呪われた子。#4

 本当の愛。そんなものこの世に無かったと思ってた。だけど今、ここにあった。熱くて、冷たい、ここで、呪いが解けたと感じる。私は朦朧とする意識の中で、そう感じていた。



「恭子様。大丈夫ですか?」

「………」

 カーテンを通過して部屋に届く斜陽の光は力無く、部屋の明かりにかき消されている。


「恭子様。何があったんですか?」

 冬のしっとりとした空気は吐く息を白く染め、暖かな温もりも求めさせる。


 焦点の合わない視界が歪む。家に帰ってから脳は思考をやめ、完全に病んでいた。


「お願いします。話だけでも聞かせてください。」

 理央さんが部屋の隅で体育座りしている私の手を両手で握る。何か言おうと口を開けるが、乾いた唇はめくれるだけで声は出なかった。


ピーンポーン…


 家のインターホンが鳴る。理央さんはもう一度私と目を合わせた後、外の様子を見に行った。


 秋田くんの苦しみを気付けなかった私が本当に秋田くんを思っていたのだろうか?私の自己満足だけじゃ無かったのか。そんなマイナス思考な考えが頭の中を輪廻する。


 今思えば気づくポイントはあったのかもしれない。テストの点も日にちと時間を重ねるごとに悪くなっていたと感じる。そんな反省今したところで意味はないけど。


「いやっ、ちょっと、警察呼びますよ。」

「黙れ。お前に何がわかる…」


 玄関の方で声がする。何の話をしているのか?警察?反射的に頭は動いても体はそこから1センチたりとも動かなかった。


「何しようとしてるか分かってます?一回落ち着きましょう。」

 理央さんの声。怯えていて、震えている。理由はわからないけど、様子を見に行ったほうがいいかもしれない。


 そう思って玄関に向かう。リビングのドアを開けた時、訪問してきた人と目が合う。相手は父だった。やつれていて、目の下にクマができている。ヒョロヒョロでいつもの父の貫禄は見当たらなかった。


「お前だ、お前のせいだ。お前のせいで玲奈は…お前さえいなければ…」

 父は明らかな殺意を混ぜた声を私に浴びせる。ただ、何が起こったかわからない私はどうすることもできず、何も感じなかった。


「恭子ちゃん逃げて!」

 心の底から咄嗟に出た言葉なのだろう。「様」付けでは無くなっている。その言葉が合図かのように父は私に向かって走ってくる。


 父の左手に持ったものがナイフだと気づいた時には私はリビングに向かって逃げていた。

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