転生したら全員物理攻撃無効だったので殺生はレスバで行うしかない
@hamanas
第1話
そこにあるのは終わりだった。
風が隣を歩く少女のくるくるとした巻き毛をゆらして、鼻をくすぐりながら黄金の稲穂を波立たせる祝福に満ちた午後にナカハシサトシの心にあるのは端的に言って終わりだった。
「ハトシ、聞いてる?」
彼の猫背を長崎名物B級フードの折りたたまれたパン地になぞらえた愛称は、健全とは言えない身体的特徴を彼女なりに受け入れていることを表明する可愛げのある気配りであり、コロコロとなる鈴の音のような声に乗せられた友愛の情をして彼はまあ全く聞いてはいなかった。
「端っこ歩くと危ないよ」
彼の頭の中に渦巻くのは、「納豆を混ぜる前にタレをかけるやつは味が曖昧になるので根本的に間抜けである」という主張に対する、「旨味成分の塊である納豆とタレは空気をより含むことでより香りを醸すことになり、もって細かい気泡がアトマイザーの役割を果たすため事前に合味し100回混ぜることで味わいが深くなることが自明であり理解できない味障は食事を摂るのが無駄であるため速やかに舌を切り取るか死ぬかしろ」というレスであって、彼のねじくれた神経は理屈を文字に射影してまとめブログのコメント欄に打ち込むことに注がれていた。
そう、つまり彼はなにを置いてもレスバトルが好きなのだ、彼は50ちゃんねるのまとめサイトのコメント欄が大好きなのだ。
主義も主張もなく、ただ見かけたセンテンスに対して罵るための言葉が奔逸してくるので、彼はあらゆるまとめブログのコメントを自由に罵ることができた。
人があまりもっていない素養であることのみを才能の定義とするのなら彼には才能はたしかにあった、ほんのささいな能弁が、そんな能などない方がよほど生きやすくなるからには彼の性根に課せられたさだめし罰の類である悪癖こそが、彼の自意識を支えている。
「あっ、ちょっとハトシ」
だから終わっていたのだ、彼はレスバトルこそが自身の天稟だと確信していて、彼はレスバトルをして一体なんになるのかにはまるで頓着しなかったが、レスバトルはどう決着する? 何を持って勝ちとする? そして終わって何を生む?
その全ては虚無である。
「ハトシ、危ない!」
全てのレスバトルは虚無に通ずるのだ――二度と取り戻せない輝きを自ら手放し、黄金の青春を縁取るための両手をレスバに使う猫背の頭でっかちはあぜ道を転げ落ちて、コンバインでその実った稲穂を刈り取られ、
「ワ”ア”ッ」!
彼は頭蓋を脱穀されながら虚無に合一した。
――そう思ったが……
転生したら全員物理攻撃無効だったので殺生はレスバで行うしかない @hamanas
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