死にたい子は死ねない子#終

 私の周りの人はみんな優しかった。ただ、私が酷い人間だったから、周りから人はいなくなった。呪いも愛もどこか似ている。理由もなくそんなことを感じた。最後に守れた1人を見ながら私はそっと目を閉じた。



「待て、お前が玲奈と電話してから、また症状が悪化したんだ。なんで喋った。親不孝な奴め、」

 モンスターの如くゆっくりとただ、着実に近づいてくる父の殺意は到底推し量れるものでは無く、目に宿った感情は憎しみ以外の何者でも無かった。


「お母さん、嘘。また、私が殺した…」

「お前が死ねば回復するかもしれない。お前なんかいらない。」


 体に水分なんて残っていないはずなのに瞳に水が張る。落ちることなく、馴染むその水滴は視界をぼやけさせ、父の顔にモザイクをかけた。


「バカじゃないの!そんなわけないでしょ!」

 後ろから走ってきた理央さんが父を左に押し倒す。そして叫び続けた。


「あんたが今することはそれか?ふざけないで!今恭子ちゃんがどんな気持ちかわかってる!?親が言っていい言葉じゃないでしょ!」

 父も負けずと理央さんを押し返す。理央さんの訴えには聞く耳も持たず、理央さんを反対側の机まで蹴り上げた。


 理央さんは「いったぁ」と呟いた後、父を睨んだ。私はどうすることもできずただ立ち尽くしていた。


「死体が増えるのは面倒だ。辞めてくれ。」

「絶対に諦めない。」

 理央さんが立ち上がる。父は何かを決心したかのように視線を動かし、ナイフを振り上げた。


 そのナイフは明らかに私の方を向いていなかった。その刃の的は理央さんの脳天を目掛けていた。


「恭子ちゃん。ごめん。逃げて。」

 その声とほぼ同時に血飛沫が上がる。


「理央さんに触るなぁ!クソジジイ!」


 脇の下に血が流れる。私が理央さんを庇うほうが早く、私の荒げた声と共に父に向かって走り出していた。


 結果、その刃は理央さんの直前で止まり、私を串刺しにした。脇の下から絶えず流れる血、そのまま私は父の方へと倒れた。


 朦朧とする意識と朧げな視界でも頭だけは最後の力で動き続けた。傷口がひどく熱く、血が抜けていく手や足は少しずつ熱が引いてゆく。


 呪いが解けたのが体で分かった。それが死んだからか本当の愛を手にしたからなのか、どちらかといえば後者な気がする。


 私はずっと死にたかったのかもしれない。自殺ができなかっただけで何度も死のうとした。その思いが父に届いたのか…


 歪な形の家族愛。それでも「愛」は「愛」だった。私は理央さんの無事を確認するとゆっくりと目を閉じた。


「今、そっちに向かいます。」


 心の中での呟きは誰かに届いたのか、それは彼女にしかわからない。




     死にたい子は死ねない子−–(完)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る