第18話
「あの日は平日に関わらず結構、街の中は混んでいました。私たちはデパートに寄って、お買い物して、お昼ご飯食べようって、通りを歩いていました。そしたら、後ろの方で声がして、初老のおばあさんが、ひったくりにあって。私の地元じゃ、こういうこと珍しいのですけどね。私、自転車で逃げる犯人を追いかけたんです。私の他にも人追いかけている人が何人かいました。その中で、高校で私の先輩。その時はまだ先輩じゃないんですけど、その後陸上部の部長になる人もいたんです。まあ、その時はそんなこと知りもしませんが。私、一生懸命追いかけました。どのくらい追いかけたかなあ、お城の近くで捕まえたから、一キロ位走ったかなぁ。もう少し走ったかも。私が一番早く追い付いて……」すると西條は、
「追い付いたの?」と、驚嘆した。美羽ははにかんで、
「はい。」と答え、
「自転車の荷台に手をかけて引っ張りました。すると、自転車は倒れて、ひったくり犯も一緒になって、すぐに這い上がって逃げようとしたんですが、その、部長が、犯人を捕まえて、私と二人で羽交い締めにして動けないようにしていると、しばらくして近くの交番の警察官が飛んできて。」
「飛んできて。」
「あ、走って来て、引き渡しをしました。」
「チームプレイだね。」西條は感心しながら言った。
その時に部長には名前と学校名を聞かれて、「是非、うちの高校に来たら陸上部。」と言われました。でも、その時はその時だけの話だと思っていたのですが。」
「返事はしたの?」
「よく覚えていません。その後、警察からの感謝状を戴いた時に再会したのですが、その時はそういう話はしませんでしたし。特に連絡先の交換もしませんでしたし。」と笑った。
「学校サボったこと怒られなかった。」
「はい、それなんですが、生理が重いはずの女子が目一杯走ることなんてできないだろうと言われまして、絞られましたね。でも、その捕物がニュースになると、先生は不問にしてくれて。いつの同窓会で先生に「お前たちには頭悩まされたよ。」と言われましたけど。それから、高校に入学して……。」
「部長に再会したんだ。」
「そうです。それから、私と千絵は同じ高校に進学しました。千絵は勉強が出来た娘だったから、余裕を持って受験勉強をしていましたが、私は進路を決めた時は、受かるかどうか怪しい状態だったので猛勉強して。その成果もあって二人そろって合格できまして。でも、部活動のことはそれほど考えていませんでした。私の周りの人たちは、水泳を進めたんですけど、私のやる気はイマイチで。水泳への情熱はあの一件で冷めてしまって。千絵は美術部に入部して、私、絵は得意ではなかったですし、手先もそれほど器用じゃなかったから、そこまで同じにする気もありませんでした。そうした時に、例の一緒にひったくりを捕まえた人が先輩となって私の前に現れて……」
「今度は君が捕まった。」
「そうですね。捕まりました。」
「先輩は、私を見つけるなり、「これはもう運命だわ。」って言って。私、全く陸上競技に興味がなかったんですけど。」
「じゃあ、誰かに相談したの?その親友さんや親御さんや家族には。」
「それが、特に誰にも相談はしませんでした。気づいたら入部していました。というより、入部させられていました。」
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