使用人#3
あの日から私の時は止まっていた。ただただ夏休みが終わりに近づくのを感じながら。どんなに苦しくても過去は変わらない。どれだけ辛くても今は変わらない。どれだけ今を努力しても必ず人は死ぬ。そんな悲しいだけの現実を私は約1ヶ月ほど考えていた。
自分の部屋からは一度も出ていなかった。ご飯は喉を通らず、水さえも私には重すぎるものだった。自分の部屋に電気はついておらず閉め切っていないカーテンの間から溢れ日が刺す。
時より頭を上げ、目の前にある鏡に映る自分に目をやる。そこには一回りか二回りほど肉の削ぎ落とされた私の姿が映っていた。
コンコンコン、、、、
「恭子様、、お時間よろしいでしょうか?」
「、、、、、、、、」
「すいません。開けますね。」
「え、、、、、?」
今までは返事もせず無視していたらドアの前にサランラップがかけられたご飯と『お願いします。ご飯は食べてください。』と言う置き手紙が置いてあるだけだった。理央さんが部屋に入ってきたのは初めてだ。
「恭子様。辛い出来事だったのは分かります。
香様だけが生きる希望だったのですよね。」
「あなたに何がわかるの、、、、」
香ちゃんが事故にあい、死んでしまった話はしていない。どこから話を聞いてきたのだろうか。少し気味が悪い。
「貴方だって結局気を失って倒れるのが嫌なのでしょ?だから1ヶ月も放置してたんじゃない。」
言っていてひどかった。これは八つ当たりで完全な責任転嫁だから。だって本当に悪いのは死を呼んだ私なのだから。
「すみません。」
そう言って理央さんは深く頭を下げた後私の肩を軽く両手で掴んだ。
「あなた今日休みでしょ。もういいから。」
1人になりたかった。こんな自分を私は見たくなかった。死を呼ぶとか呼ばないとか関係なく、私はひどく汚れた女だと思い知らされるから。
「恭子様、聞いてください。」
理央さんは私に目を合わせようとしてくる。
「いいって言ってるでしょ!話聞いてよ!もう無理なんだって!もう、香ちゃんは戻って来ない、、、、過去は変わらない、、、、」
「私が思うに、過去は変えられますよ。」
「そんな事ない、今どう頑張ったって何も変わらないじゃない、、、、」
何日もご飯をろくに食べてない私に反論できる力は残っていなかった。
「確かに今どう頑張ったって香様は帰ってきません。ですが過去をどう捉えるかです。恭子様にとって悲しく苦しい出来事だったのには変わりません。でも香様との思い出は全て辛いものでしたか?辛い過去は辛い過去と割り切ってしまうのは簡単かもしれません。ですが私は、辛い過去を辛かった経験にして、私は大きな成長にしてほしいです。香様に未来は変えれることを教えてもらったなら、私は過去を変えられることを教えます。だって私は恭子様が大好きですから。」
そう言って私に微笑みかけた後、スッと立ち上がり部屋を出ていった。私が顔をあげ鏡を見ると目の前の女の子の頬には涙が流れていた。
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