EPISODE02 Rookie pilot

 その後、天蒼の海上救助隊を乗せたAH-60LBLACKHAWKがその海域に到着したが、救助者の姿がどこにも居なかったらしい。


「――ッ、そんな馬鹿な!」


「しかし現に、救助隊員達は何事もないかのように帰艦している」


「あの海域は奴らがひしめく海・・・、じゃあ。敵の味方がいたのか?」

「可能性としては、あり得るな。 潜水艦でも居たのだろう。 とにかく、今回はこのふねを代表して礼を言わせてくれ」


 無事に帰艦した俺に、片山司令は頭を下げて来た。


 たった1機で味方機が上がる前に、敵機を迎撃し撃墜した記録を打ち立てたのだ。その時間はなんと、たったの1時間で、だ。


「ヨコスカに帰ったら、従軍勲章と英雄勲章を貰えるだろうな」


「そんな勲章は要らないですよ、なんの役にも立たない見栄を張るための印なんて」


 踵を返して艦橋から出て行こうとするおおぞらを片山司令は、「貴方あなたがこの艦に居るみんなを救ったのよ? そこは分かっといて欲しいわね」と言いそれでも足を止めない彼に、「貴男あなたって、欲が無いのかしら?」と言った。


 欲という言葉に反応したのかおおぞらは片山司令に顔だけを振り向かせると「欲ですか? そんな物、なんの役に立ちますか? この海の上で」と言うだけ言うと返答を待たずに出て行った。


*****


 カリブ海から日本国の横須賀という場所にある海上自衛隊が所有する基地に入港した後、欠員となった乗務員を見定める為、片山司令とおおぞらの2人では国際女性海軍士官学校に来ていた。


「今年は、成績優秀すぎる生徒が多いらしいわよ」

「・・・。 それでも、実戦になれば恐怖で機内失禁お漏らしする奴が居ると思うが?」


「はぁ・・・、少しは価値観を変えたらどうなの?」


「俺は、今年は新人を2人にする」

「あっそ。 じゃあ、あそこに居る2人にしてみる?」


 片山の癖を言ったその時、背中越しに恐怖を感じたので黙った。


「外見で判断するのは、司令の癖・・・」

「ン? 何か言った?」


「――いえ、何も」


 その後、学校側が用意した会場に行き、入船志望の卒業生達にプレゼンをしたり質疑応答などをした。


 そこでおおぞらと片山司令は、木村きむら叶恵かなえとリリカ・ラングレーの2人に決めた。


 木村叶恵は、日本国が新たに導入した飛び級制度で、優秀を出し続けてこの春に卒業した17歳の美少女だ。容姿端麗で、鷹の目のような鋭さでシミュレーターで満点を叩き出したらしい。リリカ・ラングレーは、アメリカ産まれの少女だがガンナーとマーキングにおいては木村叶恵の次という成績だ。


 翌朝09時25分。空母が接岸している埠頭ふとうに海上航空隊のバッジを身につけた2人と片山渚、おおぞら正儀まさきの姿があった。


「よろしく、私が天蒼てんそう型戦術航空母艦の司令官である片山かたやまなぎさだ。そして、彼はおおぞら正儀まさき1等空士だ」


「・・・片山司令、空に上がる」

「え? 今日は訓練ないでしょ?」


「彼女らを見極める。 機内で気絶しないかどうかの、な」

「はぁ・・・、分かったわよ」


 少しだけ引いている新人2人に対して片山渚は、笑いかけて「根は優しい人よ、だから引かないであげて。それに、私の唯一ゆいいつの同期であって幼馴染おさななじみだから」といった。


 そう。日本国内での男性はおおぞらだけになってしまった。しかし軍人なら政府の保護対象から外れるが、もうこの国にとっては絶滅危惧種に指定されてしまっているのだ。


 引いている2人の目の前に派手な塗装を施したおおぞらの訓練機であるF-14CTOMCATが昇降機に載って甲板に上がって来たと同時に突然、整備員の女性がポカンとしていた木村叶恵を呼びに来た。


 ヘルメットを付けながら走ってそばに来た木村叶恵を見下ろすように見ると、おおぞらは「――さっさと2番席に座れ、それと何もしなくて良い」と言って計器類を再確認し始めた。


「は、はい。 よ、よろしくお願いします、教官!」

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