第10話

 帰宅してから一通りの用事を済ませ、夕食を摂りながら、図書館で借りてきた西條の著作を開いた。(この行為は非常に行儀が悪い。が、別に誰かと一緒ということではないし、今では誰かと一緒の時にスマートフォンを弄りながら食事をする、出された料理の写真を撮る、よりはまだよかろうと思う。しかし、普段の生活習慣は些細なところで露見するので気をつけたい。作者弁)

 

 若かりし頃の西條将美は神奈川県にある私立O女子高校に国語教師として赴任した。(神奈川県にはいくつか女子校がある。具体名は避けたいので、読者の方々に委ねます。作者弁。)一見生まれも育ちも良い所謂お嬢様が通う高校に思えたが、そこでは少女売(買)春、違法ドラック、いじめが大人たちに見えないところで蔓延していた。いや大人たちも知っていて目を逸らせているか、またそれらに加担していた。

学校生活に慣れ始めた西條はある日、一人の女子生徒からの告発により高校の暗部を知ることになる。西條は教師としての職業倫理や、元々彼の心に秘める強い正義感、もっと違う何か別気持ちに駆られ真相を知るために行動を起こす……

あらすじはそんな感じでだった。少し出来すぎた出来事かと思って読み始めた。実際あったことだろうが、十年くらい前は美羽にとっても人生の転換期を迎えていた頃なので、世間で起きていることに関心がなかった。

物語として読み応えがあり、西條の人となりもある程度理解することができた。まあ、今現在の西條がこの当時の正義感溢れ、行動力に満ちているとは思えなかったが、それでも悪人ではないくらいのことは読み取れた。

読み進めるうちに、告発者である女子高生と師弟以上の関係であったのではないかと美羽は推理した。決して本に書いてあることがすべてではないと思う。読者はそれ以上のことを推理し、想像する権利がある。読み終えた頃には日を跨いでいた。美羽は、うつろにプロフィールを眺めた。

『――☓☓大学教育学部卒業後、陸上自衛隊に入隊、PKОなどの海外任務を経て、除隊。その後、私立高校の教員となり、集団少女売春事件(本書)に遭遇。事件解決後、教壇を離れ、ルポライターに転身。――』

と記してあった。ポートレートは綺麗に整えられた背広を着なした西條のバストアップの写真が掲載されていた。先日出会った西條よりも若干若く精悍な面持ちだった。

美羽は、「へぇ、同じ人とは思えないな……」と声を出して言った。「自衛官で先生か。それだったら助けなくても自分でなんとかなったかな。テーピングの巻き方位知っていたはずだよね……なんか余計な事をしちゃったかな。」と思い舌を出した。(西條の出身大学も具体的な名前は伏せます。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る