もう涙は止まらない#4
私たちの恋愛が本当の愛ではなかったのか。哲学じみたその質問の答えは私の呪いが解けないことで何と無くわかっていた。私たちの関係は若かりし頃のお遊びにしか見えないのかもしれない。
実際そうだったのかもしれない。それでも私は本気だった。本気で秋田くんのことが好きだった。
「ねぇ、秋田くん!秋田くん!」
強く肩を揺さぶる。起きる気配は全く無く、血の気が引いた顔は青白くなっていた。
「誰か!救急車!お願いします!」
泣き叫ぶ。何もできなかった香織の時とは違う。私は成長したはずだ。いろんな時を過ごして、理央さんの看病も通して、人の力になれるよう努力したはず。
「ごめん…嘘…ついてた…」
小さく、細い声が細かに響く。膝枕状態の秋田くんは少し照れながら謝った。
「なんで…なんで無理するのよ…お願い。私をひとりにしないで。」
「大丈夫…俺はこれからも恭子を見守るから。」
「そんなのいい。そんなのいいから無理しないで。」
涙は秋田くんの服を濃く染める。少しずつ広がる涙のシミは雨のように馴染んでは薄くなっていった。
「大丈夫ですか?もうすぐで救急車が到着します。そっち持って。」
園の医療関係の人かどうかは分からないが、タンカを持って入口に秋田くんを連れていった。
私ももう1人のクルーと一緒に入口に向かった。救急車が到着する前に私はその人に秋田くんの名前や年齢を教え、秋田くんの父に連絡すると教えられた。
救急車に連れられ病院まで行った。すぐ近くに病院があったため、数十分もしない間に病院に着いた。
救急車の中では緊急処置やら心不全やらの聞いたことのある言葉と難しい言葉が飛び交い、私の不安は着々と募っていった。
大丈夫。大丈夫。何とかなるはず。心にそう言い聞かせる。ヨロヨロの足でオペ室の前の椅子に座る。
それなりに時間も遅く、理央さんに「今日は遅くなる。」とだけメールを送って、電話をポケットの奥底にしまった。
秋田くんはその人じゃなかったと理解していても、納得できなかった。そんな素ぶり何一つ見せず、苦痛に耐えて、私と接してくれていたのか。
自分の弱さと惨めさが浮き彫りになり、脱力感が襲う。自己嫌悪に陥ってもどうにもならないことを知りながら私はただただ、呪われた自分を呪った。
「秋田くん…」
漏れ出た息はまとまらずに夜の病院に散らばる。緑色に染められた廊下を眺め、涙を堪えた。
ただ、医師に呼ばれ、絶命だと知らされた時は雫が頬を濡らして、乾かなかった。
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