花火

縹田ゆう

とある少女の場合

塾帰り、先日の模試の結果を受け取った私は、暗い顔で道を歩いていた。

志望校はD判定。頑張ったはずだけどまだ足りなかったようだ。

そもそも志望校に夢を見すぎというのもあるのだが、どうしてもこの大学で学びたいという気持ちが強い。

まだ高校二年生。これからの努力でどうにでもなると先生は言ってくれたが、一向に伸びない模試の成績に、どうしようもない気がしてくる。


なんとなく家へ帰りづらくて、寄り道をすることにした。少しくらいなら塾のせいにできるだろう。

別に、家が嫌いというわけではない。

家族は私のことを応援してくれているし、志望校を変えたとしても許してくれるだろう。だが、頑張るといった手前なんだか情けない。

少しの間、ひとりでぼーっとしたくなった。ただ、それだけ。


なんだか辺りが騒がしい。

浴衣姿の人、カップル、子連れの家族。この近くで祭りでもあっているのだろうか。

今の私は騒がしさに興味はないため、勝手に楽しんでください~といった気持ちで目的の河川敷へと向かう。


たどり着いたら気が抜けた。座り込み、川面を眺める。

いくら人が騒がしくしようがお構いなしに流れる水の音はとても心地よく、不思議に安心させてくれる。

昔から、何かあればここに来ていた。私がどんな気持ちでいようが川は受け止めてくれる。流してくれる。

疲れた身体に心地良い音。ずっとここにいたら寝てしまいそうだ。意識を手放す前に帰らなければ。


ふと顔を上げると、大きな音と共に目の前が真っ白になった。


意識が遠のいたという話ではなくて。

空いっぱいに打ちあがった花火によって視覚的に白くなったのだ。

そうか、今日は花火大会だった。塾のクラスメイトがそんな話をしていたような気がする。

まるで、空という真っ暗な紙を突き破ってきたような。そういう強さを感じた。

先程まで姿を見せずに流れていた川の水も、その光によって一瞬だけ姿を現した。

様々なものを照らす光。それでいて太陽とは違い一部だけを一瞬だけ照らす。見逃してしまえばもう二度と見ることはできないかもしれない。


「ははっ、強いなあ」

なんて呟きが漏れてしまう。


続けて咲く花火は色とりどりで、先程のような強さはないが、色んな色、色んな方向、そんな動きに、自由を感じた。


私、執着しすぎていたのかもしれない。


一度、破ってみてもいいのかもしれない。

そもそも。大学に行かないという選択肢だってあるのだ。

強いていうならこの分野、であればこの大学がいい。それも理由の半分程度はネームバリューである。功績があるから、研究を見てもらえるチャンスも多いだろう。その考えはもしかすると、甘えなのではないだろうか?


「ははっ、はは、あははははっ!はー…。」


私しかいない河川敷に花火の音と私の笑い声が響く。こんな時でも川は変わらず流れている。

なんだかすっきりした気がする。数分前までの私が馬鹿らしく感じてきた。

帰ったら、家族と相談しつつ他の選択肢も探してみようか。情けなくたっていいから、満足できるように。


立ち上がり、今度は真っすぐ前を向いて自宅を目指す。

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