恋人#7
もう少し二学期も終わる。楽しくも悲しくもあった一学期。別れと成長のあった夏休み。初めての恋人ができた二学期。時間は過ぎてゆき、いつか、あの辛い過去も忘れる日が来るのだろうか。
「よーし!終わったー!一緒に帰るぞー!!」
「ええ、」
もう11月も中頃に入り、後一ヶ月後には期末テストが控えている。スポーツの秋。食欲の秋。と言うが運動会シーズンは過ぎ去り、松茸や鯵の旬も終わり冬前の準備のように感じる。
2人でいつも通り話ながら校門をくぐり、少し先にある信号までゆっくりと歩いた。
「じゃ、ここで。」
「あーちょっと待った。俺もうちょいついていくよ。」
そう言ってふんわりと笑った顔は秋なのにも関わらず温かみがあり、私を春へと連れ込んだ。
「よし、誰もいないな。」
「え?」
秋田くんが何かそう呟いたと思った。そしてそう思った時、ぎゅっと私の左手に温もりを感じた。
「ちょっと、、え?」
困惑を隠せずビックリしてすぐに手を引っ込めた。
「ごめん、、嫌だった?」
「そうじゃなくて、、ビックリしただけだから。」
そう言ってゆっくりと手を下ろす。
「捕まえたっ!」
私の降ろした手をすぐさま掴み上げ、さっきのように笑いかけた。
「女子と手を繋ぐの初めてだ。」
秋田くんは顔も真っ赤で手もとても熱かった。理央さんや香ちゃんとは違う。逞しくて、少しガッチリした手だった。
「ちょっとぉっ、、、、、」
私は目を合わせられなかった。おそらく、今の私の顔は人に見せられたものじゃない。
「あそこ行くか。」
そう言って私の手を握っていないもう片方の手で指を刺したのはこの前香ちゃんと話した公園だった。
「うん、、、」
私 は下を向きながら返事をしてベンチに向かった。ベンチに座ってすぐ手を離された。少し寂しように思えたし、今まで握っていた温もりが逃げていったようにも感じた。
そして隣でカバンをガサゴソしている秋田くんを見つめる。勇気を出して手を握ってくれたと思うとこっちまで恥ずかしくなってくる。
「これ、やる。」
「え?」
綺麗な赤い包装で包まれた薄い箱を渡される。
「さっきから驚いてばっかだな。今日お前、誕生日だろ?」
「何で知って、、?」
「俺様だぜ?もちのろん知ってるよ。」
さっきまで真っ赤だった秋田くんの顔が今では嘘のようにいつも通りになっている。いや、まだ赤い。耳が真っ赤になっていた。
「開けていい?」
「いいぜ?」
「何これ?」
「被ってみ、」
それは綺麗に折り畳まれた水色のスポーツキャップだった。
「何でこの時期に、、」
私の頬にゆっくりと冷たい感覚を感じた。
「おい、泣くなって、悪かった。季節外れすぎたよな。」
「違う。そうじゃないの。ただ、、、嬉しくて、、」
私はそう言って帽子を優しく抱きながら秋田くんの胸の中で静かに泣いた。
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