呪われた子。#3

 命は尊く素晴らしいものというのなら、生きるというのはより趣深く、そして貴重なことなのだろう。でも生きるということは死が待っているということ。もしかしたら命とはその死も含めた別れも尊いものとしたのではないだろうか。



 私は震えた手でコップを置く。部屋には静かな空気が漂っていて、小さく秒針が時を刻む音がこだまする。目の前には睡眠薬と書かれたビン。そして少し多めのコップに入った水が机に置かれていた。


 理央さんは今は家にはいない。少し遠くのスーパーに夜ご飯を買いに行っている。


 私はもう無理だと頭に直接声が聞こえる。生きていたい。そんな淡い希望はもうどこにも無く、絶望すらも感じないほどに病んでいた。


 私は何度も思い出す。「おはよ!」と何度もしつこく挨拶してくれた香ちゃん。水族館でデザートを頬張る香ちゃん。公園のベンチで「私がやりたいから」と元気付けてくれた香ちゃん。


 テストの日に目の下にクマをつけてドヤ顔をする香ちゃん。映画を一緒に観た時に頬に涙を流す香ちゃん。そして、、最後、車に轢かれた時、私を最後まで見てくれた香ちゃん。


 私は今死んでも後悔なんて何一つない。そう思った。そう思って私は睡眠薬を水に溶かした。大量の睡眠薬を飲めば自殺できると知ったのは小説を読んだ時だ。今までの様にナイフやロープでは呪いの入り込む余地が多かったからかもしれないと思いこの作戦を思いついた。


「ふーーぅ」

 息を深く吸い小刻みに震える手でコップを持ち上げる。目を瞑り一気に水を飲み干そうとする。


「う″っっ、、」

 これも呪いなのだろうか?むせてコップを床にこぼす。でも致死量に近いほどの睡眠薬は飲んだはずだ。フラフラと自分のベットに向かう。


「わっ、、、」

 眠気と眩暈で転倒しそうになり、睡眠薬を置いていた机にもたれ掛かる。そしてもう一度力を入れ立ち上がった。しかし体は思う様に動かず机ごと反対方向に倒れる。机の上にあった教科書や引き出しに入っていた文房具が飛び出す。


 私は力無く床にへばりついたまま落ちたものに目をやる。目の前には初めて香ちゃんと遊びにに行った時に買ったお揃いのイルカのキーホルダーが見えた。それだけじゃない。2人で一緒に撮ったプリクラ。仲良くやったゲーム。


 涙で何も見えなくなった。苦しさで何も見えてなかった。いつの日かの香ちゃんの言葉を思い出す。「自殺って私全くいいことだとは思わないしされても全く嬉しくない」あの言葉は一緒に映画を見た時だっただろうか。


 今死んだら天国で香ちゃんに怒られちゃうな。


 人を不幸にして死を振り撒く私は地獄かもしれないけど。もう少し生きても良いのかな?香ちゃん、、お願い、、教えて、、


 私はゆっくりと、秒針の音よりも小さくそう願い、そっと目を閉じた。

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