第23話

「晴希、大丈夫?」


「だいじょぶじゃない……」


「ごめん、そんなに美味しくなかった?」


美味しくないなんてレベルじゃなかった。

そう、あかりは世界一の料理下手だった。


オーブンから出てきたグラタンはなぜか紫色をしていて、僕が、これ、美味しいの?と聞くとあかりは大丈夫!と自信満々に答えて、じゃあ、毒味も兼ねて一口どうぞ!と勧めてきて、一口口に入れたら、もう、なんと言葉に表せばいいかわからないほど気持ちが悪くなって、それでトイレの便器とにらめっこの時間を過ごすことになったのだった。


「ううっ」


「もう、本当に晴希は弱いんだから」


これは多分人生の中で一度も胃もたれを起こしたことがないくらい胃が強い人でも吐いたと思いますが。


「まったく、ちょっと待ってて」


ちょっと、病人を置いていかないで……!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……き、晴希、晴希!」


誰かからの呼びかけで目が覚めた。


「晴希、聞こえる? 端爪さんがお見舞いに来てくれたよ」


え、そんなわけ……あるじゃん!


当の本人は僕と目を合わせようとはせず、そっぽを向いてしまっている。

どうやらさっきあかりがでかけていったのは美空を呼びに行くためだったらしい。


でも、まずは謝らなくては。


「……ごめんね」


その言葉が発されたのは僕の口からではなかった。


「ごめんね」


なんで……美空が謝る必要があるのか。それが分からなかった。


「彼女でもないのに、晴希の行動を縛ってごめんなさい。事情は水野さんから聞いたよ。自分勝手で本当にごめんなさい」


「こっちこそ……というかぼくの方が悪かったと思っているよ。誤解させて傷つけてごめんね」


「ほら、ここで言うことがあるでしょ」


あかりが口を挟む。

え、今?


「というわけで我はどこかに行っておりまする」


あかりが退場した。

ここは言うしかないらしい。


「あの」


やばい、耳から火が出てる気がする。


「つ……」


「つ?」


「つきあってください!」


暑い、暑いよ、全身赤を通り越してオレンジだったりして……。


答えを……答えを恵んでください……僕の体が限界を迎える……。


美空は僕の方を向いてニヤニヤしている。

こんな時にいたずらしないでよ……一応、いや、結構立派な病人ですよ?


そして、ようやく口を開いた。


「もちろん!」

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クラス一の超美少女の幼馴染と化した件について 白城香恋 @kako_00

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