EPISODE04 Third attack

 高度20000メートルまで一気に上昇するとエンジンを切り、自由落下を始めた。当然、敵機とすれ違いになりそれに気が付き慌ててターンして追いかけ始める敵パイロットは針が振り切る速度計に気が付いていない。


「まだだ、まだ付けないぞ・・・」


《後ろから敵機が!》


「まだだ。 もう少し・・・」


雲を突っ切り海面が目の前に迫った時、「ココだ!」と声を上げてエンジンを再点火させて素早く操縦桿そうじゅうかんを操り海面と水平にしてA/Bアフター・バーナーを点火させた。


 そうして海面と並行に飛んでいく戦闘機を目の当たりにしていた敵機の操縦士が気がついた頃には、海面とキスしていた。


 空に上がる機体片を見た後で、「良いか。新人、これだけは俺との約束だ。 どんな時でも、必ず相手に敬意を持て」と言った。


*****


 午後6時。


 日本国神奈川県横須賀市のドッグに浮かび上がる煌々としたライトアップは、一瞬繁華街かと思ったがその次に見えた01という数字が見えたことで天蒼だと分かった。


「こちらキャット01、着艦許可を申請する」

『了解、キャット01。 着艦許可を受理した、北から5ノットの向かい風だ』


「Roger. (了解)」


 スロットルレバーを手前に下げていく中、奥に向かって点灯している着艦誘導灯に従いながら機首を下げて行き翼下にあるランディング・ギアが先に、甲板に接地した。その衝撃で白い煙が出たがその後に機首にあるランディング・ギアが接地した。


 翼下にあるランディング・ギアが接地する前に、F-14Cのエンジン部分にある着艦フックが飛び出して、天蒼のアングルド・デッキ(斜めに設営された滑走路の事)後方に張られた9本の内の艦尾から3番目のアレスティング・ワイヤーに引っかかった。


 その衝撃がコックピットに伝わり一時的に前のめりになったが、落下防止のためにスロットルを最大にしてA/Bアフター・バーナーを点火させた。


 イエロー・ギャングからエンジン停止の手信号を確認するとゆっくりとスロットルを戻し、誘導員の指示に従って滑走路から退避した。


「キャット01より艦橋ブリッジへ、2番席を交代して再度訓練飛行に入る」

『了解。 発艦準備をして待機せよ』


「COPY」


 木村きむら叶恵かなえがヘルメットを外してF-14Cの2番席から降りると、そこにリリカ・ラングレーが走ってきた。


「ど、どうだった?」

「どう?って、うーん。 教官は凄い人だと感じたよ?」


「凄い人?」


「うん。 この人なら信頼できるって、思った。それぐらいに生命いのちを護るという覚悟があるって、感じたよ」


「“いのち”・・・か」


 その時、艦橋から甲板で話し込んでいた2人に対して、「リリカ・ラングレーは速やかに訓練機に搭乗しなさい」という警告が流れた。


「あ、行かなきゃ!」

重力飛行に気をつけてね」


「うん!」


*****


 2番席にリリカ・ラングレーが乗り込み、HMDバイザーを頭部に装着していると開いていた風防キャノピーがゆっくりと閉じ出した。


〈リリカ・ラングレー、お前のコールサインはMARKERと呼ばれる筈だ。俺はZEROだ。分かったな?〉


《りょ、了解! よろしくお願いします、教官さん》


〈教官で構わない、敬称は不要だ。 それと、今回の訓練内容はこの空母を敵とした2番席専用の攻撃訓練だ〉

《ら、らじゃー!》


 そして、訓練が始まった。


〈左右のフラップとラダーを確認しろ〉


 おおぞらが操縦桿や足元のペダルを動かしてラダーやフラップを動かすと後ろを見ていたリリカ・ラングレーが《フラップとラダーに異常なし、発艦できます!》と機内無線で告げて来た。


「Cat-zero one, READY to take off. (キャット01、発艦準備よし)」

『Roger, Ready to take-off.(了解、発艦許可)』


 直後、リリカ・ラングレーがシートベルトを閉めた「――カチンッ!」という音と共に、無言でスロットルレバーを奥に押し倒してA/Bアフター・バーナーを点火させた。


 その衝撃が機内を揺らし始めると、〈MARKER――準備はいいか?〉とおおぞらが顔だけを振り向かせるとグッドサインがチラッと見えた。


〈オーケイ、レッツ・ゴーだ〉


 外で懸命に二本指を振っていたカタパルト・オフィサーに合図を出した。すると、左右の後方で対ブラスト姿勢をしていたグリーン・ギャング2名やイエロー・ギャングの後方でパネルを見ていた人を指差し確認し終えると、腰を落として右腕を前に出す“発艦”の手信号をし始めた。刹那、機体が「――ゴゴゴゴ、ゴン!」という音で急加速し射出された感覚が身体を覆った。


『Cat-zero one, Go to sky!』


*****


 蒼空そらに上がった2人はその後、天蒼てんそうを敵とした空対艦戦闘訓練を始めた。幸いにも、2番席に搭乗しているリリカ・ラングレーは、2番席ならではの闘い方を知っていたのでおおぞらはリリカに応用技術を教えるだけとなった。


〈リリカ、無誘導爆弾を準備しろ〉

《了解、準備完了》


〈よし。 精密無誘導爆弾J-DAM投下、今!〉

《――Bomb the way!》


 投下された精密無誘導爆弾1発は、天蒼の船体を掠めて右舷に着水後即座に爆発して低めの水柱を上げた。


《起爆確認》


〈兵装切り替えろ。 対艦ミサイル、準備〉

《切り替えた、ミサイル準備よし!》


〈――FOX2!〉


 対艦ミサイルを発射すると同時に、ロックオン・アラームが鳴り出した。


「――PYYYYYYYYYYYYYYYyyyy!!!!!!!!」


「クソ、またか?」


 オペレーターが悲鳴混じりの声色で『レーダー上、6時方向に敵機! 真っ直ぐに本艦に向かって来ている!』と言って来たので、自分の判断で「訓練中止、至急着艦する」と告げた。


『COPY』


 操縦桿を右に倒して旋回すると同時に、フレアを放出してその場を離れた。


*****


 その頃、戦略航空母艦『天蒼てんそう』の艦内では片山司令とオペレーター8人が戦闘指揮所CICに居た。


「整備員とレインボー・ギャング達に通達する。まもなく空対艦戦闘訓練中だったF-14C1機が帰艦してくる。 直ちに甲板を開けろ、着艦と同時にF-2S発艦準備に入れ!」


「――そうよ、すぐに全対空火器を起動させて」

「――レーダー上にF-14Cを確認!」


『This is MARKER. Ask for permission to land.(こちらマーカー。着艦許可を求めます。)』


 レーダーを見ていたオペレーターが声を上げると同時に、リリカ・ラングレーの声とフレア射出音が聞こえてきた。


「了解、直ちに着艦しなさい」

『COPY』


 再び、機内に戻ると〈着艦許可でました!〉と操縦桿を握って左右や手前に倒して堕とされまいと必死になって回避軌道をしているおおぞら1等空士に聞こえるように声を掛けた。


《分かった、すまんな。訓練はまた後日になってしまった》


〈い、いえ。 今は命が大切なので謝罪は要らないですよ教官〉


《そうか? そうだ。おかに上がったら、中華街に行こうか》

〈え?〉


《奢りだ、俺の》

〈え。 い、良いのですか?〉


《ああ》


 そんな話をしていると、甲板に接地した「――キュキュ、キュゥ!」という音が聞こえて来た。


 着艦したのと同時に、天蒼がゆっくりと旋回し始めたのが分かった。


 F-14Cを降りておおぞらが第一艦橋に足を運ぶと、中から片山司令の声で「とーりかーじ、いっぱぁい。いそぉげ〜!」という怒号が聞こえて来た。


 その声と共に艦がゆっくりと右に傾き出し、やがて「もどぉせー!」という声が聞こえて来た。


 おおぞらは躊躇なく艦橋内に入り、「ただいま戻りました!」と声を上げた。

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DANGEROUS AIRSPACE ~危険空域~ @12{アイニ} @savior1of2hero

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