていたんだっけ。


思い出せない。何も。何も。


怠い身体を椅子から離し、カーテンを閉めようと歩き出す。

足が思うように動いてくれない。どうして。どうして。

早く消さないといけないのに。おれが壊れてしまう前に。


咲くな。笑うな。見下ろすな。照らすな。焼くな。撃つな。


やっとの思いで窓まで辿り着き、なんとか光を遮断することに成功する。

まだ、残っている。

音が、

脳に響く音がおれの身体を蝕んでいく。

先程より軽くなった足で相棒の前に戻り、ヘッドフォンを付ける。

別の音を流そうと動画配信サイトを開こうとする。

まだ脳が混乱しているのか、他の変なサイトを何件も開いてしまった。

ようやく開くことに成功した動画配信サイトで適当にクリックした音楽の音量を最大まで上げて外からの音を完全にシャットアウトする。

耳が壊れようが正直どうでもいい。

今はこの音からおれを守ってくれ。


何度か深呼吸をし、脳が正常に動く程度には回復した。

この間途中でやめてしまったゲームでもしようか。

と、安心したのも束の間。


相棒に通知された文字が視界に飛び込む。

もはや日常となったその通知は、逆に俺をここに留める材料になっていると言ってもいい。


『死ね。人殺し。』

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花火 縹田ゆう @joker_n_n_

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