使用人#4

 「ごめんね。ほんとにごめん。短かったけど。良い時間だったよ。」

 夢の中。温かい声が聞こえる。聴き慣れた、もう聞けない声。目の前は真っ暗で、意識も朦朧としている。でもしっかりとわかる。香ちゃんの声だ。そして遠くから理央さんの声が聞こえてくる。


「、、、さい、、起き、、、、、さい、、起きてください、、起きてください!!!」

「ん、、」

私はゆっくりと思い瞼を上げる。


「良かったぁ。」

 理央さんは泣きながら膝枕をしてくれていた。今日の会話を思い出す。理央さんは私のためにかげて色々してくれていたのだ。

「ごめんなさい。」

「ごめんなさいじゃ無いでしょ!」


 香ちゃんが死んだ時ですら怒鳴らかった理央さんが声を荒げた。

「なんで、、なんでよ、、、」


 体はまだ動かせなかった。分かるのは理央さんが泣きながら怒っていること。そして先ほどと何も変わらず秒針が時を刻んでいるということだけ。


「本当にごめんなさい。」

「謝っても仕方ないでしょ。」

 理央さんから出た涙が頬をつたり私の頬に落ちる。そしてまたゆっくりと床まで下り、床にじんわりと滲んで消える。


 私はゆっくりと手を上げる。まだ体はとても重い。理央さんの涙を右手でそっと拭いて、手を下ろす。理央さんは目を少し広げ、また目を涙で濡らす。


「もう次は無いですよ。」

 多分これは忠告ではない。圧力は少しも無く。小さな願い事のように、ポツリと、、でもそこには、優しさと信頼が確かにそこにあった。


 暖かさと優しさ、そして自分の愚かさを思い知らされ、私はまた一層自分を嫌いになった。そしてその日は眠りについた。



 朝、カーテンから溢れる光に照らされ夢から覚める。もう秋に近づき、朝は少し冷える。秋特有の乾いた空気は、やる気も気だるさも無い、例えるなら無味無臭と言った感覚を創発とさせる。


 登校日2日目。この事実だけでベットから出る気にはなれず、布団の外に足を出しては引き戻すことを繰り返す。


 異様に静かな朝に違和感を覚え、リビングに向かう。いつも起きているはずの理央さんの姿がなかった。私はロウデフのことを思い出し、急いで理央さんの部屋に向かう。


「理央さん!」

 ドアを開けるより早く必死に叫ぶ。そこには汚物を吐き出し、倒れ込む理央さんの姿があった。

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