不敬

@NakanoHigashi

第1話 過去

全ての生物は進化し続けている

どんなに些細な変化であっても

脳がとらえた衝撃を無視することはできない


ある日、とある学者は気づき考えた。


時間とストレスとの掛け算である暮らしに割り算を知る者がいることに。

夕方 

有益さを追求するのが金持ちならば、無益に興じ同じことを同じように繰り返すのが貧乏人なのかとも企んだ。


後者である自覚を持った学者は自分を忌み嫌うようになり過去を払拭しようと試みたが、溢れる嫌悪は自分に対するものにとどまらず、共に時間を過ごした周囲の人間にまで及んでしまった。

それを見ていた一人の学者は滑稽に思う傍、過去を懐かしむ度に悲しみに耽りどうにか彼を考えさせようと試みた。

2人は研究室で価値観をひけらかし合い、時に詰問しあった。


人は人の上に人を作らないって誰かが言ってただろ?

何か勘違いしてないか?お前


何を勘違いしてるんだよ

俺は事実に反応してるだけだ


少しは謙虚になれって言ってるんだよ


建前だけなら猫も謙虚さ


議論が平行線を辿るようになった時

2人の学者は友人関係において向上心を見失いお互いを蔑み合うようになってしまった。



とある日落ち度を嫌う学者は飼い猫を自らの手で衝動的に殺め、寛大な友人への殺意を自覚してしまう。

一方で友人を諭そうと試みた学者は、可度の自尊心や嫉妬心は人間の思考を抑制するという内容の論文を良かれと思い自身のラボで発表した。


友人のラボには殺意を抱えた学者の恋人が在籍していて、最近の彼氏の人を見下した卑屈な言動に霹靂していた。

彼女は彼の思惑通り感銘を受けた論文の要旨を口論の拍子に伝え

突き放されたように感じた学者は自らを惨めに思い、弱気な内省の末に2年と3ヶ月間寄り添った彼女に別れを告げ現状を打破しようと新薬の開発に着手する。



そして1年半後ついに興奮剤 ispの開発に成功する。

動物実験は彼の強い希望により、アマゾンに自生するライオンの親子に対してとり行われた。


投薬して5時間経過した生後一週間のライオンは授乳を高い頻度で求め、母に近づく全ての動物に強く攻撃的になったように見えた。

投薬10時間後、拙い赤ちゃん歩きから自由な歩行が完全に可能になったライオンは虫を追いかけ回し母の注意を掻い潜り湖に飛び込みワニに食べられてしましまった。

動物の本能的活動を加速させる効果のある薬だと学者たちは考えたが、危機回避能力が著しく低下し理性を失うというリスクを指摘され実用化には至らなかった。


自らの意思に殺意があることを認識していた開発者は、恐怖を覚えていたispを自身へ投薬することを恐れていた。

しかし研究に多額の資金を提供していた京東大学の重役の差し金で、彼はは短期的な少量投与の実験台にされてしまう。

自宅にある、まとめ買いをしていた愛飲している栄養ドリンクをispを3mg混入させた物に入れ替えるという手口は日常に対する注意を掻い潜り

一度怠け者と強く蔑んだ過去の友人達に密かに心配されながらも、学者は過去など一重に忘れ孤独に身を削り研究に励んだ。

しかし納得できるような革新的なアイデアはなかなか浮かばない。

不意に自身のキャリアに対する焦燥感と真面目な家族思いの性格が彼を社交の場へと向かわせた。


強い懐疑心は彼に関わる全ての人間に向けられ、特に実用的な成果のない学者が招かれた夜景の見えるレストランでの立食パーチーはとても楽しいとは言える時間でなかった。


しかし冷静が故に社会での可能性がゼロではないことに気がついた学者はこの永遠に思えるような退屈をどうにかできないかと考え始めた。

上下社会でのプライドや漠然とした成功に対しての憧れは彼の心中にはなく

社交的な人間との全てのコミュニケーションに対して霹靂してしまう。

そこで彼は目的に対する理性のみを覚醒させ、ストレスに対して一定のな処理速度で思考できる薬剤OTMの開発に取りかかった。

しかしそこには1つの懸念点がうかびあがった。

もし理性なくして持った目的を遂行する人間の手にotmが渡れば最悪の結果を招き寄せるのではないか


そこで学者はうつ病や因果のあるパニック障害の患者向けの薬剤としての用途を提唱した。

理性の覚醒した状態で自らの精神を分析することが、内面的な損傷の根本的治療でありこれまでにないカウンセリング体験を生み出せるのではないか

といった趣旨である。

認知症の治療にも使えるのではないかと考えた。


彼の研究は製薬会社の投資の的になり、OTMは完成後すぐに製品化。

一世を風靡する知的な向精神薬として流通したが、投薬後に自殺を試みる患者が後をたえず発売後2週間で流通停止。

規制薬物として認知症の末期患者の家族と本人の同意がある場合にのみカウンセリングの目的で投薬される劇薬として扱われるようになった。


しかしOTMは大量に闇市場で流通しサラリーマンを始め多くの人々の生活に癒着してしまった。

3倍速で早送りにしたような世界での暮らしは淡々としていて安全であり、無駄なコミュニケーションが捨て場に困るほど手放された。

学者は自らの手でうんだ薬剤が引き起こした社会の変化を目の当たりにし、過去の友人に懺悔をした


俺は人間を壊す人間になってしまった

発表した薬は人間が持つ問題をすり替えるような代物だ。


すると重く軽やかな沈黙を友人は気楽に裂いた


聞いたか?

その薬で自閉症の子供が天才児に生まれ変わったみたいだぜ

包丁を作ったやつは人殺しか?


さあ


お前は薬物療法を発展させた一人の学者にすぎない。


そうかな


浮かないやつだな 試しに今俺たちが被験者になってみないか?


うーんやめとくよ


そうか


お前と話していたら少し楽になった


眠れそうか?


ああ ありがとう


じゃあ俺は行くぞ


じゃあな


2人の学者の声が重なった少し後に薄いドアが静かに閉められた。


素晴らしいやつだ


罪悪感との戦いは終わったわけではないが 

私は少し肩透かしを喰らったような心持ちで椅子にただ座ってみた。

部屋の隅に目を向けると気がチッて仕方がなくなったので、水を飲もうと椅子から立ち冷蔵庫の元へと向かったわけ。

暗いへやに舞い込んだ金色の風は錆びた鉄のような自分の体と気概が発する雰囲気を、鮮明に認識させてくれました。

そんなことを思った道すがらに

自分に成功をもたらした忌々しいotmという名の錠剤を目にした。

私はおもむろに,それを銀とプラスチックの包装から取り出して水で飲んだ。

そしてこの手記を綴る迄に至ったのです。

愛なき時代と嘆く愛を忘れた愚かな同胞に送ります。


End

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