使用人#6
生まれた日。ただそれだけだった。ロウデフも特にケーキやプレゼントなどを贈ることはしてなかった。私自身も特に特別に感じることもなく、人の誕生日も祝うことはなかった。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
奥の方から声が聞こえる。私は靴を揃え玄関にある鏡に目をやった。
「ちょっと目元腫れちゃってる、、、」
静かにそう呟き鏡に顔を近づける。鼻も少し赤くなっていた。
私は両手で大切に水色のキャップを持ちながらリビングに向かった。
「お誕生日、おめでとうございます。」
私はビックリして2、3歩後ろに下がった。リビングは綺麗に装飾され、理央さんは小さめのケーキを持っていた。
「ツッ、、」
私は嬉しさの余りよろけてしまい、理央さんはそれを見てすぐにケーキを置き私の肩を支えてくれた。
「ありがとう。」
私はそう言ってギュッと理央さんの背中に腕を回した。なんて幸せなんだろう。
「いえいえ、あと気絶しないうちにこれを、、」
理央さんから白く小さい箱を手渡された。私は蝶々結びされた片方の羽をゆっくりと引っ張る。紐から解き放たれたように箱がぱかっと開き中からリップクリームと香水、ハンドクリームが顔を出した。どれも小さく、持ち運べるようになっていた。
私はその三つを小さな手で握り胸に当てた。じんわりと涙が滲んだが溢れることはなかった。でも私を支えてくれている人への気持ちは止まることなく溢れ続けた。
「ご飯、食べましょうか」
理央さんも半分は泣いて、もう半分は笑ってそう言ってくれた。その後はいつもより豪華な夜ご飯とデザートには理央さんが作ってくれたケーキを2人で食べた。
自分の中には枯れた木のような、どうしようもないものしか残ってないと思っていた。でも自分の中には無かった温もりが、理央さんや秋田くん。そして香ちゃんにロウデフ。みんなが私の枯れ木に火をつけてくれたおかげで火が灯った気がした。
プルルル、、プルルル、、
珍しく家にあった固定電話がなった。私はそれを取り耳元に当てる。
「もしもし、恭子?」
「えっ?、、お母さん?!」
私は大好きだったお母さんの声だとすぐにわかった。もう5年は聞いていなかった気がする。
「お父さんには内緒よ。」
優しく、温かく、甘くて透き通った声が受話器を通して私の鼓膜に届いた。
「うん、、、」
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう、、、ありがとう、、、」
私は床に膝をつき、声を殺して、泣くのを堪えた。大好きだった母の声。もう顔もおぼろげにしか出てこない。でもその声が今は母を形作っていた。
「ごめんね。ほったらかしにしてたわけじゃないの。でもお母さん。やっぱり体調良くなくて、、大丈夫。いつかまた一緒に暮らしましょ。短い時間だったけどありがとう。またね。」
そう言って受話器から音はしなくなった。私は「いつかまた一緒暮らしましょ」その言葉を胸にしまい、今日と言う日を終えるのだった。
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