恋人#3
私の入学祝いという名の社交会で、お婆ちゃんは死んでしまった。あの日が全ての始まりで、私の終わりだったのだろう。嫌な過去はもう記憶から消えてしまった。
パンパン、、、
私は少し焦げ臭い線香の匂いをかき消すようにお墓の前で手を叩いた。お供物には理央さんが作ってくれたクッキーを添えて。
私はゆっくりと立ち上がり私の目線より下になった[香川家]と書かれたお墓に目をやる。
香ちゃんの全てが過去に入っている。私はひんやりとした冷たく綺麗に磨かれた石を触る。そしてそのまま「香」の字を指でなぞる。
香ちゃんの母にお墓を聞くとき少し嫌な目を向けられた。依存していると言われてもしょうがない。でもお墓参りはいつかしたかった。そんな儚く寂しい夢が叶ったのだった。
「泣いちゃダメ、、、」
私はそう言って目を擦った。そして水をお墓にかける。お墓の掃除もしたかった。涙のように、今かけた水が黒い石をつたる。もう一度そっと手で触る。冷たいけど、香ちゃんの温かさがあった気がした。
「おーい!あったぞー。」
私は秋田くんに視線をやる。
「向こうの端だ。」
「ありがとう。行こっか。」
「おう!」
次はロウデフの墓に向かう。父はロウデフの墓にお金を払ってくれなかった。ロウデフの家族はもう他界しており今は天国で暮らしているだろう。だからロウデフ家の墓はなく、集団墓地のようになっている。
私はその無数に建てられた墓石のたった一つに感謝と虚しさを抱えながら手を合わせた。
その隣で秋田くんも目を瞑り手を合わせている。この地でロウデフを知っているのは私しかいない。私は無数にある墓石の一つしか考えていなかった。確かにこの一つ一つに思い出と人生が詰まっているのだ。
「じゃあ行こっか」
「もういいのか?」
「うん、いいの。」
「そっか、じゃあスイーツ食いに行くか!」
「たまに思うのだけれど、秋田くんって本当に男の子?」
「ああ!バリバリの元気な男の子だぜ!」
秋田くんは白い歯を見せ笑う。いかにも「にっこり」と言った感じで。初デートの話をしたとき、『付き合い』を知らない私はついお墓参りと言ってしまった。でも秋田くんは「そうだな。香川の墓参り行くか」と少し声のトーンを落としていってくれた。
カランカラン、、、
「いらっしゃいませ〜、お二人様ですね。お好きな席にお座りください。」
「はい、」
秋田くんが返事をし、窓際の席に座る。スイーツ屋と言うよりかはカフェと言った感じの落ち着いた空気で、前の香ちゃんと食べたアイスフロートとはまた違ったメニューだった。
そのあとは少し喋り初デートを終えたのだった。
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