第7話 魔術の基礎

「筋肉痛は治りましたか?」


騎士団長による地獄の訓練により、訓練が終わった一昨日の夜から昨夜にかけて激痛に悩まされていた双子はげっそりとした顔立ちでアンデルセンの言葉に頷いていた。


「途中で戻ってきたときにお二人が屍のように倒れていらっしゃったので騎士団長、とうとうやったかと慌てましたよ」


「途中から騎士団長が鬼に見えました……」


机に突っ伏したアルトリウスは辛そうに言葉を絞り出す。そんなアルトリウスの言葉にアンデルセンは顎に指を当て感心したように呻く。


「アルトリウス様、よくオーガ族の古名を知っていますね。勉強熱心で何よりです」  


「オーガ族?」


「はい、大和国からきた角を持った種族です。昔は大和国の鎖国によりその姿は未知でしたが最近では他の国に移住する方も多いそうで。そういえばテグラにもオーガ族の方がいらっしたような……」


思い出す素振りをするアンデルセンだが双子はパルディアン国の他にも国があることやテグラという言葉に興味を示していた。


「まあ、この話は置いといて。今回は魔法の起源を学んでいきましょうか」


「……今更だと思うんですが順番逆じゃありません?」


「いえ? 身体に叩き込んだ方が頭に入りやすいと思います」


この人もしや言葉より先に足がでないか、と不安が積もる双子を尻目にアンデルセンは分厚い本を重そうに机におく。その本は双子の分も用意されていた。赤い装飾が施された白い本で双子からすれば開くのも一苦労であった。


「それではまず魔術の属性について説明いたしましょう」


アンデルセンは本を開く。本のそれぞれの属性ごとの色が描かれた頁を開く。


「魔術の属性はほとんどが種族によって決まります。鳥人族は風、獣人は氷、などですが今ではそれ以外の属性になることは対して珍しくもなくなりました」

 

苦笑交じりで溢すと他の属性についての話を始めた。


「魔術の属性は火、水、風、地、氷、雷、木の合計七つ。お二人の属性は雷でしたね。この七つは基礎とし、魔術を学ぶ者であれば最低限得るべき知恵となります。今では派生した属性も発見されていますが、その根本はこの七つなのです。それから学びを深めた際、魔導というものがありますがそこからだと専門的知識となるため強制はしません。それにめちゃくちゃ難しいんで」


アンデルセンが説明したあと、アルトリウスが疑問に思っていたことを口にする。


「種族によって属性が決まっているのはどうしてですか?」


「ああ、それは……」


アンデルセンは考えた素振りを見せ、枯れ葉が落ちるように遅い瞬きをして、大きく頷いた。


「いずれ知っておくべきですし、話しても構わないでしょう」


アルトリウスとテオディウスはアンデルセンの言葉に何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと内心焦るがアンデルセンは双子を気にせず、話し始めた。


「種族ごとに変わる属性は種属性といい、それは細胞や身体に流れる魔力によって決まってると言っても過言ではないでしょう。それは何故か」


アンデルセンは一呼吸おくと、まるで囁くように声を溢した。


「魔術は人間とは別の種族が作り出した神秘だからです」


「人間、とは別? 」


「魔術とは技術。つまり誰かが造り出さなければ存在し得ない秘法。魔術は他種族が産んだ生きるための知恵なのです」


双子が死ぬ前に住んでいた世界では人間は科学を発展させることで多くの犠牲を払いながらも自身を適応するために環境を変え続けている。この世界ではそれが魔術となっているのだ。


「種族と作り出した魔術の種類を順番に言えば火を司るイフリート族、水を司るウンディーネ族、風を司る鳥人族、地を司るドワーフ族、氷を司る獣人族、雷を司る龍人族、木を司るエルフ族の七つ。これらの種族によって魔術はこの世に存在を示したのです」


そこまで言うとアンデルセンはふう、と息を吐いた。


「その他種族が作った魔術の知識が私達人間に流れてきた、てことですか?」


アルトリウスの言葉にアンデルセンは首を振る。


「いえ、正確にはと言った方が正しいでしょう」


「奪った?」


テオディウスは疑問符を浮かべた。アンデルセンはまた一呼吸おく。真剣な眼差しを向けられ、双子も無意識に背筋を正した。



暁界きょうかい戦争。人間はその戦いのために他種族から魔術の知恵を奪ったのです」


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