とある男性の場合-sideB
『ごめん』
彼女にそう連絡したきり、既読すらつかない。
まあ、そうだよな。
ため息を吐くが100%俺が悪いので吐いた息はどこへ行くでもなく消えるのみ。
今回俺がしてしまったこと。それはデートの当日キャンセルである。
今日は彼女と花火大会に行く予定だったのだが、どうしても俺が行かなければいけない緊急の仕事が入ってしまったため断ることとなった。
今までも何度か同じようなことをしたことがあり、彼女に向ける顔がない。
実際、浮気なんて全くしていないのだが疑われたとしても仕様がないとは思う。
仕事中も、家でも。考えるのは彼女のことばかりである。
彼女は俺より年下で、母親の介護も兼ねた実家暮らしの為一緒に住むといったことは不可能である。
デートができるのも父親の仕事が休みの日だけであり、母数が少ない。
それなのに俺はどうしてそんな日に限って緊急な仕事が入るのだ。
もし神がいるのなら、神は俺らがくっつくのが嫌なのか?
今日の服装については聞いていないが、もしかしたら浴衣だったかもしれない。
「当日のお楽しみね!」なんて言ってくれた彼女の気持ちを踏みにじってしまった。
そんなかわいい彼女を俺がいない場所に放り込んでいいのか?誰か変な男に捕まりはしないか?
そんなことを考えたところで、今から飛んでいくことは不可能で、目の前にあるのは不都合な現実だけである。
未だに既読がつかないトーク画面に『気をつけてな。』とだけメッセージを送る。なんて身勝手なんだろうと我ながら思う。
仕事を済ませた俺は、近所のスーパーで購入した手持ち花火を抱える。
二人で大きな花火を見ることはできなかったけど、これで少しでも。なんて、完全に俺の我儘なんだということを理解しているから気分が悪い。
たくさんの束から適当に一本手に取る。線香花火のようだ。
ライターで火をつけ、ぱちぱちと弾ける光を眺める。
線香花火と言えば、どっちが長く火を落とさないでいられるか。という勝負事を昔よくした気がする。
結局コツはわからなかったから運ゲーなのではないかと今でも思っている。
あの時は勝ち負けよりも、一緒に遊んでいるという事実が楽しかった。
”一緒に遊んでいるという事実”か。
俺が今一番彼女に与えることができていないものである。
好きでそうしているわけではないが、結果としてそうなってしまっていることに変わりはない。
そうだ。今回行けなかった埋め合わせとして、手持ち花火会兼お泊り家デートにでも誘ってみようか。そうすればゆっくり二人きりでいられるだろう。
そんなことを呑気に考えていた俺は、スマホの液晶に表示された通知に気づかなかった。
『今度、話したいことがあるの。』
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