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あらかじめ報告を受けていたこともあり、収容キャパシティギリギリオーバーの突撃艇が到着したその瞬間に、マトリとコヨイは整備兵に囲まれる事となった。
即座に応急処置が施され、修理用ナノマシンを塗布した帯……通称『包帯』で全身をぐるぐる巻きにされたマトリとコヨイ、そして珍しくむっとした表情のカガリの三人は、休憩もそこそこに社長の呼び出しを受け、重い足取りで駐機場の隣にある社屋に向かう。
「あ! あの!」
ここまで走ってきたのだろう。ぜーぜーと息を切らせながらミオリがやってきた。
「傭兵さん方! 本当にありがとうございました! おかげで……おかげで、私、たちは……全員……無事にっ! ぐすっ! ひぐっ!」
ただでさえ息切れしていたところに、感極まった涙が混じり、言葉がもはや言語になっていなかった。
「にしし……まぁ、仕事だし。きちんと危険手当含む割増料金もらってるし、泣くことないじゃんよ、ミオリっち」
「そうそう、そっちの方がこれから大変なんだし、泣いてる暇なんて無いわよ」
ぼろぼろの体で、それでも笑いかける傭兵達。サクラもそんな三人を見て涙をぐしぐしと拭い去った。
「はいっ! 父上も私も、これから大変かもしれません……ですので、その時は、また雇わせていただきますね!」
先ほどまでの……どこか無理のあった笑みではない、心の底からの満面の笑み。
それを見た三人にも、仕事をやり遂げた充足感と安堵の感情が浮かぶ。
「ふふ……そうね、貴方の空の安全を保障する『凪の
「じゃーねぇ! ミオリっち! 次のお休みに仕事じゃなくてプライベートでも遊ぼうねーっ!」
深く礼をして、ミオリが家族のところに帰っていく。
その姿が見えなくなったところで、
「そうだ……ねぇ、カガミ」
からかうような、いたずらっぽい表情で、マトリがカガミに向き直った。
「雇う雇わないの話で思い出したんだけど、私、追加報酬がもらえるのよね?」
「え!? いやあれは了承してないんだけど……」
最初否定しようとしたカガミだったが、
「……………」
自分の顔を見つめるマトリの表情を見て、
「………ええと、うん」
観念したように頷く。「よろしい」とマトリが微笑んだ。
「これからお説教と損失埋め合わせのタダ働きの話っていう気が滅入るイベントがあるし、その前にいただいても良いかしら?」
「ええっ!? またそんな急に!」
顔を真っ赤にして慌てふためくカガミ、一方マトリはすでに両手を広げて臨戦態勢。言葉はないがそのワクワクとした表情が何よりも雄弁に「早く、早く」とカガミを急き立てている。
獲物をしとめるときは速攻、かつ徹底的に。空でも陸でも、マトリという少女は変わらなかい。
ちなみにコヨイは(まぁた始まった。あーもー早くおわんねーかなー)と言わんばかりの目でカガミの無条件降伏を待っている。
内気なカガミからすれば、この場所で……というのは少し、いやかなり恥ずかしい。
(正直、どこかのシステムに侵入する方がよっぽど気が楽だな……)
などと思わないでも無いのだが、彼女たちが頑張って生きて帰って来てくれたのだから、それには答えたい。(もちろん暇そうにしているコヨイにも後で何らかの埋め合わせをするつもりである)
しかし、覚悟を決めるべく深呼吸を行い。蚊の鳴くような小声で、「え……と、ちょっと、目をつぶってもらえる?」と問いかける。
「まったくもう、恥ずかしがりやなんだから。はい、いつでもどうぞ?」
カガミの言葉をまったく疑うことなく、マトリが瞳を閉じる。
闇に閉ざされた世界で、暖かなハグを待つ。
意を決して、歩いてくる気配を感じる。
(--あと一歩)
そう思ったその瞬間、マトリの唇を、そっと柔らかく温かいものが覆った。
(--????)
感触が離れる。何が起きたかわからず、マトリがぼうっとした表情で目を開け、唇に触れる。
(ーー今のは? いや、まさか)
信じられない思いに困惑。まだ抱きしめられてないが、それでもカガミは離れていく。後ろを向いているが、わずかに覗く耳が真っ赤で、彼がどんな顔をしているか想像できた。
「おかえしだよ。僕だって……心配したんだ。次は許さない……なんて僕たちの生き方じゃ言えないから、今、やり返しとく」
早口にまくし立て。カガミが足早に社長の下に向かう。
「うっは~、カガミっち、やっる~」
心底楽しそうな顔で、コヨイがその後に続いていく。
「え……え、えと、いま……い、ま……えっと、うそ? え?」
残された少女型アンドロイド傭兵は、一人顔を真っ赤にしてオーバーヒートを起こしていた。
その後の説教と埋め合わせのタダ働きの話も当然ながらまったく頭に入ってこず、とんでもない契約で後始末をする羽目になりそうだったのを、珍しくコヨイがフォローしたのはまったくの余談である。
依頼内容『行方不明者捜索』 端瑞 幽 @kasuka
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