もう涙は止まらない#3

 何秒こうしていただろう。何度も何度も脳裏で再生される香ちゃんとの最後の思い出は、おぞましく、そして儚かった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!!」


 とてもじゃないが女の子の声とは思えない悲鳴を喉を伝って心から溢れ出る。さっきのブレーキ音を彷彿とさせる私の心からの叫びは多くの歩行人の視線と注目を集める。


 私はヨレヨレとした足取りで香ちゃんの方へ向かった。香ちゃんはその場から動くことなく道路に倒れている。大人が何人か集まったり、電話をかけたりしているが、そんなことはどうでもよかった。


「香ちゃん、、、、、、、、」


 人の間を縫うようにして動かない香ちゃんの元まで行く。さっきまでは真っ白だったデニムパンツも今ではもう真っ赤な色になっている。


 遠くから聞こえてくる救急車のサイレンも、通行人のガヤも、全てを恨んでしまいたくなった。トラックは目の前で止まっていて、その中の運転手の顔は絶望そのものだった。



「はい、、、分かりました。」

 私はその後香ちゃんの両親と一緒に香ちゃんが死んだことを知らされた。引かれた時点でもう助けることは出来なかったらしい。事故という無差別で不条理な出来事が、私の夏休み初日を黒色に染め上げた。これ以上闇が渦巻くことのない人生で、その闇が一層暗く、そして深くなったように感じた。


「最後香、どんな顔してた?」

 歩くのが嫌になり、病院のソファーに深く腰掛けていると、香ちゃんのお母さんに話しかけられた。

「最後まで笑っていましたよ。」


 私は泣きながら香ちゃんのお母さんを見てそう言った。そして、香ちゃんが私にとってどんな人で、何をしてくれたのかを語った。


「だから、香ちゃんは生きる希望だったんです。」

「違うでしょっ!!あんたは香に甘えてただけなんだよ!」


 急に体に電流が走った。香ちゃんのお母さんは怒っていた。でも多分、その矛先は私ではない。


「なんで、、、、、なんでよ、、、、、、」

「、、、、、、、」

「違う違う、、、恭子ちゃんは何も悪くない。」


 私は心が張り裂けそうになった。死を呼ぶ私は、生きていてはいけないのかもしれない。いや、生きていてはいけない。でも死ぬことの許されない私は死を人に押し付ける化け物なのかもしれない。


 病院を出て空を見上げる。そこには私の心とは裏腹に朝と何も変わらない青い空と、ポツリとした雲がちらほらと見えていた。


その後私は後1時間、待ち合わせ場所で何も待たずに過ごすのだった。

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