検査場はこちらになります

牛尾 仁成

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 はい、次の方どうぞ。


 こんにちは、どういったご用で入都をご希望でしたか? なるほど、お仕事ですね。分かりました。何日の滞在予定ですか? 一週間ですね。はい、分かりました。行先は都のどちらですか? 事務区画。事務区画のどちらですか? あー、生物環境管理局ですね。ちなみにこちらには初めて来られましたか? 初めてですね。それでは持ち物の検査をいたします。


 えーと、お持ち込みいただいた荷物の中は特に問題ありません。では、そちらの手荷物をこちらにお渡しください。はい、手荷物も大丈夫ですね。それでは最後にゲートを通過してください。


 おや、もう一度通っていただけますか? 


 ……ちょっと問題があるようですね。こちらへかけてください。さぁ、どうぞ。


 最近、刺激物を摂取されましたか? いえいえ、辛い食べ物とかではなくてですね。刺激の強い映画とか本です。宗教的であるとか、破滅的であるとか、鬱々しいとか……よく分からない、と。そうですか、では止むを得ませんのでこちらで確認させていただきますね。


 あぁ、何の心配もいりませんよ。大丈夫ですから、暴れないでください。と言っても暴れますよね。その椅子は座った者の四肢の運動能力を奪いますのであしからず。そんな怖い顔をなさらないでください。もちろんご説明いたしますよ。あ、取り敢えずこのヘッドギアを装着しますね。よいしょっと。


 私共の都は厳重なセキュリティが施されているのはご存知だと思いますが、最も厳しくチェックするのはその『思想』です。重火器だとかの物質的危険物は当然取り上げますが、極論してしまえばそういった物を『使おう』と思わせなければ、悪いことは起きませんよね。通り魔をしようとした人がナイフを準備していたとして、実行しようとするその気持ちを取り除くことができたら、通り魔事件なんて起こりません。ただ単にその人は必要も無いのにホームセンターでナイフを購入した人です。


 私共にはそれをするだけの技術があるのです、はい。え? それは思想信条の自由に反するって? あー、それはよく言われますね。そうおっしゃられると私共も困ります。でもご心配に及びません。私たちは別にこの都に入る方々の思想を奪おうとか変更しようとか、しているわけでは無いのです。


 ここは検査場です。つまり、万が一危険な思想があったとしても私共はその思想そのものに対して干渉はできません。当然ですよ、それが自由ってものです。そう、私共はそれをただ『お預かり』するだけです。ええ、都から出られる際はきちんときずや汚れなど一切無くお返ししますよ。これなら安心じゃありませんか?


 ……なるほど、たとえ一時であったとしても個人の生き方を侵害するのはどうなのか、と。確かにそうおっしゃる方もいらっしゃるんですよね。それでもご安心ください。今、こうして私共とお話している記憶は一切お客さまには残りません。お客さまは何の障害もなく、全ての検査をクリアして入都されたことになりますよ。つまり、そもそもお客さまは自分の自由とやらを侵害されたことを自らに立証することができないのです。自分で分かっていないのに、どうやって他人に訴えられるというのです? 要するにお客さまのご懸念は杞憂ということです。


 あ、やはりちょっとばかし私共には危険なお考えをお持ちのようですね。はい、抽出完了です。こちらの思想は大事にこちらで保管しておきますね。お帰りの際にお返しいたします。これで検査は終了です。お疲れさまでした。


 はい、それではこれで全ての検査が終了となります。おや、どうなされました。何か気になることでも? ええ、何の問題もございませんでしたよ。お帰りの際もこちらから出都の手続きを行いますので、お立ち寄りください。それでは良いお仕事を。


 はい、次の方どうぞ。

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