恋人#2

 真実と事実と、理想と現実。何が一緒で何が違うのか。一つ言えることは全てが残酷で全てが素晴らしいと言うことだけだ。



「ふざけないで!!呪いとかわかんないって言ってたじゃない!!何?そんな事して面白かったの?!」

 私は声を荒げた。一息で、呼吸も忘れ、ただただ怒りに身を任せて、そしてそれは酷く醜い心からの嘆きだった。


「ごめん、、、」

 知っている。秋田くんは謝ることしかできない。弁解や言い訳なんて責任転嫁でしかない。受け止めることしかできないから。


「せっかく!せっかく誰も知らない所に来たのに、、なんでいるのよ!」

 秋田くんは何も悪くない。たまたま私と同じ小学校で、たまたま同じ中学校に転校しただけ。悪いのは、責任を押し付けて自分を正当化している私なのに。


「ごめん。でもさもうみんな知っちゃってる。だからさ、俺みたいに過去を知ってる奴が1人ぐらいいた方がいいだろ?」

 優しい声だった。温かい声だった。私のような、冷たく鋭い罵声じゃなく、子猫を撫でるような、あったかい毛布のような声で私にそっと寄り添ってくれた。


「なんで、、なんでみんなそんなに優しいの、、?私みたいな人、助けても損するだけなのに。」

 気分と一緒に声の大きさも小さくなる。私は前が見えなくなった。目の前は地面で未来は真っ暗。太陽が季節外れの雨雲に覆われる。自分の影が雲の影に埋もれる。そして気分も暗くなる。


「損とかじゃないんだよ。自分がやりたいことやって後悔した時ってのは損かどうかじゃなくて出来なかった得を悔やむもんだろ?」


 秋田くんは優しいと、心から思った。何も考えず否定しているわけではない。自分の損より、私を助けてあげられる得の方がいいと言ってくれている。


 私は前が見えない。涙で、見たいはずの未来も、真っ暗なこの先も。でも今は見えなくていいかも知れない。いや、見えなくていい、見なくていいんだ。


「次は助ける。だからお前を守らせてくれ。」

 その言葉は自信や勇気は感じられなかった。感じられたのは自分の弱さを受け止められる強さと、私への想いだけだった。

「よろしくお願いします。」


 太陽はまだ雨雲に覆われたままで空はどんよりとしている。空に張り巡らされた電線が私たちを囲っているような錯覚に陥る。そんなありふれた日常の、ただの中学校の校舎裏。

そこで歪な形の告白が今成功した。

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