とある配信者の場合
『今日花火大会あるんだって。で、公式が同時視聴配信するらしいよ。』
自分と同じような配信者がたくさん集まる通話ソフトの大規模サーバーに、そんな文章が投稿されていた。
配信者。それは自身がリアルタイムで映像を世界に発信し、見てくれる視聴者と共に”楽しい”を作り上げる仕事である。少なくとも僕はそう思っている。
僕の場合、普段は一般会社員でありたまに配信者として活動するといったようなゆるい活動形式をとっている。
そんなことはどうでもよくて。
まあつまり。そのような書き込みを見た僕は、最近活動をサボっていたこともあり、花火大会同時視聴の同時視聴配信を行うことにした。
…ちょっと文面がややこしくなった気がする。
同時視聴ということであれば何もない雑談と違って話題も簡単には尽きないだろうし、感想や感情を共有できるということで需要もそれなりにあるだろう。
といった安易な考えのもと勢いでサムネイルを作り配信告知をし配信開始ボタンを押した。
こういう行動力があるのならもっと活動したらどうだ?という声が聞こえた気がする。
”気が向いたときに活動する”これが僕のモットーなのだ。許せ。
:こんばんはー
:久しぶりじゃん
:いいね。花火
:現地から参戦するわ
配信を開始すれば、そんな言葉がコメント欄に流れる。
決して多いとは言えないけれど、僕の配信を見てくれる人がそこそこいるのは嬉しいことだ。
「現地いいな~~。」
:だろ
コメントと会話できるのは楽しい。画面越しではあるが、誰かと繋がっている感覚でいられるから。
そんな話をしていると、花火の打ち上げが開始された。
:おお~
:すげえ
:超きれいじゃん。画質良
「すげえな。花火って。」
どんどん上がっていく花火に対して、雑にもほどがあるだろうとツッコミが入りそうなコメントをする。
:おう。すげえな。
コメント欄も雑に返事を返してくれる。
それぐらいの距離感が居心地が良くて好きだ。
ずっと画面を見ていれば、映像だから迫力が少ない。なんて不満が少し出てきてしまう。
不満といっても、やはりこういうのは現地で見るのが一番だよな。とか。そういう再確認といったほうが近いだろうか。
映像で観せてくれることはうれしいのだが、これでは現地に行けない悔しさがさらに増してしまうだけのような気もする。
そういえば、近年祭りに行くことが少なくなった。
学生の頃は友人たちに誘われて行っていたが、社会人になってからは友人たちと遊ぶこと自体が少なくなり、今では会社と自宅の往復だけが日常である。
祭り。祭りと言えば、怖がりな友人を無理やり連れて行ったお化け屋敷は楽しかったな。騒ぎすぎて店員さんに苦い顔されたっけ。
屋台にある好きなものをそれぞれ買ってきて好き勝手食いあうの。あれも楽しかったな。
空に打ち上がる花火を観ているだけのはずなのに、そんな思い出が溢れてくる。
「今度どっか祭り行こうかなあ。花火現地で見たくなってきた。」
そういうとコメント欄では
:いいと思う
:俺も行こうかな
:こういうのって雰囲気だけでも楽しいよね
:さすがにまだどっかであるんじゃね?
と、賛同の声が得られる。
「行ったら感想言い合う配信しよ。だからみんなもどっか行こう。あ、友達は別売りだから探せよ~?」
:うっせ
:お前と違ってぼっちじゃねえから
:彼氏と行きます
「はあ?僕だって一緒に祭りに行く友達くらいいますけど?」
:彼女はいなかったか…。
うるさいコメントは無視することにし、花火も終わったところで今回の配信はお開きとした。
配信終了ボタンを押した後、僕はそのまま夏祭りや花火大会の日程を検索し始めた。
ああ、ここならいけそうだな。じゃあ誰を誘おうか。ひとりで行くのもそれはそれでありだな。
大人になってからあまり感じることのなかった無邪気な感情でいっぱいになる。
今夜は上手く寝付けるだろうか?
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