恋人#10

 楽しい時間はすぐ過ぎ去る。苦しい時間も、その時は長く感じるが、終わってさえ仕舞えば案外早く感じるものだ。何もない日常も同じことの繰り返しであっという間に過ぎ去る。

 どんな時間でも過ぎ去るのは早いらしい。



「なんか、、、アレだな。」

「コーヒーカップをチョイスしたのは間違いだったわね。」

「楽しくないわけじゃないんだが、、」

「物足りないね。」

 私たちは小さなカップに座り、向かい合った状態でクルクル回る。ちょこんとただ座るだけで面白味がない。なんなら恥ずかしさも出てくる。


「子供の頃は楽しかったのにな。」

「そうね、、、、」

 少し昔のことを思い出す。何度か家族で遊園地に行ったことはある。でもそれも古い思い出。子供の頃は無邪気でなんでも楽しかった。いつからか、小さい幸せを幸せと感じなくなったのわ。いつからか、大きな絶望を繰り返すようになったのわ。


 私はデート中なのにも関わらずそんな暗いことを考えていた。

「あんま楽しくなかったか?」

 不安気味になったのか、秋田くんがそう尋ねてくる。その体に対しては「ううん、ちょっと考え事」と返す。面白みもなく、相手を悩ませるだけのどうしようもない返事。私はやはり、人との関わりが上手くない。


 それでも秋田くんは、「そっか、たいした力にはなれんがなんでも言ってくれたまえ。」

と少量の面白みと安心を備えた言葉をかけてくれた。


「どうぞー」

「あっ、はい」

 私と秋田くんは観覧車のゴンドラに乗り込んだ。私たちが乗る時も観覧車は止まることなく動き続け、すぐさま空中へと運ぶ。


「すごい人ね。」

「クリスマスだしなー。」

「みんなイルミネーション見るのかな?」

「ちょっとは人、減ってくれるとありがたいが。」

「そうだね。」


 私たちは地面を見下ろし人の動きを見る。まだ3時半過ぎ、こんな空が青い時の観覧車は興味がないのか観覧車の列は並んでいない。少しゆっくりとご飯を食べた人が出てくる様子が見える。


「夕陽、見なくてよかったのか?」

「並ぶのもしんどいしね。やりたい事は早くしたい方なの。」

「我慢強そうに見えるのに。」

「全然、そんな事ないわ。」

 そう言って窓を見る。もう観覧車は頂上へ着いていた。近くのビルよりの屋上が簡単に見えるほど高くて、少しゾッとした。


「はい、コレ、クリスマスプレゼント。」

「げっ、、、って、今かよ。」

「言ったでしょ。我慢強くないの。」

「そうか、だがすまん。俺、なんも持ってきてない、、」

「誕生日のお返しみたいなものよ。ちょっと期待してたのは内緒にしといてあげるから、感謝しなさい。」

「内緒になってないし、ほんとにすまん。」


 実際、誕生日を自分で調べてまでプレゼントを送ってくれた秋田くんに期待していないといえば嘘になる。でも、人として強欲ではいたくない。だからそれほど気にしていない。


私たちはその後カフェで休憩を挟み、ショーを見た後イルミネーションを残すだけとなった。

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