EPISODE03 Best childhood friend

 風防キャノピーがゆっくりと閉じる中、左右のフラップやラダーなどを肉眼で確認した。その後、ミラー越しに2番席をうかがうと木村きむら叶恵かなえ過呼吸気味かこきゅうぎみに呼吸していたので「蒼空そらに上がったのちに左旋回するから」と教えてあげた。もちろん、普段は言わない。


「は、は、はい」


 緊張が少しも解けない叶恵かなえを後にして艦橋と「Cat-zero one, READY to take off. (キャット01、発艦準備よし)」という交信を始めた。


『Copy. Are you take-off, Ready? (了解。 発艦準備良いかな?)』

「Yep. (ああ)」


『Okay. Cat-zero one, go to take off! (オーケイ。 キャット01、行ってらっしゃい!)』

「Thanks. (ありがとう)」


 交信が終わるとすぐに、おおぞらは木村叶恵に空母での発艦の仕方を教え始めた。


叶恵かなえ、お前のことはコールサインでHOPEと呼ばれる筈だ。俺はZEROだ。分かったな?」

「は、はい!」


 理解したと見て機内通信で〈HOPE, Ready? (ホープ、準備いいか?)〉と呼びかけると、《イ、イエス!》と片言の英語で返事が返ってきた。


 その返事が返ってくると同時に外で懸命に二本指を振っていたカタパルト・オフィサーに合図を出した。すると、左右の後方で対ブラスト姿勢をしていたグリーン・ギャング2名やイエロー・ギャングの後方でパネルを見ていた人を指差し確認し終えると、腰を落として右腕を前に出す“発艦”の手信号をし始めたのでおおぞらは左で添えていただけのスロットルを前に押し倒してA/Bアフター・バーナーを点火した。


『Cat-zero one, Go to sky!』


*****


 木村きむら叶恵かなえが気づいた瞬間ときには、手元にある高度計が約9000メートルを指していた。


『キャット01、高度制限を解除。 Good luck!』


 オペレーターからの交信が終わるとすぐに、〈HOPE. Are you ready? (ホープ。準備はいいか?)〉と機内無線で呼びかけた。


《・・・》


 しかし背後に座っているHOPEが無言だったのでミラーを見ると、震えていた。


〈大丈夫か?〉

《・・・は、はい・・・》


〈無理はするなよ? いつでも、言ってくれたら良いから〉

《うぅ・・・、すみません》


 申し訳なさそうな返事が聞こえた所で左に大きく旋回しようと機体を傾けた次の瞬間、突然ロックオン・アラームが鳴り響き始めた。


「――PYYYYYYYYYYYYyyyyyyyyyy!」


〈――またか? 勘弁してくれよ、こっちは訓練機だぞ〉


 愚痴を言っている暇もないので仕方なく回避機動に入ると同時に〈おい、新人。 すまないが、HMDを起動させて敵機を補足してくれ〉と指示を出した。


 それに応えるように、叶恵かなえはHMDバイザーを起動して《りょ、了解。 敵機・・・、ロックオン!前方6時方向から高速で接近中です!》と悲鳴交じりの声で叫んだ。


〈OKAY! (オーケイ!)〉


 刹那せつな、高速ですれ違ったのは見たことの無い機体のジェット戦闘機だった。おおぞらは迷いがない動きで、操縦桿そうじゅうかんや足元にあるラダーペダルを駆使して敵機を追いかけ始めた。


〈新人!〉

《は、はい!》


〈司令に連絡しろ、未確認機が空母そっちへ接近中と言え!〉

《りょ、了解》


 相手は相当な実力を持った手練れだと思ったのだが、いつの間にか目の前に迫っていた敵機は消えていて急いで周りを見渡し始めるといつの間にか後ろにつかれていた。


「OH MY GOD. (なんてこった)」


 すぐに敵機を振り切ろうと自分が持ち合わせている操縦技術の全てをさらけ出しても、ピッタリと追いかけて来た。


「最悪だ・・・」


 その時、2番席に乗って居た木村きむら叶恵かなえが《伝達完了!》と言って来たので〈了解〉と半分諦めた様な声色で返事を返した。


《教官》

〈ん?〉


《司令から言伝を預かっています、〔No matter where you are, you will always come back alive.〕と》

 幼馴染の二人には勇気の出る魔法の言葉がある、それは〔どんな場所からでも、必ず生きて帰って来る〕という言葉だ。英語に直すと〔No matter where you are, you will always come back alive.〕となる。つまり、片山司令は諦めムードになったと見越して寄こした言葉だ。


〈・・・〉


《教官、この言葉の意味は。私にはわかりませんが、それでも片山司令は「必ず伝えて元気を出してやってくれ」と言っていました》


 その時、近くで爆発したのと同時に小さく急旋回をして敵機に銃弾を浴びさせた。


「ははは・・・、アイツはやっぱり――最高の幼馴染だ」


 おおぞらはミラーを見ながら、〈ここで諦めたら、笑われるから。せめて、お前――新人を護って戻るぞ。空母に〉と言った。


《――ッ、はい!》


〈しっかり捕まっていろよ? それと、吐くなよ?〉


 そう言うと、再度スロットルレバーを前に押し倒してA/Bアフター・バーナーを点火させると同時に、操縦桿そうじゅうかんを手前に引き海面に対して直角にして急上昇をし始めた。


 目の前の高度計がすさまじい勢いで上がって行き、あっという間に高度約19000メートルになっていた。

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