第7話 文化祭前日のランチ
うちの高校は1年生はなぜかクラス対抗の合唱コンクールをする。
課題曲はなく、自由に選曲できる。
クラスによってだが、流行りの曲、昔ながらの合唱曲、ふざけた曲。
公序良俗に反しない限りはどんな曲でもOKだ。
そのルールを逆手に取り、うちのクラスはお料理行進曲で、エントリーした。
そんなふざけた楽曲でも、女子生徒たちはやる気になっていた。
入学してまだ1ヶ月くらいなのに、よくもまあ、団結とか絆だとか言える。
併催される体育祭でお揃いの鉢巻を作ろうとか、なんの意味もない無駄な提案をしてくるシャシャリ女もいる。
僕は非常に、めんどくさいことが嫌いなので、本来であれば合唱コンクールなんて嫌で嫌で仕方がない。
早く帰ってウゴウゴルーガの再放送でも見た方がまだ楽しいくらいだった。
でも、、
ピアノ伴奏が一目惚れした瞳、指揮者が無理やり押し付けた出席番号1番の相澤のため、クラス委員として、それなりにやらなければいけなかった。
毎日、放課後5回くらい通しでお料理行進曲を歌ってから解散する。
そんなシュールな練習だった。
毎日音楽室は使えないので、大体は簡易なキーボードと、なんだか分からないその辺に合った長い棒を指揮棒にしての練習だった。
文化祭の前日。
この日は半日で授業が終わった。
僕はバカ仲間たちと、カラオケに行く予定だった。
授業が終わり帰ろうとした時に、瞳が「ピアノ自信がないから、指揮者の相澤君と、クラス委員の二人の4人だけで練習したい」と僕を誘った。
女子のクラス委員の川村は、もっともらしい理由をつけて断った。
指揮者の相澤は、おじいちゃんがクリスチャンだからと言って帰って行った。
結局は瞳と僕だけが残った。
前日、希望するクラスは、
合唱コンクールを行うホールで練習ができるが、
くじ引きの結果、うちのクラスが音楽室のピアノが使えるのは、15時から。
3時間待ってまで、練習をしたい物好きは少ない。
他の二人が帰るときいて、僕も逃げる言い訳を考えたが、
もっともらしい理由、どう考えても嘘の理由を先に言われてしまったので、僕は断ることができなかった。
それに一人で頑張ろうとしている瞳を見ていると、なんだか一緒にいたかった。
とりあえず、3時間。
どう時間を潰すか考えた。
学食では時間がもたないので、僕は瞳をマクドナルドに誘った。
学校から徒歩5分のマクドナルドに着くと、
そこはもう同じ高校の連中でいっぱいだった。
なんとなく、二人きりの食事が恥ずかしく、違う店にしようと言って、店をでた。
そして、瞳が好きだというミスタードーナッツに入った。
そこは、学校から少し離れていることもあり、空いていた。
ランチタイムはミスドよりマックに行く高校生が多いから、当然だ。
瞳は行き慣れていたのが、好きなドーナッツ2つを選び、ミルクティーを注文した。
僕はなんとなく、カッコを付けたくて、なぜか飲茶セットにした。
それを見た瞳は、「お腹空いてたんだね、ミスドじゃない方がよかったね、ごめんね!」と謝った。
なんとなく、精一杯見栄を張って、大人っぽいつもりで注文した飲茶セットが逆に恥ずかしかった。もちろんミスドで飲茶なんて初めてだ。いつもはチョコレートやイチゴたっぷりの選択しかしていない。
そんなこんなで、憧れの瞳との初めてのランチが始まった。
そこで、瞳とたくさんの話をした。
瞳のお父さんは消防署員で人を守っている。自分は医者になりたいから、附属校であるここにきたと夢を語ってくれた。
なんとなく、楽そうだから附属校を選んだ自分も、かっこいい夢を語りたかったが、何も出てこなくて、瞳の話に頷くことしかできなかった。
ついつい、話す瞳が可愛くて、見つめていたら、
「ドーナツ半分あげるよ。甘いのも食べたいでしょ?」と食べかけのドーナツをくれた。
僕は憧れの瞳から食べかけのドーナッツをもらったことで、心臓が痛いくらいに弾けたのを今も覚えている。
そして、その時のオールドファッションの味が今も忘れられず、、時折ミスドに立ち寄ってしまう。
ミスドで2時間半くらい話し、学校に戻った。
ホールの脇で、前のクラスの伴奏者が練習しているのを聞きながら、
「瞳ちゃんの家にもピアノあるよね?それに毎日完璧に引けてるし、キーボードでの練習でもいいんじゃない??」と、僕は瞳に聞いた。
「もちろん家にもあるし、毎日練習してるよ。でも、実際に使うピアノで練習したいんだ。クラスのみんなに迷惑かけれないし、絶対このままだと明日焦る・・!だから、今日絶対ホールのピアノを使いたいんだ」
瞳の答えは真面目で、他人を思いやる言葉で、僕は同級生を初めて尊敬した。
そこから30分間。
僕は指揮者の真似をしながら、瞳と練習した。
歌ってもいいよと言われたが、生粋の音痴だし、ピアノ伴奏付きで、お料理行進曲を一人で熱唱する勇気も持久力もないので、指揮をやることになった。
なんとなくの四拍子は瞳にとっては邪魔だったかもしれないが・・
笑顔で30分間、一度のミスもなく、瞳は演奏を続けた。
その時の真剣な顔と僕を気遣ってくれる笑顔は今も忘れられない。
制限時間が終わり、僕たちは学校をでた。
帰り道、色々と話をした。
何気ない会話が尽きなくて、本当に楽しかった。
帰りの電車内で、瞳は携帯電話番号を交換しようと言ってくれた。
断る理由は何もなく、僕は番号交換をした。
瞳は僕の2駅前で降り、「また明日ね!」って下車する瞳に手を振りながらも、
頭の中ではなんてメールを送ろうしか考えていなかった。
高校生だった。 あべさん。 @fantasista14
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。高校生だった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます