第9話 行動力
「ねぇ、やっぱりまずいって……」
「大丈夫、大丈夫! 好奇心は人間の
「それ言った人、王族の娘襲って死刑にされたんだけど!」
言いあいながらも城の中を隠れながら進んでいくアルトリウスとテオディウス。このあとアンデルセンがあ様子を見にくるというにも関わらず、部屋から抜け出していた。あたりには給仕係や兵士がいるにも関わらず、どうやら双子は気にもとめなかった。
「バレる前に帰ってくればいいのよ! 置き手紙も置いてきたし、問題ないって!」
「本当かな……」
だが自身からルカの元まで行きたいと言ってしまったがために後に戻れない。それにルカに謝りたいとおもうテオディウスの気持ちは本当であった。
双子が城の巨大な玄関口まで辿り着くと、アルトリウスはじっと扉を凝視していた。扉の回りには廊下と比べて倍の数の兵士がおり、扉の先へいくことは困難に近い。いくら幼い二人でもそれぐらいは理解できていた。テオディウスは隣の姉を心配そうに見つめる。
「どうする、姉ちゃん……」
「そうだなぁ……」
アルトリウスは辺りを注意深く見渡す。するととあるものがアルトリウスの目にとまる。その顔にはまた意地悪い表情が浮かんでいた。
「あれなら……」
アルトリウスはテオディウスの手を引くとそのあるものへと駆けていった。
「それではまたの機会で」
「えぇ、こちらこそ。大変助かりました」
髭の生えた初老の男と甲冑を身に纏った男は互いに頭を下げ、会話をしていた。初老の男が乗ってきたであろう木製の馬車には箱が大量に積まれていた。
「失礼します」
初老の男は馬車に乗ると座り込んでいた馬型の魔物はゆったりと立ち上がり、少しずつ進んでいった。その馬の動きにあわせて扉が開き始める。完全に開くことはないがそれでも馬車一台分は余裕で通ることができた。その後ろ姿を見送る兵士はふと疑問を持った。はたからみたらただの見間違いに近い。
「あんなところに箱って積んであったか?」
だがすぐに気のせいだと割りきり、兵士は通常の業務へと戻っていった。
「作戦成功ぉ!」
「姉ちゃん、しぃー! バレちゃうよ!」
扉の攻略方法に迷っていた双子は何故か初老が操る馬車に積まれた箱の中にいた。幼い二人は余裕に入る大きめの箱が一番下にあったため急いで他の箱を退かし、無事?バレることなく扉を抜けることに成功した。するとテオディウスは小声で姉に問いかける。
「それにしてもよくこの馬車の荷物全部空だって分かったね」
「ああ、それ。この馬車って城に食材を運ぶためのものなんだよ。箱のなかに葉っぱとか泥がついてるのもそのせい。兵士と会話してなおかつ玄関口近くにいたってことは入ってきたばかりか終わった頃か。でも時間帯的に見て太陽の登った昼にくるなんて食材を腐らせるようなものだからまだ肌寒い朝に運び出して昼には作業終了、てのが一番ありえるかなって思ったんだ。それならあの場にいた馬車の人は仕事終わり。つまり今から帰宅するということなのさ」
保冷剤や防腐剤などない世界では食材が腐ってしまう危険性は何よりも高い。ならばできるだけ涼しい時間帯にいくのが自然であった。
「ちゃんとそこまで考えてたんだ。やっぱり姉ちゃん、すごいや!」
テオディウスは姉に尊敬の眼差しを向けた。前世の頃もそうだ。姉はいつもこういう場面でその力を発揮する。何処で仕入れたのか分からない情報を複数持っていた。弟にとってそれに憧れを抱くのも無理ではなかった。すると今度はアルトリウスがテオディウスに問う。
「そういえばルカ君の家、何処にあるか分かるの?」
「勿論。サーリさんに聞いたんだけど、城の隣に位置するエオーニの丘って処に屋敷があるんだって。イージスさんと家政婦さんと一緒に暮らしてるらしい」
「エオーニの丘ねえ……。それって何処にあるの?」
アルトリウスの言葉にテオディウスは含み笑いを浮かべると懐から何かを取り出した。
「じゃじゃーん! 見てこれ、地図だよ! 」
「うん、真っ暗でなんにも見えない」
ここは箱のなか。雨風で食材が痛まないように抜け目のない作りになっており、光さえもなかった。
「しょうがない。一度降りてみよう」
アルトリウスはそういうと箱をゆっくりと開けた。狭い隙間から辺りを見て、人がいないことを確認すると率先してでていく。テオディウスも後へと続いた。
馬型の魔物の歩くスピードがあまりにも遅いため、進んでいる状態でも飛び降りることができた。双子は無事着地すると未だ気づいていない初老の男に頭を下げて静かに人気のない場所へと移動していった。
・・・
一方忽然といなくなった双子の部屋には銀髪の男──アンデルセンがアルトリウスが伝言を書いた紙を持ったままがたがたと震えていた。紙には「ルカくんのいえにいってきます!ゆうはんにはかえります しんぱいしないでください」と書かれている。だかアンデルセンのその顔は青ざめており、目はこれでもかと見開かれていた。
「た、たたたたたたたいへんだだだだ……!」
しかしアンデルセンの心中なんて思いもせず、扉からノック音が響いた。アンデルセンは風も真っ青なほどの速さで扉を開けた。そこに立っていたのは魔術師と思わしき男と鳥人族の男、そして髪を一つ結びにした馬の獣人の女であった。
「ぇえ、と、お呼びと聞いて来たんですけど……。いかがなさいましたか? 」
苦笑いを浮かべた魔術師らしき男は血相を抱えたアンデルセンに恐る恐る尋ねる。震える唇を必死に動かしてアンデルセンは言葉を紡ぐ。
「アルトリウス様とテオディウス様が……」
「お二人がどうかしたのですか?」
アンデルセンは息を吸うと声を張り上げた。
「アルトリウス様とテオディウス様がどこにもいらっしゃらないです!! お二人を探してださい!!」
アンデルセンの言葉に今度は三人の兵士が青ざめた顔をしていた。
・・・
そんなことになっているとは露知らず、双子は木製の板に掘られた地図を頼りにエオーニの丘へと向かっていた。文字を習っていたお陰で地図が問題なく読め、今必死に双子を探しているだろうアンデルセンへと感謝の意を浮かべていた。
「ここが地図だとこの位置だとしたら……」
辺りを見渡しながら地図を確認していく。地図には簡易的な絵も描かれているため先に進むのはそこまで難しいことではなかった。二人は住宅街の隣に広がる国立公園にきており、柔らかい草や花が風に揺れていた。そこに佇む2本の木はどこにいても目を引くものだった。そんな木の下で少し涼みながら地図を見ているとテオディウスが指を指す。
「ここからまっすぐいけば見えてきそうだね」
「早速行ってみよう」
休憩を中断し、アルトリウスとテオディウスは軽快に歩を進めた。
ある程度進んでいくと今までの家とは景観の違う建物が見えてきた。紺色の屋根にクリーム色の壁、蔦が美しく伸び、花も添えられていた。そしてその屋敷があるのは丘の上。双子は目を輝かせながら、丘を見上げる。
「ここだぁ!」
目的地に着くことのできた双子は同時に嬉しそうに叫ぶと両手でハイタッチを続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます