BLESSED[ブレスト]〜家政の妖精に愛されてるけど、俺は英雄王になるんだ!!!〜

景山 斐雲

始まりの物語






『英雄王』


それは、勝つ者。


『英雄王』


それは、仲間を見捨てない者。


『英雄王』


それは、道を作る者。



『英雄王』







──それは、憧れであり続ける者。





数多の戦場を駆け抜けた誰よりも仲間を何よりも愛した男。

最も妖精に愛されていた唯一無二の存在。

彼は、数百年の時が経とうとも語り継がれ、少年達の憧れであり続けた。





ーーーー





──トントントントントン



小さな手が包丁を握り、軽快に野菜を切っていく。



──ジュゥゥウウウウウ



その隣では、ベーコンの上に目玉焼きが焼かれ、フライパンから美味しそうな香りが漂っている。



──カチャカチャカチャ



作り終われば、小さな手には大きすぎるフライパンや包丁をえっちらおっちらと抱えて洗っていた。



「よし!」



そして全てを終えた小さな影は、腰に手を当てると満足気に頷く。


そして、布巾で拭いたフライパンとお玉を手に取ると…、



──カンカンカンカンカン!!!!!!



「ソルー!!起きろー!!!!!」


「ウッ、」


「おーきーろー!!!!!ソルー!!!!!!」



甲高い金属音と大きな子供の声に、布団の中でモゾモゾと大きな山は嫌そうに動くが、そんなことは関係ない。



「おーきーろー!!!!!!朝だぞー!!!!!」


「うァッ、おき…、起きるからやめてくれ…、










ハナネギ」


「なら、早く起きろ!!もう朝だぞ!」



フライパンとお玉を鳴らす子供の名は、ハナネギ。

黒く硬いツンツンとあちこちに跳ねた髪にくりくりと大きな濃紺の瞳の入った目、麻の葉模様のお尻まですっぽりと隠れる大きなTシャツに真っ赤なベルトをした8つの少年だ。


ハナネギは、モゾモゾと布団から出てきた手を勢いよく引っ張る。



「おぁ!?」


「うわっ!!」



ドッシーンと景気のいい音と共に布団から落ちた影は、慌てて避けたハナネギとは対照的に受け身も取れずに落っこちていた。



「イテテテテ」



ああ、災難だったとぶつけた鼻を擦りながら起き上がったのは、男の名前はソル。

20代後半、ピンクがかった茶髪をハーフアップにした軽薄そうな男だ。



「ハナネギ、毎日律儀にお前は俺の母ちゃんか」


「誰が母ちゃんだ!!

毎日こんな時間まで寝てるのが悪いんだろ!

もう太陽が昇って、2時間は経つぞ!

大人の癖に情けねぇ!」



落っこちた姿のまま上半身だけを起こしてそういうソルに、ムッとしながらハナネギは反論する。



「大人になろうがなァ、苦手なもんは苦手なんだよ」


「良い歳して言い訳すんな!早く起きて飯食って働け!」



太陽に焼かれる〜と情けない声を出しながらダラダラとしようとするソルをハナネギはズルズルと引っ張って食卓へと座らせる。



「おー、今日も美味そうだな」


「美味そうじゃない、美味いんだ。ばあちゃん直伝なんだからな!」



ベーコンエッグに簡単なスープとパンのシンプルな朝食をソルが食べている間にハナネギは、ソルの寝ていた布団を玄関から外に引っ張り出して、外の物干し竿に干す。

本日は晴天なのだ。干さない方がもったいない。



「ごちそうさん。いや〜美味かった!いい嫁になるぞ」


「誰が嫁だ!!俺は男だぞ!!」



ソルの言葉に小さな身体の全身使って布団を干していたハナネギが、外から玄関にほど近い食卓に座っていたソルの言葉を耳ざとく聞きつけるとフシャーッ!!と威嚇するように大声で反論した。



「俺は英雄王みたいにカッコイイ軍人になる男だ!」


「そうかい、そうかい。まあ、軍人も大概男所帯だからな、家事は出来るに越したことはないぞ」


「ならいい」



ギッと睨みつけてるくハナネギにソルが立ち上がりながら言えば、布団を干していたハナネギは満更でもない感じで頷いてみせた。



「ふ、あっはははは!!!随分単純だな、ハナネギ」


「な!?嘘なのかよ!!」


「いいや、嘘じゃないさ」



そう言いつつもケタケタと身体を半分に折って笑うソルにハナネギは眉に皺を寄せ、唇を尖らせ、怒りを表現する。



「感じ悪ぃぞ!!」


「おっと!」



ボカっとソルを叩こうとしたハナネギの拳を避けてソルは更に笑ってみせる。



「ソル!」



そんな賑やかな家に男の声がかかる。



「仕事だぞ!」


「おお、もうそんな時間か。お遊びの時間は終わりだ、ハナネギ」


「なら、一発殴らせろ!!」


「あいにくと殴られる趣味はないんでね、じゃあな」



そう言うとサッとソルは、玄関からハナネギを避けて駆け出る。

良いのか?と言う男の言葉にも軽く頷いてそのまま軽快な足取りで見えなくなる。



「むー!!」



いい逃げされたハナネギは、面白くなくてその場で地団駄を踏む。



「ソルのバカ!アホ!あんぽんたん!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!」



とはいえ、いつまでも地団駄を踏んでる訳にもいかないので、ふくれっ面でハナネギは、ソルの食べ終わった食器を片付けるとカチャカチャと洗い出す。

食器洗いが終われば洗濯だ。

洗濯板でゴシゴシと洗う。

小さなハナネギにはかなりの重労働だが、だからこそ鍛錬になる!と全身を使って必死に洗うのだ。

それが終われば掃除。

梯子をかけて棚の上からバランスを崩さないように気を付けながら埃を落として、ゴミをまとめて共同のゴミ穴に捨てに行き、ちょうど鉢合った女性陣の井戸端会議に巻き込まれながら適当な所でトンズラし、石鹸なんかが足りなくなっていてら足しておく、そして濡れた雑巾で棚の上から床までしっかりと拭けば仕上げだ。

この辺りでハナネギは中々にヘトヘトだが、まだやることは残っている。

そう、夕飯作りだ。

その辺に放置されてる野菜や肉を腐りそうなものから適当に上手くなりそうな感じに作ればやっと終わりとなる。



「ふぅ」



グッとハナネギは、額の汗を左手でぬぐう。

その頃には、もう太陽は随分と傾いて夕暮れへと近付いて居た。



「あっ!早く行かないと!!」



ハナネギは大人用の大きな木剣をズルズルと引き摺りながら、ソルの家を出て駆け出した。


ソルの家は、小さな村ハイ村の端にある。

ハイ村は、鋼ノ王国と天ノ聖国の国境付近に存在する鋼ノ王国に属する村だ。

国境付近に存在するといっても、その先に道は続いていない終わりの村なので、村人達は、ほとんど自給自足に近い生活を営んでいる。


そんな長閑な村を走り抜けて、ハナネギは森の中へと駆けて行く。

チリンチリンとハナネギのベルトに付けられた熊鈴が音を鳴らす。

音に気付いた兎達が逃げ出したその獣道をハナネギはズルズルと木剣を持って走る。



「ソル!!」



その先に見えた複数の人影にハナネギは嬉しそうに声を上げた。

複数の影、男の影がハナネギの声につられるように目を向けるが、慣れたもんなハナネギは気にもしない。



「鍛錬の時間だぞ!!」



そう言ってハナネギには重すぎる剣をソルに向ける。



「もうそんな時間か」


「いつも時報お疲れさん」


「誰が時報だ!!」



ソルに続く男衆の言葉にハナネギが噛み付く。

男衆はソル以外に全員で5人。

猟銃を手にしている男が3人と弓矢を手にしている男が2人。

ソルの手にも弓矢が持たれている。

小さな村では、猟銃は3つ準備するのが精一杯だったのだ。

今回の収穫は、弓矢を手にしている男が計兎が3羽、鳥が2羽、銃を手にしている男が鹿と猪を1頭づつ、ソルが1人で背負っている熊が1頭といったところだろう。

ソルは、誰よりも狩りが上手いので、何度も猟銃にしないか?と村人達に勧められているが、頑なに弓矢がいいと断っているのだ。

村出身じゃない余所者の自分が、村の大切な財産を手には出来ないと。



「俺は英雄王みたいにカッコイイ軍人になる男だ!!」


「ぷっ、」


「「「アッハッハッハッハッ!!!!」」」



その言葉に1人が笑い出すと男達は一気に笑い出す。



「まだ言ってんのか!」


「お前には無理だって」


「出来っこない、出来っこない!」


「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ!!」


「いいや、分かるね」


「お前には才能ない、だって…」



男衆はゲラゲラと笑いながら顔を見合わせる。

ムキになるハナネギの反応が面白くて仕方がないのだ。



「「「「「お前の胸にあるウサギの紋は、“家政の妖精”に愛された証だろ?」」」」」



そう、ハナネギの胸には火が渦巻く駆ける兎の横姿の痣がある。



「家政の妖精の紋が出て来るのは、ほとんど女」


「その上、他の妖精の紋と違って、効力は精々家事が得意な証明で、幸せな結婚生活が送れるって加護しかない!」


「軍人ってのは、武勇の妖精の紋を持ってる奴がなる仕事だ」


「争いごとから1番遠い家政の妖精で軍人を目指そうとする事がムダ!」


「才能ないからやめとけ!やめとけ!」


「ッ、うるさい!!そんなことない!行くぞ!ソル!」


「うおっ!おお、じゃあまたな」


「おー、また明日ー !」



男衆の言葉に気分を悪くしたハナネギは、木剣を持っていない左手でソルの服を摘んで引っ張る。

男衆とハナネギに引っ張られて離れていくソルが和やかに挨拶してる間も、ずんずんと足を進める。


なんなんだよ!とハナネギは、引っ張っているソルの服の裾をぎゅっと強く握る。

今更といえば今更だが、何度言われたって気分が良いはずもない。

ハナネギは家政の妖精に愛されているのだからやめておけなんて村中の人達が口を揃えて言ってくる。

幸せな結婚をするのがお前の幸せだと。

なんて馬鹿げた世界だ!とハナネギはムカムカした気持ちで心の中で吐き捨てる。

この世界の大人達は妖精の奴隷なのだ。


この世界には、“妖精の紋”と呼ばれる痣を持っている人々がいる。

神話に出てくる妖精に愛されてるという彼ら彼女らは、そう言われるのも納得なくらいその紋によって様々な才能を持って生まれる。

それこそ、武勇の妖精の紋を持って生まれれば、高い身体能力と武器を扱う能力を持つ証となる。

故に、男に出ることが多いという点も含めて軍人向くと言われるのだ。

反対に家政の妖精の紋を持って生まれれば、家事能力が高い証となり、幸せな結婚が約束されている。

女に出やすく、娘にこの紋が出れば喜ばれるが、反対に息子に出ればハズレ紋だと言われる。

この紋が出る者は、頭が弱く、運動神経がないと言われているからだ。

女なら可愛げだが、男なら劣ってると見下されるのだ。



(女なら可愛げって、同性なら見下すような内容が可愛げって、それって女を見下してるだけだろ!)



クサクサした気持ちで、ハナネギはいつもの森の開けた場所まで歩く。

村では、家政の妖精に愛されてるのだからと女の子のグループに入れられて遊びや仕事を任されるハナネギは、自分の意思を無視する周りが面白くなくてハナネギは余所者のソルの周りをウロウロするようになったのだ。



「よし!見とけよ!よっ、うぉっ!?よっ、あっっ!」



開けた場所まで出れば、ハナネギはその辺の切り株にソルを座らせて、木剣を振る。

だが、大人用のハナネギには随分と大きく重たい木剣を振るたびにあっちへフラフラ、こっちへフラフラとする。

その姿にソルは苦笑する。



「おいおい、そりゃ重いだろ。こっちにしとけ」



そう言って太めの木の枝をパキッと居るとハナネギへと放る。

うわっ!と驚きながらもハナネギはソルに渡された木の枝を落としそうになりながらもなんとかキャッチする。



「カッコよくねぇ!!」



だが、すぐに地面に叩きつけるように捨てるとソルに心底不満だ!!という顔で見上げる。



「あのなぁ、カッコよくなくても、そんな身体に合わない木剣じゃあ、基礎練にもならないぜ?」


「むぅ…」



ソルの言葉にギュッと顔を顰めて嫌そうな表情をしながらも、仕方なくハナネギには大き過ぎる木剣を置くと太めの枝を持つ。



「まず、身体は開くなよ。両手で持った時、手首が内に入るようにキュッと締めるんだ」


「うん」


「でも力は入れるな。脱力するんだ。自分の体がペラペラの紙になったイメージをしろ」


「ペラペラの紙」


「上の手は方向性を決める添え手だ。振りかぶる時は、下の手だけ力を入れて持ち上げる。そして、剣が揺らがないようにそっと上の手で方向付けてやる」


「えいや!」



ハナネギの素振りにソルは満足気に頷く。



「お前、もう木剣持ってくるのやめね?」


「やだ。これなかったら余計おっちゃん達に笑われる!」



ふんっと顔を背けるハナネギにソルは、ん〜と苦笑する。

そう、木剣は現状ただのハナネギのお気に入りのオモチャ状態で、鍛錬には何一つ役に立ってはいないのだ。

まあ、本人がそうしたいと言うならソルも害になる訳でもないので好きにさせる。

えいや、えいやと木の枝を振るハナネギに、身体が硬いから振り下ろす時はもう少し下の手の力を抜けとか、足をバタバタさせるなとか、アドバイスしながらソルは切り株に座って組んだ足に乗せた手で頬杖をしながら眺める。

気が付けば、少しずつ空が赤くなり始めていた。



「…なぁ、」



そんな中、キュッと一度唇を結んだハナネギが何かを覚悟した顔で、ソルを見上げる。



「俺は武勇の妖精に愛されてないから軍人になれないのか?」



グッと握り締められた拳がハナネギがどれだけ勇気を持ってそう問い掛けたのかを語っていた。



「…いいや、」



だからソルは座っていた切り株から立ち上がるとハナネギの前にしゃがみ込む。



「軍人にはなれる。

でも、武勇の妖精の紋を持つ者よりも困難な道にはなる」


「運動神経が悪いから?」


「いいや。同い年の子が居ないから分かりにくいかもしれないが、ハナネギは運動神経は良い方だ。

ハナネギは、武勇の妖精の紋を持つ者の特徴分かるか?」


「武勇の妖精の紋を持つ者の特徴?」



えーと、ハナネギは記憶を思い起こす。

あいにくと小さな村にはハナネギを含めて妖精の紋を持つ者など片手で足りる数しか居ないし、その中には武勇の妖精の紋を持つ者は居ない。



「男の紋で、運動神経が良くて、強い!!」


「そうだな。だけど違う」



ハナネギの言葉にソルは首を横に振る。

小さな村は、暫く武勇の妖精の紋持ちが生まれていないせいでその特性を忘れてしまったらしい。



「武勇の妖精の紋の1番の特徴、それは、


──紋から武器が出て来ることだ」


「紋から武器??」



なんだそれ??と首を傾げるハナネギに、ソルはそうだ、と頷く。



「自分自身を鞘として、自分の才能のある武器が紋から出て来る。

当然仕舞えば、武器は跡形もなく見えなくなる。

普通の人の作れる武器とは、強度も段違いで、仮に戦闘で欠けても入れて出せば修復されている。

それが武勇の妖精の紋を持つ者が軍人に向くと言われる1番の理由だ」



そう、人知を超えた武器を誰に悟られる事もなく常に側にある、それこそ風呂とか武器が腐るから持ち込まない場所にも持ち込めるというのが軍人として武勇の妖精の紋を持つ者が重宝される理由なのだ。

もちろん、その武器に見合う肉体的な強さがある、自分に才能のある武器が紋から出て来るから迷わないというのも向く理由だ。



「だから、なれない訳じゃない。

ただ、人の作りだした武器で戦う、自分に合う武器を模索する、そういう手間やハンデがある、その事実だけは変えられないけどな」


「なら、そんなハンデ気にならないくらい強くなってやる!!」


「はは、いいなそれ」



フンフンとやる気に満ち溢れるハナネギをソルは温かい目で見守りながら、その頭を撫でる。


きっとそんな生易しい話じゃない。

大人になればきっと分かってしまう。この世界は綺麗事で出来ていないのだ。

それでも…、それでも、キラキラと輝く目が、ソルには眩しかった。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆





その日もソルは男衆と共に狩りに出ていた。

秋めいて来た日々は、冬の到来を予感させ、村は冬支度に慌ただしくなっていた。

干し肉も大切な冬越しの食料だ。男衆やソルもここ最近は生態系を壊さない程度にしながらも多めに狩っては備蓄を確実に増やしていた。



「ん…?」



そうして日暮れが近付き村が遠目に見える程戻って来た頃、ソルは、嫌な違和感に眉を顰めた。

冬支度に忙しく、ソルも日暮れまで狩りに勤しむ関係で、本人も冬支度に子供ながらに駆り出されていることもあり、ハナネギの時報がないから不便だ、なんて笑いながら話していた男衆も、立ち止まったソルに首を傾げた。



「ソル、どうした?」


「おかしい…」


「おかしい??」



ギュッと眉を顰めたソルは、村の方を睨め付ける。



「…村が静か過ぎる」



その言葉に、え?と男衆も村の方へと意識を集中させる。

この時期、冬支度で村中大忙しで、あちこちと誰かしらがバタバタと歩いているはずなのに、村はシン…、と静まり、人影一つない。


それに言われて気付いた男衆はざわめく。

何が起きたのか分からなかったのだ。

仮に大型の獣が柵を壊し、村に侵入したのだとすれば、村は大騒ぎになるはずだ。

体験したことのない事態にドッと不安が押し寄せる。

キュッと自然と手に持つ武器に力が籠る。

心臓はバクバクと不安で煩く鳴り響いていた。

だってあそこには、自分達の大切な家族が、友が、村の仲間達が住んでいるはずなのだ。



「行こう」



ソルの言葉に、ざわめく心を抑えて、震える手を握り締め、ゴクリと急激に乾いた喉に唾を飲み込みながら頷くのが男衆の精一杯だった。



「…本当に人が居ない」



村に入っても人に会うことはなかった。

いつもなら、おかえり!とか、今日の取れ高はどうだ?なんてあちこちから掛けられる声が全くしない異様な空間。

汗ばむ手を服で度々拭いながら、ソルを先頭に男衆は2列で左右を見渡す。



「しっ、」



だが、そんな男衆と裏腹に、迷いなく進んでいたソルは、村の広場への曲がり角でしゃがみ込む男衆に口に人差し指を当てて、そう指示した。



「ソル…?」



男衆は不安げにソルの名前を呼ぶが、ソルは応えずに鋭い目付きで曲がり角の先、村の広場を睨め付ける。


その時だった。


──ガンッ!!



「!?」



何かを蹴りつける音にビクリと男衆は肩を跳ねさせた。



「チッ、居やがらねぇ!」



苛立った声が広場から聞こえる。

その声に男衆は不安げに眉を顰める、互いの顔を見合わせて首を横に振った。


あの声、聞き覚えあるか?と誰もが目で語る。

小さな村だ。なんとなく声を聞けば話してるのが誰かくらい察せる。

だが、村出身者が5人も居るのに誰も知りはしないのだ。

そんなことありえない。


ようするに、声の主は…、



「宝石眼さえ見つかれば、一生遊んで暮らせるつーのに!」



宝石眼?とソルがぴくりと眉を動かし、男衆の脳裏をクエッションマークが浮かぶ。

だが、それも一瞬だった。



「居ねぇなら居ねぇでいい。サッサと殺して次に行くぞ」



その言葉に、馬鹿!!とソルが止めるまもなく、男衆は無策にも広場へと飛び出したのだ。

慌てて掴んだ2人に引きずられる形でソルも広場へと転げ出た。


最悪だ…。とソルは内心、頭を抱える。

広場には20人近い山賊達。

山賊と呼ぶに相応しい汚い身なりのくせに、手に持つ武器だけ身分不相応に質が良い。

その中でも武器の質に相応しい強い者は3人、4人程度とはいえ、向こうは人を殺すのに慣れた連中で、こっちは弓矢を持つ者が3人と銃を持つ者が3人、どれも遠距離武器なのでこの至近距離じゃ不利な上、人など当然撃ったことがない。

さらに言えば山賊達の後ろには沢山の人質までいるというこの圧倒的に不利な状況下。

策もなく飛び出すほど愚かしいことはない。



「お、お前達に村を好きになんかさせるか!」



突然現れた男衆に、山賊達も一瞬は?と呆気に取られるが、明らかに戦いなれしていない、ガタガタと震える銃口が、人を殺すことを躊躇っていることを教えてくれるから、それもすぐにニヤリと小馬鹿にした嫌な笑みを浮かべた。



「へ〜、で?どうするって?」


「そんな震えた銃口で撃てるんでちゅか〜」



ゲラゲラと山賊達は下品な笑い声を上げて嘲る。


そんな山賊達の向こうでは、腕を縛られた村人達が男衆に逃げろ!!と叫んでいる。

反抗したのか、見せしめなのか、はたまた両方か、幾人かの顔が青く痣となり腫れ上がっている。



「うるさい!!やってやる!!」



グッと銃口を向け、弓を引くも山賊達の余裕な様に変わりはない。

それもそのはず…、



「外せば身内当たるけどな!」



その言葉に簡単にブレる銃や弓など恐ろしいはずもない。

精々運が悪けりゃかするだろう、といったところだ。

これで本当に後ろで腕を縛られている村人達に当たって死ねば面白いのにすら思っている、そんな連中だ。


もちろん、躊躇する、そんな隙をただただ見ているだけのつもりはない。

彼らのボスは効率主義なのだから。


──ゴッ、


「グッ、」


──ガッ!


「アッ」


──ドカッ


「ウガッ」


──バキッ!!


「ぅああああああああ!!!!!」



数メートル吹っ飛ぶ強さで頬を殴なれ、顎を気絶する勢いで蹴りあげられ、食ったものを吐く強さで腹を蹴られ、最後の男衆に至っては、腕をへし折られた激痛にのたうち回っている。



「最後はお前だぜ?」



ニヤつく山賊達の視界の先に残るのは、ソルただ1人だった。



「ソル!!」



そうソルの名を叫んだのは、縛られ、頬を紫に腫らしたハナネギだった。



「こんな奴らやっつけちまえ!!」



ハナネギの言葉にバレないように、そっと視線をさ迷わせる。



「へぇ〜、俺らをやっつけるって?」


「ギャハハ!!無理だろ!ビビって弓も構えられない男だぞ!」



それでもついてんのか!なんて山賊達は揶揄するが、ソルは動かない。



「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ!」


──スルッ


「は?」



だが、ソルに殴りかかった男は、予備動作もなく、最小限の動きで避けられたせいで空を切った拳に何が起きたのか理解出来ず、驚くことすら出来ず、不思議そうな顔をしてしまう。

おい!何遊んでんだ!という仲間のからかい混じりの声でやっと脳が処理し、理解した現状──避けられた──という事実に、殴りかかった男は顔を真っ赤にして怒りを示した。



「舐めやがって…!!」



だが、その後も


──スッ


──ヌルッ


──サッ


──ササッ


と、避けられ続ければ、野次を飛ばしていた山賊達の顔も険しくなる。

チッ、と舌打ちをしたのは、ソルが質の良い武器に相応しい強者と判断した男の1人だった。



「何やってんだよ!ソル!!早くぶっ倒せよ!!」



目に付いたのは、村人の中でひときは大きな声で叫ぶ子供、ハナネギだった。

サッと移動するとハナネギの襟をグイッと掴む。

グエッ!?と息苦しさに驚いたハナネギが見上げれば、白髪混じりの渋い40代くらいの男、山賊の頭がハナネギの襟を持ち上げていた。

何だよ!!とハナネギが叫ぶよりも早く、山賊の頭が声を張り上げた。



「このガキがどうなってもいいのか!」



その言葉に避ける過程で人質達に背を向けてしまっていたソルは、振り向くと目を見開いた。

避け続けるソルに気付けば攻撃を仕掛ける人は増え、山賊の頭と人質を監視する数名を残して強者2人を含めて総攻撃を仕掛けられていた為、特に強者2人が厄介で、人質に背を向けなければ行けない方から攻撃を仕掛けてきていたのだ。



「ハナネギ!!」


「ソル!!俺のことはいい!ぶっ倒せ!!」



煩い子供がそう叫んでいるが無理だろうと山賊の頭は読んでいた。


その予想通り、察しの良いソルと呼ばれている男は、ハナネギの身の危険を理解して武器を捨て、両手を手を上げて降参の合図をした。



「ソル!!!」



何やってんだ!!と子供が叫ぶが、あの男に人を傷つける度胸はない。

その度胸があれば、少なくとも雑魚共はやられていたはずなのだ。

殺さずとも、手にした弓矢で足を撃ち機動力を殺すことは出来たはずなのに、それでもなおも避けることに徹底していること。

それは、この村の1番の手練たる男は誰よりも人を傷つける忌避感が誰よりも強い証拠だ。



「大人しくしてろよ」



何で!、やっつけろよ!!と喚く子供の頭を拳銃を持ってで殴り黙らせる。

ハナネギ!!と人質達がざわめくが、人睨み効かせればすごすごと静かに立ち上がりかけた身体を地面につける。暴力に慣れていない者達は、恐怖の前に従順なものだ。


ただ、ソルと呼ばれた男だけが不服げに睨み付けてくるが、反抗する気はないようだ。

その危険性を良く理解しているからだろう。

このガキは、沢山居る人質の1人でしかない。

殺したってまだまだ沢山人質はいる。

今こちらの機嫌を損ねれば簡単に殺される命だと分かっているからこそ大人しくしている。


その間に部下達に命じて捕まえ逃していた村人の男達を縛る。

ソルと呼ばれた男を含め、気絶していた男は叩き起す。



「宝石眼の持ち主を知っているか」



真剣な目でそう問い掛ける山賊の頭に男衆は、先程も聞いた初めて聞く言葉に首を傾げる。



「ホウセキガン??」



宝石の岩か??

そんなもん、こんな辺鄙な村にあるわけないだろ、と、見当違いな事すら言い出している。



「んなわけねぇだろ!」



それに苛立った山賊の男が声を荒らげる。



「オパールみたいに色んな色の混じった目を持つ奴のことだよ!!」



なんだそれは?と男衆は目を見開く。

虹彩──瞳の色──は1色だ。

それが、様々な色を持っているなんて、そんな人間居るのか!?

驚く男衆の反応に、どうやら誰も知らないようだと山賊達は落胆する。

1度でも見れば、そんな稀有な瞳を忘れるわけがない。



「お前はどうだ」


「あー、どうだっけなぁ?」



山賊の言葉に曖昧に答えながら、どうしたもんか…、とソルは考える。

世話になった村人達をこのまま大人しく殺させる気はない。

とはいえ、100人以上の村人を逃がすのは至難の業だ。

中には、老人や抱っこして走るのは大きいが自分で走らせるには幼い子もいる。

恐怖で腰を抜かしている者も多く、隙を作り、走れ!!と声をかけた所で、反応出来るのは、5分の1といったところだろう。

腰を抜かしてなくても恐怖で混乱している者も多いから、ソルの言葉に冷静に即座に理解出来る者と思えば少なくなる。



「そうか、なら死ね」



バンッと銃から放たれた弾はソルの脳天を狙うも、頭を傾げることでソルが避けたことでソルの頬を掠める程度だった。



「ソル!!」



ハナネギが悲鳴のように叫ぶ。



「大丈夫だ」



そう、ニカッと笑ってみせるも、現状脱出の解決策はとんと見つからない。

知らない、と言えば間違いなく皆殺し。

知っているとデタラメを言えば、もしかしたら交渉のカードにはなるかもしれないが…。



(それにしたって…、)



人を殴る。

そうイメージするだけで、カタカタと震えの止まらない腕で何が出来るというのだろうか…。


グッと拳を握り締め、震えを止めようとするが、その程度で止まるわけもない。



「…まあいい、一人ずつ殺して行けば、知ってるなら話す気にもなるだろ」


「な゛!!」



素早い決断に声を上げたソルの後ろでは、村人達が悲鳴を上げながら哀願する。

どうか助けてくれ、と、食料なら全部やる!他にも欲しいものは全部やるから助けてくれ!と、アンタらのことは絶対に話さない!と、ある者は頭を地べたへ擦り付け、ある者は指を組んで山賊を見上げ乞うが、山賊達の表情に同情などなく、いっそその必死な様に楽しげな者すらいる程だ。

まあ、この程度で躊躇するなら、最初から山賊などしていない。



──ブチッ



そんな中で響いた縄の切れる音。



「お前らの好きになんかさせるかーーー!!!!!」


「ハナネギ?!」



そう言って堂々と立ち上がったハナネギにソルは慌てた。

幼いハナネギがどうやって!?とも思ったが、よく見れば、ハナネギの足元には、縄と一緒に木の実採取用の小さなハサミが落ちていたから、それで四苦八苦しながら縄を削ったのだろう。



「俺は英雄王になるんだ!!お前達なんかに負けない!!」



その言葉に山賊の頭など、一部の実力者達がピクリと反応した。



「英雄王…、武勇の妖精の紋を持つのか」


「うっ、それは…、 」



山賊の頭の言葉にハナネギは一瞬たじろぐ。



「その子はただの家政の妖精の紋持ちだ!!」



冷ややかな雰囲気と共にハナネギを見下す山賊の頭が拳銃を構える仕草をしたから、ソルは慌てて叫んだ。



「家政の妖精?」


「「「「「ぶはははははははは!!!!!!」」」」」



その瞬間、山賊達はゲタゲタと笑う。



「家政の妖精で英雄王だとよ!」


「武器でも隠し持ってんのかと思ったら、家政の妖精!」


「将来の夢はお嫁たんでちゅか〜」



一気にバカにしてくる山賊達に、何で言ったんだ!!とハナネギはソルに怒る。



「なんだ」



山賊の頭すらもそう言ってハナネギを完全に視界から外してしまうから悔しくて仕方がない。

たかが、妖精の紋が家政の妖精なだけで、何でこんなに見下され、バカにされないといけないんだ!と拳を握りしめる。



「うるせぇ!!お前らなんて全員俺がぶっ飛ばしてやるからな!!」


「ブフッ、ぶっ飛ばすって殺しでもする気か〜」


「そうなればお前も俺らと同じ人殺しだな!」



人殺し。

その言葉に反応したのは、ハナネギではなくソルだった。

びくりと身体を震わせる。


──人殺し!!


ソルの脳裏で、ハナネギと身長の変わらない小さな影がソルを責め立てた。



「ハナネギ…、」



ソルは、守ろうとして人殺しと言われ、山賊と同レベルに言われたことに動揺しているだろうハナネギに声をかけようとした。

だが、視線の先、ハナネギは…、



「だから?」



山賊達の言葉すらも気にせず、堂々と立っていた。

あまりにも真っ直ぐとした目で見返して来るから、山賊達の方が動揺して思わず、1歩後ずさってしまった。



「言っただろ?俺は英雄王になるんだ!!

英雄王はな、大切なものを守るために力を奮った!

傷付けるのが怖くて、大切なものが守れるか!!!」


「っ!」



嗤う山賊、焦る村人、


その中で、ソルだけは息を飲んだ。



(ハナネギ…)



ソルは、過去へと思いを馳せた。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆





──バチャバチャバチャ



「止まれ!!」



雨の降りしきる中、ワイシャツに水干のような襟口の軍服を着た男達が駆ける。



「ハンっ!止まれと言われて止まる馬鹿がどこにいるんだよ!!」


「無駄吠えしか出来ない犬共の言うことなんて誰が聞くか!」



そう言って軍服を着た男達の前を走るのは、ガラの悪い男達だった。

ド派手な柄の甚平のような左右で紐止めする服にニッカポッカのようなダボッとしたズボン、腰に太めのベルトを巻いた男達は、細い路地を迷うことなく駆ける。



──ガンッ!



「うわぁ!」



途中にあったドラム缶をガラの悪い男達が蹴って、倒れたドラム缶が転がって軍服の男達に襲いかかるから、慌てて彼らは避ける。



「ははは!ざまぁみろ!!」



ゲラゲラと下品に嗤うガラの悪い男達の上に影が出来る。



「よくやった」



ガラの悪い男達がその声に「は?」と言う前に男達の前へと屋根から飛び降りた男は、姿勢を低くするとカチリと剣の柄を握り、足へと力を篭めるとそのまま蹴り出した。



──ザシュ

──ザシュ



鞘から抜いた剣を斜め上へと振り上げ、ガラの悪い男の1人の太ももを深く切りつけると、その剣を振り下げ、もう1人の男のアキレス腱を切る。



「「うわぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」



足を切られたことで立てなくなったガラの悪い男達が激痛で叫ぶのを、彼等を切りつけたピンクがかった茶髪をハーフアップにした軍服の男が冷えた目で見下したていた。



「ソルト!」



ソルトと軍服の男達に呼ばれた男・ソル、もといソルトは、パッと顔を明るくして、同じ服を着た男達に笑いかけた。



「お前らのおかげで捕まえられたぜ!」


「またまた〜!上手いんだから!捕まえたのはソルト隊長じゃないっすか〜!」


「また報奨金か〜!羨ましい!!」


「はは、なら、今回もみんなで飲むか?」


「そうこなくっちゃ!」


「隊長愛してま〜す!!」


「嘘つけ!お前の愛してんのは酒だろ!」


「そうとも言う!」


「そうとしか言わねぇよ!!」



なんて馬鹿騒ぎしながらもガラの悪い男達を慣れた手付きで捕縛する。



「じゃあ、薬のバイヤーの一斉摘発を祝って」


「「「「「カンパーイ!!!!!!」」」」」



国で問題視されていた麻薬の売人達の一斉摘発に伴って、そのトップをキッチリと捕まえたソルトに与えられた報奨金で飲み放題とあり、誰もが楽しそうだった。



「はあ〜、隊長が師団長になるのも時間の問題かね」


「おいおい言い過ぎだろ」


「よく言うぜ、最年少隊長殿!」



少し寂しげに言う部下に笑って謙遜するソルトの肩に大柄の髭男が手を回して、反対の手で酒入りの瓢箪を空に掲げている。



「15で入隊!」


「19で隊長抜擢!」


「25で既に師団長に王手だぜ!」


「はあ〜、25なんて、やっとこさ隊長に抜擢されるかどうかって年齢なんだがねぇー」



ぷはぁ、と酒臭い息を吐く男達の言葉にソルトは笑う。

よっと、卓の上に立ったソルトは酒を掲げて言った。



「あったり前だろ?

俺は、英雄王になるんだから!!」



そう言ってニィっと笑ったソルトに男達はポカン…とした後、大笑いした。



「てめぇが1番大きなこと言ってんじゃねぇか!」


「英雄王なんて、王族直々に与えられる軍のトップも憧れる立場だってんのにな〜!!」


「ソルト隊長ならなれますよー!!」


「そりゃあ、隊長も師団長も通過点だなぁ!」



そりゃあ良い!と男達は笑う。



「俺達、未来の英雄王の部下だとよ!」


「ははっ!最っ高じゃねぇーか!!」


「今からサイン考えとかねぇと!」


「ばっか!気が早ぇよ!!」


「早かねぇだろ!ソルトがなるっつったんだ!」



案外近い未来だろ、なぁ?ソルト。

そんな仲間の言葉にソルトはニィっと笑う。



「おう!!」


「なら、」



部下の仲間の1人が新しい頼んだばかりの酒を掲げる。



「未来の英雄王と、英雄王の部下の俺達の未来に乾杯!!!!」


「「「「「カンパーイ!!!!!!」」」」」



楽しげに飲む仲間達を見て、ソルトも嬉しそうに笑った。


それから数ヶ月が経ったその日、ソルト達はかねてから狙っていた大物を捕まえようと動いていた。

大物の名前は、通称『ネヅミ』。

貴族や豪商の家に忍び込んでは、金を盗みを繰り返す悪党だった。



「来たッ!」



ついに王族の財宝すらも盗み出したネヅミに怒った王族の命令の元、貴族の協力でとある貴族にわざと羽振りの良い噂を流し、ネヅミに狙わせたのだ。

そして今夜、ネヅミはその罠に嵌った。



「観念しろ!!」


「っ!?」



ネズミの面をつけた小柄な男は、面の下で目を見開き驚いたが、すぐにマントを翻して駆け抜ける。

宝物庫から出口は1つ、軍人達の居る場所だけだ。



(だから何だ?)



そこしかないなら、そこから抜ければ良いだけの話だ。



「な゛っ!?」



逆に驚いたのは、迷わず突っ込んで来られた軍人達だったが、流石は手練、すぐに持ち直して、ネヅミを捕まえる為に武器を各々構える。



「捕まえろ!!」



武器を振り下ろすというなら右へと避ければ良い、振り下ろしきる前に前へと駆ければ良い、横に振るなら足を前後に最大限に開いた上で体勢を前へと倒せば良い、体勢を戻すのなど後ろ足だけ戻して蹴り出した後で良い。

そうして、ネヅミは小柄な身体を活かして、全ての武器を避ける、避ける、避ける。



「行かせるか!!」



大柄の男が両手両足を開いて、出入り口の前で通せんぼするならば、



(蹴れば良い…)



同じ男として可哀想な気もせんでもないが、急所をさらけ出す方が悪いのだ。



──ゴッ、



「っ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」



避ける様子もなく、困る様子もなく、突っ込んで来たネヅミに大柄の男が困惑し、怯む隙に、男の急所を走った勢いのまま蹴りつけた。

当然のように床に転がってもんどりうつ大柄の男を無視してネヅミはついに宝物庫の外に出ると夜闇に姿をくらませた。



「今日も大漁、大漁!」



姿をくらませたネヅミは、スラム街の廃家にも見えるボロボロの家の引き戸を開けようとした。



「そうかい、そりゃあ良かったなあ」


「は?」



だが、後ろから聞こえた聞き慣れない声にギクリと肩を跳ねさせると、バッと振り向いた。



「よお、良い夜だな」



そこに居たのは、紺無地の甚平のような左右で紐止めする服に腰に太めのベルトを巻いたラフな格好のピンクがかった茶髪をハーフアップにした男が立っていた。



「誰だ…」



とりあえず、軍服ではないこと、武器を持っていないことにホッとしながらもネヅミは警戒を怠らない。



「俺か?俺は、ソルト。













──軍人だ」



──ガキン!!



「おっと、これを止めるか」


「はんっ!当たり前だろ!!誰が初対面の奴に警戒心解くかってよ!

左の脇腹に手をやる時点で怪しすぎなんだよ!!」



近寄りながら脇腹を撫でるなんて、盗みの後でピリピリしてるネヅミからすれば、警戒してくれと言っているものだった。

軍人が肉体に武器を収納出来るなんて、誰もが知ってる常識だ。

だからこそ、軍人は許可がない限り武器を下げ、肉体への収納は禁止されているが、逆に言えば、許可さえあればこうして、収納して襲撃してくるのが軍人なのだ。


だからこそ、スティレット──クナイが細長くなったような刃のない刺す短刀──で受け止めた。



「そうか」



だが武勇の妖精に愛されているソルトとそうではないネヅミとでは、身体能力も違えば、武器の強度も、それどころか武器のリーチすら勝てていない。



「わざと泳がしやがったな…!」


「ああ、他の金品も回収せよとのお達しだからな。お前の口を割らすよりもねぐらを割った方が早そうだったんでね」


「はは!お生憎様!!もう、金も宝石も全部使い切っちまったんでね!残ってるのは今回の勝利品だけだ!」


「まあ、口ではなんとでも言えるさ。それは後で確認させて貰おう」



言い合う間もソルトは攻め、ネヅミは防戦一方だったが、少しずつネヅミの武器にヒビが入る。



「終わりだ」



ガキンという音と共に、ネヅミの武器が折れるとそう言った時、ソルトはネヅミの肩を切る。



──ザク



「はっ…?」



だが、剣先はネヅミの肩ではなく、心臓を突き刺していた。


ソルトは、思わず唖然と目を見開いてその光景を見つめてしまう。

だって、身体をずらし、わざと心臓を刺されたネヅミが…、



「なん、でッ…、」



あまりにも幸せそうな顔で笑っていたのだ…。



──ガシャン



ネヅミが物を倒して倒れ込んた。



「ネヅミ?」



それを見ていることしか出来なかったソルトの鼓膜を幼い声が揺らす。



「ネヅミ!!!」



力なく倒れ込む剣の刺さったネヅミに、小さく開けた引き戸の先から顔を覗かせた12、13歳くらいの子供が目を見開いて、乱暴に引き戸を開くと、ネヅミに駆け寄った。



「ネヅミ!!ネヅミ!!!!」



そんな声に反応するように戸の先からわらわらと子供達が顔を出す。

上は10を少し超えた頃から、下は乳飲み子までいた。

最初に出て来た子は、ネヅミを抱き締めて、名前を呼びながら、冷えていく身体に必死熱を移そうとしていた。



「ッッ、クソッ!!


ネヅミの取ってきた金目当てか?ははっ!残念だな!!

ネヅミの取ってきた金は、俺ら孤児とここらの貧民達に分けられてるからもうねぇよ!!」



冷えていくネヅミに溢れ出す涙を拭って、ギッと睨んできたのは10歳くらいの幼い子供。

だが、睨みつけられた事なんて、ソルトは気にならなかった。



「はっ?」



ネヅミも、使い切ったとは言っていた。


それは、自分が贅沢したからではなく、貧しい者達に分け与えたから…?


そんな考えが思い浮かび、ガツンと頭を鈍器で殴られたような気がした。


確定ではない…!と自分に言い聞かせても、ソルトの脳裏にべったりとくっついてその思考が消えない。


悪だと思っていたのだ。

自分じゃ稼ぎもせずに、他人の金を盗んで豪遊する悪人だと…。


いや、金を盗むのは悪だ。

でも、孤児を引き取り育て、貧民達に分け与えることは善だ。

なら、







──俺は?



「人殺し!!」


「っ、」


「人殺し!!!」



そう言ってなじってきたのは、7つか8つの子供だった。

冷えたネヅミの前に立ち、ソルトにそう叫ぶ。



「隊長!!」


「やったんですね!」



遅れて仲間達が合流する。



「隊、ちょ…?」



だが、剣もなく、無防備に振り向いたソルトの瞳が、迷子の子供のように、泣き出しそうに揺れていた。



「はは…、お前、軍人かよ…」



そう言ったのはソルトを睨みつけていた子供だった。



「ネヅミは誰か殺したか!!殺されないといけないことをしたのか!!

俺達を生かすことは殺されないといけないことかよ!!

ああ、そうかい!良かったな!

保護者の居なくなった俺ら全員野垂れ死にだ!!

社会のゴミが減ってよかったな!正義のヒーロー!!」


「っぁ、」


「おい!お前!!」


「なんだ!殺すか?いいぜ、殺せよ!!」



この後、泣き叫びながら嫌がる子供達を取り押さえ、ネヅミの遺体を回収した。

ネヅミの家から押収されたのは、子供達の証言通りなけなしの端金のみで、残りの全てを子供達の食費と貧民達の食費へあてられていたことが調査の結果分かった。

そして、ソルトは、最年少で師団長へと抜擢されたのだ。



「師団長…」


「ん」



だが、そこに明るいソルトの姿はなく、最低限の仕事はするものの、1日の大半をぼんやりと過ごしていた。



「仕方なかったんですよ。どんな理由があろうと、盗みなんてした方が悪い」



ああ、盗みは悪いことだ。



「ソルト師団長だって殺す気があった訳じゃないんですし!

つーか、自分から刺さって来たんでしょ?」



ああ、そうだとも。

殺す気もなかったし、自分から心臓を刺されたんだ…。



「だから、ソルトは悪くねぇよ」


「…」



本当に…??


仲間達の言葉を聞きながら、ソルトは体育座りした自分の膝に顔をうずめた。


ソルトには、もう何もかもが分からなかった。

盗み得た金で数十人の孤児を育て、貧民達に食料を与えていたのは、善か?悪か?

何でネヅミは自分から刺されに来た?

何で最期に笑っていた?


子供達は保護されることもなく、スラム街に置き去りにされた。


俺達は、正しいのか…?



「これが俺の目指した英雄王か?」


「ソルト?」


「…いや、なんでもない」



ソルトの呟きに、心配するように眉を寄せて首を傾げた仲間達に項垂れるように俯きがちに、小さく首を横に振ってソルトは否定した。


そっと見上げた窓の先。

嫌になるほど青い空に、ソルトはひび割れた自分の心の限界を感じた。


潮時かもな…、


そう、心の中だけで呟いた。



「師団長!!!!退役するって本当ですか!???」



──バンッ!



それから数週間が経ち、師団長室を片付けていたいたソルトの居る部屋を彼の仲間達が無遠慮に開く。



「…、ああ。俺の口から言えなくて、悪かったな」


「そんなこと…、

そんなこと、どうでもいいんです!!!何で!?!!!」


「そうだぞ、ソルト!!お前がネヅミの件を気にしてるは知ってるが、アレは事故だろ!!!!」



どれだけ言い募ってもソルトは後悔の滲む哀しげな笑みを浮かべるだけだった。



「っ、」



分かっていた。

だってそれは、何度も、何度も何度も何度も、ソルトに彼らがかけてきた言葉。

だが、その言葉は一度だってソルトの救いとなったことなんてなかったのだから…。



「英雄王に…!」



それは、絞り出したような声だった。



「英雄王になるんじゃなかったのかよ!!!」


「…」



その言葉にソルトの顔から表情が抜ける。



「っ、!」



ネヅミの事件から作り物めいた微笑みをずっと浮かべていたソルトの久しぶりの真顔にギョッと1歩後ずさってしまう。



「悪いな…、


俺には、もう英雄王が分からないんだ…」


「な゛っ!?」



唖然とする仲間達の、元仲間達の肩を押して、まとめた荷物を持ってソルトは扉から出て行く。



「待ってくれ!!!!」



ああ、ゴツイ男達が涙目で、震える喉で叫んでいる。



「悪いな」



最後にもう一度そう言ったソルトは、それでももう振り返る気はなかった…。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆





「あちっ!?あちちちち!!!!!」


「「「ハナネギ!!」」」


「!」



ハナネギと村人達の焦る声にハッ!とソルは、過去へと飛んでいた意識が戻る。

ハナネギは燃えてもいない胸に手を当てて熱がっている。そんなハナネギの尋常じゃない姿にオロオロとしている。



「おいおい、ビビって仮病か〜?」



ゲラゲラと笑う山賊に違う!!とハナネギが叫ぼうとした時、コトンと物の落ちる音がした。



「へ?」



ハナネギの胸から包丁がこぼれ落ちたのだ。



「「「は????」」」



胸から現れた刃物に、本当は武勇の妖精だったのか!!といきり立つ山賊、

武勇の妖精!いや、武勇の妖精の武器が包丁なんて聞いたことないぞ?!と困惑する山賊、

ハナネギの胸から武器がー!!!どうなんってんだー!!!!と驚く村人達、



「ふ、ははは…、」



その中でソルが小さく笑う。



「ああ、そうか、そうだったんだな」



正義のヒーローの英雄王。

人殺しになった俺。

その事実は、ずっとソルを傷付けてきた。



「最初っから、正義のヒーローなんて思い上がりも甚だしいって話だったんだ」



正しく力を振るえば正義?

いいや、力なんて振るった時点で暴力で、加害者でしかない。

それなのに、俺は、力を振るいたがって、そのくせ加害者になる勇気なんてなくて、だから正義のヒーローって、英雄王って言葉で自分を正当化していたクソ野郎なんだ。



「とりあえず、殺しとけ」



その山賊の頭の言葉に部下達が武器を持ち直す。



「死ね!!」



振り上げられた剣がハナネギ目掛けて振り下ろされる。



「「「ハナネギ!!」」」



その光景に、ハナネギが切り殺される姿を想像し、目を瞑り背ける者、ハナネギを庇おうと駆け寄ろうとする者、村人達が各々動くが、縛られた彼ら彼女らに出来ることは少なく、庇おうとする者も間に合わない。



──ブチリ


──ガキンッ!



「なっ!!」



誰もがハナネギの死を確信したその時、縄がムリヤリ引きちぎられる音と共に、高い金属のぶつかり合う音が響く。



「ありがとな、ハナネギ」



ハナネギを庇ったソルの手には、初めて見る剣。



「武勇の妖精の加護か…!」



忌々しげに山賊の男がソルを睨みつける。



「ああ、そうさ」



くるりと掌や甲を使い、ソルトは馴染む剣を縦に一度回してみせる。



「ソ、ル?」



庇われ、驚いているハナネギに、二ッとソルは笑いかける。



「お前のおかげで一番大切なモンが分かったよ」


「大切なモン?」


「ああ…、

俺はずっと自分が振るう力を正当化したがるクソ野郎だったんだ。

だから、自分が正しくないかもしれないと思った瞬間、加害者になると思った瞬間、力を振るうのにビビっちまった」



ガキン、ガキン、と山賊達の攻撃を受け流しながしながら、ソルは、ソルトは、ハナネギへと語る。



「でも、大切な人達殺されかけてんのに…、それでも自分可愛さに大切な人見殺しにするなんて、

んなもん、加害者以下のクソ腰抜け野郎だよなあ!!!」


「ガハッ!」


「くそっ!」


「きゅ、急にコイツ強くなりやがった…!」



その言葉と共にソルは、ソルトは、山賊達へと切りかかる。

まさかの反撃に山賊達がビビるも、ソルトの猛攻は終わらない。

切る、受け止める、切る、避ける、切る、切る、切る。



「チッ!死ね!!」



最後にそう言ってかかってきた山賊のボスを切る。



「ふぅ…、」



そうして一息吐いた。



「大丈夫だったか?」



そして、唖然としてるハナネギや村人達にそう首を傾げて問いかけた。



「そ、ソルー!?!????おま、ソル!!!!」


「え???強、強いな、いや、強いだろうとは思っていたが、想像の100倍くらい強いな!!??」



えええー??!!!!と山賊達を武装解除して縄でガッチガチに縛った後、縄をときに来てくれたソルに村人達が言葉をかける。



「ソル!!!お前、なんであんな強いんだ!!!」


「うおっ!」



村人達の縄をとくソルトにハナネギは、後ろから突撃しながら聞く。

強い、強い、とは思っていたが、それは、荒事に慣れていない村人基準で、まさか荒事に慣れてる山賊を制圧するなんて思っても見なかったのだ。



「あー、」



そんな村人達やハナネギの反応にソルトは苦笑する。



「俺、元軍人なんだ」


「「「そりゃ強いわな!!」」」



ポリポリとこめかみを掻きながら言ったソルトの言葉に村人達は納得する。



「元っことは、もう辞めたのか?」



ハナネギにジッと見上げられ、ソルトは苦く笑う。



「ああ…、


そのつもりだった」


「え?」



だが一度、目を閉じて開いたソルトの笑顔は晴れやかだった。



「ハナネギ、お前のおかげだ」


「俺のおかげ??」



何言ってんだ??と不審なものを見る目で見てくるハナネギにソルトは吹き出す。

そんなソルトの反応にハナネギが食ってかかる前にソルトの方が口を開く。



「俺ももう一度、英雄王を目指す。

まっ、元々ただの休職中だしな!」


「な゛!!英雄王になるのは俺だぞ!!」


「ははは、俺の方が強いし、大きいし、軍人だし、英雄王に近いぞ」


「そんなん今だけだ!!すぐに追い抜いてやる!」



ギッと睨みつけてくるハナネギに、最後の村人達の縄をといたソルトがしゃがんで向かい合う。



「そうか。なら、待ってる。

8年、お前が15歳なったら軍の入隊試験を受けに王都へ来るのを」


「え?」



そう言ったソルトが憑き物の落ちたような酷く穏やかな笑顔で笑っていたから、何よりも、そんなことを言って貰えると思っていなかったハナネギはポカンとしてしまう。



「いいか、強く願え。お前の武器はお前の胸の中にある」


「武器?

…あの包丁か?」



だが、そんなハナネギにソルトは優しくも強く言葉をかけた。

そして、ソルトの言葉に、いつの間にか幻のように消えた包丁を思い浮かべて、ハナネギは眉を顰める。



「包丁でどうやって戦えって言うんだよ」


「それが包丁なのは、まだハナネギが未熟だからだ。

妖精の武器は持ち主と共に成長する。

俺の武器だって最初は短剣だったんだぞ」


「そうなのか!!」


「ああ、それが本当に妖精の武器だって言うなら、ハナネギが強くなれば、武器も形を変える」


「なら俺の武器もカッコイイ剣になるんだな!! 」


「ん〜、それはどうだろうな…?」


「おい!!」



ソルトの言葉に目を輝かせたハナネギは、だが最後のソルトの言葉に話が違う!!と抗議する。



「つってもなぁ〜。家政の妖精から武器が出るなんて前代未聞で俺だって聞いたことないんだよな〜」


「ないのか?」


「ないな」



むぅ…。と左手を顎に当てて分かりやすくかんがえるポーズをするハナネギだが、情報が無さすぎて推測すらも立てられない状況なんだけどな?とソルトは苦笑する。



「まあ、でも、元々家政の妖精で軍人を目指す予定だったんだ。成長するかも??ってもんが手に入っただけラッキーラッキー」


「ぐぬぬぬぬ…!!」



ソルトの言い分もその通りなのだが、どうせならカッコイイ武器が欲しいとハナネギが唸る。



「ありがとな」



そんなハナネギの頭を最後にポンと撫でると立ち上がったソルトは、数日後、山賊達を連れて村を後にした。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆





8年後。

ハイ村の森の中。



「おりゃぁあああ!!!!!!」



──ザシュッ



「ぐぉおおおおお!!!!!!!」



──ドッシ〜ン!!!!


地鳴りのような音を立てて巨大な熊が倒れる。



「ふぅ」



汗を拭ったのは、黒く硬いツンツンとあちこちに跳ねた髪の少年。

15歳になったハナネギだった。

ハナネギの手には、あの頃とは違う大きな包丁。

鮪切包丁と言われるそれと類似した形と大きさまで成長していたのだ。



「『施錠ロック』」



その言葉と共にハナネギは、鮪切包丁を自分の胸へと納める。



「怖ぇよ!!」


「なんだよ急に」


「「なんだよ急に」じゃねぇわ!いつも言ってるわ!!」



草むらから出てきた、昔馴染み猟師のおっちゃん達は、面倒臭そうなハナネギに抗議する。



「包丁胸にぶっ刺すんだぞ!!怖ぇだろ!?」


「俺の武器だから刺さってねぇよ?」


「分かってても怖ぇわ!!」


「理不尽!!」



なんて言い争いをしているハナネギと猟師仲間にそのうちの一人が苦笑する。



「でも強くなったなあ…」


「いやホントにな。熊相手に剣で戦うなんて正気の沙汰じゃねぇよ」


「その上、勝っちまうしなあ?」



ソルトが居なくなった後も、ハナネギは毎日素振りを欠かさなかったし、兎を狩ってくるようになったかと思えば、どんどん獲物が大きくなり、今じゃ、熊を剣、もとい、包丁一つで狩る村の大事な猟師の一人だ。



「やっぱ、軍人なるのやめねぇ?」


「やめない!!って、あ゛!!もうこんな時間じゃねぇか!」



日がすでに空の真上まで登っていた。



「じゃあ、もう行くな!」



雪が解け、目覚めた熊達が村を襲わないように間引きするのが、今年の王都で行われる軍の入隊試験を受けるハナネギのこの村での最後の仕事だった。



「おう、気を付けてな〜」


「村には挨拶してけよ」


「おう!」



猟師達の言葉に頷いて、ハナネギは駆け出す。






「待ってろよ、王都!待ってろよ、軍!

俺が英雄王だ!!」










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BLESSED[ブレスト]〜家政の妖精に愛されてるけど、俺は英雄王になるんだ!!!〜 景山 斐雲 @akira_2654

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