とある女性の場合‐sideA

なんで私、こんなところにひとりでいるんだろう。


人が賑わう花火大会の会場で、待ち合わせたはずの恋人が来ず、私はひとり立ち尽くしていた。

右手に握ったままのスマホには、彼氏からの『ごめん』というメッセージアプリの通知が表示されている。

着なれない浴衣を着て、いつもより力入れてメイクして。彼に「かわいい」って言ってもらいたくて頑張ったのに。全部無駄だったのかな。


打ち上がる花火を二人で「綺麗だね」とか言いあって、あわよくば誰もいないところでキス…とか。

そんなことを考えていた私がばかみたい。


私の感情なんかお構いなしに花火の打ち上げが開始される。

ドン

という大きな音を鳴らしながら咲く花はとても綺麗だ。

白…というか橙?それから赤、緑、桃、青。様々な色がはじけ飛ぶ。

赤色だと思ったら途中で青色に。白だと思ったら中から緑色が飛び出してきたり。

花火から提供される驚きは、まるで彼が教えてくれた様々な驚きのように感じで心が苦しくなる。


どこかでおんなじ花火を見ているのかも。なんて希望も湧かないほど、私は彼に失望しているのだと思う。

デートの約束が当日に蹴られたのは今日が初めてではない。今までも何度かあったのだ。仕事が忙しいとはいえ、これだけドタキャンされては私に気がないと勘違いされても向こうは文句を言えないはずだ。


…本当にないのかもしれないが。


彼のことは好きだ。大好きだ。しかし、私があまり出歩けないのを知ってのこの行動はどうしても悲しくなってしまう。

母親の介護があるため父親の仕事が休みの日であれば出かけることができる。

これは彼にも伝えてあるはずで。彼の仕事が忙しいのは理解しているつもりだが、それにしても回数が多すぎやしないだろうか。

もしかすると仕事というのは嘘で、当日になって私と会いたくないから別の女性と会っているのかもしれない。

確かに私は彼より大分年下で大人の魅力みたいなものはないかもしれないが、それでも彼のことを好きだという気持ちは誰にも負けない自信がある。

彼の容姿、声、行動。それから私しか知らないはずの私にだけ向けられる柔らかい笑顔。私を気遣って私の前ではタバコを吸わないところ。どれも大好きだ。

彼のためならもっともっと可愛くなりたいと思うし、好かれたいと思う。彼が愛してくれるなら、それに全力で応えたいとも思う。


打ちあがる花火を眺めながらそんなことを考えていると、通知音が鳴った。

彼からの連絡のようで、一瞬、今からでも来れるのではないかと期待する。

しかし、そんな私の期待は裏切られた。

『気をつけてな。』

表示されたのはそんな文面。

私を心配してくれるのは嬉しい。けど、その文章はなんだか寂しい。


もういっそ、全部割り切ってしまったほうがいいのかもしれない。


その時、一段と大きい花火が上がった。私の気持ちを後押ししてくれている気がした。


覚悟を決めて、トーク画面を開く。メッセージを打ち込み、送信した。


『今度、話したいことがあるの。』

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