第32話:転移

食堂で俺を含め4人で弁当を食べていた。

15:00になるまで食べていなかったので平凡な食事だが美味しかった。


(ゲーム内で味を感じられるのは凄い。しかし、空腹は無駄な要素だから排除してもらおう。)


「食事しながらでもいいから、聞いてくれるか?」


仲間達は何も言わずに頷いた。


「少しでも進むためにこれから召喚陣から転移しようと思っているが、君達は大丈夫か?」

「今日は迷宮探索は中断した方が良いと思う。」


少しでも進むのを推奨していたココノが反対意見を言うとは思わなかった。


「転移した時に、勇者様は2時間程起きなかった。私達も気が付いたのは1時間程。転送に時間が掛かるのか、それとも転移した後昏睡するのかがよくわかってていない。勇者様も私達も疲弊した状態で挑むのは危険だ。」

「疲弊・・・してるのか?」

「勇者様は指輪の効果で魔力をかなり消費したはず・・・それにナナミの魔力の消費も激しい。」


(俺のMPが減っているのはたしかだが、ナナミは魔術も使えないのにMPが減るのか?)


俺は鑑定アプリでナナミのステータスを確認してみると、ステータスの表示が少し変化していた。


ナナミ 人間 女 基本レベル:4

HP:72/72 MP:12/86

力:14(17) 知力:10 信仰心:5 体力:14(17) 素早さ:14(17)

戦士:4 賢者:2


HPとMPの現在値/最大値となっていてわかりやすくなっている。

たしかにMPがかなり減っている。

それに能力値に( )が入っているのはなんでだろう?

アプリとナナミを交互に見ていると、ある変化に気付いた。


「ナナミ・・・小さくなった?」


声に出してしまう程、彼女はしぼんでいた。

存在感を放っていたバキバキボディではなくなっていたのだ。


「うん・・・。」


そして自信がなさそうに返事した。

今までと違い猫背で、自信あふれて強かった印象の彼女からは想像つかない。


「これはどういう事だ?」

「・・・。」


彼女は答えず顔を伏せて黙っていた。

その姿を見て、代わりにココノが答えてくれた。


「ナナミは魔力を消費して肉体強化による驚異的な身体能力と、魔力によるシールドで絶対的な物理防御能力を得ている。そのため魔力が尽きてくると強化が薄れ始め今の姿に戻ってしまう。」


(そんな能力があったとは知らなかった。だから防具を付ける必要がなく、動きを妨げないように裸同然だったのか。)


「先に教えてくれても良かったのに。」

「強力な能力ゆえに知られることは、彼女にとっては致命傷になりうる。」

「なるほど。しかし隠している事なのに、なぜココノは知っている?」

「仲間になった時点で能力や技能はすべて提示される。」


(俺の鑑定には特殊能力は提示されなかった。鑑定も完全なものではないのか?)


「勇者様・・・隠していたのは~ごめんなさい・・・。でも、この貧弱な姿を見られたくなかったの~。」

「貧弱?」


たしかに前の異常なバキバキボディからはしぼんだ印象はあるが、身長180cmで女性らしいプロポーションを残しながら鍛えられた肉体は全く貧弱には見えない。

それにステータスの( )数値が強化後だとすると、強化前の状態でも俺の能力と変わらない。


「いや、貧弱には見えないよ。十分強く見える、肉体強化を使わなくても戦えるんじゃないか?」

「ダメなの~、肉体強化とシールドがないと不安でしかたないの~。戦う事なんて、できない~。」


ナナミはいつもの緊張感のない話し方だが、自信や明るさはなかった。


「わかった。今日はもう休もう。明日頑張ればいい。」


本当は俺も疲れており、休む理由が出来てホッとしていた。


「勇者様、私のために迷宮探索を断念してくれるなんて・・・ありがと~。」

「慈愛に満ちた判断、流石です。」


(勇者様って楽だなあ。すべての判断を好意的に受け取ってくれる。今の進み具合では一番は無理だろう・・・体感だけど。もうのんびり楽しんだ方が良いな。)


ただ、ココノだけは険しい表情だった。

「ナナミ、君のせいで勇者様はやむなく探索を中断された。その好意に甘えてはいけない。」

「う~。」

「探索の中断を進めたが休むのは勇者様の時間を無駄にする行為だ。肉体強化の効果が切れても戦えるように、今日はナナミを鍛えてくれないか?」


いや、俺はもう休みたい。


「戦士としての腕前はナナミの方が上だし、俺が教えられる事などないさ。人には何かしらの弱点があって当たり前。それを無理やり治そうとしたら克服どころか、悪化してしまうだけだ。それよりは、休めるときは休んで次に備えた方が良い。」


諭すようにココノに言うと、彼女は黙ってしまった。


(休みたくて問題を後回しにしているだけだが、何か良い事言っている感じに聞こえるから反論できないだろ。)


俺はナナミに同意を求める視線を送ると、彼女はキラキラして目で俺を見つめている。


「勇者様~私の事をそこまで案じてくれてるなんてうれし~。私がんばる!」


困ったことになった。




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

職業安定所で相談したら召喚士紹介されました~召喚ガチャがすべてを決める迷宮攻略~ 国米 @kokumai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ