第10話:異世界観光と大喰らい
次の日、リサを誘って出かける。
村の商店で食材を買うつもりだったが、フロラドの計らいで中心街までフィーに乗せてもらって悠々空の旅だ。
中心街の周りに衛星のようにくっついている村々の一つがリサの住む村だが、街までは歩いていける距離ではないので俺は初めて行く。
「ミク、食材なんて買ってどうするの? まさか料理してくれるの?」
「うん、そのまさかだよ」
「えー! なに作るの?」
「内緒ー!」
本当のところはまだ決めかねているというか、食材次第だ。
「ミミックが作る料理なんて想像付かないな」
「というか本当に作るれるの? 精霊界には食事なんて概念ないじゃない」
「前世の記憶があるんだ」
「「「えええええ!?」」」
特にもったいぶる話でもないと思ったけれど、想像以上に驚かれた。
むしろ簡単に信じてくれることにこっちが驚く。
前世が人間であり、記憶は断片的であることを説明しつつ、俺は街に着くまで質問攻めされることになってしまうのだった。
「さあ着いたよミクさん」
「わあ、人がたくさんいるね~。 楽しみだねミクさん」
「空の旅はどうだったかしら、ミクさん?」
「やめて~お願いだから今まで通りにしてください~」
二回目の人生だからある意味先輩だ、という話からイジられ続けている。
もちろん空の旅を楽しむ余裕なんてなかった。
「ごめんごめん、ミクの反応が面白くてやりすぎちゃった」
兄の帰省があって、さらに久しぶりのお出かけとなってリサは相当浮かれているんだろう。 見ているこっちまで幸せになりそうな表情を見れたから、イジられても気にならなかった。
「いいよいいよ。 それより早く行こうぜ!」
「うん!」
リサを急かして街へ入る。
雑多な人種や見たことも無い生き物が引く荷馬車が通り過ぎていく。
道端では魔法を使った大道芸に子供たちがはしゃいでいる。
「まるでお祭りみたいだ」
「お店がいっぱいあるね」
「適当に観光しつつ買い物していこうか」
興味津々の俺たちに苦笑いしてフロラドは先導してくれる。
「と、その前にフィー少し小さくなってくれる?」
「あなた本当にデリカシーがないわね」
確かにフィーは体が馬のように大きいため、街歩きには不便だろう。
力のある精霊は姿を自由に変えることができることは知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
呪文なんて無かった。
「これでいいかしら?」
一瞬の発光、瞬きの間に姿が変わった。
翼と足はそのまま獣の特徴を残した、半人半獣姿のをしている。
「うわあ、すっごい綺麗!」
「ありがと」
(いいな、俺もしたいなあ)
俺は密かに羨みつつ、新たな目標を抱くのだった。
道中で買い食いしつつやってきたのは冒険者ギルドだ。
「思ったより静か」
「冒険者仕事は朝早く出て、日暮れ前に終わるのが基本だからね」
夜になれば視野は狭くなるし、柄の悪い連中も動き出す。
以外にも健康的な生活リズムで驚いた。
「ここにあるのが常設依頼だよ」
薬草採取だったり、害獣の駆除であったり、掃除だったり、これぞ異世界といったラインナップだ。
「ランクに応じた依頼は受付で紹介してもらう仕組みになってる。 ちなみに僕は三級だよ」
冒険者のランクも精霊と同じ一から十あり、六級あれば金にはそう困らないレベルらしい。 三級ともなれば地方ならトップレベルの冒険者にもなれる。
「身内に自慢してどうするのよ」
「知らない相手に持て囃されるより、リサに尊敬される方がずっといい」
それからフロラドの母校であり、リサが興味のあった学校の校舎を見に行ったり、
この国で最もメジャーな精霊を崇める宗教の教会へ行ったり、観光を楽しんでようやく俺の目的地へとやってきた。
「遠慮しないからね?」
「任せなさい」
俺はフロラドの言質を取って、商店を次々に覗いていく。
「じゃあ、これ、これと、これも」
「うんうん」
「おおー! こんなのもあるんだ!」
「いいよいいよ」
「おじさんここにあるの全部ください!」
「えぇ……?」
買った食材は自分で収納していく。
ミミックの唯一の能力ともあって、今の俺でも容量はかなり大きい。
「豆なんて大量に買ってどうするのさ」
「趣味で家庭菜園でもしようかと思ってね」
食材以外にに調味料やら、種やら、酒やら色々買ってもらってホクホクだ。
本来ならさすがに遠慮するところだが、演技と言えど殺されそうになった賠償と思えば安いモノだろう。
「料理の味は保証するから楽しみにしてくれていいからさ!」
最弱の精霊に転生したけど強くなりたい~異世界精霊と泣き虫の魔女~ すー @K5511023
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