エピローグ 初恋が消えた日
隼への初恋を諦めて早2ヶ月。あっという間に、しかし当たり前に過ぎだ日々の中で、1つ気づいたことがある。
隼のことを考えるのは、いつも黄昏時だった。
学校では勉強と友達。部活では当たり前ながら部活と、忙しくて思い出す暇もなかったのだろう。改めて、そんなものだったのかと思う。それとももしかしたら、後ろを振り返るからこんなふうに思えるのだろうか。オレンジ色の光が広がる部屋には、夏休みまでは私の片思いが溢れていた。けれど今、そこは空っぽの時間だ。暇で暇で仕方ない。
(趣味でも探すか。絵とか?裁縫は多分無理…本も好きだけどなんか違うし…)
私はもう、次の空にいる。輝いていた薄金の夕暮れの空は、今は深く濃い赤の夕焼け空に変わった。多分こうして、時間は過ぎていくんだろうな、と思う。そんな、今日この頃…
(はあ、あの先生は…)
熱心なのはいいが、時間は守ってほしい。彼はそう思った。6時45分まで部活をやったら、地元の駅に着いた頃には既に8時半だった。隣に並ぶ友人は、眠そうにしながら歩いている。
「おい海輝。起きてるのか?」
「あー?起きてるよ」
海輝はふと、隣を歩く友人を見た。
「なんだよ」
「いや?」
ボソリと、しかしどこかに心配をにじませて、海輝は続ける。
「意外だったんだよ。隼が女子と付き合うとはね」
「…………」
「一緒に帰らなくてよかったのか?」
「木村…あ、違う。
海輝は面白そうに隼を見た。海輝は、真由香が隼を慕っているのに気づいていた。そして隼が、同じように真由香を思っていたことも。
「初恋片想いを拗らせてた親友が彼女持ちかー、と思って」
「お前っ!」
俺も早く彼女作らなきゃなーとふざけながら、海輝はある日を思い出していた。隼が初恋を諦めると言ったのは、中二の頃だった。夜、電話越しに、唐突に言って来たのだ。
『俺、初恋はもう引き摺らないことにした』
と。
「なんでもいいけどさ。付き合うなら、木村さんを大切にしろよ?」
「わかってる。別に、誰でもなんて思いで付き合ったわけじゃない」
隼が、木村秋音と出会ったのはクラス合同の美術の時。秋音は中学の頃美術部で、授業でも美しい絵を描いていた。時々話しもした。笑う彼女は、可愛いと、隼はどこかで思っていた。だから、2回目の告白を受けたのだ。
眠る前、星の瞬く空の下で思い出していた少女のことは、もう諦めていた。隼は気づいていたのだ。彼女は、きっと。自分と友達でいる方が楽なのだと。
影の薄くなる黄昏時。過去に思いを馳せ、少年に片想いをする少女がいた。
月と星の明かりが辺りを照らす夜。初恋の少女を思う、1人の少年がいた。
2人はその時確かに、想い合っていた。それがどんなに幼くとも。離れていても。それは確かなのだ。
だけれどそれが、同じ空の下になることはなく。
「おはよう。岩倉くん」
「…ああ、おはよう。宮野さん」
違う空の下で こたこゆ @KoTaKoYu
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