そしてお別れ#3
人の強さは、時に弱点になり得る。だから人の強さ、すなわち優しさは弱さでもあり、短所でもある。強い人は人の弱さをも受け入れてしまう。そして私は強い人にはなれない。だって、弱い私は人の弱さなんて受け入れられないから。
「綺麗だな。」
そっと秋田くんが上を見上げ呟く。籠った白い息が煙のように霧散する。
「本当に綺麗。」
私も同じ方向を向き、心を一つにする。冬になり枯葉の落ちた木々に巻きつけられたランプたちは夜空の星と一緒に青く光っている。
秋田くんの首元には私がさっきプレゼントした赤色のマフラーが巻き付けられている。私が編んで作ったものではないがそれでもプレゼントして良かったと言う気持ちになる。
私たちはそっと手を握り合った。私はチラッと秋田くんの顔を見る。前のように赤くなっていない。暗くてよく見えないが青色に光るイルミネーションを反射し青白く染まっていた。
「寒くないか?」
「ええ大丈夫よ。」
「そうか、、」
手を繋いだまま、ずっと奥まで続いている光のトンネルを歩いた。言葉は交わさずとも握った手からお互いの温もりを感じていた。
長かったはずの光のトンネルもすぐに抜け、次は満点の星空が私たちを照らす。
「山梨、いや、恭子っ、、、」
「えっ?」
私は急な下呼びに驚く。秋田くんは顔を驚くほど真っ赤にさせていた。
「キス、、してもいい、、かな、、?」
左手で口を被せ、照れながら、勇気を振り絞ってそう言った。私は声には出さず、コクッと顔を縦に振った。
そしてその顔は下がったまま上に上げることは出来なかった。イルミネーションが眩しいからだ。と、恥ずかしい気持ちに言い訳し、私はまだ俯いたままだ。
秋田くんが近づいてくる音がする。
「すーっ」っと大きく息を吸うのが聞こえてきたと同時に両肩を優しく、でも力強く掴まれる。
私は秋田くんに身を任せるように目を閉じ、上を向く。恥ずかしさを押し殺すためか、秋田くんの肩を掴む力が少し強くなる。私は薄めで、目を開いた。一気に外の光が目に入り込む。
私も秋田くんも、小刻みに手が震えている。
ゆっくり秋田くんの顔が近づく。周りの音は一切聞こえない。もう目と鼻の先まで近づいた。秋田くんの少し荒い息と、身体中の熱が体に伝わってくる。
そして--
私は初めてのキスをした。熱かったそして心臓の音がうるさかった。バク、、バク、、と高鳴る鼓動が体に伝わる。秋田くんと触れ合った部分から、熱が身体中を駆け巡る。その間も私たちの唇は離れることがなかった。
私はそっと目を開ける。さっきまで肩を持っていた秋田くんの右手は私の後頭部を支えている。秋田くんの耳は真っ赤だった。ここだけはクリスマスでも、夏のようだった。
触れていた唇の感触がなくなる。そして私はゆっくりとイルミネーションの世界に舞い戻る。私の後頭部を支えてくれていた秋田くんの右腕がするりと落ちる。
バタッっ、、、、、
そして秋田くんは地面へと倒れ込んだ。
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